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2014年7月20日 (日)

夜、ナク、鳥【くじら企画】140719

2014年07月19日 アイホール (115分)

ちょっと意外でした。
これまで拝見した2作品とかなり作風が異なっていたので。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/07/130712-8901.html

人の心の闇を探るというコンセプトは全く同じだと思うのですが、この作品は、福岡の看護師4人による保険金連続殺人事件をかなりえげつなくそのまま描いているようです。
人に尽くす、献身の精神を持つ看護師が、自らの手で人を死に至らしめるというまでの心理変化を露骨に描写します。
あまりにもドロドロになり過ぎるのを緩和させるためか、面白い登場人物も出てきて舞台の空気を和らげるのですが、終始、その心理描写に息が苦しく、張りつめた空気が漂います。
何が彼女たちをそこまで追い詰めたのでしょうか。
死を目前にした患者には、その最期の時を心豊かに過ごして欲しい、出来るなら神様、生を奪わないで欲しいという祈りを抱く看護師が、金のため、仲間のためを大義に、人を殺めるまでに至る姿が映し出されます。
この世の不条理に対する憎しみなのか、看護師としての大切な精神を裏切る自分たちへの罰なのか、全てを焼き尽くす炎の中で、犯行に至る彼女たちの鋭い姿が印象的なシーンでラストは締められていました。

<以下、内容がネタバレしていますので、ご注意ください。ただ、事件自体の概要はネットで詳細に載っていることと、この作品の本質は、別に事件の内容を理解させることでは無いことを考慮して白字にはしていません。公演は月曜日まで>

看護師のヨシダ。女手一つで2人の子供を育てている。
旦那を亡くした時の保険金を株に投資して、かなりの資産を得たようで、同僚の3人の看護師仲間に、一緒にマンションを購入しようと持ちかけている。住宅金融公庫の利用など、金への執着からか、知識は豊富。金の無い者には、容易く金を貸すのかあげるのか曖昧な状態で渡し、友情を見せると共に、常に主導権を握る関係を成立させている。
同僚看護師の結婚を取り持ったり世話好きなところも見せるが、それは自分を中心とした仲間たち、ファミリーを作ろうとしているように見える。
勤務先では、口が悪いが、愛嬌のある看護師さんとして、患者からはちょっと怖れられながらも愛されている様子。また、患者に尽くすという献身の精神は、責任を果たすという形で強く持っている模様。
ヒモのような男、ヒデキがいる。春日大社の鹿を撃ち殺すことを趣味にするような、生死の認識に欠けた人みたい。特に役に立ちそうもないこんな男を飼っている理由は、寂しさなのか、それなりに利用価値があるからなのか。

ツツミ。ヨシダとは看護学校の同期で長い付き合い。お金への執着や横暴な面を度々見せて、距離を置く人が多い中で、ツツミは常にヨシダに寄り添ってきた。それが友情なのか、何なのかはツツミ自身も分からないらしい。ただ、周囲から悪い人呼ばわりされることも多いヨシダが、影で涙や弱気を見せる時があることを知っており、憎くも愛おしくもあるといった感じらしい。ヨシダの本当の友達は私しかいないといった、ツツミ自身が自分への存在価値を見出しているのかもしれない。
看護師の仕事から、今は、治験薬のコーディネーターをしている。効果があるかどうかもはっきり分からず、かつリスクが高い薬を適用する患者を見つけ出さなくてはいけない厳しい仕事だ。
ずっと担当していた末期癌のタザワさんが新しい治験薬の治療を受ける決心をして、微妙な想いを見せる。治験を受けたところで、良方には向かわないことを知っており、神が下す不条理な人の生死の采配は普通の人よりも残酷に理解している。でも、少しでも改善の兆しが見られた時にはかすかでも希望を求めて喜びの笑顔を見せる。

イケガミ。エイジという、ヒデキに連れられてよく鹿を撃ちに行ったり、酒やギャンブルに金をつぎ込んだりとどうしようもない旦那がいたが、今は亡くなった。というか、殺した。
エイジは、ヨシダに多額の借金をしていた。こんな男だから、働いて返すことも出来ない。
友達であるヨシダに、これ以上の迷惑を掛けないためには。考え抜いた末、出た答えが旦那を殺すことだった。ヨシダも、人助けの人殺しだと賛意を示し、ツツミも共謀して、医療スタッフの知識を活かして殺害に及ぶ。その手際の良さは、鹿を解体して食すのと変わらないぐらい。
タザワさんみたいないい人は死ぬのに、こんなクズみたいな男は死なない。数々の不条理な神の采配による死を目の当たりにしてきた看護師に悔いは無いようだ。
ただ、罪の意識は働くのか、イケガミは毎日、エイジの幽霊に悩まされる。殺したことを悔いているのではなく、死してもなおいい加減なエイジに対する拒絶感が強いようだが。

