『坊っちゃん』【大阪現代舞台芸術協会プロデュース】140705
2014年07月05日 アイホール (65分+休憩10分+60分)
文豪、夏目漱石の坊っちゃんを二人の演出家によって創られた作品として連続上演する企画。
どうしてこんなに違うのかと驚くぐらいに異なる作品であったが、共通して見えてくるような坊っちゃん、漱石の一面もある。
漱石がなぜ、坊っちゃんという作品を創り上げたのかに想いを馳せるような、面白い公演であった。
<以下、作品の内容を記したところがあるので、一応ネタバレ注意。まあ、読んでも意味が分からないと思うので、白字にはしていません。公演は日曜日まで>
・「坊っちゃん」を知らない「現代演劇人」 : 泉寛介(baghdad cafe')
坊っちゃんである現代演劇人が、自らのことを語る。その内容は小説の坊っちゃんをほとんどそのままなぞっているみたい。
その語りの内容を、現代役者が各々のシーンとして演じる。現代作家は、その語る演劇人をビデオカメラでドキュメンタリータッチで撮影する。
坊っちゃんは、現代風の若者で、少々、粗暴で口が悪い。テンションが上がれば、ラップや踊りで自らのことを主張し始め、役者の域にまで入り込んで、自分自身を表現する。
カメラはそんな姿も冷静に押さえ続ける。
両親にあまりかまってもらえなかった坊っちゃん。両親と死別後は、兄から遺産を一部もらって、兄とも離縁する。
四国へ数学教師として赴任するが、嫌がらせを受けたり、陰湿な教頭と敵対したりと上手くいかない。幼き頃から、無鉄砲な性格が災いしているのか、何事も上手くいかないと思っている。
自分の存在価値。社会において必要とされているのか。自分を愛してくれる人はいるのか。
そんな鬱積する感情が限界に達し、爆発しそうな勢いの坊っちゃん像のようになっている。ラップやシャウトするような語りがそんなことを感じさせる。
同時に、唯一、自分のことに想いを寄せてくれる下女の清の存在は、自分の揺らぐ存在に確かなものを与えてくれる大切な人として憧憬のように描かれる。
・「漱石は笑っている」 : くるみざわしん(光の領地)
BBCの日本の汚染物質垂れ流し報道により、ほとんどの団員が来日しなかったサーカス団の猛獣使いが語る坊っちゃん。
坊っちゃんはイギリス留学時代の夏目漱石自身を描いた作品であるという仮説を基に、その検証をあるシーンを題材にして行う。
親譲りの無鉄砲とか言いながら、実のところは漱石の親は無鉄砲な一面は全く無い。親に大切にされなかった自分と親が繋がっていることを信じたいがために、自らに言い聞かせるように設定したこと。
そんな孤独や虚勢が、坊っちゃんという日本の獣を生み出す。
西洋の圧迫を受け始めた明治維新後に漱石によって描かれた坊っちゃん。その後は、軍国主義へと世は移行し、日本は大きなものを失った。
3.11後、近代科学の圧迫を受けて破滅へ向おうとしているかのような今の日本。
自分とは何なのか。1話目のような自分自身に鬱積する想いを代弁するかのように生まれた坊っちゃん。同じように、日本の存在意義、世界の中での日本の必然性が明確に分からなくなってしまっているような今の日本で、その不安な心理が育って獣が生み出されたといったことだろうか。
生まれた獣、坊っちゃんは自分の中で葛藤する。
ずっと自分のことを大切にしてくれた下女の清に想いを寄せ、純粋に生きようとする坊っちゃん。その裏には、赤シャツのように、新たなマドンナと恋仲に落ちようという考えを持つ人格が現れる。
自分の中での戦いは、坊っちゃんは清と決別して、赤シャツが勝利するのだが、これが、これまでの義理人情みたいな日本の良さを捨て、新しいもの、近代科学のようなものに傾倒する姿を警鐘しているのだろうか。
色々なものを詰め込んだ坊っちゃんは、最後にカエルのように腹が膨れ、それが破裂して、腹から汚いものが流れ出る。傷口を隠すものの、その汚染物質は次々に流れ出し、最終的に坊っちゃんの人格は切り離され、後には赤シャツが残る。
だいぶ切り口が異なる坊っちゃん。
泉作品は演出によって現代風にアレンジした坊っちゃんだが、くるみざわ作品はもはや坊っちゃんを基盤にした別作品と言っていいくらい。
ただ、共通して感じることは、揺らぐ自分の存在、自分の生き方に鬱積する不穏なものを坊っちゃんを通じて、昇華させようとしたみたいな漱石の姿が浮き上がる。
清はそんな孤独で不安な中にいる自分にも、想いを寄せてくれる、また、自分自身も想いを寄せることが出来る大切な存在があることを示しているように感じる。
くるみざわ作品は、自分という言葉を日本に置き換えたような感じだ。清は、これまで日本を想い続けてくれた先人たちの象徴のようなイメージか。
破天荒で勇ましい強さを持つが、純粋で優しさを持つことから、上手くいかないことに悩む弱さもある男。
私のイメージする坊っちゃん。
泉作品ではその強さを、くるみざわ作品ではその弱いところが誇張されているような気がする。
二作品通じて、切り分けられた坊ちゃんの人格を共に見せられたような感じだ。しかも、坊ちゃんは漱石自身なんて設定でもあるから、これは夏目漱石を頑張って舞台に蘇らせようとした試みなのかもしれない。
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