飛び人 ~とびびと~【HPF高校演劇祭 大谷高校】140729
2014年07月29日 メイシアター (65分)
昨年に引き続き、観劇
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/hpf-130728-4aad.html)
ここの魅力はどうなってるんでしょうかね。
話自体は、けっこう突拍子も無かったり、ご都合主義的なところがあったり、まとまりが無いように感じるところがあったりもするのですが、そんなマイナス要素は全部、舞台の輝きでかき消してしまい魅了されてしまいます。
話としては、ありがとうとごめんなさいを導き出す、人の想いに気付けた時に、人はその仲間たちと共に羽ばたけるようなことを女子高生の日常から描き出したような感じでしょうか。
幼き心に抱える彼女たちの不安や悲しみを、自分自身と仲間たちで懸命に昇華させようとする等身大の姿が描かれています。
高校生の美鳥。
森林浴とかいう同好会に所属して、色々なジャンルでみんなを楽しませる活動をしている。
仲間には、漫才コンビのように底抜けに明るい二人組のめじろん、しらとりや、その二人に流されるように付いている真面目なぽっぽ、感情表現が勢いあり過ぎるひばりや、物知りで情報通だが人と触れ合うことに不器用なかもかもがいたりする。
そんな同好会なんて馬鹿らしいと斜に構えるクールなたかこは同級生。他には、LINEのなりすまし被害に思いっきり引っ掛かってしまっている学校で一人浮いている男のような生徒も。
生物の先生は、体がキレキレで、美しくも気味悪い動きでいつも近づいてくるが、何を考えているのかよく分からない不思議な人。
高校生活だから、まあ色々とある。楽しいことも一杯だが、ぶつかり合ってしまうことも。ぶつかり合えるなら、まだましかも知れず、今はネットなんてものがあるから、互いに顔を見て言葉をぶつけ合うこと出来なかったりして、ただ知らぬ間に関係だけが悪化するなんてこともあるのかもしれない。
つい、こないだも詳しくは語られないが、クラスで揉め事があったみたい。
誰かの噂を、面白おかしく話して、盛り上がってしまう。その人のことを想うことを忘れて。そうやって、人を傷つけること、その人が不幸であることとの比較で自分が癒される。
母がいわゆるシングルマザーである美鳥は、その対象とされることも多かったのだろう。日常に自然と降りかかる色々なことを幼き心で受け止めるには大き過ぎたのかもしれない。彼女の腕にはたくさんのリストカット跡が残る。
そんな美鳥の母が突然、脳梗塞で倒れて亡くなる。
美鳥は母の姉に引き取られる。姉は太陽のような人で、影を落とす美鳥を温かく包み込む。ちょっと威勢が良すぎはするのだが。
しばらくして、登校する美鳥。
仲間たちは、今までどおり普通に接してくれる。美鳥にリストカット跡があることを知っていても、ごく普通に接してきたこれまでのことを考えると当たり前なのだろうが。母の姉に携帯メールを禁止されてしまったので、少々、コミュニケーションは取りにくい。そのかわり、顔を見て直接話すことは多くなった。
先生も、何かをしてあげたいけど、どうしていいのか分からないのか、不可解な行動ばかりだが、美鳥を見てくれているみたいだ。
たかこは、相変わらず変わらない。美鳥は不幸だ。周りの人たちは、そんな人と接することで、自分は大丈夫だと癒されている。そんな考えが、彼女に友達を作ることを拒絶させているみたいだ。
美鳥の母は、そんな美鳥の姿を幽霊となって見守っている。美鳥を大切に育ててきたことは間違いないが、リストカットのことなど露ほども知らず。美鳥が心に抱えているものを、成仏するまでのわずかな時間、美鳥と向き合って知りたいと考えている。
美鳥は普通に学校生活を送る。
同好会の活動では、近々、極楽町とかいう町を訪ねる予定。極楽鳥。野鳥に詳しかった父と母の出会いが、この鳥らしい。父のことを知らない美鳥にとっては、そんな言葉だけでも心にほのかな安堵が得られるみたい。
仲間たちと顔を突き合わせているうちに、リストカットのことやクラスの揉め事のことなんかも腹を割って話せるようになった。
母の姉だって優しいし、先生も相変わらずだ。
母とも、少し会話が出来た気がする。でも、それはお別れするという悲しい現実にも繋がる。
楽しいけど、不安も残る。交錯する感情は、美鳥にここから羽ばたいて飛んでいきたいという想いを膨らませ過ぎたのか、たかこと言い合いになったことをきっかけに、美鳥は校舎の2階から飛び降りてしまう。
気を失う美鳥。かけつける先生。
仲間たちは彷徨う美鳥の魂がどこかへ飛んで行ってしまわないように声を張り上げて目印となる。そこには、同じように必死に声を張るたかこの姿もある。
やがて、気を取り戻した美鳥。遅れて駆け付けた母の姉からは優しく抱き締められ、幽霊である母からは、何度も何度も叩かれた後、抱き締められる。
みんなの想いを受け止めた美鳥は、今度こそ本当に羽ばたこうと・・・
ごく普通の女子高生である美鳥。
その心には深い悲しみが宿る。それを昇華させるために出来ること。それがリストカットだったのだろうか。でも、彼女は羽ばたいて飛んでいきたいとも思っていた。でも、その羽を広げる術を知らなかったのだろう。
美鳥は周囲の人たちに想われていた。もちろん、好奇な視線もあるだろうが、彼女のことを真摯に見詰める視線もあったはず。そして、美鳥自身も周囲の人のことを想っていた。だから、心の中に抱えるものが大きくなって、苦しくなったり悲しくなったりしたのかもしれない。
