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2014年8月31日 (日)

酔筆奇術偏狂記【劇団レトルト内閣】140830

2014年08月30日 HEP HALL (110分)

明治から昭和。
日本の激動期に生まれた大衆娯楽文化の奇術に焦点を当てて、その発展へと寄与した人の姿を創り手側、受け手側の視点から見詰めたような作品。
後の世に、この楽しい娯楽を繋いでいきたいという想いが、昔ながらの大衆のお家やプロの一門の継承なんかも交えて描かれており、文化を守る、そして未来に繋げていくことへの全ての者たちの願いが込められたような話でした。

<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は本日、日曜日まで>

時は、日清・日露戦争で勝利をおさめた日本が近代化に向けて進み始めた時代。
一般大衆も娯楽を楽しむようになり、個の時代へと変わりつつある頃。

日本奇術の祖といわれる、松旭斎一門は、日本一の奇術師、天一とその愛人を中心に、弟子であるその息子、天二や若い女性奇術師たちと共に活動をしていた。これからの時代に合った西洋奇術が大衆の心を掴み、さらには、後に鬼の興行師と呼ばれる敏腕マネージャーの活躍もあり、松旭斎一門は日本で数々の公演において成功をおさめる。
そんな松旭斎一門に、親に捨てられ身売りされた田舎娘、お勝が入門する。
一門の者たちは、お勝を蔑視し、いじわるを繰り返すが、天一は、独特の妖艶な雰囲気を持ち、誰よりも奇術の稽古を懸命にするお勝がこれからの時代にうけるとその才能を見出し、天勝という名を与える。
そして、天一のお勝の才能への惚れは、やがて、男女の想いへと変わってしまう。
天一に無理矢理、体を求められたお勝は入水自殺を試みるが、敏腕マネージャーのあなたは金を生み出す力があるという言葉もあって、生き抜く覚悟をする。
一門に再び、戻ってきたお勝は、もはやお勝ではなかった。自らの人生を奇術に捧げるという強い覚悟の下、天一と肉体関係を持ち、愛人を追放、弟子たちも配下に治める。
これまでの懸命な奇術の稽古の成果もあって、天勝の舞台の評判はすこぶるよく、天勝目当てに公演に足を運ぶ者たちがたくさん現れるようになる。
ここに、天一、天勝一門が世に生まれる。

やがて、海外公演までを行うに至るが、最初は文化の違いで惨憺たる結果に。日本の緩やかな動きが認められない。天一と天勝は、派手な動きに、華やかな舞台の中で緻密な奇術を魅せるというスタイルにすぐさまシフトし、いつしか海外でも認められるようになる。
ただ、天二だけは、そのショーのようなスタイルに反発し、海外で一人、奇術の腕を磨き続ける。

天二も海外から帰国し、再び、日本に集結した一門。しかし、天一には老いが見られ、一門の跡継ぎ問題が勃発する。海外仕込みで奇術の腕はもはや右に出る者無しとなった天二と、妙齢を迎えながらも未だその魅力に衰えは無い天勝。 天勝は、マネージャーを惑わし、天二を追放。新たな天勝一門として活動を始める。 マネージャーのアイディアで、サロメをモチーフにした舞台をしたり、よりショーの要素が高い公演をするようになる。

と、そんな奇術師一門の物語が進行している中で、もう一つお話が。
場所は和歌山。明治維新に金沢彌右衛門が寺社奉行を辞めて呉服問屋を起こす。 四代目の孝は、乳母が甘やかせ過ぎたのか、商売の手伝いなど全くせずに、日々、悪友を引き連れて、店の売り上げで遊びたい放題。 代々、続く金沢家を守らんと、母が必死に皆を律しながら商売に精を出す。
そんな孝、田舎のある女給に一目惚れ。お家柄が違うので、厳しい母に猛反対を受けると思いきや、こんな放蕩息子の下にお家を守る覚悟をもって嫁いでくれるなら結婚を喜んでどころか、頭を下げてお願いするという母の許可を得て、二人は無事に夫婦となる。
妻の妹はこれまで姉の給金で女学院に通っていたが、姉の結婚により、学費も含めて金沢家の援助を受けて、立派な学歴を得ることになる。さらに、名家との縁談まで進めてもらうものの、うまくいかずに出戻りとなってしまう。金沢家に雇われるが、そこで丁稚と想いを寄せ合うこととなる。
孝は相変わらず遊び放題。妻は、母と共に、金沢家を守るために慣れぬ商売に精を出す。お家などはこれからの時代には関係ないと主張する孝と、学も身分も無い自分を招き入れてくれた金沢家に忠義を尽くす妻の間でいつの日か亀裂が走るようになる。

孝は、遊びに大阪まで出向いた時、大阪で名高い奇術師の路上での公演を観て、奇術に魅せられる。
これまで、ろくに努力ということをしてこなかった孝だが、奇術に関しては、必死に練習をして、自らも奇術師になりたいという想いまで持つようになる。
孝は、この和歌山でも奇術を広めようと、アマチュアの奇術同好会を結成しようとし、和歌山で奇術に詳しいという大工を訪ねる。
その大工は、今や知らぬ者のいないくらいの天勝の奇術道具を作る職人だった。

孝は天勝の公演を観て、さらに奇術への想いを高めていく。そんな孝の懸命な姿に、妻は全面的な応援をする気を持つものの、お家を守るということへの執着からも抜け出せないでいる。

