五反田の夜【五反田団】140804
2014年08月04日 アトリエ劇研 (110分)
噂には聞いていましたが、衝撃的な劇団、作品でした。
まあ、役者さん方のキャラ作りや、掛け合いが見事。
震災後の社会やボランティアのあり方、果ては繰り返される支配する者と支配される者の関係など、笑いを連発させて描くことで、皮肉さを際立たせたような面白い作品だと思います。
主婦、西田は五反田でボランティア団体、絆の会の主宰を務める。
旦那は暴力的だし、望月とやらいう女性と不倫を繰り返している。先日も、そんな不倫現場を目撃し、望月の前歯をへし折ってやったばかり。
絆の会のメンバーは3人。
少々、自分本位な行動が目立つ後藤という女性に、誰にでも従順な気の弱そうな中川という女性。あとは、色々と気を回しているようだが全く目立たない大山という男。
今は、被災地、福島に千羽鶴を送るということで、みんなで鶴を折っている。正確には、西田に折らされているといったところか。
この西田、とにかく横暴で自分が常に中心じゃないと気が済まない。口も立つので、自分のことは棚にあげた正論を盛り込んだ言葉を連ね、半ば洗脳するかのようにメンバーたちを掌握する。
いわば、独裁者、新興宗教のカリスマ教祖といった感じか。
西田は、肉祭りという企画に参加して、ブースを借りることになったとみんなに報告する。
肉屋が多い五反田で、肉業界を発展させるための祭りだ。
そのブースで、西田の福島にいる知り合いから、腐るほど送られてくるままどおるを売ろうというのだ。個別包装なので1個400円。破格の高さだが、被災地を応援する気持ち代も含まれている。ブース代は5万円。それ以上の売り上げは寄付でもするのかと思いきや、五反田の有名肉屋でご馳走をいただくことになっている。
普段、ボランティア活動で身も心も疲れが溜まる自分たちにわずかな癒しを。
西田は、一事が万事、こうして自分の行動を正当化し、周りにもそれを納得させてしまうみたいだ。
西田ら絆の会一行は、宮部不動産を訪ねる。
ここの社長が肉祭りのブース管理をしているので、その契約をするために。
店にいたのは、頼りなさそうな後藤という男。絆の会の後藤の弟である。
話が通じず、西田は娘を連れて来させる。娘の宮部は同級生で久しぶりの再会。宮部は背の高い美人さんなので、学生時代のあだ名がデカチンだったみたいで、そんな名前を馴れ馴れしく大声で叫ぶ西田。もしかしたら、ブタマンと西田のあだ名を戸惑いながらも返す宮部。
社長は外出中とかいうことで、西田らは会長を探しに不動産屋を後にする。
残された宮部と後藤。
後藤は、不景気の煽りを受けて、今日で退職する。
後藤にごめんね、元気に頑張ってと声を掛け、平然とお別れをしようとする宮部。一方、後藤は思い出がどうやらグチグチ言ったり、好きな映画は何かと唐突に聞いたり、明日、映画に行こうかなあとつぶやいたり。
要は後藤は宮部が好きなのだ。
翌日、本当に映画を観に行く二人。
盛り上がらない会話。手をつなぐことも、自分からは出来ない後藤は、必死に何とか宮部に触れたいとそのタイミングを計っている。気を利かして宮部から手をたずさえられても、そのチャンスをものに出来ない。結局、ハイタッチをしただけで、逃げるようにその場を去る後藤。この醜態。もう二度と会えないと泣きながら。
そんな後藤の弟と宮部がもどかしいことをしている間に、絆の会ではクーデターが勃発していた。
みんなの西田への不満は募る一方。
西田を社長と会わせないようにして、その間に違うリーダーの名前で肉祭りに申し込む。
首謀者は後藤。手はずも整っている。大山は既にしもべのように動くようになっているし、中川はその気の弱い性格から一番の被害者であり、救いを求めて後藤に協力する。
前の職場で一緒だった望月は、パートのシフトを勝手に決める横暴な奴を社員にチクって追い出したという伝説を持つ女性だが、この計画に協力をしてくれる。前歯を無くすという怪我をしているにも関わらず。
計画は上手くはこぶ。
西田は、後藤がリーダーとして肉祭りに申し込みをした事実を後日、宮部から知り、険悪な表情剥き出しで、その怒りを表す。
そういえば、ここのところ、一切、携帯が通じず、誰とも会っていない。それも、自分のせいではなく、みんなのボランティア精神が薄れてきたと思っていたみたいだが。
肉祭りの当日。
ブース並べられたものは、後藤の作った市販のぬいぐるみの背中にがんばろう日本と書かれた生地を縫い付けたもの。
6時間、誰一人、ブースを訪ねて来ない。
メンバーたち、姉の手伝いに来た後藤の弟は、打開策を考える。
見た目はぬいぐるみ。だから、ボランティアだと分かってもらえていないのでは。
だったら、もっとデカデカとがんばろう日本をアピールする。そうすれば、買った人も寄付をしたと自己満足心を得られる。私たちは金が儲かる。被災地の人も喜ぶ。WIN WIN WINの成立。
いや、それだとぬいぐるみの可愛らしさが失われてしまう。
だったら、もうお金をくださいとしてしまえばいいのではないのか。
そんな会話に、後藤はイラ立ちを隠せない。好き勝手言う、弟にキレはするものの、ブース代を立て替えてもらっている上に、これまでも多額の借金があるらしい。
私たちはこれまで一緒に頑張ってきた仲間たち。あんたは、昨日今日仲間入りしたんだから、文句を言われる筋合いは無いみたいな都合のいいことを言って応戦するが、分は確実に弟の方にある。
