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2014年10月13日 (月)

トウシンダイ【劇団暇だけどステキ】141013

2014年10月13日 芸術創造館 (135分)

ミステリーとして、ちょっとホラーチックだけどドキドキして話にのめり込めるし、ハートフルな物語としても十分、心温まり泣けるし、コントはやや緩く不発もあるとはいえ、コメディーとしても笑える。ダンスはエンタメ色豊かでかっこよく痺れる。オープニング映像のクオリティーの高さは以前から有名な話。音楽はよく知らないが、この作品のために創られた心に響く優しい歌。舞台美術はいつもながら、がっしり作りこまれている。
かっこいい、シブイ、じっくり魅せる、弾けて楽しい、体のキレ抜群の男優さん陣。
綺麗、可愛い、面白い、ほんわかした、エロい、萌える、込められた心情豊かな女優さん陣。
どこに文句が付けられるだろうか。
文句無しの贅沢な逸品を堪能。
強いて言えば、台風も近づき、夜はこの劇団の前回公演DVDを観ながら、家で一杯と楽しみにしていたのに、売り切れなのか販売していなかったことぐらいか。ちょっと、ムスっとして帰路に着く。公演激戦週だったので、千秋楽まで後回しにしたのが災いした。
仕方がないので、ブログを書き終えたら、以前に購入してあるそれいけ!アンチャンマンとやらを鑑賞するつもりだが・・・

3年前に起こった、コントグループKISS’isのメンバーの連続事故死事件。連続して、二人のメンバーが謎の死を遂げた。現場にはつむぎという羊の化身みたいな可愛らしい少女のパネルが置かれていた。
警察はメンバーの不仲による殺人を疑うものの、確たる証拠を掴めず、事故として捜査を終える。
しかし、メンバーの一人の妻は、事件の真相を突き止めるべく、何度も警察に足を運ぶ。でも、警察は相手にしてくれない。若い刑事は、確かに事故では無いと自分も思っているものの、何の証拠も無く、事故とするしかないことを心の奥では悔しく思っているみたい。上司のベテラン刑事は、終わったことを今さら掘り起こす気は全く無い様子。
悔しい。大好きだったKISS’is。でも、この事件がきっかけでKISS’isは解散に追い込まれた。夫も、今はコンビニで働きながら、自暴自棄の日々を過ごしている。
そんな妻の下に、フリージャーナリストがネタを探しに現れる。
記事になれば、もう一度、事件の捜査が行われるかもしれない。記事になるような、世間を騒がすようなネタ。
そう、あの事件の現場に置かれていた少女のパネル。あれは全て、つむぎという女の呪いなのだと。

3年前。
KISS’isはコントグループとして活躍していた。
学校の生徒にカッパがいるみたいな、ちょっとばかばかしいシュールなネタがお得意だったみたい。
真面目に笑いに取り組む透、笑いの才能に限界を感じながらもみんなとコントをすることが楽しくて仕方がない慎太、オカマ口調でリーダーのようなまとめ役だった来栖、いつもみんなのことを考え優しい視線で一歩引いたようなところからみんなを見詰める暎二、コント作家としての才能に恵まれた自由、紅一点で活躍する駒子。慎太の妻もKISS’isの大ファンの一人として影ながら支える。
マネージャーもKISS’isは絶対に売れると奮闘する。事務所のおばさんも応援してくれている。
そして、もう一人、KISS’isにとって、かけがえのない大切な存在。それがつむぎという少女のパネル。
ファンの誰かからもらった単なるパネルだが、いつも一緒にいて、面白いネタだったら笑ってくれると彼女を喜ばせるために稽古にも熱が入っていたようだ。
そして、つらい時にはいつも相談にのってくれて、また頑張ろうという気になっていた。
KISS’isのメンバーだけでなく、妻、マネージャー、事務所のおばちゃんもみんな、つむぎと一緒に日々を過ごしていた。

駒子は、一人だけ女だったこともあったのか、それとも、自分はもっとやれると思ったのか、藤戸という敏腕だが、汚いプロデューサーに接触して、ピン芸人となる。
自由は、戻るべきだと再三、駒子を説得するが、彼女の心が動くことは無かった。
そんな自由が、ある日、稽古場で不自然に溺死する。稽古場には、いつも一緒にいたつむぎのパネル。
状況から考えて、明らかに殺人が疑われるが、結局、犯人は見つからず事故死処理される。

KISS’isは新たに仁哉という男を新メンバーとする。仁哉はダンスの才能があり、また、それをコントと融合させる力もあった。
新しい芸風は世間にもウケはじめ、再びKISS’isは活躍し始める。
しかし、ダンスの才能があったのは透と暎二だけ。三人がダンスバトルなどに出場したりすることで、慎太や来栖との間に亀裂が走る。
そして、慎太と来栖は脱退。

