骨せつサンバ【超人予備校】141017
2014年10月17日 インディペンデントシアター1st (110分)
また、最高に良かったなあ。
自分の気持ちに忠実に生きていく。
走りたいけど、走っていない。もしくは、走りたいという気持ちがあることすら忘れてしまっている。
何か否定的な理由をつけたり、いつの間にか、それが当たり前のように流されていたり。
そんな自分の心の中に閉じこもってしまった想いを解放させ、走り出すまでの作品。
それを、ある動物をモチーフにして、楽しく、時には切なく、馬鹿馬鹿しく、時には真剣に描いています。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
走ることだけに人生をかけてきた男。
骨折してしまった。競走馬だったら安楽死。自分は人だから死なないものの、走れない人生なんて死んだも同然。骨折して死んでいく競走馬たちの無念が今は心に染みて理解できる。
そんなことを、誰にというわけなく、叫んでいたら、たまたま聞いていた馬に異議を唱えられる。
お前は馬のことを何も知らない。馬の国、フウイヌム国へ連れて行ってやる。男は訳の分からぬままに、おかしな国へと向かうことに。
馬から色々と馬の知識を教えてもらう。なかなか奥深いなんて、ちょっと感動してたら、突然、怖そうな男が現れる。ロバだ。聞いたら、馬の親父なのだとか。ということは、随分と偉そうに馬を語っていたが、馬じゃなかったというわけだ。母親は農耕馬だけど、一応、馬らしく、いわゆるラバだったようだ。
父のロバは、かつてはブレーメンの音楽隊に所属していたらしい。童話ではブレーメン目指して活躍する勇敢で希望に溢れた動物みたいに描かれているが、実際は人間に捨てられた犬、猫、鶏と一緒に、何となくエアーバンドをしながら、旅をしていただけらしい。
楽しい旅というよりかは、人に捨てられたという屈辱、自分が何をしたいかも心に決めれず、ただ流されるままにぼんやり時を過ごしていたイラ立ちからちょっとトラウマになっているみたい。
母の馬は、やはり馬なので少し優位で余裕があるのか、飄々と明るいけど残酷な一面も。
骨折してこれからの人生に不安を抱える男に、テンポイントという競走馬の話をしてくれる。レース中に骨折。普通は安楽死だが、牧場、厩舎の人たち、そしてファンの人たちみんなで必死に見守った43日後、死んだらしい。仕方ない。骨折した場所から感染した病死だったらしい。骨折したら、安楽死か病死。男の不安は絶望へと変わる。
そんな中、馬の先祖であるアケボノウマが現れる。体長45cmの可愛らしい子犬のような姿は、威厳も何もあったものではないが、馬にとっては神のような存在。
アケボノウマはひどく嘆いている。かつては、馬たちは自分の意志で野生の生活をしていた。自分の意志で走って、自分の決めた場所へ向かう。ところが、今はどうだ。馬たちは人間たちに支配されているかのようだ。人間に全ての行動を決められてしまって、馬もそれに安易に従ってしまっている。今こそ、馬が自らの意志で行動する馬のための世の中を。
アケボノ杯を開催すると宣言。賞金や名誉などは関係ない。走ることで、自らの忘れていた本能を引き出すための、自らの誇りをかけたレース。
ロバもラバも参加する。もちろん、馬にはかなわないだろう。でも、自分たちは自分たちに生まれてきた誇りを持って、その本能をそのレースで解放する。忘れていた想いを思い出す。
男も今の立ち止まった自分を突き破るために参加することに。
生まれや降りかかってきた災難に左右されて、本当の自分を忘れてしまっていた男たち。そのレースで本当の自分を取り戻そう。男たちは手を取り合って、声高らかに叫ぶ。何か、そんな中にエリートの母の馬も手を差し出すので、ちょっと興ざめした空気になりながらも、熱い心に満ち溢れ始めるある。
病院で一人の女性患者を前に医師が唸っている。
信じられないことが目の前に起こっているから。レントゲン含め、最新の機器で検査をした結果、さらには、関西の他の医師にも相談しても、結論は一つ。この女性は馬である。
こんな珍しい症例、いや存在は格好の研究材料だ。医師は、女性を自分の研究材料にしようとするが、女性はそんな馬鹿なことがあるかと怒って帰ってしまう。
女性が家に帰ると、一人の女性、いや馬が訪ねてくる。
お姉ちゃんなんて言いながら、懐かしそうに語りかけてくる。聞けば、その馬は自分の妹だという。今は、競走馬として活躍しているらしい。
そして、かつては自分も競走馬だったのだとか。本当に自分は馬だったのか。それでは、なぜ、今、こうして人間になっているのだ。
それは競走馬の資格をはく奪された悲しい過去があるからだと妹は教えてくれるが、そんな記憶は全く無い。
流れでしばらく一緒に、妹と生活をする。
