空白の色はなにいろか?【鳥公園】140817
2014年08月17日 クリエイティブセンター大阪 (80分)
クリエイティブセンターなんて名前が付いているみたいだが、造船工場の跡地。
外の景色も含めて、この建物内を役者さんと一緒に廻っていく。案内役がいるわけでもなく、ただ自然に流れに任せて。
そんな中で、ある老夫婦と孫の姿を見ながら、色々なことを頭の中に巡らせるような作品。
重厚で張りつめた空気の中に、どこか空虚な世界を一緒になって彷徨っているような時間が心地いい。
食堂みたいなスペースで開演を待ち、そこから、この工場跡の色々な場所を巡る。
メキシコの画家、フリーダ・カーロは、障害や交通事故で自らの肉体がボロボロになり、その苦しみが作品のモチーフになっている。眉間に心に占めるものを描く作品が多く、釘を眉間や全身に打ち付けられた女性像の絵などがある。
22歳で46歳の自分の才能を見出してくれた批評家、リベラ・ディエゴと結婚。かなりの浮気者で、自分の妹とまで関係を持つ。この時に描かれたちょっとした刺し傷という作品は、刺し傷だらけで、事切れそうになる女性の傍らに、平然と立っている男の姿として、その時の心情を表現している。
ただ、フリーダ自身も、恋愛に関して自由で、数々の男性遍歴がある。その中には、社会運動とアートの関わりが強いメキシコという地に憧れ、そこでフリーダと出会った日本人、イサム・ノグチの名も挙がる。二人の関係は短かったが、後年、フリーダが寝たきりになった時に、メキシコとはちょっと味わいが異なる日本の蝶の標本を送り、フリーダも病床からそれをずっと眺めていたらしい。
そんな、イサム・ノグチ。父が日本人、母がアメリカ人であり、2歳まで父がイサムを認知せず、名前もずっと無かった。名を付けられた後も、父とはずっと疎遠で拒絶され続ける。自分の居場所を求め続けた影響が作品に表れているのか、代表作であるドーナツのような黒い円環のエナジー・ヴォイドという彫刻作品をはじめ、中心の欠如が彼の重要なテーマになっている。
下記の②、④に展示された絵の説明文から一部を抜粋しながらまとめた。
どうも、この作品は、フリーダとディエゴの人生の断片を巡っているようである。
①祖父からの手紙
見下ろし舞台。
お爺ちゃんとお婆ちゃんとふみという孫。
お爺ちゃんは少々、ボケ気味で、自分の歳もしっかり思い出せない様子。お婆ちゃんを呼び付け、聞こうとする。お婆ちゃんは、そういう風に、何でも自分を頼り、自分で考えないで、すぐに聞こうとするところに嫌気がさしているみたい。晩年の夫婦によくある姿だ。
結局、だいたい86歳だろうと自分勝手に結論づけて、その場をゆったり歩きながら去る。
ふみに電話をしながら。
ふみが、過去を思い出すかのように語り出す。
お爺ちゃんは、裁判官だった。こんな風に、ゆったり歩きながらいつの間にか何処かへ行って、死んでしまった。と言っても、どこに消えたのか、死んだという結論が無いので、今だ生があやふやで、今でもふとした時にその存在が曖昧に浮かぶみたいだ。
②イサム・ノグチ展
見下ろし舞台を見ながら、次の部屋に行くまでの通路にイサム・ノグチに関する資料が飾ってある。
上記参照。
③みみず劇場
受付机みたいな場所。
お婆ちゃんが、指や腕を使って、女とみみずの話を語る。みみずがどんどん大きくなる。地面に気付く女。地に足を付けている自分を意識したのか。
と、この時点での感想のメモには書いているが、後ほど、どうも、みみずを主人の象徴としていることが分かる。
空虚に自分の中で大きい存在となる主人。所詮、みみずではあるが。自分は、この地に縛られているみたいな感じだろうか。
④フリーダ・カーロ展
最初の場所に戻る途中に、上記したフリーダの作品が飾られている。
⑤自転車女
最初の食堂みたいな所。
机の上の自転車に乗り、DJをしているふみ。悩み相談にのったりしている。居場所の重要性。フリーダやイサムも、その居場所を見出すためかのように、自分自身を作品にぶつけてきたのかもしれない。
いくらこいでも、前へは進めず、その場であがくような感じ。そのあがいている場所は、居場所とはならないのだろうか。居場所にいるから安心なのではなく、居場所に向かって歩んでいるということで安心なのか。どこへ向かっているかも分からない彷徨う人は、生が薄れていくような感覚を得る。
そのうち、その彷徨うおじいちゃんがやって来る。どこかから拾ってきた石を乳母車に積んで、メキシコへ行くとか言いながら、ゆったりと歩き出す。この石も、後ほど、彫刻の材料としての意味合いを持っていることが分かる。
ふみは自転車でお爺ちゃんを追いかける。
⑥徘徊
広いスペース。テントにフラミンゴ。植木鉢の中の石・・・
よく分からないが、お爺ちゃんの徘徊している世界みたい。
