白黒つかない【オレンヂスタ】141012
2014年10月12日 インディペンデントシアター1st (110分)
特殊な身体表現で話を紡いでいくようなあまり見かけない演出。不思議なリズムが生まれ、ずっと想像の中で登場人物たちの心を探るみたいなところが面白い。
ただ、作品名どおり、話に白黒つかない。生きるために働くということから、生きることとは、働くこととはみたいなことを考えさせられるような話だが、その重大なテーマを虚構と現実の世界の中に持っていって、幾つもの答えがある話に無理に収束させているように感じる。
働く中で、生きることを辞めてしまったような人が出て、その死と向き合いながらも、生きるために働く人たちが生まれるような話。実際にもあり得る深刻な話だからこそ、その人の愚かで狂気的な一面と真っ向勝負で対峙するような作品として観たかったようにも感じる。まあ、それはそれで、あまりにもえげつなく、無理に白黒つける必要も無いとは思うのだが・・・
求人広告代理店、ワークライフデザイン。働くことは生きることが社名の由来だ。
社長はそこそこのお歳だが、元DJという、かなり自由な方みたい。役職名で自分を呼ばさないなんて社風もこの社長らしい。
制作チーフは中途入社7年の男。リーダーシップはあまり感じられず、少し頼りない感じもするが、きちんと真面目に仕事をこなし、みんなのまとめ役に徹しているところが受けているのか人望は厚いみたい。まあ、色々な面で優柔不断なところがあるみたいだが。
代わりに厳しく、後輩たちを仕切っているのが中途入社5年の女性。血尿が出て一人前なんてことを言っているぐらいだから、仕事には非常に厳しい。ただ、責任もって仕事をこなす精神は立派なもので、後輩たちのミスや力不足も自分でしっかりと補うという先輩の務めはきっちり果たしているので、後輩たちは文句も言えない。そんな仕事には厳しさたっぷりの彼女だが、もちろん女でもあり、チーフには先輩としてと同時に男としても一目置いてる模様。
一番、下っ端は中途入社したばかりの男。まだ若く、この会社で何をしたいのかもあやふや。本人は大学で専攻した映像の仕事をしたいと言っているが、そんな仕事は、ほとんど入ってこないし、自ら開拓するような熱い気持ちを持っているわけでもなさそう。電話一つ、しっかり取れないので、毎日、女性上司に叱られているが、それほどこたえた様子を見せないところはまさに今風の若い子ってところだろうか。
営業チーフは、入社12年のベテラン女性。いわゆる生え抜きである。離職率の高いこの業界で長年、一つの会社に貢献するのは珍しいのか、社長からの信頼も厚い。仕事も出来るので、日々、動き回っている。長く勤めているだけに、色々な経験をして、あらゆることを知っており、またお局さんみたいにきつくなく、サバサバした雰囲気なので、みんなからも好かれ頼りにされているみたい。制作陣も、彼女の営業ならば、しっかり顧客のニーズを聞き取ってきてくれるので仕事もしやすい。
その下で働くのが新入社員の男。非常に真面目で、懸命に働いているのは誰もが認めるところだが、まだまだ実力は伴わない。今日も、取材不足でこれでは広告を作れないと制作からきつくお叱りを受ける。
チーフから引き継ぎで担当することになった味ごましおで有名なミカタという会社の人事担当者には、気に入られるためにも、ゴルフの付き合い、合コンの設定と無理して何でも言うことを聞いている状態で、頑張り過ぎることは、会社のためにも、本人のためにもあまり良くないとみんなから言われながらも、今の自分に出来ることに精一杯の様子。
経理兼営業事務の女の子は、決められた仕事を淡々とこなす。職種としてもだが、自分で何かを変えてみるなんてことは全く考えず、ただ、みんなの仕事がうまく回るように補佐的に仕事が出来ればいいと思っている感じ。腰掛けというわけではないのだろうが、そろそろ寿退社となる様子。まあ、社内ではっきりしない男との間で色々とはあったみたいだが、遂に見限ったのか、そこから逃げるためなのか。
