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2014年9月23日 (火)

つぐみ荘のブルース【こまち日和】140923

2014年09月23日 福島・Night Market (100分)

一人の女性が、取り壊されるシェアハウスの住人たちと過ごした数日を描いた話。
そこには、不安や苦しみを抱えながらも、互いに想い合って、懸命に前へと歩もうと頑張る人の姿が浮き上がってくる。
心配ない。今、自分が思っていることを真剣に頑張り続けなさい。
そんなメッセージが、心に安堵にも似た穏やかな気持ちを抱かせ、何か暖かさを感じる。
懐かしさが漂う雰囲気の中、そんな人の温かさに触れた心地いい時間だった。

公園のベンチなのか、そこに座り、少々不恰好な手作りの大きなおにぎりを口いっぱいほうばるOL風の女性、つぐみ。お行儀が悪いが、おにぎりが口に入ったまま、自分の楽しかった大切な思い出を話そうとする。
話したいことはとにかくいっぱいあるみたいで、その表情は輝いている。
これからする話は、自分のおばあちゃんがオーナーであったシェアハウス、つぐみ荘のこと。
今は、もう誰もいなくなったが、そこにいた住人と、わずかな期間だったが共に過ごした時のこと。

おばあちゃんが亡くなり、つぐみはふと、母親がオーナーとなるため、シェアハウスとしては取り壊すことになったつぐみ荘を訪ねる。
そこには、6人の男女が自由気ままに暮らしていた。もうじき、ここから出て行かなくてはいけないことも知っている。だから、突然の訪問者に驚くが、おばあちゃんの孫であるつぐみを、最後のつぐみ荘の住人として、歓迎する。
住人たちは、何やら残暑や猛暑といった言葉で遊んでみたり、バイトの面接のダメ出しをしたり、ラップで盛り上がったり、大阪検定受験の対策をしたり、つぐみ荘に住む音楽を奏でるでっかいおっさんの妖精の話をしたり、昔の懐かしい遊びの話をしたり、・・・
特に意味も無いことをしながら、日々を過ごす。
おばあちゃんがいた頃は、そんな話におばあちゃんも入り込んできて、一緒に盛り上がったそうだ。そして、こんなことをしていて大丈夫かなんて不安になって、泣き言をいったりしたら、いつも厳しく、でも、自分たち一人一人に優しい声を掛けてくれていたらしい。
とにかく、居心地がいい場所のようだ。

そんなつぐみ荘もついに最後の日を迎える。
誰からともなく、送別会が開催される。
お得意の持ちネタを披露したり、おばあちゃんが好きだった歌を歌ったり。
そんな中、荷物が届く。差出人はおばあちゃんから。悪質ないたずらだ。でも、筆跡を見るとお母さんから。
中には、おばあちゃんからの各々へのプレゼントと直筆の手紙が入っていた。
この手紙が届いたということは、きっとつぐみ荘はそろそろお終い。でも、あんたらのことだから、まだどこにも行けずに、くすぶっているんじゃないのだろうか。ここから羽ばたいて頑張りなさいといったような内容。
そして、こうなることを全て読んでいたかのようにつぐみにも手紙が。
つぐみという名前の由来。そして、自分にとって最高の孫だったことが記されていた。

あなたたちのあるがままに。おばあちゃんの好きだった曲を、泣いて声にならないけど、必死に歌って、送別会はお開き。
各々がつぐみ荘を去る。いや、出発する。
つぐみは、返却されるつぐみ荘の鍵を受け取らない。
みんなその鍵を大切に胸にしまって、自分たちのこれからの世界へと旅立っていく・・・

あらすじのようなものはほとんどなく、つぐみ荘が閉鎖されるまでの数日間を100分に凝縮して描いたような作品。開演前から、既にそんなつぐみ荘を感じられるようにするためか、劇場に向かう途中の道で、普通に住人たちとすれ違ったりする。
この人たちは、確かにつぐみ荘に住んでいて、この町の住人なのだと言わんばかりに。

おばあちゃんが、人と人の繋がりを大切にする優しい人だったのだろう。そして、その人が頑張ろうとしていることを、その人以上に信じてあげられる人だったみたいだ。
だから、住人たちは傷ついても、立ち止まっても、ここに帰って来れば、また歩き出す勇気を与えられたのだろう。そんなおばあちゃんに育てられた孫のつぐみも、知らずうちに、人を想える優しい子になっていたみたいだ。もちろん、住人たちも。
でも、いつまでもそうしているわけにはいかない。自分たちは飛び立たないといけないし、そういった優しい想いを知る人なのだから、今度は自分がそんなおばあちゃんみたいな存在になって、頑張ろうとしているけど立ち止まっている人に声を掛けてあげなくてはいけない。

こんなつぐみ荘は、人生の中で、いくつかあるのかもしれない。もちろん、こんな風に住んだりはしてないけど、共に過ごした人と時間が、自分の人生で大切だったことはあるような気がする。
最後に住人たちは鍵を持ってつぐみ荘を卒業する。鍵を持っていても、つぐみ荘には戻れないし、もうあの時間は戻らない。でも、その鍵を胸にしていることで、あの頃のことはいつでも思い出として蘇る。そして、そのことでまた、立ち止まった時に前を向いて歩き出せるのではないだろうか。
鍵ではないけど、写真や日記、たとえば、その時の言葉でもいい。苦しい時に、それを、思い返すことで、少しだけだけど元気になって、頑張ろうかなといった気になることはあるように思う。きっと、それが自分の大切な時間に少しだけ戻れる鍵みたいなものなのかな。
自分にだって、そんな鍵やつぐみ荘はあるように思う。それを、じっくり思い返してみようかななんて思ったりしている。
何か、心が穏やかになるような作品だった。

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