~夏空の光~【HPF高校演劇祭 堺西高校】140728
2014年07月28日 ウィングフィールド (75分)
一昨年拝見した高校。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/hpf120730-c730.html)
1、2年生しか今回はご出演されていないので、当時はまだいらっしゃらなかった方ばかりですね。
総じて感じることは、可愛らしいですね。自然と笑みが漏れる、微笑ましい姿でした。
色々なことを抱えた背景を持つ個性的な人物が登場する話です。
各々の役者さんが、その登場人物をしっかり見詰めて演じられていることがよく分かります。
純粋に一生懸命。
そんな皆さんの努力がまとまって、悲しみや切なさの中にも、心に抱いている人の想いを感じ取ることが出来る、心動かされる優しい作品に仕上がっているようでした。
舞台は見連川という駅。本数も少ない、田舎ののんびりした駅みたいだ。
甘い物には目が無い、何においても誠実で穏やかそうな駅長と、まだまだ頼りないけど、駅長を見習って一生懸命に仕事を覚えようとしている助手の女の子が、日々働いている。
ちょうど、電車を見送って、次の電車までの間に、もうすぐ来るお盆の準備をしようとしている。
何やら、荒井さんとかいうこの駅を管轄する鉄道局を仕切る人がキュウリやナスビなんかを用意してくれているみたいだ。
そこに、いつものように光という女性が仕事から戻って駅に遊びに来る。明るく元気で天真爛漫だが、仕事ではポカばかりのようで、口うるさい上司からかなり目をつけられている様子。もっとも、この上司、今は休職中だが奥さんが同じ職場だったらしく、それも自分よりも仕事が出来る人だったようで頭が上がらない。家では、いわゆるかかあ天下の状態みたいで、会社では偉そうにしたいのかもしれない。
光は、管理局という部署に勤める公務員で、管理官として仕事をしている。何の仕事かはよく分からないが、かぶると姿を消せる不思議な帽子と、なんでも切れるハサミを常に携帯している。外回りの仕事をしているが、今日も成果が得られなかったようで、そんな上司が待つ職場には戻りにくいのだろう。
ただ、駅に遊びに来るのは別の理由があって、どうやら、駅長に惚れているみたいだ。外回り先で駅長大好物のお饅頭を土産に持って帰って来たらしい。気を使わないで、仕事の方をもっと頑張ってと言う駅長だけど、もうすっかり恍惚の表情に。
そんな駅に、一人の女性が現れる。この辺りでは、見かけない透明感のある清楚な女性。
光は、こんな美人を駅長が見たら、惚れてしまうと焦って、女性に帽子をかぶせて姿を消させたりしてドタバタが繰り広げられる。
女性は、そんな意地悪をする光に臆することもなく、姿を消せるなんてマジシャンみたいだと喜んでいる。ずいぶんと純粋でいい子みたいだ。みんなを楽しませて喜ばせる素敵な仕事ですねという彼女の笑顔に対して、光は寂しげな表情を浮かべる。
女性は、光の優しい本質をしっかり見抜ける子みたいで、二人はいつの間にか友達になる。
女性は、なぜ自分がここにいるのか分からない状態らしい。気付いたらここにいたのだとか。
それを聞いて、光は表情を歪める。彼女を連れて来た管理官はひどい。しっかりと理解させて、ここに連れて来るべきじゃないのかと。
このあたりでだいたい30分ぐらい。
ここからの10分程度の会話で、作品の世界設定が明らかになる。
この駅は、いわゆるこの世とあの世の境にある駅。見連川の由来は未練に通じているらしく、文字どおり、未練がある人が、その未練を昇華して、あの世へと旅立つための場所。
光は管理官として、この世から亡くなった人の魂を連れて来る。帽子をかぶって姿を消し、ハサミで肉体から魂を切り離す。いわば、死神といったところか。
でも、光は心優し過ぎるところがあって、その人のことや、周りの人のことを考えるとどうしても魂を切り離すことが出来ないらしい。
