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2014年10月31日 (金)

おもてなし【玉造小劇店】141030

2014年10月30日 ABCホール (130分)

1920年代の商売に沸き立つ大阪、船場の街。
儲けるといった商売の厳しさの中で、遊び心を忘れず、そして、人を思いやる心も忘れずに、街を発展させてきた、ええ男とええ女の活躍する姿が描かれているような作品。
そのおもてなしに通じる精神は、実に痛快で感慨深いものでした。

舞台は、関東大震災が起こった後の大阪、船場の街。
○○屋とかいった、いわゆる豪商たちにより、商売の街として栄えていた頃のようです。
そんなものは京都の世界だけかと思っていましたが、色々と厳しいしきたりとかいったものがあったみたい。
妾なんかも、大旦那になったからには持って当たり前、住む家を一軒プレゼントするのが甲斐性がある証みたいな風潮。その妾になるのにもお作法があったのだとか。
そして、商売人同士のお付き合いで、決まった会合には新しい着物を作らないといけなかったりと色々、金がかかって面倒くさそうなきまりもたくさん。
見栄を張るみたいな感じですが、互いにそうして意識しながら切磋琢磨して、商売に精を出して、大阪の街自体の発展へと導いていっていたのでしょう。
と言っても、金はかかるわ、お付き合いも大変そうで。一見、不必要にすら見えることでの労力や必要経費がたくさんだったみたい。
だから、始末するということが大事なことだったようです。
始末は、単純にはケチるとか倹約するとかいった意味合いですが、それは表面的なことです。その言葉の裏には、無駄を無くすとか、知恵を振り絞って上手いことやる、そして何よりも、相手に喜んでいただくという、作品名でもあるおもてなしの心が隠れていたようです。
単にケチるのだったら、そんなしきたりやお付き合いを辞めてしまえばよかったのです。
でも、船場の人たちは、むしろ、そんな始末するという知恵を互いに楽しみ、それを地域の者同士の交流の手段として用い、儲けるというシビアな世界の中でも、大切な義理や人情を決して忘れないという精神があったように感じます。
無駄なものなんてない。だから、無駄に見えているものにも、知恵を使って、それを無駄としないようにうまいことする。無駄だからと言って捨ててしまえば、本当にそれが無駄だったということだけで終わってしまう。それは、お粗末だなあといったように思います。
何か、今の切り捨ての世の中、特に大阪はそんな考えの強い人がどうも君臨しているようで、こんな大阪の歴史的な精神を今一度、見直してみたいように考えます。

話は、そんな始末の達人ともいえるある女性、吉崎かねとその周囲の人たちの色々を描いたものとなっています。
かねは、材木問屋の女中として働いていたようですが、その能力をかわれて、その家の息子の乳母となったみたい。今は、先代から用意された、質素ではあるが、実は立派な材木を使って建てた一軒家に実子と一緒に二人で住んでいる。生活の色々は、経験豊富な師匠とよばれる老女中と、田舎から出てきた若くて明るく元気なだけが取り柄の女中が通いでしてくれている。
母を早くから失くした、その息子、ボンボンは、彼女を実の母のように慕い、そして、彼女の実子を、これまた実の弟のように可愛がり、信頼しています。
先代が亡くなった後は、当然、ボンボンが後を継いでいますが、大きな問題が。
ボンボンは目が悪く、いずれは、完全に盲目になってしまう病気を患っています。となると、いずれは仕事も出来なくなるわけで、その跡目として、かねの実子を迎えたいとボンボンは考えている。
でも、そんなことが、このしきたりにうるさい船場でたやすく認められる訳がなく。
また、かねもボンボンを実の子以上に可愛がっていますから、未だ、完全に盲目になる前に何とか手段があると信じて疑わず。そして、実子も、自分には無理だと跡を継ぐことには躊躇している。

そんな跡継ぎ問題で揺れる中、かねの下を訪ねてくる様々な人。
かねとこれまで関わってきた人たちから、かねに相談をすれば何とかしてくれると言われてみんな訪ねて来ている。
大店の妾になることが決まり、その作法を教えてもらいに来た女性。
京都で友人と洋品店の共同経営をしている男。元々は東京の出版社に勤めていたが、関東大震災で家や家族を失い、一時的に避難しているみたい。かねの始末に興味を抱き、取材にやって来る。
田舎から出てきて商売に成功した若い男。田舎から父がやって来るので、妾の一人でも囲っていないとかっこがつかないと、かねに一日だけ妾役をお願いしにやって来る。
三女の婚礼が決まり、その宴席の献立を相談にやって来た大旦那。かつて、共に奉公して、のれん分けで独立した男もただ飯目当てに付いて来る。
その三女は、丁稚と恋仲にあり、夜中にかねの家に忍び込み、お金を盗んで駆け落ちしようとする。
そんな人たちの抱える問題を、かねは見事に始末の心で解決していきます。
それは、単に問題を解決して無くしてしまうのではなく、その人がその問題とどう向き合っていくべきかをいつも示します。今すぐ、その問題を解決してしまうのは簡単でも、その人のこれからを考えた時に、そうでないならば、今は厳しい時を過ごさせるような時も。
全ては、相手の本当に困っていることを見抜き、表面的に解決してさよならではなく、その根本から物事を考えるといった、相手の立場にたったおもてなしの極意のようです。
そんな知恵があり、相手のことも思いやれる優しいかねですから、かね自身が抱える問題は、今度は逆に周囲の人たちのかねへの思いやりが実を結び・・・

かねのおもてなしが実に痛快で、しきたりをきちんと守った上で、最良の道を準備する。そこにはちょっとした遊び心なんかも入っており、冗談好きな大阪の心も感じさせられます。こんなことをしたんだといったことが分からないように、相手に気付かせて気を遣わせたりしないようにするところに、様々な知恵があり、大阪流おもてなしの極意があるようです。
こんな商売の厳しい世界だからこそ、人の思いやりや優しさが心に沁みます。そして、それは軟弱な考えのようですが、結局は商売を発展させていくようにも感じます。
今も、厳しい世の中だからこそ、単にコストダウンするとか、弱者を切り捨てるとか、規則に盲目に従うだけとかではなく、そこにいる人の心を汲み取って思いやる精神が大事なのかもしれないと感じました。無駄だと言って、切る、捨てる前に、その無駄を活かせないのかを考える。これが知恵ある人の真っ当な考え方であるように思います。

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