そんなある日、今度はある女性、いや馬、いや馬の後ろ足が訪ねてくる。聞けば、その馬の後ろ足は自分だという。ずっと自分を探し回っていたらしい。
ケンタウロス。自分はケンタウロスだったらしい。資格をはく奪され、自暴自棄になって、自分は後ろ足を置いて、人間の社会に入り込んだようだ。
何となく記憶が蘇ってくる。競走馬として活躍していた自分。
忘れていた本能。それを取り戻すために、アケボノ杯に参加することになる。
地方競馬場では、一頭の馬が今日も入念に走りこんでいる。
連敗記録を更新中の牝馬、ウラウララ。
同期で、ウラウララとは違って連勝街道まっしぐらの重量級のスマートボーイ。サラブレッドとは思えないだらしないボディーを揺らしながら、自信に満ち溢れた姿を見せる。これが憎たらしくて、ウララは嫉妬の炎がメラメラと。
もう地方には敵はいない。自分は中央へ行くと宣言して、スマートボーイはその場を去る。
それから、数か月後。ウラウララの連敗記録は99にまで達する。
悩むウラウララの前にスマートボーイが現れる。いつものように嫌味を言いながら、お説教をしてくる。
そんな姿にウラウララは我慢できずに、口にしてはいけないことを言ってしまう。うるさい、早く成仏しろ。
意味が分からない顔をしているスマートボーイにウラウララは真実を語る。
中央に行くと言っていたあなたが、なぜここにまだいるのか。それは、地方の最後のレースであなたは骨折して・・・
信じられない様子で愕然としてその場を去るスマートボーイ。
数日後、スマートボーイはウラウララに姿を見せずに声だけで語り掛ける。自分を見失ってしまっていた。ずっとゴール目指して必死に走ってきた自分の、今するべきことは、あの世へ向かって走ることだったことに気付いた。お別れ。でも、ウラウララは、色々なものを背負い過ぎ。自分のように走れなくなった馬たちのために走り続けるなんて必要は無い。自分のために走ってみたらいい。そうすれば、きっと結果に結びつく。だって、昔は、自分よりも速く走っていたのだから。
ウラウララは自分の忘れていた走りを思い出すために、自分の走ることへの本当の想いを引き出すために、アケボノ杯に参加する。
かくして、アケボノ杯の出場メンバーが揃う。
実際はハンス杯に名前は変わった。
賢馬ハンス。計算が出来るということで一躍有名になった馬。実際は計算が出来るのではなく、その場の空気を読み取って答えを感知することが出来るということだったらしいが、そっちの方がよっぽど賢そうだ。
いまひとつ威厳の無いアケボノウマよりかは、こちらのハンスの名前を使った方が、盛り上がるというものだ。
実際に、賢馬ハンスと可愛らしいダンサー馬たちの、タップダンスショーをオープニングイベントとして行い、大盛り上がりとなる。
レースが始まる。
馬にこだわり本来の自分たちを見失っていたロバやラバ。あまり考えることなしに走るママ馬。走れないから歩いて自分を見つめなおす男。
どんな馬よりも目を惹いてしまう可愛らしく美しいダンサー馬。
ケンタウロス時代の記憶を取り戻しながら走る女、その後を必死に追いかける後ろ足。現役競走馬の力を見せつける妹馬。
連敗記録を更新という周囲の期待を背負わず、ただ懸命に走るウラウララ。どこからか紛れ込んできた醜い騸馬。
果たして、レースを制するのは・・・
最後は、いつもながらの周囲がどうであろうと自分の想いに忠実に向き合って生きるという強い意志を感じさせながらも、そこに至るまでの出会いと別れに思いを馳せ、そのために決断しなければいけないことへの切なさなんかも感じさせて心を揺らすようなラストでした。
と同時に、なんじゃこれはといった、すかしたラストでもあります。
まあ、この話は大きく、骨折した男、ケンタウロスだった女、連敗馬ウラウララの3つの話に分けられると思いますが、このうち一つで思いっきりすかして、心切なく感動しながらも、やりよったなあ、やられたあといった苦笑いでも締められるような感じです。
ウラウララがレースを制します。でも、それは周囲からは歓迎されるものではありませんでした。周囲は連敗記録更新を楽しみにしていたのですから。弱い者が、それでも懸命に走り続けることから勇気を得ていた弱い者たちの期待外れの声であふれかえります。
多分、そんな者たちは、勇気を得ていたのでは無く、安堵を得ていたのでしょうね。あんなに弱くても、走っている奴がいるんだから、自分も走ろうと思えばきっと走れるみたいな。そして、自分が走った時は、あいつみたいに負けずに勝てるのかもしれないなんて根拠無き勝手な想いを抱きながら。
そんなところはきっと自分にもあると思います。弱い自分、愚かな自分は、こういったちょっとした作品の表現から感じることはよくあります。