無理矢理、のどが渇いたから水を買ってこいと命令して、弟を追いやる。
そんな中、宮部がブースを訪ねてくる。弟に会いに来たのかと思いきや、忘れ物のマグカップを渡して、すぐに立ち去る。
何でも、肉飛ばし大会を観に行くのだとか。
空気が悪いこの場から逃げるように大山も肉飛ばし大会を観に行く。
その間、中川は、後藤にこのままではダメだから何とかしようと提案するが、逆ギレされる。
これでは、西田と同じだ。
そんな言葉を口にした中川に後藤は、自分はあの人とは違うことをアピールしまくる。
儲かったお金で自分はチアリーディングをするつもり。被災地の人たちを元気づけるのだと。
自分たちの私利私欲のためにやっているのではなく、私のボランティア精神は本物だと。
そんなこと出来るわけないし、するつもりもないという中川に対し、後藤はテイク アクションの一言。
中川は、後藤から行動を起こせみたいな理論で論破されてしまう。
しばらくして、大山が戻ってくる。
西田が肉飛ばし大会で優勝したのだとか。
そして、その大会中に、ボランティアを名乗って、利益をあげようとしている団体があるというクレームがあったのだとか。
そんなことを言われた大山は悔しくて、責任者を会長のところへ向かわせると言い放って、戻って来たみたい。
それに対して、後藤は、大山に責任者を押し付ける。
中川のテイク アクションはどうなったのだという非難も、大山に責任者を任せるというアクションだと悪態をつく。
中川は飛び出して、西田を探しに行く。
西田はすさんだ姿で、会場を彷徨っていた。
中川を見て、憎しみの目を向けるものの、中川のやっぱり西田さんじゃないとダメでしたなんて言葉に気を許し始める。
そうなの。私と後藤、どちらが好き。私が一番、かわ・・・
無理矢理、かわいいと中川に言わせて、二人は後藤の下に向かう。
にらみ合う西田と後藤。
一触即発の中、後藤が口火を切る。
ようやく戻って来てくれたんですねえ。探しましたよ。西田さんがいないからもう大変で・・・
その甘い言葉に西田も全てを水に流すことにしたのか、二人は和解。
そんな姿に中川はキレる。
こんな意味の無いことをいい大人が何でしているのか。5万円のブース代を寄付すれば良かったじゃないか。鶴を折ってる間にバイトしてその金を送金すれば良かったじゃないか。私たちがしていることは、肉屋を喜ばしているだけだろうと。
西田は、その言葉を聞きながらも、手にした肉飛ばし大会の優勝賞品、但馬牛肉をみんなで食べようと言い出す。
食べる人手を挙げて。その言葉に、その場にいる人はみんな手を挙げる。もちろん、中川も。
早速、肉パーティーの準備をしようとするみんな。
でも、まだ祭りが終わるまで時間があるので、ブースに誰かいないといけない。
そこに後藤の弟が水を買って戻って来る。
しばらく、ブースを見といて。
何も知らない、弟は了承して、みんなはパーティーへと向かう。
一人取り残された弟。
運の悪い男だ。
でも、そこに宮部が現れる。
この前のこともあって、ぎこちない二人。
偶然ですねと挨拶する弟に、宮部は答える。
偶然なんかじゃないです。
二人は・・・
ちょっと時系列はおかしくなっているかもしれませんが、だいたいこんな話。
まあ、会話の掛け合いというか、何人かで自分の思っていることを好き勝手に喋べるシーンなどは、野良犬がキャンキャン吠えているような姿をイメージするぐらいに、耐えがたいものでした。
相手の想いを受け止めて、自分の想いが発せられないなら、人は人じゃなくなりますね。
西田があまりにも悪役として描かれているので、薄れてしまいますが、結局、正論を防具にして、相手に返す言葉を与えないくらいのおかしな武器で相手と向き合っている人は多いように感じます。
後藤は独裁政権を潰し、新たに革命で得たリーダーがまた独裁政権を生み出したみたいな分かりやすい形ですが、後藤の弟や中川とかだって、正論や自分の思っていることばかりに執着して、相手と接するので、相手も困ってしまうようなところがあるように見えます。
西田や後藤のように、攻撃的な形は分かりやすいですが、不器用や気弱であることから、生み出されるそんなズレも本当はコミュニケーションをおかしくしているのかもしれません。
結局、誰がためのボランティアだったのか。
スタートは、被災者に何かをしてあげたいということだったのは間違いないとは思いますが、そこから己の欲を満たすようになったなら、まだなんとなく人間の悪い本性が浮き出てきて分かるのですが、よく分からない、この作品では肉屋を助けるみたいなおかしな方向に行ってしまうこともあるようです。
私は、こういう誘導をかけている人がいるような気がして、何か嫌な気持ちになりました。元々の人の善意を、自分たちの利益へと上手く誘導できる人が隠れているように思うのです。
肉祭りなんてものはまさにそれで、ボランティアをしているという大義を持っているので、その人たちに罪悪感を持たせることなく、利益がある組織にたんまり入り込む。この話では肉屋ですね。
本当の悪は、西田でも後藤でもなく、姿をずっと隠した肉屋や、それを取り仕切る不動産屋の社長のような気がします。
被災者に本当に渡してあげたいものは、きっと後藤の弟と宮部のような、ぎこちないけど、自然に沸いてくる想い合い。それが本当の絆になるようなことをラストに描いているように思います。
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