バーナデッドと霧の鍵【グランドキャニオン】141019
2014年10月19日 トリイホール (120分)
偉そうだが、いい出来。話も、演出も楽しませるように上手く出来ているなあと感動。
話としては、色々と盛り込んだり、描かれない背景を膨らますから、少々、説明が足りなくなるところが出てくるが、これは大牧ぽるんさん、亀井伸一郎さんの作品ではよくあること。そんなところは目をつむり、今、舞台で描かれていることを、素直に観て楽しめば、十分に魅力的な作品である。
悲しみ、憎しみ、恨みなど負の感情は、それを包み込むような想いを込めた真摯な言動で、必ず昇華される。そして、その時、扉は開き、閉じこもった世界から外の世界へと新たな時間が刻み始められるようなことを感じさせる話だった。
ロンドンのとあるアパートの一室。
少々、性欲が強く、あともう少し身長が欲しく、紳士であることをモットーとし、オムレツが大好き、数字に多大なる興味を抱き、色々なことをとことんまで突き止めないと気が済まないといった、無免許だが、自称、探偵の男、カドマス。
助手は、そんな彼と一緒に事件の推理を楽しみ、いつまで経っても昔の妻のことを口にする彼に少し嫉妬をしながらも、かいがいしく世話をして、探偵の仕事を助ける可愛らしく素敵な女性、メアリー。
ある日、ロンドンアイの上に白い服を着た少女が現れるという噂を聞きつけ、二人はロンドンアイに乗り込む。そして、観覧車が最上まで達した時、その噂の少女が現れる。彼女は手にした鍵で、空間にいつの間にか現れた扉を開けて、その向こうへと姿を消す。
二人はその後を追うが、当然のように落下していく。
気付くとメアリーは、少し様子の異なるロンドンの街にいた。
出会ったストリートチルドレンのバップ。ここは19世紀のロンドン。つまりはタイムトリップしてしまったみたいだ。そして、カドマスの姿はどこにも見えない。不安で泣きわめく少女に、バップは自分が出来ることは何でもしてあげるからと、あるところに連れて行こうとする。どうやら、バップはメアリーに一目惚れしてしまったようだ。
連れて行かれたところは、有名な探偵事務所。そこには、何と、あの白い服の少女がいた。バーナデッドという名前らしい。
こいつのせいで、こんなことになったと言うメアリーに、バーナデッドは、それ以上、いらないことを喋るとお前を壊すなんて言われて脅される。
お前には鍵穴が無い。だから、その体の中に、きっと霧の鍵があるはず。だから、私はお前を壊す。霧の鍵は歴史を変える、ずっと探している鍵なのだとか。メアリーには訳が分からない。バップは、そんな二人の状況にも気付かず、変わらず元気にはしゃいでいるだけ。
とりあえず、行くあてもなく、メアリーは、このバーナデッドの事務所でしばらくお世話になることに。
一方、カドマスは、こちらでも勝手に探偵気取りで過ごしていた。
そこで、アダルバードという男に出会う。
彼は、双子の姉をずっと探している。その名前は、バーナデッド。
自分たちはあらゆるものの扉を開けることが出来る、キーソルジャーと呼ばれる者である。あらゆるもの。それは人の精神世界ですら開けることが出来るのだとか。
双子で生まれた私たち。でも、姉は不要だと殺されるはずだった。でも、結局は殺されずに、姉は監禁された生活を過ごすことになる。しかし、その事実を知った時、姉は自分の世界の中に扉を閉めて閉じこもり、そして、あらゆるものの扉を開けて破壊するという行動を起こすようになる。
自分も同じキーソルジャーではあるが、自分は決して破壊しない。いわば、姉は破壊、自分は癒しという相反する行動をしている。
彼女は危険だ。だから、早く見つけ出して、話し合わないといけない。
そんなアダルバードの言葉にカドマスは耳を傾けながら、人の精神世界に入り込めるということへの興味を膨らませ始める。
メアリーが、バーナデッドと過ごすようになってしばらくして、新聞で切り裂きジャックの連続殺人事件が報道され始める。
メアリーは未来から来ているので、その事件のあらましを知っている。だから、未然に防ぐことが出来るはず。犯行予定日にその犯人を突き止めようとするが、歴史が変わったのか、予定外の日に犯行が起こる。そして、その現場には一つの見覚えのあるボタンが。