たとえ、連れて来るにしても、その人にしっかり死を受け止めさせることも私たちの仕事じゃないのか。彼女の話を聞いて、怒りを覚えるのは光のそういった考えにあるようだ。
事実を知った女性は呆然としている。もうすぐ結婚をすることになっているのに、私は死んでしまったなんて。
そんな中、管理局本部から、緊急連絡が入る。
この駅に、亡くなっていないのに、来てしまった人がいる。
光は自分の仕事に使う死亡者リストを確認する。ここでは対象者、亡くなった人を星になるということにもかけてホシのリストと呼ばれているが、彼女の名前はそこに載っていない。
そんなことが起こり得るのだろうか。経験豊富な光の上司の奥さん曰く、強い想いがあれば、生きている人も魂だけがここに来てしまうこともあるのだとか。
どうにせよ、ここの存在を知った人を、元いたこの世に戻すことは出来ない。管理局本部の判断は、彼女をあの世へ送るということになる。
光は、駅長、助手たちと共に、何とか彼女をこの世へと戻すべく、立ち上がる。
光の上司は血眼になって女性を探し出そうとしている。
どうやら、女性は階段から転落して、命には別状無かったのに、ここに来てしまったらしい。
女性に帽子をかぶせて姿を消させてごまかしているが、執拗に居場所を教えろと問い詰めてくる。
しらを切り続ける駅長に、上司はカステラを渡して甘い物で釣ろうとする。
大の甘い物好きの駅長。これになびくかと思いきや、カステラは文明堂以外は認めないとビシっと拒絶。どうやら、安月給の上司ではいいカステラを用意できなかったらしい。
思うようにことが運ばない上司は、駅長を本部に連行する。
女性はそんな駅長の姿を見て、自分がここに来た理由を理解する。
甘い物が大好きだった父。あの日も、父が楽しみにしていた甘い物を私が食べてしまい、子供のようにムキになって説教された。
そして、その日、父は亡くなった。駅員であった父は、ホームに転落した子供を助け、自分はそのまま電車に轢かれてしまった。
その後、母は女手一つで私を立派に育ててくれて、来月、私は結婚する。大好きだった父にその報告をしたかった。その想いが私をここに連れて来たのだと。
光は、管理局にのりこんで、駅長を奪還すると言い出す。
交通手段は電車しかないが、その電車を使用するのに管理局の許可がいる。要は、この駅から出ること自体が出来ない。
でも、荒井さんなら。何でも出来るらしい荒井さんなら車を出してくれるはず。
光は、女性に必ず連れて戻るから待ってろと言い放ち、気合満々で駅を去る。
助手の女の子は一緒には行かない。と言うか、行けない。
彼女もまた、未練があってこの駅に降り立った人だから。
彼女の未練は、幼き頃、自分を助けてくれた駅員さんにお礼をいうこと。命を救ってくれた駅員さんに憧れて、自分も駅員になった。でも、その矢先、交通事故で死んでしまった。だから、命の恩人に合わす顔が無くて、未だお礼が言えていないのだとか。
仕事柄、この駅の駅員は自分のことを語ることは出来ない。ここに降り立った人のことを聞いてあげ、あの世へと向かわせてあげることが仕事だから。
でも、初めて自分のことを語ることが出来て助手の女の子は嬉しそう。それも、この女性に聞いてもらうことが出来たことが。
光が駅長を連れて戻ってくる。
駅長はぐったりしている。酷い拷問でも受けたのかと思いきや、光の恐ろしい車の運転でフラフラになっているだけらしい。
光はお父さんと駅長に呼びかける。
お母さんがいい人と再婚したこと、自分がとても優しい、偶然にもお父さんと同じ名前の人と来月結婚すること。
短い時間だが、二人だけの大切な時を過ごす。
あまり時間が無い。管理局はまだ女性を見つけ出し、あの世へ送ることを諦めていない。
直に上司がここに来るはずだ。
どうやって、女性をこの世に戻すか。