走らないといけないのでしょう。走らない言い訳はいくらでも出来ます。逆に走る理由は無いかもしれません。まさに、それは自分の中から沸いてきた想いに従って、本能が取り戻されたからだけなのかもしれませんから。
男は骨折を理由に走りませんでした。同じ骨折したスマートボーイは、もう走りたくても本当に走れなくなったのですが、男は実はまだ走れたのです。
骨折したのは小指。しかも手の。曲がらなくなった小指をピンと立てて走るのがカッコ悪いという理由だけ。何とも馬鹿らしいですが、走らない理由なんて実はそんな程度のことが多いのかもしれません。人から見れば、馬鹿らしいの一言ですが、本人はそんなことでも、走ること自体に不安を抱えていると否定材料に真剣にしてしまうような気もします。
でも、ちょっと走ってみたらいいのでしょう。走りたいという気持ちが少しでもあるなら、それに逆らわずに。それこそ、このアケボノ杯みたいに勝ち負けで金とか名誉とかを考えず、ただ、自分を試すために。そうしたら、意外に、小指を両手ともに立てて走ると走りやすいなんてこともあるのかもしれないですから。
ロバやラバなんかも、結局は男と同じような感じでしょうか。こちらは自分の運命というか生まれが関わるので真面目に考えると深刻性が骨折よりかは大きいところがありますが。
ロバやラバであることを馬と違うということにこだわり過ぎているような者たちでした。馬とは違うなんて当たり前のことで、ロバやラバであればいいのです。だって、本当にロバやラバなんですから。そんな自分たちが出来ること、したいことに向き合って生きる。馬がすることをして、劣っているからと落ち込むことなんて本当は全く意味の無いことなのだと感じます。
そう思うと、ママ馬は自分に忠実でしたね。走りたけりゃ走るし。農耕馬だからサラブレッドに劣っているなんてことは微塵も感じさせない。馬だからというか、走りたいから走るわみたいな感じの考えが爽快です。
ウラウララは、自分のためにずっと走っていなかったのでしょうか。彼女が何を背負って走っていたのかは、一言では言い表せないような感じです。ウラウララだから、こうでなくてはいけない。そんな周囲の固定観念にいつの間にか洗脳されるような感じで、自分を追い込んでしまっていたのかもしれません。自分では見えない、気付かない周囲からのプレッシャーというのは怖いですね。相当、自分を見詰めないと、何に自分が囚われているのかが見えないように思います。それに気付かせてくれたのは、自分のずっと継続してきた努力、そして、いかがわしい奴でしたが、自分を楽しみ走り続けてきたスマートボーイだったような気がします。そして、スマートボーイもまた、自分が分からなくなった時に、ウラウララの言葉で、また走れるようになった。ただ、その走る先があの世だったという悲しさはありますが、そんな二人の表面からは見えない想い合いがあったように感じます。
ケンタウロスは、レースの中で完全に記憶を取り戻します。
ただ、その記憶は厳しいものでした。自分は人間になる。後ろ足は捨てるということだったようです。
自分がしたいこと、走りたい気持ちに忠実に行動した時に、何かを捨てなくてはいけないことは確かにあるでしょう。
そんな失ったものは、消えてなくなるのではなく、捨てたということが自分の心に刻まれるのだと思います。作品中では、捨てた後ろ足の名残りが、彼女の骨盤と尾てい骨の間の骨折という形で刻まれていたみたいです。覚悟が必要でしょう。それでも、そうして前へ進んでいくのだと思います。
人間部分と後ろ足は、人間部分である彼女が自分の意志でこれからを一人で生きる覚悟をしたことを、後ろ足も認めてお別れをします。互いに一緒の時を過ごし、まさに一心同体として、想い合っていた二人だからこそ、出来たことかもしれません。
このシーンが、私のこの劇団の作品で一番好きなほとんど人参の日枝美香Lさんと三月さんの最後の二人の通じ合いを描くシーンを思い起こさせられました。
今までのように同じ身体に一緒にいることはなくなったけど、切り離されても、これまで一緒に過ごしてきた時間の中で通じ合った心はいつまでも絶対に消えない。互いの道で、自分たちの生き方で人生を進め、いつまでも共に生きていきましょうみたいな。
失った、捨てたことの悔いや寂しさ。ずっと一緒にいたものとの悲しい別れ。不安の中で、生きていく。
でも、時折、感じる骨折跡の痛みがそれを和らげてくれるかもしれません。そして、自分が捨てた後ろ足だって、今度は自分が出来ることはこれだとばかりに、活躍しているようです。テレビからは、妹馬が、まるで6本足のごとくの猛烈な追い込みでレースを制したというニュースが流れています。
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