超天晴!福島旅行 福島第一原発舞台化計画 ~黎明編~【笑の内閣】141016
2014年10月16日 アトリエ劇研 (105分)
何ともあやふやな感想ですが、見ないと分からないことがあるということを意識させるような作品に思えます。
と言って、何でも見れるわけではないので、見た人からの真の言葉を受け止める手段で代替するしかないこともあるでしょう。もちろん、それを信じ切る必要も無いでしょうが。
思えば、何でもそんなもので、研究者は論文を読んで疑似実験をして頭の中に真実をインプットしますし、自分が見聞きできないことは、本などの情報網から手に入れて体感を得ているように思います。
被災地のことも、まずは見る。見れないなら、こうして見た人の言葉を聞かないとどうするかも考えられません。でも、見ることもしんどいですね。肉体的にも精神的にも。だから、観光のような形にする必要は一つの手段なのかもしれません。
こんな厳しいテーマは、見るのも聞くのもしんどいから避けたい。それに、自分とは距離があるから。そんな考えが私の中にはあります。でも、知っておきたい、何か出来るならしたい気もある。
それだったら、本当にこういう作品を観るのは理に適っているかもしれません。
被災地を観光地にするというのと同じように、このテーマをとっつきやすい笑いにして、被災地のことをみんなの心の中に刻ませようとしているような作品ですから。
舞台は私立鷹真学園高校。
最近、西園寺大学附属守山高校に学生をとられ気味なので、少し焦っているところがあるみたい。と言っても、どちらも大した学校ではない。所詮、私立。公立が幅を利かせるここ、滋賀県では、どちらもマイナーであることは確かであるようだ。
鷹真学園では、歴代管理職は必ず学園のOBが務める。そして、そんな管理職の面々は、理事長を崇拝する。その証拠に、会議室に掲げられた現理事長、その父である先代理事長の肖像画に深い敬礼をして、忠誠を誓っている。まあ、どこかの国みたいな感じというわけだ。
そんな鷹真学園。
現校長が、これからの学園のことを想い、大手予備校の有名講師であった間久部という男を副校長に抜擢してから様相が変わりつつある。
校長、教頭を中心とした歴代OB派と、間久部を中心とし、その改革姿勢に同調する先生たちのいわば外様派が対立するようになっていた。
そんな対立する二つの派閥の決戦を引き起こす出来事が。
修学旅行先を決める会議。
これまでの伝統ともなっている北海道でスキーをする旅行を当たり前のように推すOB派。それに異を唱える外様派。その提案は何と、福島。
福島出身の先生を取り込み、その取り計らいで現地の人から生の声で被災地のガイドをしてもらうという、いかにも修学という点で受けそうな計画。さらには、有能でありながらもこれまでOB派により苦汁を飲まされてきた先生の理路整然とした知的な策略。
あまり学校の将来なんて考えていない、いわば中立派の先生の気持ちも掴み始める。
何も考えていないOB派の北海道旅行は明らかに不利な状況に追い込まれる。
ところが、戦いはそう簡単には決着がつくものではなかった。
OB派とズブズブの関係にある旅行会社や、間久部とできている女がいる新規旅行会社も巻き込んで戦いは繰り広げられる。
さらには、先生同士の恋愛感情、被災地に行く意味合いにこだわる先生、ただただ感情的になって話を聞かない理事なども絡み・・・
舞台は会議室となっており、基本的にはそこでの話し合いの展開を描いています。
のるてちゃんや、ヅッコケ三人組などの作品で、そんなシーンがあったように思いますが、今回はそんなところに焦点が当たっている印象です。
非常に面白いというか不思議な感覚があるのは、この触れにくいテーマで対立して議論をするという形の話なのに、対立の空気をあまり感じさせないところです。
話として、業者の癒着や男女の恋愛感情などを絡ませて、そのあたりをあやふやにしているテクニックかなと思って観ていましたが、恐らくこれは違うような気がします。
そうなると思うことはただ一つで、この舞台にいる方々が、このテーマに関する福島の地を見ているからなのだろうと感じます。
この作品は基本的には見てきたことをそのまま伝え、それに時事として、凝り固まったり、感情的にだけ話をする人がいる事実も加えて、それを総じて笑いに変換してしまったように思います。
議論をしていると、賛成か反対か、もしくは、AかBかCかみたいに、どこかに決められた着地点にたどり着くことを必須にされそうですが、作品中の人たちの大半は、それを明確に見せません。
福島を観に行くことが是なのか非なのか。是は福島に寄り添えるからなのか、私的な欲が絡んでいるのか。非は被災地への冒涜に当たるからなのか、危険だからなのか、それとも、また私情が絡んでいるのか。
答えは出てきていません。それもあるけど、これでもあるみたいな感じで。
人が思うことに全否定をしない考えや、オンオフのデジタル感覚で答えを出すことを避けるようなところが感じられます。
逆に言うと、このテーマに関しては、まだそんな段階に至っていないのかもしれません。どこかに答えを出すような。
見てきた人が今回、演劇の形で語ってくれたわけです。それを通じて、被災地の人が語っていることが少しは通じたような気がします。
マスコミなどで、語られる被災地の方々の言葉とはまた別に、これを受け止めておく必要があるのでしょう。
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