仁哉は残ったメンバーでKISS’isを盛り上げようとダンスに力を入れる。
夜の公演で一人、自主練習。そんな練習にいつもやって来る女子高生。
ダンスを覚えたくて、仁哉をお兄ちゃんと慕い、一緒に練習をしたいとせがむ。
こちらはプロで仕事だからと断わりはするが、ファンがいてくれることを嬉しく感じている様子。

でも、そんな仁哉も公園で謎の死を遂げる。そして、やはり、そこにはつむぎのパネルがあった。

KISS’isは解散。約2年前になる。
それから、メンバーたちは、各々の道を歩き始める。
透は、自分には笑いしかないと一人で、寒いネタをしながらピン芸人として頑張る。同じピン芸人の駒子はそこそこ売れている。まだ、プロデューサーとの関係は続いているみたい。
来栖はバーを経営する。ジョージという真面目な店員も雇って、まずまず順調な生活。バーには暎二がよく遊びに来るようだ。昔のように物静かに、かつてのメンバーの活躍を喜んでいるみたい。マネージャーもたまに顔を出している。
慎太は上記したように、すさんだ生活をしている。昔のメンバーとは全く連絡をとっていないようだ。だから、妻も心配している。
つむぎのパネルは、今、来栖のバーの奥の部屋に置かれている。捨てるわけにもいかず、紙に包まれ、寂しくほったらかしのままで。

妻の思惑どおり、世間は再び、つむぎという女に呪われていたKISS’isに目を向け始める。
ある女子高生のTwitterからは、異常なまでにそのつむぎネタのつぶやきがネットにアップされている。
マネージャーはこれはチャンスだと鼻息が荒い。
これに便乗して、KISS’is復帰なんてことを夢見ているみたいだ。
来栖のバーに行き、あのつむぎのパネルを再び出させ、来栖や暎二をやる気にさせようとするが、いまひとつノリは悪い。
一人頑張る透や、もう連絡も取れなくなった慎太のことを考えれば、またみんなが集まるなんてことは考えられない。

透は一人、稽古場でネタを練習している時、突然、羊の化身のような少女が現れる。つむぎだ。
会いたかったと抱き付いてくるつむぎ。信じられないが、確かにあのつむぎ。
透の喜びは相当なものであったが、つむぎはいつの間にか行方不明になってしまう。
時、同じくして、あの藤戸というプロデューサーがホテルで遺体となって発見される。そこには、つむぎのパネルも。
つむぎの呪い。いや、つむぎがそんな呪いを人にかけるわけがない。それは、KISS’isがまた注目を浴びるため、記事にするためについた嘘なのだから。
誰かが、この呪いのネタを利用している。
ネットにアップされ続ける女子高生のつむぎネタのつぶやき。その女子高生と関わりがあるらしき来栖のバーの店員。
プロデューサーの死に、妙な焦りを見せ、何かを隠している駒子。
再び、終結するKISS’isのメンバーたち。
一連の事件の真相は・・・

話自体は、伏線をたくさん置いたミステリーなので、上手く書けませんが、こんな感じの話。
90分ぐらいまでは、今に至るまでの過去を時系列で描き、そこにコントやダンスを実際に盛り込んだ楽しいエンタメ系の雰囲気。
そこから、残りの時間は、もう一度、隠されて描かれていなかった過去を見せながら、今の事件の真相へと結び付けていく巧妙な構成になっています。

結局は、みんな、KISS’isが好きだったということに繋がります。
メンバーは互いに認め合い、KISS’isをより良くしようと懸命だったし、周囲もそれを支えた。その愛し方が、各々違ったので、ちょっとした狂いで、こんな悲しい事件が起きてしまったようです。
いつもKISS’isのみんなの頑張りを見詰めていたつむぎ、自分にとって大切な存在だった仁哉が愛したKISS’isを守りたかった女子高生。そんな想いが、最後に全ての人に通じた時には、時、既に遅し。でも、その愛した想いは消えるわけも無く、それを大切に胸に抱いて、新たな道を進もうといったラストで話は締められます。

作品名は等身大の意味合いがあるみたいです。
完全なネタバレですが、全ての犯人は暎二です。暎二は、KISS’isを、そして自分自身を誰よりも愛し、より良くするという気持ちが大き過ぎて、それが狂気へと向かってしまったような印象です。
自分たちに出来ること。例えば、つむぎという少女を笑顔にしてあげられる、女子高生の支えでいてあげられる、妻を幸せにしてあげられる、マネージャーに頑張る気持ちを与えてあげられる、今の自分たちが得意なことでみんなを楽しませてあげられる、男たちの中で一人女性として存在し緩やかな空気を作ってあげられる・・・
笑いで世界を制するとか、全ての人たちのトップに立つことを意識するより、こうしてほんの少しの周囲の人や身近にいる大切な一人のために、自分が出来ることをしっかりとやることも重要なのかなと思います。
ほどほどに、ほどよくやるなんて言葉は、緩く、やる気があるのかといい加減な感じもしますが、本当は、こうしたちょっとしたことの積み重ねが大事なんではないでしょうか。そうしないと、何をしていいのか分からず、暎二みたいに狂気に走ってしまう。
マザーテレサとかも、世界平和のためには、まず家族を愛せとか言っていましたものね。大義を抱くなら、まず、自分が出来ることを確実にして、それを周囲の人に喜んで認めてもらう。そこから、始まり、それがどんどんと大きく育つような気がします。
話のラストは、もう自分たちに語ることも笑いかけることも出来なくなってしまったつむぎの声を、もう一度聞いて、笑顔を見るために、新たなKISS’isを残ったメンバーで頑張ってやっていこうとしています。
本当に自分たちにとって大切な人の心をもう一度受け止め、そこから、自分たちの大きな夢や目標に向かって歩く。そんな力強い姿に心を動かされます。

