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2014年9月15日 (月)

エゴ・サーチ【近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻23期卒業公演】

2014年09月14日 近畿大学会館5F 日本橋アートスタジオ (125分)

いい作品だなあと思う。
でも、これは実は当たり前で、昨年の授業公演とやらで、この期の作品を一度拝見しているが、その年の308本中10位に選んだくらいの素晴らしい作品を創ることが出来る集団なのだから。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/12/post-d639.html

詳しい感想は下記するが、演劇作品をより良く魅せる技術を見せられた感が残る。
素人だから、何とも言えないが上手いのだろうなと思う。
じゃあ、感動したか、心を揺り動かされたかと言われたら、それは申し訳ないが、あんまりだったと答える。
作品の問題もあるのだろうが、合格点をしっかり取るといったことに重点を置いたような形になっているように感じる。語弊があるかもしれないが、商業演劇的な感じか。
まあ、それでも、しっかりしている。
有名作品をしっかりと勉強させてもらったと思えば、何も言うことはなく、いい経験が出来たことに感謝するだけだ。

沖縄の離島を訪れた女性。島の人たちは、みんな優しく楽しい人たちばかりで、地元の小学校の体育の時間の野球に参加させられたり、一緒に給食をごちそうになったり。先生を目指す女性は、こんな島で自分も働ければいいなあなんて思う。そんな中、女性はカジュマルの木の妖精であるキジムナーと出会う・・・
と、ここからが一向に筆が進まず、スランプに陥る新人作家の一色。
担当編集者の理香は怒り心頭。
書けないのは仕方がない。でも、その努力が見られない。昨日だって、ハリポッターのDVDを全巻鑑賞するなんてことをしているのだから。今は情報社会。ちょっと、一色の名前を検索すれば、ブログとかが見つかり、何をしていたのかが分かってしまう。
そんなことを言って責め立てる理香に対して、一色は必死に弁明する。自分はそんなことをしていない。
じゃあ、見せてあげるとばかりに、開かれたブログのページ。
そこには、確かに一色と同姓同名、それどころか、全く同じ経歴の一色のブログがある。
自分は、そんなブログなど書いていない。この人はいったい誰なのか。

IT会社。インターネット上の情報を上手く操作することを生業にしている。社長の田中、社員の舞で、赤字ながらもなんとかやっている。
舞は、田中に想いを寄せているようだが、田中はそれを知ってか知らずかといった感じ。舞も積極的にアタック出来ない。それは、過去に自分のいかがわしい流出写真がネットに出回ってしまい、そのことを田中も知っているから。
一方、田中は田中で過去にトラウマを持つ。遊具会社に勤めていた時に、その遊具で死亡事故が起こった。ネット上では田中の名前をさらした非難の声で溢れかえる。もっとも、その頃は違う名前で田中は偽名であるのだが。
そんな会社に、ミュージシャンの二人組がやって来る。ゆずやら、ケミストリーやら色々な一流アーティストの名前を挙げ、そんなメジャーでの成功を夢見ている。バンド名は骨なしチキン。持ち歌は一曲だけ。悪い曲ではないが、どう考えてもメジャーデビューへの道は厳しい。金はあるらしく、うまい具合にネットを利用して口コミで名を挙げていこうと考えているみたいだ。
お断りすることも出来るのだが、会社が赤字だけに二人は、仕事として依頼を受けることに。
さらに、舞は、友人である理香から、相談を受ける。担当している作家と同一人物と思われる者がネット上にいる。その人を特定できないかと。