求人広告を扱うだけに、色々な会社の表面は知れる。いわゆる、ブラックなんてところもチラホラ。仕事は厳しい。仕事柄、締め切り前なんて、修羅場のようだ。でも、土日は休みだし、終電までには帰っているのだから、ここはホワイトなんじゃないのか。それに営業目標達成の時などは、社長はじめ、社員一同簡単なパーティーで盛り上がったりしてやりがいが無いわけでは決してない。
今の社会に洗脳されてしまったのか、それともこの不況の折、そう考えて自分を納得させないともっとひどいことになることを潜在的に恐れているのか。
そんなある日、一番の顧客であったミカタに不祥事が起こり、仕事の受注が当分無くなってしまうことに。今度は、求人広告だけでなく、会社のビデオ撮影をして、さらに求人の成功を高めましょうと提案し、ほぼ同期になる中途入社の制作の若い男にそのシナリオを持ちかけていた営業の新入社員の落胆は大きい。みんなに迷惑をかけた。自分のせい。ミカタの担当者はあれほど分かりあえていたと思っていたのに、電話すら出てくれない。根がまじめ過ぎたのか、あそびが無いいっぱいいっぱいの仕事が災いしたのか、彼は最悪の形で、自らに白黒をつけてしまう。
さらには、制作のチーフは売り上げを確保するために、業界では御法度らしいピンクチラシの仕事を引き受け始める。
何のために仕事をしているのか。客のため、自分自身のため、金のため・・・
揺らぐ心は、これまでの人間関係も崩し始め・・・
役者さんの言葉や行動に対する動きが、全てコンテンポラリーのようになっており、その動きから想像させることであらゆることを伝えようとしているみたいだ。
これが独特のリズムを生み出し、何やら無気味な空気を醸す。目を合わせて語り合わない、コミュニケーションは互いの身体表現で通じ合わせるという姿は、何とも表面的な繋がりを感じさせ、本当の心では分かりあっていないのではないかという嫌な感覚を得る。会社の人間関係なんてそんなものだという皮肉もあるのだろうか。
実際に、こんな経験があるから、どうしても嫌悪感はぬぐえませんでしたね。別に面白おかしくしているからというわけではなく、むしろ表現の仕方は斬新だが、描こうとしていることは随分と演劇の根底にあるようなところであり、かなり真剣な想いを感じます。
自殺者を出す。残された者たちは、その死を一生背負うことへの悔いや悲しみを見せながらも、同時に社内での彼の身辺整理を行う。生きるために働く。働くために生きる。死んだ人は働けない。だから、働く場である会社にその彼の足跡を残しておく必要すら無いみたいな感じだろうか。
残しておくにしても、それはこの会社のために生産的な形として存在させる。この作品では、こんなことがあっても、必死に仕事をする覚悟を持つ者たちの集団であるといった会社案内ビデオを撮影しているというメタフィクションの演出でそんなことを描いているようだった。
恐らく、このあたりに嫌悪感があるのだと思う。そういうものなのだから仕方ないのだろうが、こんなシャレにならないような人の愚かさ、歪み、醜さを、メタフィクションに逃げてしまっているような感が残る。
いっぱいいっぱいになってしまった人が死ぬ。いわば、会社に殺されたような感じで。いくら、楽しく働いていた、やりがいも感じていた、みんなと働けることを誇りに思っていたと言っても、それは後からの周囲の言葉であり、彼がどう感じていたのかなどは分からない。
それでも、会社は動く。組織は崩れても自然に形を再構築する。そこに死んだ者はいない。残された者は働く。会社も人も生きるために。
その狂気をまともに向き合った形で観たかったような気もする。噂では、もっと鈍くどっしりと心に重みを残すような作品をたくさん創られているらしいのでなおのこと。今回はずいぶんとテーマの割には軽く、どちらかといえばポップな感覚が残ったくらいだから。まあ、そうしたら、もっと嫌悪感を抱いたときっと書くのだろうが。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント