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2014年9月14日 (日)

タンタジルの死【evkk】140914

2014年09月14日 フジワラビル地階ホール (60分)

 

役としては、死の恐怖に怯える少年タンタジルと、その子を守ろうとする姉のイグレーヌ、ベランジエール。ベランジエールとタンタジルは同じ役者さんが基本的に演じるみたいで、実際は二役のようです。
それを3人の女優さんが、ローテーションを組んで演じる公演。
私が拝見したのは、イグレーヌ:西国原菜々さん×ベランジエール/タンタジル:澤井里依さん(舞夢プロ)の公演。

青い鳥を書いたメーテルリンクの戯曲らしいが、その方がこんな作品をねえ。
幸せは身近にあったという、死のバージョンだろうか。身近に絶望的な死は潜んでいて、逃れることなく、それに脅かされるという。
不条理な死、それでも、そこから見出せる生なんてことを思わす作品は多いが、これは死の不条理性を際立たせており、生なんか全く浮き上がらせないかのようだ。さらには、ラストは、その死は引き継がれていくようなイメージもあり、絶望的な死の連鎖という負を強く感じる。
張りつめた空気の中での鮮やかな照明は美しいが悲しく映り、少年の怯える不安な声が純粋に消えていく不安と哀れを感じ、代わりに優しく温かい姉たちの声は、恐怖と悲しみのこもった絶叫になっていく。
どこかに光はあったのだろうか。私には感じられず、頭を抱えるしかないラストだった。それが人間の運命だとでも言っているのか。

 

何かに怯える少年、タンタジル。
姉、イグレーヌとベランジエールは、そんなタンタジルを守る決意をしながらも、タンタジルはどんどん衰弱していく。
そして、最後は、怯えて気が触れてしまったかのようなタンタジルにイグレーヌは抱きしめることはおろか、触れてその手の温もりを与えることも出来ぬままに、死が訪れます。

何に怯えているのかが、曖昧に描かれるので、見えない恐怖にずっと不安感を抱きながらタンタジルを見守ることになります。
タンタジルは、どこかに幽閉されていたようで、そこから戻ってきます。
情報としては、戻ってきた場所の窓から見える塔。その塔には女王がいて、その部屋では幽閉された者が首を締められたりする姿が目撃されているのだとか。
何があったのかは、分かりません。
タンタジルはそこから戻ってきたけど、その塔での出来事のためか、徐々に生を消して、死へと向かいます。タンタジルの身をまとう白い半透明の布が何かを現しているのでしょうか。それが身にまとわりつき、さらには、自分を追ってくる女王によって、その生を奪われるという恐怖にさいなまれています。
決して、虚言ではなく、姉も見えぬ、侵入者を感じ、剣を手にしてタンタジルを守ろうとしますが、それでも、敵が見えない以上、その振りかざす先は無いといった状態みたい。

何かのメタファーなんでしょうかね。
単純には目に見えない死の恐怖として放射能、いつ迫りくるか分からない自然災害、あまりにも極限の生死の状態である戦争、漠然とした不安の漂う厭世観。
何かそんなことを経験してしまった、その恐ろしさを知ってしまった少年タンタジルが、恐れのあまり、死へと向かってしまったかのように見えました。

どうして姉たちは守れなかったのかが気になっています。
どういう理由なのかは分からないが、タンタジルは外の世界に出ており、そこで何か心を凍りつかせるような経験をして戻って来た。その凍った心を溶かすには、姉の優しさや温かみ、守る覚悟だけでは足りないことを指摘しているようにも感じる。
それは、どうも姉たちは、この城なのか屋敷なのかは知らないが、外に出ていない印象を受けるから。
人を守る、心を溶かすためには、そんな外で同じような恐怖や悲しみなど、負の要素を経験しないと無理なのかもしれない。幼いタンタジル、大人の姉のような感じだが、実際に幼なかったのは、そんな守る術を持ち合わせていない姉たちだったような気もする。
大きく捉えれば、今、不安を感じる子供たちに、私たち大人は守らなければいけない、子供たちに明るい未来をとか言いながらも、子供たちに触れて抱きしめてあげることすら出来ていない。そして、不幸に陥る子供たちを見て、悲しみや憎しみ、悔いや怒りだけを残して叫んでいるだけではないかという非難が込められているのだろうか。

厳粛な芝居だけに、役者さんの力の込め方が凄い。
西国原さんは劇団赤鬼時代によく拝見していたが、少年の明るく純粋な姿を映し出すのがとてもうまい方。でも、今回拝見したのは、姉の役。見守る優しさと冷静な覚悟が揺らぎ、絶望の絶叫へと変わるまでの姿を演じられる。
タンタジルは澤井さん。先日、拝見した面白い姿とは別人で、少年の不安、甘え、恐怖、衰弱、救い、絶望のような揺れる心情変化を繊細に演じられる。不安を口にするものの押し殺していた感情が、最後に爆発して、感情剥き出しに生への執着を見せる姿は、あまりにも悲惨で心を痛める。

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