時代は戦争へと突入する。
天勝一門の公演は不況に陥り、マネージャーも気が触れてしまい、多額の借金を残して姿を消す。
金沢家では丁稚や手代が戦地に向かい、破綻同然の状態となる。
妻の妹が想いを寄せていた丁稚はそのまま、帰還することは無く、妹も満州へと出向し、残された妻と母が金沢家を守るために必死に奔走する。
孝は肺に病気を患っていたために戦地には向かわず、相変わらず奇術に傾倒する日々を過ごす。やがて、天耕という名を語り、天勝の下に弟子入りをしようとする。
金銭的に窮地に陥っていた天勝は、彼の一門入りを認め、天耕はなけなしの金沢家の金を持ち出そうとする。
妻は天勝と対面し、自らの真の想いを告げる。夫である孝、天耕の道を何も知らない自分が邪魔をすることは間違っていると思う。でも、天耕は、決して才能があるわけでなく、奇術の道で天下を取ることは出来ない。だから、一門に夫を送り出すことは出来ないと。

孝は、妻の行動を咎めるが、妻はそれに一切反することなく、自分がした行為を悔やみ嘆くばかりであり、逆に孝は何も言えなくなる。
孝の援助を受けられなくなった天勝は、引退の最後の公演を行い、戦火に巻き込まれて命を絶つ。
一つの時代が終わろうとしていた。

戦火は激しくなり、和歌山城も燃え、金沢家も瓦礫の山へと消えた。
終戦を迎え、孝の悪友だけは、戦地から無事に帰還した。
妻の妹も満州から帰還。
全てが無くなった。
でも、こんな時代だからこそ、人々を驚かせ楽しませることが必要。
天勝一門は、新たな天勝二代目を立てて、再び世に現れる。
孝は、何も無くなったなら、また作ればいいという考えを捨てず、奇術に関する書物を出版することで、その新、天勝一門を援助し、世に奇術を広めようと動き出す・・・

その時代に生きる大衆の力強さですかね。
お家を自らを厳しく律して守り抜く母。
夫を支えながら、その母の想いにも寄り添う妻。
姉が生きる上で捨てざるを得なかったところをカバーするように姉に寄り添う妹。
お家のために忠義を尽くす手代や丁稚。
孝の幸せだけを願い続ける乳母。
どんな時でも共に楽しい時間を作りだそうとする悪友。
そんな者たちの、自分が生まれてきたこの時代に成しえられることを全うするために、必死に生きている姿が浮かび上がります。
それが孝を支え、孝が生まれて成しえるべきだったことなのだろう、娯楽を守り、これからの時代にさらに発展させていくことに繋がっていったようです。
このように、後に孝は、一人の奇術師、天耕として、奇術の発展に寄与したことを称えられるようですが、その背景には、孝を支え続けた、多くの人たちがいたことが分かります。それは、恐らくは大衆の想いにも通じるものであるように感じます。

一方、奇術師一門は、大衆に娯楽を与えるプロの厳しい世界として描かれているように思います。
奇術一座を守り抜くために、大衆に迎合する芸を高め、一座の力を増していく天一。彼が本当にしたかった奇術は、また違ったものであったように感じます。お家と同じように、一座を守るために自らを律したところがあるような感じです。
女が娯楽を与えることにおいて、奇術という新しい世界の突破口を開いた愛人。その手段は女を使ったとしても、そこから道が開けたように思います。彼女のような人がいたから、この一門には、後に活躍する若い女奇術師もいたのでしょう。
海外に負けぬ技術だけに執着し、その芸を高めることに全ての時間を費やした天二。いいものであれば、それは認められる。実は、これで上手くいけばいいのでしょうが、たいがいの場合、そうとは限りませんね。そこがビジネスや商売の難しさなのでしょうが。こういう人も必要でしょうが、その高めた技術に価値をつけ、金に変えることが出来る人が必要です。この作品でいう、マネージャーがそれでしょう。
人生、自分自身の全てを捧げることになった天勝。彼女の心の中の想いはどのようなものだったのでしょうか。自らの娯楽は打ち消し、大衆に喜び、楽しさを与える礎になることへの誇りを感じていたのか。それとも、そこには、自らの悲しみや大衆への恨みがこもっていたのか。この秘めたる彼女の想いが、妖艶な姿を浮き上がらせたのかもしれません。

そんなプロの世界に通じながらも、大衆側にもいるのが、大工や孝に奇術を教える路上の奇術師かな。
娯楽を与えるプロ、娯楽を求める大衆が存在して、需要と供給の関係が存在するので、それで問題ないようにも思えますが、やはり、それだけでは芸の発展には結びつかないようにも思います。
大衆が芸を応援したい、ずっと続けて欲しいという想いを繋げていく役割を担っているような感じがします。

結局は、奇術師一門は、色々な人生の背景や考えを持つ人たちがいるが、みんな奇術が好き。多くの人に楽しんでもらいたいと思っている。
その役に立とうと道具やら宣伝で頑張ろうとする人がいる。
奇術が好きになった孝。孝は、人生かけて奇術を発展させて、みんなを楽しませたいと思っている。
そんな孝にみんな困ったりするものの、一途な孝のことが好き。
直接、間接はあるものの、この作品においては、みんな奇術が好きです。
だから、きっと奇術は未来に向けて発展するのだと思います。
奇術師が役者さん方、大工がスタッフの方々、マネージャーが劇場プロデューサー、大衆が観客、戦争はおかしな知事みたいな人の締め付け・・・なんて考えると、演劇の世界にも成り立つでしょうか。
天耕みたいな人、身近におるなあと思うと、ちょっと面白かったりしますね。

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