冬の旅【松嵜佑一と藤田かもめの二人企画】140727
2014年07月27日 cafeslow Osaka (95分)
ある夫婦が、過去の旅行でのエピソードと共に自分たちの会話をたどる旅。
そこには、スレ違ったりしながらも、互いに温め合おうとした二人の姿が浮き上がる。
スレ違いの部分でクスリと笑わせながらも、そんな夫婦の優しい触れ合いを見せてホロリと泣かせるような面白い作りになっている作品でした。
名脇役として売れている女優の妻と、冴えない男優の夫。
妻がマクベス夫人を演じた舞台で、急にセリフが出てこなくなり、舞台上で立ち尽くす。ショックを受けている妻を夫は海外旅行へと誘う。
その旅行中にした二人の会話を、今の二人がたどりながら、追想するといった形で話は展開する。
二人がした会話は多岐に渡る。
機内では、妻の高校時代のテニス部の合宿の話。もう一人の自分がいるといったことを言う友人がいたらしい。セリフが詰まることなく出て、普通に女優を続けている自分。セリフが出てこず、立ち尽くす自分。これまでだって、それは半分の確率で起こり得たことであり、これまでの前者の自分はそんな後者の自分がいることに気付かなかった。いつ、入れ替わるのかは分からない。そんな話が飛行機の墜落の確率にまで及んだりする。
妻は、夫に自分を軽蔑していると言い出す。もちろん、そんなことは無いと言い返すが、私がそう思ってしまったなら、それはもう軽蔑していることになるのだみたいな詭弁を返されタジタジ。自分への憐れみがそんなことを思わせたのだろうか。
ホテルでは、疲れた妻を部屋に寝かし、夫は買い物に。
そこで見た給水塔が素晴らしかったらしい、
そこからジプシーの話になんかなったみたい。ジプシーが旅を続ける理由は。周囲の環境が徐々に劣化していくからとか現実的な答えしか浮かばない夫に対して、妻は明日が来ないようにするため。歴史を持たないジプシー。今を生きる。過去の失敗や、未来への不安が無いジプシーへの憧れだろうか。妻はまだ、舞台でのミス、これから先の舞台への不安に取り憑かれている様子。
妻は、夫がたまたま使ったみんなという言葉に反応する。
学校の先生が使う、みんなどう思うと聞いて、それがみんなの想いみたいになってしまう。ごまかしや偽善のようだと。
電球を交換するために、フロントで身振り手振りで何とか状況を把握させた夫。一応は役者だから。
二人は出掛ける。
ヒソヒソ話で会話すれば、現地の言葉で話していると思われ、中国人に間違われて声をかけられることも無い。そんな夫の遊びに付き合う妻。
海辺では、夫が昔に観た映画の話をする。
化石を盗んだ子供。子供は盗んでいないと言い張り、親はそれを信じる。
そんな子供は数年後、事故で亡くなってしまう。悲しみに暮れる両親の下に、一通の手紙が届く。息子のガールフレンドから。ガールフレンドは息子が亡くなったことを知らなかったらしい。それでも、母はそのガールフレンドと会いたかったようで、ガールフレンドと、その男友達を家に招く。ラストシーンは、バスに乗って帰る二人の姿が映し出される。ガールフレンドの隣にいる男はもしかしたら息子だったのかも知れず、母や息子の視点でバスを捉えた素晴らしい風景だったのだとか。
夫は、人生はなるようにしかならないよみたいなことを伝えたかったのかも知れないが、妻は化石はどうなったのやらどうでもいいところばかりに気を惹かれ、真意が伝わらない。もっとも、夫も何を言いたいのかは、自分でもよく分かっていないみたいだが。
妻は、子供の嘘の話で思い出したのか、自分も嘘をついていることを明かす。初めてこの町に来たといっていたが、昔、付き合っていた男と来たことがあったらしい。その男は、夫も知る有名な監督さん。
初めて来たいう形で、この町での昔の男との数々の思い出を、今の夫との思い出で上書きしようとしていたのだろうか。
レストラン。
メニューを見ても何を書いているのか分からない。適当に頼んだら、お茶らしきものが出てきたので、それを見よう見真似で飲む。
妻は夫に、酷いことを言われたことがあると言い出す。
妻の母の声の話。
祈りの話。
原爆に2回被災した不運な人を笑いの感覚で放映するイギリスの放送局。笑えはしないが、怒りも感じない。絶対にあり得ないことは無いという事実を突きつけられる。
温泉みたいなところへ行くバスの中。
団体客が乗っているので、みんなと降りればいいと高を括る夫。運転手に神経質に降りる場所を聞く妻。
結局、目的地で降りれたが、団体客は一緒に降りず、危ないところだった。
海外で、絶対に大丈夫という考えは捨てなくてはいけない。
こバスに乗る前だって、まさかの妻の交通事故。
車線が日本と逆だったからか、不用意に歩道から車道に出た妻は車のサイドミラーに吹き飛ばされる。幸い、大きな荷物がクッションになって大事には至らなかった。こんな事故も半分の確率なのだろうか。
部屋で手を洗う妻。
何も考えずに、ただ、蛇口から出る水に身を任せるように。夫が声をかけても、妻からは言葉が出てこない。
マクベス夫人もそんな感じだったのではないかと妻はふと思う。
食後、ベンチで休息。
湖の景色を眺めながら、明日のことを語り合う・・・
書き留めていたメモを元に、会話を思い出してみましたが、いまひとつよく覚えておらず。
旅行中の過去の会話と、今が交錯するような感じですが、そこにはズレが感じられます。それは、あの当時に思っていたことを二人とも吸収して、今を迎えているからでしょうか。
旅行中の会話は、感情を入れない、いわゆる棒読み。
あの時の感情はあの時だけのものであり、今の感情をもってその言葉は語れないといったことだろうか。
二人は今の時を互いにとても大切に思っているように見えます。それは、二人が夫婦として、心からの会話を交わしながら、様々な難局を乗り越えてきたからであり、その原点のような過去の会話を旅するように追想した感じです。
作品名の冬の旅は、最初は何か乾いたイメージでしたが、観終えた頃には、互いに温め合いながら、冷えてしまった心を溶かしていくような心地よい温もりを感じさせます。
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