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コメント

お早い感想ありがとうございます…!
お姿拝見するとリラックスと同時にとても気合はいります。

台風の中ご来場いただきありがとうございました。

投稿: 西田美咲 | 2014年10月13日 (月) 19時35分

初めてコメントさせていただきます。今はDVDを見ながら一杯されているところでしょうか?W 5月くらいにこのブログを見つけて観劇場所が被ってるなと思ってちょこちょこ見させてもらっていましたが最近は毎日くらいチェックさせていただいています。一回観ただけでようあらすじ覚えたはるなァ、すごい賢い人やなァ、たぶん医者?かなァと推測していたらやっぱりそのようですね。今日は仮名ですがどこかの劇場でお会いできたらお話伺いたいなあと思います。それにしても観劇激戦週でしたね。私は(金)桜×心中~再炎~(土)トウシンダイ(日)Ameagari cafe(月)DOWMA と観劇して台風で百鬼繚乱は諦め白黒つけたいと例えば零れたミルクのようには仕事で諦めました。残念です。暇ステさん良かったですよね。面白かったです。さっそくNMさんがコメントされてますがNMさんもサービス精神旺盛で楽しみな役者さんですね。Ameagari cafe(by何色何番、at人間座)も 面白かったですよ。11月に配役を変えてやるみたいです。また劇団Ztonの覇道なくして泰平を見るも見に行かれてますが最高傑作は天狼の星だと思います。DVDででもご覧ください。以上二点は他の方からも聞かれてると思いますが。あと今夜残念なニュースが…劇団ショウダウンの国本さんが退団されたようです。錆色の瞳、黄金の海での演技良かったのに。すみません。暇ステさんのところで長々と。それでは。

投稿: kAISEI | 2014年10月13日 (月) 22時22分

>西田美咲さん

お疲れのところ、コメントありがとうございます。

推理するのに、とても重要な役どころでしたので、表情や口調などもずいぶんと気を付けて拝見していました。
ずっと、犯人だと思っていた(゚ー゚;
可愛くも、かっこよくも、エロくも・・・
いつもながらの素敵なお姿でした。

かつおの遊び場が火ゲキと重なり、なかなか伺えておりませんが、また。

投稿: SAISEI | 2014年10月14日 (火) 10時00分

>kAISEIさん

おっ、私と似たハンドルネームw(゚o゚)w
コメントありがとうございます。

いつも見ていただいているとは、嬉しい限りです。
ありがとうございます。
正確には医者ではなく、医療関係の研究みたいな仕事です。仕事時間が不定期で、いわば24時間体制みたいになっているので、仕事と上手く調整しながら、空き時間を観劇につかっております。突発的な仕事が多く、なかなか早くから予約できないのでが辛いところです・・・

今週は確かにきつかったです。私が観逃した作品を観られていて、羨ましいです。桜×心中はずいぶんと盛り上がって、最高の仕上がりだったらしいですね。Ameagari cafeもチラシから、何となく好みの作品っぽかったのですが、人間座の遠さがネックとなり。この他も烏丸ストロークロック、GO AND MO'Sなど今週は京都を捨てるしかありませんでした。
ZTONは皆さん、そう言われますね。確かに、DVDで観ておかねばいけませんね。この前の時に買っておけばよかったです。

暇ステはいつもいいのですが、ここ数年でさらに面白さに拍車がかかった感じがします。今後も注目の劇団です。NMさんは、ダンサーさんとして初めて拝見して興味を抱き、他公演で役者さんとして拝見したらさらに魅力的だったことから、けっこう追っかけている方です。少しだけお話させていただいたことがありますが、とてもいい子です。また、注目してご出演の公演に足を運んでみてください。

ショウダウンの件は、私も昨日、Twitterで知りました。同感です。色々とあるのでしょう。また、舞台でお姿を拝見できる日を楽しみに待つしかありませんね。

機会あれば、劇場でお会いしましょう。
お互い、これからも観劇を楽しみましょう(゚▽゚*)

投稿: SAISEI | 2014年10月14日 (火) 10時23分

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