イシイ。ヨシダの取り持ちでゴウという男と一緒になる。この男もどうしようもない奴。
離婚をして、3人の子供を一人で育てていく決心をする。ゴウは、浮気相手の下に向かい、家を出たのだが、子供たちはまだ父親に愛着があるようで、たまに会いに来たりすれば喜んでいるみたいだ。お父さんの大好きなカレーを作れば、きっとまた家に戻ってくるんじゃないのかなんてことを子供から言われたら、心が揺らいだりする。
そんなイシイの善意など何も分かっていないようで、ゴウもまたヨシダに多額の借金をしていたことが発覚する。ヨシダには、度重なるイタズラ電話に悩まされた時、誰か力のある先生とやらにお金を払ってそれを辞めさせたり、マンションの頭金を立て替えてもらったり、色々とお世話になっている。ヨシダは、ゴウをイシイに薦めたことに負い目を感じているようだが、イシイとしては友達以上のことをいつもしてくれるヨシダには頭が上がらない。
と、イシイは思っているのだが、実はイタズラ電話の主はヨシダのヒモのヒデキだったり、頭金もイシイをコントロールするための手段だったようだ。もちろん、そんなことはイシイは全く気付いていない。
そのため、離婚をするのは辞めて、とにかく少しずつでもヨシダに借金を返そうと考える。でも、そんな話をしても、ゴウは逆ギレするだけで、金なんか絶対返さないと言い放ち、二度と家には戻らないと出て行く。

そんな中、ヨシダが窮地に追い込まれる。
株で失敗して、資産を全て失う。もちろん、マンションを購入する資金も無くなってしまった。
どうにかするためには、金がいる。ゴウの借金を返してもらえれば。
ヨシダはイシイに泣きつくが、イシイにはどうしようも出来ない。
友達じゃないのか、今までたくさん友達らしいことをしてきたのに、今度はあなたが友達らしいことをするべきだ。
ヨシダだけでなく、同僚のイケガミやツツミにまで責められるイシイ。
そして、追い込まれるようにゴウを殺害して保険金を得る計画が進められる。
決行の日、タザワさんの容態が急変する。手術室に看護師として向かう4人。結果はダメだった。
タザワさんとはよく病院の庭を散歩した。ハクモクレンの樹に黒い鳥が美しい鳴き声を奏でていた。図鑑で調べたらナイチンゲールという鳥みたいなんて話もした。
4人の看護師、黒いナイチンゲールは、象徴であるナースキャップを外し、それに火をつけ、燃え上がる炎の下、看護師の精神を今だけ捨て、大義の下、イシイの夫を殺害する決心を固める・・・

自分の職場がクリニックなので、普段から医師や看護師さんとはよく接します。また、この作品のようにがん患者さんの治療を専門にするクリニックなので、死を目の当たりにした感覚も何となく理解できます。
その中で思うのは、医師にせよ看護師にせよ、患者さんのために尽くすという献身の精神は本当に誰もが持っています。もちろん、例外を見たこともありますが。そういう考えを持たなければ、こういった職には就かないと思うのです。もちろん、金がよかったり、再就職しやすいとか色々なメリットはありますが、それ以上に大変なことも多いですから。
そういう姿から、基本、人は善意の生き物だと思うのです。この作品でも、タザワさんの回復の姿には、いくら現実を知っていても、やはり心から嬉しい喜びの表情を浮かべていたし、患者さんをまず優先に考えるということは体がそう勝手に反応してしまうような姿も見受けられます。
だったら、なんで、こんな人たちが人を殺す、それも私利私欲に囚われて、そんな犯罪を引き起こしてしまうのか。
作品中で言及されているように感じるのは、金と友達でしょうか。金は、やはり人を狂わせるのであろうことと、そんな善意の生き物だからこそ、人のために自己犠牲で動いてしまうところがあるのではないでしょうか。そのことを本能的に巧妙にコントロールして人を動かしたヨシダ、分かってはいるけど、動いてしまった3人の看護師のような姿が頭に浮かびます。
人の善意を利用した犯罪は、あらゆることに適応されるように思われ、どうしてこんなことに騙されたのか、騙したのかなんていう犯罪は、大概、ここを突いているようにも感じます。
もしかしたら、大きな視点で見て、戦争なんてものも、敵をやっつけたいではなく、大切な人を守りたいといった精神から始まるようにも考えられ、そんなことがいびつに歪んでいつの間にやら、大それたことを引き起こしているのかもしれません。
あと、この作品では男がひどいですね。実際もそうだったのかもしれませんが。看護師4人とがん患者さんは苗字の役名ですが、男はみんな名前。ここに人と獣のような差を付けているように感じます。

ラストは話題になっていた、炎のシーン。初演は野外公演だったらしいですが、閉鎖された劇場でのこのシーンは色々と大変だったそうです。
看護師の象徴でもあるナースキャップを燃やし、犯行に向かう彼女たち。
それは、不条理な生死を采配する神への裁き、自分たちが看護師であることを支える心に秘めた精神との決別、罪を犯す自分たちへの裁きの炎のように感じます。
生死を間近で見続けてきた彼女たちだからこそ、死の悲しみ、生の喜びといった通常の感情だけでなく、いとも簡単に揺らぐ生死に対する怒りが込められた形として表現されたように思います。

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