使用人【南河内万歳一座】140801
2014年08月01日 一心寺シアター倶楽 (100分)
前回、拝見したあたりから、ようやく、この劇団の観劇にも慣れてきて、楽しめるようになりました。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/10/post-13.html)
役者さんが言葉だけでなく、自身の肉体をも使って、絶妙なリズムで展開する独特さがありますからね。
最初の頃は、訳の分からない話なのに、何でみんな好きなのかなあなんて思っていましたが、今ならなるほどとうなづけます。
今回は、ちょっとミュージカル要素まで入り込んで、より楽しくなっていました。
劇団所属の面白い役者さん、多彩な客演の方々のキレキレの動きで迫力ある舞台を拝見できました。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は火曜日まで>
自虐の象徴かのようなサウナに入る男たち。水風呂で解放されることを求めて。みんな、ここでは裸だが、普段は誰かにこき使われる使用人だ。
魂の使用人になりたくないなんて言いながら、もう限界がきてるし、水風呂を浴びようとすると、一人の男が水風呂は怖いから入らないと言い出す。急激な温度変化に体の循環器が耐えられないのではないかという恐れを抱いているみたい。だったら、キンキンに冷えたビールはどうなるのかと、無理矢理でも水風呂に入れようとする男たちから、水風呂嫌いの男は逃げ出す。
女たちがなぜか登場して、船で遭難でもしたのか、座礁したタイタニックやら氷の海なんて言葉を発するが、これは、これから始まる物語の予告的な冒頭のシーンになっているみたい。
そう、どうやら、これから観るこの話は撮影された映画みたいなもののようである。
ここはどうも船の中らしい。
寝台ベッドが並ぶ部屋には、劇団の人たちがいる。
先ほどのサウナから逃げ出した男も。
この男、左足だけ水虫でめちゃくちゃに臭い。わざと左足だけ水虫が治らないように育てているようで、水虫の使用人のようになっている。
そこに、お嬢様が婆やと一緒に逃げ込んで来る。
お嬢様は、父が失踪してしまい、嫌味ったらしい夫婦のピーピーうるさい娘の使用人になるか、どこかの金持ちのところに嫁ぐかを迫られているみたい。
水虫の匂いは、父との思い出の香りらしく、みんなが鼻を摘まんでしかめっ面をする中、お嬢様だけは、今はどこにいるのか分からない父を懐かしみ、恍惚の表情を浮かべる。
さらに、お嬢様を追って、夫婦とその娘が追いかけてくる。お嬢様としては、頼れる人は自分の使用人である婆やぐらいしかいないのだが、婆やも実は裏切って夫婦側の使用人になり下がってしまっていたらしく、お嬢様は孤立する。
ところが、お嬢様が歌を歌うと、その美しい声に劇団の座長は惚れ込み、劇団が引き受けることになる。
ただ、一つ問題があった。劇団員の人たちは、この船の行く先も知らずに無賃乗船をしており、そろそろバレるので、お嬢様も一緒に船から飛び降りなくてはいけない。
この劇団員たちも、劇団を何とか維持しようと必死になっている劇団の使用人なのだ。
これを知った夫婦たちは、お嬢様と劇団員たちを捕まえようと追いかける。
台風が迫ってきていて、船が危ないのではと船長を探しに来た女性二人の騒ぎに乗じて、お嬢様と劇団員たちは、この場を逃げ出す。
なぜか、船の内部を知り尽くしている水虫の男に連れられて、倉庫のようなところに連れて来られたお嬢様と劇団員たち。
船は函館に向かっているらしい。元々、無計画なので、このまま、ここに隠れて凌ぐことにする。
水虫の男は、この船で何かを探しているみたいだ。
家は函館から少し先の岬。
子供がいるが、久しく会っていない。多分、失踪したのだと思われているはずで、今さら会いにも行けないようなことを言うが、お嬢様は自分と同じ立場の子供のことを想って、帰るべきだと提言する。
そこに、あの夫婦と娘が、船員を連れてやって来る。見つかってしまったようだ。
船員は、水虫の男を見て、懐かしいという言葉を投げかける。そして、敬礼。
男は、この船の元船長だったらしい。
かつて、この船は、海難事故にあった。台風で荒れた海から船を守るためには、浅瀬に座礁させて、出来る限り近場の浜に自力で乗客に泳いでもらうしかなかった。この作戦は、実行された。座礁後、乗客は次々に海に放り込まれる。船長は最後まで船に残った。でも、その後、なぜか船は動き出して、港に着いてしまったのだとか。世間の目は乗客を捨てて、自分だけ助かった船長。裁判でも有罪。これが家に帰れなかった理由だ。船長曰く、あの時、魂の声が語りかけてきて、自分にそうするように言ったのだとか。
あの時と同じように台風はひどくなる。
今の船長は、まだ若造で完全にビビってしまっている。そして、彼の左足も水虫で臭い。
あの長靴を履いたから。自分の命を投げ打って乗客を守り、亡くなった二代前の船長の形見。
この長靴を男は探していたのだ。その船長は自分の父であるから。
長靴は見当たらなくとも、船長としての精神は水虫という形で受け継がれているようだ。
船には、あの時と同じように危険が迫っている。この状況に対処できるのは男だけ。
同じことは繰り返すわけにはいかない。また、魂の声が聞こえるのではないか。魂の使用人になってしまうのでは。
しかし、今回は、自分の能力を信じろと励ます劇団員たちの声や、そんな劇団に自分の歌の力を見出され、自分を信じて、誇りを持てるようになったお嬢様の歌声が男の頭の中には響き、・・・
といった感じの話。これを恐らく、映画化した作品として見せる二重構造になっているのだと思います。
かなり、強引な展開ではありますが、なるほどと見事に話は収束しています。
使用人ねえ。作品中に色々な使用人という言葉が出てきますが、こき使われるというよりかは、それに囚われるといった意味合いでしょうかね。
働く上で、会社や誰かにお仕えして使用人となるのは、雇用という契約ですからいいのでしょうが、単に生きる上で何かの使用人になってしまうのは困ります。
自分の人生ですから、誰にお仕えするわけでもなく、そのまま自分で進めばいいのでしょうが、自信を失ったり、孤立したりする中で、いつしか何かの使用人になり下がってしまうようなことはあるかもしれません。
その方が楽かもしれませんし。指示で動けばいいのですから。
自分で決めて、自分で行動する。自分に自信を持って、誇りを持って。それが結果として誤りだったとしても、悔いを残さぬように。
かつての海難事故で、自分自身として行動を取れなかった男が、今度こそ、自分の判断、想いの下で船を動かす。その先は、どのような結果が待ち構えていようとも、自分の自信、誇りを取り戻し、そして家族や周囲からの信頼を取り戻すことに繋がるように感じます。
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