歯の浮くような言葉を平気で発し、女性を虜にするカメラマンの卵、広瀬。
友人の借金の保証人になってしまった。毎月50万円なんて払えない。もう、カメラマンを諦めなくては仕方がない。いや、それよりも辛いのは、もう君と付き合うことが出来ないことだ、日菜子。そんな言葉に、コロっと騙されて、風俗に身を投じて、貢ぎ始める日菜子。広瀬は、他にも言葉巧みに色々な女性から金を貢がせている。最前列の客も、軽くハグされて、貢いでしまうくらいの魅力があるみたい。
日菜子は、金を貢ぐものの、広瀬からは甘い言葉を投げかけられるだけであまり大切にされない。寂しい。そんな時に出会ったストリートミュージシャン。彼らの曲は下手くそでどうしようもないけど、それが逆に、こんな自分でも生きていていいんだと勇気が沸かせるらしい。日菜子は骨なしチキンのファン第一号となる。
広瀬は、そんな女騙しの生活を送りながらも、あることを欠かさない。路上に置かれた花。事故などで亡くなった方への弔いの花。そんな花が枯れていると、彼はそっと新しい花を置いて立ち去る。
公園の遊具の傍に置かれている花。それがもう枯れそうだ。彼はそっと新しい花を置く。そんな姿を毎月、花を供えにやって来る男に見られて、理由を聞かれるが、自己満足としか答えない。花が枯れていると、その人が忘れられたようで。そんな花が供えられたところはいくらでもあるだろうに、広瀬は定期的にそんなところに通って花を置いていくのだとか。広瀬が立ち去った後、男は遊具の傍に花を供える。田中が毎月、罪滅ぼしに必ずしていること。
広瀬は、新しいターゲットを見つける。何か、企みがある様子ではあるが。その人は理香。働く可愛い女性を撮りたいと言ったら、意外にあっさりと受け入れられてしまう。広瀬は、働いている理香の写真を撮るため、一色の部屋にもあがりこむ。一色は特に何も言わないが、広瀬の視線は一色を見つめている。

沖縄の離島からクミラーという少し変わった雰囲気の子が、東京を訪ねてくる。キジムナーとかいう妖精らしい。
訪ね先は美保。かつて、沖縄の離島にやって来て、また先生になってここに戻って来ると約束した女性。彼女を見つけ出し、クミラーの顔が曇る。キジムナーには色々な能力がある。だから、この人が既に死んでしまっていることも分かる。美保は気付いていないようだが、もうこの世にはいない幽霊として彷徨う存在になっているようだ。
美保はいつの間にか引っ越しでもしたのか、いなくなった彼氏を探しているが、その場所が分からないで困っている。キジムナーも協力して、引っ越し先を訪ねるが、その部屋から出て来た男は、美保のことなど全く知らないと言い張る。美保は確かに、彼氏に間違いないと言う。そう、確かにあの人と私は付き合っていた。一色と。
キジムナーは美保に死んでいることを告げる。悲しみにくれる美保。やけになったのか、幽霊であることを活かして、色々な人たちを脅かすことに生きがいを見つけ始めたりする。
しかし、なぜ、一色は彼女のことを認識しないのか。それは、彼女が死んで幽霊になったこととは関係ないはず。キジムナーは、一色に接触を試みる。

といった4つの話の各々の登場人物たちが、話の展開と共に絡んでいき、やがて、一つの真実へとたどり着くパターン。定石とも言える演劇らしい作品かな。
この後、一色の筆が止まっていた小説の話が再び動き始める。それはキジムナーや広瀬から聞き出す真実によって、一色の頭から消し去った記憶を蘇らせながら。

とても分かりやすいお話で、さすがは有名な鴻上作品だけあって、その巧妙な話の展開には唸ります。ちょうど、この日の午前中は、他の劇団公演で野田作品の走れメルスを拝見しており、それに比べて、何と分かりやすいのだろうと安堵に近い感動を得ました。
もちろん、話は分かりやすいですが、その本質はネットという情報社会をベースに、色々なことを含ませているのでしょうが。
ただ、どうも教科書的な作品に感じます。
分かりやすいといっても、4つの話が交錯する世界。場面切り替えも豊富で、それを違和感なくどう見せるのかとか、少しずつ明らかになる真実を頭に植え付けていく登場人物の変化をどう感じさせるのかとか。そして、そんな話の中心から外れている者たちが変わらず時を過ごしながらも、絡んでいるというギャップをどう取り扱うのかとか。
そんなこの作品を魅せるために課せられる数々の問題をクリアするには、個々の役者さんの能力やチームワークも必要でしょうし、ずっと観ることになる舞台美術の美しさや照明・音響による世界に入り込む空気作り、飽きさせない展開の妙を生む演出など、素人では分からない色々な技があり、それをきちんと盛り込んだからこそ、いい作品だなあと感じさせる結果になっているのだと思います。

結局、印象に残ったことは、記憶に残る限り、その人は生き続けるみたいなことでしょうか。魂は永遠では無く、その人を知る人が誰もいなくなれば、魂は消滅するというキジムナーの言葉。
一色はエゴサーチすることで、記憶を蘇らせました。エゴ・サーチをしていなければ、その記憶はずっとネットの中に埋まっていただけだったでしょう。ただ、存在するだけで、それは記憶とは言えないのかもしれません。単なる情報。そんなものが、ネットにはたくさん埋まっている。
それは、広瀬が言う、枯れた花と同調するように感じます。
田中や舞が囚われる過去のネットでのトラウマ。でも、本当はネットの中に残る二人の過去は、単なる情報で、それを記憶しているのは二人自身。ネット操作で、そんな過去の言葉を消しても、二人自身の頭から消さなくては、いつまでも囚われたままのような気がします。
所詮、ネットはそんなところがあるのでしょう。そう、思うと骨なしチキンのように、ネットに残る自分たちのバンド名より、今この場所で自分たちの名を叫んでくれる日菜子のような存在こそが、彼らにとって前へ進むために必要なことなのかもしれません。