キュウリ。お盆の準備に用意していたキュウリの馬とナスビの牛がある。あの世から、この世へは速く走る馬で、帰りは名残惜しいのでゆっくりと馬であの世へ戻る。
女性はキュウリの馬に乗って、この世へと戻っていく。光にありがとうと、頑張ってねの言葉を残して。女の勘なのか、光の気持ちはお見通しだったみたいだ。
カンカンになってやって来る上司。車で後を追うと意気込むが、愛車、ビッグジャガーはエンジンがかからない。駅長はそっとスパナを隠し、ニヤリと笑う。そして、ナスビを渡して、これで後を追えばいいと。
なかなか気が利くと、機嫌が良くなり、今回の件はこれで罪を相殺してやると言って、駅を出発。まあ、追いつくことはまずあるまい。
管理局の人なのに、キュウリとナスビの意味の違いを理解していないなんてと、陰口を叩いていたら、上司の奥さんが登場。
帰国子女だから仕方ないのだと。ずいぶんと気取っていたが、本当にちょっと海外かぶれだったみたいだ。
ただ、奥さん、いつもと違って、ビシっと決めたスーツ姿。しかも、局長のワッペンまで付けている。どうやら、復職して、管理局を任されることになったのだとか。
早速、業務を始める。
まずは、駅長に今年のお盆は帰省することを許可する。理由は言うまでもない。
助手の女の子には、自分で判断してどうするかを決めるように指示。
そして、光。駅長奪還のために管理局でかなりの大立ち振る舞いをしたようで、部屋から車から破壊しまくったらしい。
元々、仕事も全然、成果を上げていない。さらに、今回は女性をこの世に戻す違法行為の幇助をした重大な罪。管理官を解雇する。
うなだれる光であったが、局長は、さらに通達を続ける。
その通達は、駅長から光へ読んで聞かせるように指示する。
管理局より、鉄道局へ異動。見習い駅員としての業務を命じる。
泣き笑いの表情を浮かべる光。駅長からこれからよろしくの声を掛けられ、手にしていた帽子をかぶって、がんばりますと決めポーズ。
その姿は、誰にも見えない。
といった感じの話。
うろ覚えのところがあって、話が前後しているかもしれません。ネットで脚本がダウンロードできるみたいなので、詳細はそちらを参照。
すごく切ない感が残るのは、駅に残された者たちの死は現実として消えないからでしょうかね。
父の死を受け止めて、残された自分の生を幸せに全うしていく。通常は、そういった形になっているのでしょうが、この作品は、むしろ逆の視点になっていて、娘の生を受け止めて、自分はこの死の世界で時を過ごさなくてはいけないといった感覚になります。未練を解消したのは、娘では無く、訪ねて来てくれた娘によって、父の未練が解消されたかのように感じました。でも、その結果、父が向かう先は、この世とあの世の間である駅に留まるか、あの世へ向かうかで、どうしても死に繋がってしまうわけです。
それだけに、死というものは本当にどうしようもなく重く悲しいことなのだという感覚が沸き上がります。
それでも、作品自体が温かい印象も受けるのは、この死の世界の住人たちが、各々、悲しみや悔いを抱えながらも、互いに想い合って、時を過ごしているからでしょうか。生前に触れることが出来た人の優しい想いは、死をもっても消えることなく、繋がりを生み出しているようです。
そのようなところから、今を生きている私たちが、するべきことが見えてくるような気がします。
死を受け止めているものの、悲しみや悔いを抱えて時を過ごしている人の想いを汲み取って、思いやりの心を持って触れ合っている駅の人たち。そこには、それが尊敬や恋愛感情へと発展していることもあるみたいです。
例えば、震災や戦争。そんなことで、大切な人を失って、その死と向き合って、自分の生を受け止めることが出来た人たち。でも、そんな人たちの心の中には、まだ悲しみや悔いがたくさん残っているはずです。その想いを汲み取って、そんな人たちと触れ合える。何かをしてあげられるかは分からない。でも、その悲しみが少しでも癒えるならば、傍にいたい、いて欲しいという気持ちも沸いてくる。
