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2014年8月 5日 (火)

お月様どうかお静かに【山本大樹プロデュース】140805

2014年08月05日 GROWLY (70分)

昨年に引き続き観劇。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/04/10130416-9d2e.html

これは傑作じゃないか。
古典文学作品と日本の昔話を融合させた見事な話。
たくさんの悲劇がある背景で、人が想う力の強さを、そのまま生きることの強さとして感じさせ、その未来が輝くことを祈るような優しい気持ちが浮き上がる。
ほぼ二人芝居と名打っているが、これは二人の見事な噛み合いから流れる展開を楽しみ、生み出される素敵な世界に魅了される作品だと思う。

<以下、あらすじがネタバレするので公演終了まで白字にします。公演は明日まで。3公演あるので、私ももう一度観に行ってもいいかなと思うぐらいの価値ある作品ですが、明日、食道のポリープを取る手術なんですよね。胃カメラ飲んでするだけの簡単な手術なんですが、この作品を拝見して全麻酔なのでちょっと不安になります。私にはこんな想いを抱いてくれている人はいないからなあ・・・、とこれはネタバレになるのでこれ以上は止めておきます>

月に緑色に発光する生物をNASAが発見。通称、ルミルミ。
地球人は、月面十字軍計画と称して、月への侵略を開始する。
静かに平和に暮らしていたルミルミたちは、月の裏側に地球人から逃れてひっそりと暮らし始める。
そこは、地球から捨てられたゴミが散乱する場所。
そんな場所に静かに佇む図書館で、ヒロキ・ヤマモトという青年は働いている。
といっても、地球から捨てられた幾つかの蔵書が埃を被って置かれているだけで、訪れる者は誰もいない。
なぜ、自分がここにいるのかはよく覚えていない。
眠りから覚めたら、宇宙船の中で、気付いたらここにいた。
それでも、ヤマモトは、ここを気に入り、ただひっそりと、好きな本と共に、この場所で穏やかな時間を過ごしている。

そんな図書館に、一人の男が訪れる。監査局局長のケイゴ・タニ。
同じ地球、しかも日本人ということで同胞ではあるが、態度には明らかに敵意を感じさせる横柄さがある。
用件は何なのか。自分の穏やかな時間に干渉してくるタニに警戒しながら、ヤマモトは声を掛ける。
気にせずにタニは、図書館の本を手にして読み出す。
ウラヤマタロウ。
興奮して膨張する自分のイチモツと天狗の鼻の長さを競うために、美しい天女が舞う屋敷で時を過ごす男の話。
本当に何が目的なのか。ヤマモトの怒りは思わずタニの頭をはたく行動を起こしてしまう。
君の運命は私が握っているとは思わないか。私はあなたを助けに来た。
タニをそう言って、ヤマモトに一冊の本を手渡す。
アンナの日記。ヤマモトはページをめくる。
この本は、昔々で始まる、アンナがヤマモトのために自分のことを綴った話みたいだ。アンネの日記のように。

時は遡る。
ヤマモトが高校生だった頃、一人の女の子が転校して来た。
かぐやアンナ。珍しい苗字だが、竹林で拾われた捨て子だったので、適当に名前を付けられたらしい。
アンナは、人見知りなのか、いつも図書館にいる。
本が好きで図書委員だったヤマモトは、そんなアンナの姿をいつも見ていた。
アンナは、本を読みながらも、誰かと会話をしているかのようだ。聞けば、本が喋りかけてくるのだとか。疑いの目を向けるヤマモトだったが、アンナに触れると自分にも本の言葉が聞こえてくる。
その日から、ヤマモトとアンナは、足のつま先を微妙な感じで触れ合わせながら、本と一緒の二人の淡い時を過ごし始める。アンネの日記でいうアンネとペーターのように。
ヤマモトには夢があった。それは月へ行くこと。
だから、一生懸命に勉強して試験に合格して、心臓にマイクロチップを埋め込む手術を受ける。これが、月へのパスポートとなるらしい。
夏休みに入り、ヤマモトは無事に試験に合格して、手術を受けることが決定。しばらく、会えないアンナに、ヤマモトはアンネの日記をプレゼント。アンナと名前が似ているから。安易だが、ヤマモトの想いはアンナに伝わり、アンナもヤマモトに特別な想いを寄せ始める。
その時、アンナは緑色に発光する。その輝きは蛍のように美しく、ヤマモトは興奮して、アンナの手を取り、踊り始める。まあ、恥ずかしくて凄く嫌だったと、アンナの日記には記されているのだが。
手術日当日、ヤマモトは、アンナに今度、蛍を観に行こうと言って、手術室へ向かう。アンナは、ヤマモトへの想いが高まって発光するのを抑えるので大変。
手術は成功した。でも、ヤマモトのまだ幼い体への負担は大き過ぎたらしい。
彼は、昏睡したまま、眠りから醒めることは無かった。

ヤマモトの記憶はまだ蘇らない。アンナの日記の内容が自分のことなのか、信じられない様子。
それよりも、なぜタニが、そんなに自分のことを知っていて、そして、自分をどうしようとしているのかが気になっているようだ。
タニは、そんなヤマモトに、さっき助けに来たといったが、本当は殺しに来たのかもしれないと言い出す。
タニは自分のことを話し始める。