そんな中、バーナデッドが舞踏会を開催する。四人はそこで出会うこととなる。
メアリーとカドマスはそこで、再会を果たすが、そこにはメアリーにとっては信じたくない事実が明らかとなり・・・
カドマスの中に潜む狂気が、ジャックとして姿を現してしまっていたようだ。
自らのトラウマから、バーナデッドは、それを破壊してしまおうと考えている。しかし、アダルバードは彼女に別の選択肢の可能性を進言する。
鍵穴が無いメアリー。その体の中には、恐らく歴史を変える霧の鍵が存在している。でも、実は姉にも鍵穴が無い。だから、霧の鍵はバーナデッド自身も持っている。二人にはたくさんの共通点があるのだから。
それを使って歴史を変えることが出来るはず。破壊では無く、全てを無で覆ってしまう最善の方法。
元に戻った世界。
メアリーとカドマスはロンドンアイに乗っている。デートの真っ最中のようだ。カドマスは、長年、謎に包まれた切り裂きジャックの犯人についての自論を熱く語っている。メアリーはそれを受け止めるように黙って聞いているだけ。
観覧車が最上まで達した時、白い服を着た少女が現れる。バーナデッドだ。ただ、その手はアダルバードの手と強く結ばれている。
メアリーは二人に優しく微笑みかける。カドマスには見えていないようだ。
そして、メアリーの手には一つの鍵が。彼女はそれを観覧車から、テムズ川へと投げ入れる。
鍵は二度と浮き上がってはこないだろう。全ては霧の中に・・・
バーナデッドの悲しみ、恨みを、常に想い続けることで消し去ったアダルバード。カドマスの中に潜む狂気、異常性を、彼自身全てを受け止めることで包み込んだメアリーといった構図だろうか。
鍵穴が無いというのはどういうことなのだろうか。バーナデッドは、きっと、過去のトラウマから、自分を扉の中に完全に閉じ込めてしまった。その鍵穴は内側にあり、その鍵は、歴史を変えるというか、全てを許し、受け止めて、無にしてしまうような霧の鍵のように見える。彼女は、扉向こうのアダルバードの声をやっと聞くことが出来て、きっと自ら、内側から扉を開けたのだろう。
では、メアリーは。恐らくは、バーナデッドの血を引くという設定なのだとは思うが、霧の鍵は引き継がれても、鍵穴が無いということとはまた別の話だろう。扉自体が無いんだろうか。自らを解放し、相手のことを受け止める。そんな人ならば、きっと扉は無い。霧の鍵も彼女には不必要だ。カドマスは、その大きな心の中に包まれて安らぎを得て、潜む狂気や異常性を抑え込むように思う。癒し。ということは、彼女はアダルバードの血も引いているのだろうか。近親相姦か。ロンドンでは許されるのか。と、色々と想像は膨らむが、よくは分からない。
ただ、破壊や憎しみから生み出されるものは、扉の中の閉鎖空間における時間の経過だけ。それを昇華することで、扉は開き、扉の外の世界が拡がり、そこからまた新たな時間が始まる。そんなことを伝えているような気がする。
自分自身が、そんな人の扉を開けるような想いを人に抱けるようであれば、きっとアダルバードのようにかっこいいイケメンに、そしてメアリーのようにキュートで美しい人になれるのかもしれない。
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コメント
ありがとうございます、高く評価していただけているのかな?( ; ; )なんて思ってスキップしています。
こんなに読み解いていただけて嬉しいです。
あーなるほど!という解釈もあります。
舞台旅行はきっとまたあります。また舞台旅行へ来てくださいね!(^^)
カメハウスもよろしくお願いします!
投稿: 大牧ぽるん | 2014年10月20日 (月) 21時51分
>大牧ぽるんさん
コメントありがとうございます。
高く評価していますよ(o^-^o)
ぽるんさんの登場人物一人一人に愛のある優しい脚本、亀井さんの趣向を凝らした斬新な演出。それに、味のある役者さん方が上手くはまった魅力的な作品でした。
観終えた後も、登場人物が頭の中でまだ動き続けてくれるようです。
また、どこかの舞台で。
益々のご活躍を楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2014年10月22日 (水) 10時00分