この駅はこの世とあの世の間という設定ですが、考えてみると、あまり生の世界であるこの世と人がするべきことは変わらないところもあるように思います。
ただ、どうしても違うところは、上記したように、そこには死という前提が大きく立ちはだかっているところです。だったら、まだ生きていて、どうにでも道が拡がる世界にいる私たちこそ、他者の悲しみに目を向けて、そんな想い合いを実行していかなくてはいけないように感じます。
もう一点。この作品はとても楽しく面白い印象も受ける作品です。作品名のとおり、拡がる空に何か切なさや不安を感じながらも、爽快な気持ちで頑張っていこうなんて気持ちになります。
これは、恐らく役者さん方が創り出していることだと思います。
大変失礼な書き方になりますが、あ~上手いなあといった感じの方はいません。どちらかと言うと、緊張でガチガチになられているなあといった印象でした。
でも、この個性的で、背景に様々なことを抱える登場人物と向き合って、自分なりの想いもこめた役作りをされている成果なのでしょう。その舞台上の姿に心を動かされる、力のこもった演技が見られたように思います。
光、橋本佳美さん。天真爛漫、元気いっぱい。そんな姿は、まっすぐな想いを心に秘めているからだと感じさせるキャラ。人の死や悲しみに繊細な優しい一面と、勢いに任せて無茶苦茶してしまう荒々しい一面の切り替えにもう少し強弱がつくと、この役の人と真摯に向き合っている優しい姿がより浮き上がるように感じます。
駅にやって来た女性、蒲地彩加さん。透き通った感がある女性。ちょっと天然っぽいフワフワした前半から、自分の生が揺らぐ中盤、父への想いを伝えられて凛とする後半。話の中で成長していく役なので難しいと思いますが、この女性の心をしっかりと汲み取った素敵な演技だと感じます。前半のフワフワした感が最後までやや引きずった感じになっているので、最後の全ての想いを伝えられて、しっかりと生を全うするという覚悟を抱く一人の強い女性像が浮かぶまでには至っていないところが少しマイナスかな。
上司の奥さん、山口詩絵莉さん。ちょっときつい女性を圧力感ある面白さをもって、少しコミカルな形にされている。登場人物の中では年配になるのか、旦那の立場を汲み取りながらも、みんなの想いを最善に向かえるように影ながら事を誘導する大人っぷりを所々で見せている。その最終がラストシーンに綺麗に結びついている。
光の上司、堀川仁さん。石原裕次郎のテーマソングにのせて登場。隙間隙間を細かなギャグで埋めるせわしいキャラ。かつ、嫌味ったらしいまさに役人。権力を盾に強がっている感じがすごく出ています。舞台で色々なことをしないといけない役なので、大変でしょうが、そのせいか、少しいっぱいいっぱいなところがあって、それが演じていることを意識させ過ぎてしまっているように感じる。自然に出来るようになれば、もっと面白く、キャラの嫌な魅力も倍増すると思います。
駅長の助手の女の子、井阪日向子さん。緊張してたかな。ただ、この方が一番、目を惹きました。色々なシーンで回し役の部分があり、絶妙な間合いでツッコミを入れているところが非常に上手く感じます。駅長さんへの敬意、感謝を匂わす前半の演技が、最後のエピソードで納得。しっかりと、この役の感情を掴まれているようでした。
駅長、野田昌宏さん。安定した実直な駅長さんでした。頼りなさや、いい加減さもあるこの役の基盤は、やはり誠実さでしょう。人に対して誠実であることは終始、感じさせています。そんな姿が、娘にもしっかり伝わって、彼女も人をしっかり想える女性に、この世にいなくとも育ったことが、死しても消えない人の想いを大いに感じさせます。弾けるところに不器用さが見られるのは、役作りかな。それとも、ご本人の性格か。
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