⑦ヴォイド
工作室みたいな一室。
車いすのお婆ちゃんとふみ。夜行バスの中らしい。
ふみの隣の女性は、遠慮もなく、天井のクーラーのダイヤルを勝手に回す。人間関係の難しさか。
やがて、暗闇の虚無の世界へ。
飲み友達のヴォイドのこととかが語られる。空虚な自分の周りにいる、他人の負のエネルギーみたいな感じだろうか。
⑧フリーダと蝶
同じ部屋で映像作品が映し出される。
車いすのお婆ちゃんの横にお爺ちゃん。
上記したディエゴと妹との関係、イサムから送られた蝶の標本の話などが語られる。
晩年の二人の姿を映し出しているみたい。
⑨柿の木
また、最初の場所へ。
お爺ちゃんが柿の木と話をしている。すっかりボケてしまっている。
ふみは、うまい具合に家に戻そうとするが、言うことをなかなか聞かない。名前まで間違っている。多分、それは疎遠になっている娘の名前。
そして、またお爺ちゃんはどこかへと徘徊を始める。
⑩名無しさん
階下へ降りる。
そこで痴呆老人の名前を忘れるドキュメントの話がふみから語られる。
名前を失った人間は、いったい誰なのだろうか。相手に認識に依存するだけの存在になるのか。
⑪迷子
①の見下ろしていた空間へ。
お爺ちゃんは、若々しい姿で、今度は上の方から、掃除をするお婆ちゃんに語りかける。
文字とは。歴史とは文字が残すもの・・・
そんな小難しいことばかり言う。みみずのくせに。
そんな生真面目さ、窮屈な正論が、娘を疎遠にさせているのだろう。
そして、また①と同じシーンが繰り返される。
恐らくは①はお爺ちゃん視点、ここではお婆ちゃん視点になり、お爺ちゃんの困ったっぷりが際立つ。
⑫散歩
階段を上がり、⑥のスペースへ。
階段の途中には、お爺ちゃんが拾い集めてきて、お婆ちゃんに取り上げられた石が無造作に捨てられている。
窓を眺める、車いすのお婆ちゃんと、優しく語りかけるお爺ちゃん。とても素敵な夫婦のいいムード。
⑧も含めて、これはお婆ちゃんの理想の夢の世界なのか。
そんなことはさておきみたいな感じで、お婆ちゃんは、柱の影でその様子を見詰めていたふみを見つけ出し、話をしようと部屋に案内する。
⑬楽屋
メイク室みたいな部屋。
お婆ちゃんとふみが、素の状態で夫婦愛みたいなことを語る。そこに、お爺ちゃんも現れる。
お婆ちゃんの帰りを待って、今日はお前を抱くなんて言ってきたりするお爺ちゃん。
キモイ。でも、それを拒絶するのもひどくない。
そんなふみの屈託の無い言葉に、お婆ちゃんは、ある日、突然、体に触られるのも嫌になるようなことを答える。徐々にじゃなくて、いつだって関係は突然変わる。でも、そうして、本当の夫婦になるのかも。
お爺ちゃんは肩身が狭そうにしている。恐らく、観ている男は同じ気持ちだろう。
上記したエピソードを交えた会話を繰り広げながら、お爺ちゃんはふみに肩を揉んでもらう。お婆ちゃんはその場を立ち去る。
女は土地。領有され、耕作される。風になりたいと思いながら。口内発射、顔射もそんな男の普遍的な欲の現れか。男の自分勝手な欲望を露骨に責められているようで、居心地は悪い。
やがて、みみずの話に。膨れて立ち上がったみみずは、自らの半身を食べて円環となる。
イサムのエナジー・ヴォイドの正体を言及しているみたいだ。欲のエネルギーにまみれながらも、中は空洞。そんな不気味な形に、気味悪さを感じながら。
⑭名前の解体
ようやく解放され、階上へ。4階まで上がる。
階段には石が散乱している。破片みたいだ。
着いた広いスペースからは、工場内の景色が見渡せる。
お爺ちゃんは、外の遠くへとゆったり歩き続けている。こちらに手を振りながら。
①のふみが語ったシーンと対峙しているのだろうか。
お爺ちゃんは、どんどん小さくなっていく。やがて、空気に溶け込むように消えるのだろう。
それは、死なのだろうか。痴呆で名前を失ったようなこととも同調できることかもしれない。
でも、もう二度と彼とは会えない。ディエゴと名乗る、フィーゴと時を過ごしたパートナーとしては。
生まれ、居場所を求め、彷徨い、自らの存在を世界に残そうとし、やがて、名という肩書も無くし、本能的な欲だけは残し、万物と会話できるようになり、いつの間にかその世界の中に溶け込むように消えていく。
そんな人の生から死への流れを描いているような感じだろうか。
何となく、確かにエネジーヴォイドの真ん中の穴の空虚みたいな感覚は残る。でも、そこを覗き込んで映る景色、見せられた数々の人生のシーンは重厚なものであり、かつ生への尊さ、感謝を感じるものでもあるような気がする。それが人の生の力として受け止めることが出来るように思う。
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