昔々、月にあるルミルミの家族がいました。
父と母とダニーという息子。
地球人の侵略により、一家は引っ越してばかり。
今日も近くに地球人がやって来たので、何処かへ逃げないといけないという悪い知らせを父からダニーは聞く。それも、月の裏側の寂しいところへ。
でも、この日はいい知らせも。
妹が出来る。ルミルミは兄弟で生殖して子孫を残すので、ダニーにとっては妻ともなる人。
ダニーは大喜び。
やがて、妹、アニーが誕生。ダニーは、アニーをおぶって、面倒を見る。
よく、図書館にも連れて行って、本を読んであげた。
ウラヤマタロウ下巻。
ずいぶんといい思いをした男は村に戻っても誰一人知っている人がいない。でも、天女との間に出来た子供の孫たち、つまりはひ孫に囲まれて暮らしたのだとか。
地球人の侵略は、月の裏側にまで迫って来た。
ルミルミたちは、地球人と戦争をする決断をする。
そのため、ダニーは戦場へ、そしてアニーは地球へと避難させることになる。
ダニーは戦争で何とか地球人からこの地を守り、アニーを迎えに地球に向かう。

アンナの日記には続きがある。
眠りから醒めないヤマモトの見舞いを繰り返し、彼のことを想いながら、アンナは日記を書き続ける。
でも、それももう限界がき始めている。
ルミルミの地球での寿命は短くなってしまい18歳ぐらい。アンナの体は老化し始めている。
月に戻れば、もっと長くは生きられるだろう。
でも、自分が輝くのはヤマモトを想った時。ヤマモトが自分がルミルミであることを思い出させてくれた。そんなヤマモトの傍を離れて生きることに意味は感じない。
最近は、月から兄、ダニーの声を聞くことも出来るようになった。
私もただ、死ぬのではもったいない。自分の力を最大限発揮して、ヤマモトをどうにかしようと思っている。
だから、ヤマモト。もし、目覚めて月に行けたなら、兄によろしくと伝えて欲しい。
日記はそこで終わっている。

タニは話を続ける。
ダニーは地球に行って、アニーを探す。
でも、アニーは既に力尽きていた。
地球人たちは、その遺体を解剖し、自分たちの科学に役立てるつもりのようだ。
ダニーは再び、月に戻るために地球の監査局に入る。異例の出世で局長になり、マイクロチップ手術も受けて、日本人となった。
そして、今・・・

タニ、いやダニーは続ける。
アンナ、いやアニーは月面探査機に組み込まれた。
その探査機は今、月に向かっている。そして、ヤマモトのマイクロチップのみを受信して、この図書館を目指しているようだ。
このままでは、ここはその着陸により破壊され、二人とも死んでしまうことだろう。
タニは、ヤマモトのマイクロチップを爆破するスイッチも手にしている。
助けることも出来るし、殺すことも出来る。それが、タニがここへやって来た理由だ。

そんなタニに対し、ヤマモトはアンナの日記を手渡し、この続きを書いて欲しいと願う。
この本には自分とアンナのことが書き綴られている。この続きはタニ自身が書いて、昔々で始まったこの物語をハッピーエンドのめでたしめでたしで締めくくって欲しいと。
タニは、そんなヤマモトに対し、爆破スイッチを押す。
でも、ヤマモトには何の変化も無い。
事がうまく運ばずいら立つタニと、どうしてアンナのあなたへの想いが理解できないのかと怒るヤマモトの下に雪が降り始める。

月に雪が降ることは無い。空から降ってくる雪のようなものは、何かの破片。
タニとヤマモトは、懐かしい声を聞きながら、・・・

アンナの日記とタニの語る話を繋ぎ合わせて、自分の生が不明瞭なヤマモトに彼の生きてきた道筋を見詰めさせ、アンナのそんなヤマモトへの想い、兄、ダニーへの想い、故郷への想いを幾つも優しく浮き上がらせる。
元々は、地球人の愚かな行為から始まった話。互いに何も無く、各々の故郷で自分の生を全うするはずだった人やルミルミたち。戦争が、そんな者たちに、違う運命を与えた。
それはとても不条理なことであるが、その運命をただ悲劇にしてしまうのではなく、愛する者との想い合いや、自らの故郷への想いを抱く大切な時間を導き出している。
たくさんの悲劇が背景にある中で、登場人物たちは、自分たちの時間を精一杯生きる。そこに、人を想うことや、これからの未来への希望を捨てずに。
これは、きちんと読んでもいないのに書くのは臆するところもあるが、アンネの日記とよく似た感覚なのではないだろうか。
そして、そんな者たちが、不条理な運命に負けずに幸せになって欲しい。月に帰ったかぐや姫も、長き時間を失ってしまったうらしま太郎も。そんな願いが優しく響いてくる作品だった。

ヤマモト、山本大樹さん。これまでに、よく拝見する姿は、アホそうなお調子者やチャラチャラしたいい加減男。でも、そこに純粋な芯のとおった想いを感じさせるところがある。今回は、そんな内なる魅力を思いっきり素朴なキャラで露出している。どんな環境でもまっすぐに生きてきたヤマモトが、そんな自分をずっと見てくれていた者の存在を知り、そして、その生き様を認める者と出会った。ブレずに懸命に生きてきたヤマモトの姿が最後に輝く。最後、どう捉えるべきなのかは分からないが、爆破スイッチの不発は、不発では無く、アンナの最後の力を振り絞った結果の細工だったのだろうか。ヤマモトはアンナにより、ルミルミの血も入り込んでいるように感じられ、それがさらに最後にヤマモトを静かに輝かしているように見えた。
タニ、谷啓吾さん。ギアで拝見したのはもう2年前だが、けっこう覚えている。イケメンなのと、多彩だなあと思ったので。マイムをされる方なので、動きとかはもちろん多彩なのだが、キャラの転換とかが、たくさん引き出しがあるんだろうなと。今回も、役人風の厳格なタニや若き頃のダニーのコミカルな姿や、朗読で女性までこなしてしまうその多彩な姿が圧巻。

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