卒業公演という場においては、これまで学んできたことや、得た繋がりをそのまま、どこかに保管しておくだけでは、何の意味も無いことかもしれないといったことかな。
それをこれからの人生の中で、必要な時に取り出す。つまりは、ネットの中に埋没してしまう情報では無く、記憶として頭に刻み込むことの大切さでしょうか。
これから先、何かあった時に、あの頃のことを思い出して、何とかその壁をクリア出来る。そんな力強い経験をしたということを忘れずに、これからの人生を歩むといった気持ちを感じます。
この卒業公演自体が、そんなこれからの大きな武器になるのではないでしょうか。

エゴ・サーチして、出てきてくれるかなあ。
これまでに拝見したことのある役者さんも多数おり、何となく馴染み深い感じで拝見でき、とても魅力的な方々でした。

キジムナー、山本真子さん。人間では無く、男女も明確でない中性的な雰囲気を、ちょっととぼけた飄々とした感じから描き出す。
一色、小島翔太さん。ずっと悩み続ける役どころ。落ち着かないざわざわする心の不安定さが伝わる演技。
理香、小山亜衣さん。キャリアウーマンの凛とした感じを見せながらも、普通の女性の愛らしさを同居させる男心をくずぐる感じかな。
骨なしチキン、樽井順子さん、三村優里花さん。名コンビでしたね。漫才やコントみたいでしたが。この作品では、実は一番ブレずにまっすぐ生きる強さとしたたかさが純粋にあるキャラでした。
卒業生、栗本彩さん。これは、この作品に限ってのキャラなのかなあ。メタ的な演出が所々ありますが、このキャラの存在は、もう一つ上の階層でメタを意識させますね。色々な役をされていましたが。笑顔が気持ちいい印象。
広瀬、豊島祐貴さん。このキャラは結局、最後、どこに行ってしまったのだろう。前半はクズ野郎として見ることになりますが、そんなクズのような行動も忘れられることの悲しさを知るからこそ、記憶に残りたい行動だったのだろうと思うと救いの手を差し伸べたくなるようになります。まあ、したたかに生きているのでしょうが。
美保、矢部花佳さん。前半はヒロイン風で美人に見惚れていましたが、後半はすっかり完全にキレてしまった面白い勘違い女へと変化。そして、最後に悲しみを乗り越える強い覚悟を持ちながらも、けなげな女性に。多様ないい女性キャラを演じ分ける。
田中、浜田渉さん。明るくおどけた社長として振る舞っているけど、影のある男を匂わす。彼のその後もどうなったのか。一色のように、その死を昇華させて、本当の自分を名乗る日が来るのだろうか。
舞、東原真依子さん。セクシー衣装はどうしても目がいってしまうが。ただ、服装や言動とは真逆で一番、弱さを抱える女性のように映る。ネット上で自分の名を消していく。仕方ないことではあるが、それは、同時に過去の自分の否定のようで寂しくも感じる。
日菜子、守本里穂さん。すいぶんと愛くるしいけど、オバカなキャラで。掛け合いの間合いが上手。

あとは、演出、FOペレイラ宏一朗さん。本当は自分の脚本をしたかったみたいだけど。でも、結局は、こんなにしっかりとした作品を創り上げたんですねえ。そりゃあ、創り手だからこそ、作品を腐らせるようなことは絶対しないですわね。上記した役者さんの輝きがそのまま、この方の魅力に繋がるでしょう。
舞台美術、今津麻奈さん。あの舞台セットの設計をした人なのかな。幾つかのスペースに分かれているけど、何か一つにまとまったみたいな不思議な感じ。4つの話が目まぐるしく変わっても、均等に舞台を違和感なく観れたような感覚はこの舞台セットの力なのだろうか。
舞台監督、日和篤宏さん。お一人だけ書かないのもと思って。演劇を創ったことないから、こういう仕事の大変さは全く分かりません。聞いたところによると、調整、調整で気が狂いそうになるのだとか。大らかそうな感じなので、いいチームにまとまったのでは。

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