作品ではその当たり前のことを各々のエピソードで再確認するように描かれている。
自分は人を想っているし、人から想われてもいる。孤独では無く、周りに仲間がいる。
ぶつかり合ったりしてもごめんなさい、いつも想ってくれていてありがとうと言える人たちがたくさんいる。
そんな当たり前のことに気付いた時、自分を受け止めることができ、かつ、仲間への想いも膨らみ、羽ばたくことができたように感じる。
きっと、自分一人で飛ぼうとしても、一瞬で落下してしまうのだろう。仲間への信頼、同時に自分自身も信頼する大いなる気持ちが、人を空へと羽ばたかせるのだと思う。
普通じゃなければ不幸。で、普通って何。
全体的な会話は、妙に鋭く的を突いていたり、正論的な当たり前のことを語ったり、感情に任せて想いをぶつけたり、人を傷つける言葉を使ってしまったり。
引いたり押したり、会話に計算や巧妙さが入り込む大人とは異なり、若いからこそのぶつかりが等身大で描かれているようだ。
その真剣さ、想いの真実味に心が動かされるのかもしれない。
弾けた明るい元気なノリが一辺倒。もう少し多様性を持たせるともっと楽しくなるし、そうしないと60分はもたない。恐らく半分過ぎたあたりで、メモ書きした感想。
これは間違い。結局のところ、60分、集中して楽しく観れたし、ということは、私が気付けていないだけで、巧妙な演出がなされているはず。
描き出すことは、巧さの無い、不器用な掛け合いでありながら、作品自体は巧い展開を導き出す。技術的にも優れた作品となっているのだろう。
役者さん方の統制とれた姿は見事なもので、それ自体が最高のエンタメ力を魅せる。相当な鍛錬を積んでいるのではないだろうか。
美鳥、山田麻弥さん。自分を解放できない中でみんなと過ごす時のごく普通の可愛らしい笑顔は表面的に映り、羽ばたけるようになった時の美しい笑顔に自分への誇り、他者への優しい想いが感じられる素晴らしい表情だった。
母、紀田愛佳さん。実直な雰囲気だろうか。常に娘だけを見詰めている視線から、母の愛情が感じられる。時折、見せる愛嬌ある姿も微笑ましい。
先生、三井玲奈さん。バレエとかダンスをされているのか。ご自分の体を活かした特殊なキャラになっている。ちょっと妖怪じみた感じになってしまっているが、常に姿はあまり見せずとも人の傍に存在していた妖怪と、生徒たちを影で見つめ続ける姿は同じ感覚なのかも。
母の姉、大場裕美子さん。いわゆる肝っ玉母さんキャラ。上記したが、見ているだけで、明るく元気になれるような太陽のイメージだろう。母が娘だけを見詰めているのに対し、このキャラは美鳥は当然だが、若い子たち全てを見詰める博愛精神を感じさせる。
生徒役の方々は、全て鳥の名前となっていて、そのイメージに即したキャラになっているみたい。
めじろん、粟田真帆さん。庭に警戒心もなく飛んできて、チョコチョコと実とかを食べる目白。人懐っこく、愛らしい姿がイメージと合っている。
しらとり、宮嵜紗南さん。しらとり、ハクチョウ、白鳥。白鳥かあ。う~ん、えらい威勢のいい白鳥さんだなあ。まあ、ある意味、優雅ではあるか。大らかさはとても感じる。もしかしたら、白鳥は水の下で足を必死に動かしているとかいう話みたいに、この底抜けの明るさの中には、必死にその姿を作ろうとする頑張りがあることをイメージしているのかな。
ぽっぽ、藤田琴音さん。ごく普通のイメージがそのまま鳩かな。従順や流される、自分の強い意志がまだ持てないみたいな作品中の描かれ方も鳩のイメージとは合う。でも、そういう間をまとめるような、こういう子が平和をもたらすところはあるだろう。
ひばり、石黒陽菜さん。さえずりが有名な雲雀。さえずりというかは、叫びの演技でしたね。勢いが止まらないような姿がちょっと面白かった。この子の率直な言動が、美鳥をはじめ、周囲の心を動かしたようなところもあり、まあ、春告げ鳥としての役割でもあるのか。
かもかも、中谷参月さん。鴨ねえ。カモとして利用されてしまうようなイメージかな。知的な雰囲気どおり、作品中でも物知りなのだが、そんなところを上手く利用されて、結局食べられちゃうみたいな。人に深く入り込まれることを恐れて、知識の壁を作って逃げているような感じでした。
たかこ、山本美優さん。鷹ですね。鋭い視線に、ドスの効いた声、恐れを感じる雰囲気。でも、この人は鷹になろうとした人で、なり切れなかった人でもあるようです。能ある鷹は爪を隠すみたいな感じで、能があることを知られたくないから、逆に爪を出すみたいな。自分の中に本当はある優しい心を自分も知りたくないし、他人にも知られたくないから、虚勢を張り続けていたようです。最後は爪を引っ込めて、みんなの仲間に入り込めたようです。
ステージエンジェルズの6人。申し訳ないですが、区別つかず。舞台、客席と名のとおり、天使のように駆け回られていました。
舞台のセットやシーン転換などでも活躍されます。中でも、カゴをイメージさせるネット。エンジェルズはそれをネットの外で持っています。その明るい笑顔は、羽ばたけた時の外の世界の魅力を物語っているように感じました。自由の魅力が存在自体から醸されています。
あと、野村侑志さんかあ。毎年、出演されるんですねえ。女子高生に紛れて、居心地いいのだか、悪いのだか。今年もなんちゃって女子高生を熱演でした。
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