君が生まれた狂気の村【隕石少年トースター】140731
2014年07月31日 Cafe Slow Osaka (110分)
なんか凄い不快な気持ちで劇場を後にしたんですが、こうしてもう一度振り返って、感想を書いてみると、けっこう面白い話ではあるんですよね。
ただ、所々、嫌なところを突いてくるので、何か不安になるのだと思います。
価値観と愛、愛と狂気みたいな関係に関する答えが出てくるような話です。
<以下、あらすじがネタバレしますので、公演終了まで白字にします。当日チラシには作・演の方が前情報なく観て欲しいと書かれていたりするので、重々ご注意願います。まあ、多分、それはすじを知らないで欲しいのではなく、偏った考えの感想を見て、観る時に視点を固定されるのを避けているのだとは思いますが。自分なりの視点で、この奇妙な話を楽しまれたらいいのだと思います。公演は日曜日まで>
国広和真は、出版社の同僚である音成未央と婚約。
彼女の田舎に挨拶に向かう。
未央の母親代わりだったというお隣に住んでいる多喜おばあちゃんが、集会所みたいなところに案内してくれる。ちょっとボケが入っているが、いい人みたいで安心。
未央は、母を幼くして亡くしているので、娘を大切に育ててきた父にきちんと挨拶しないといけない。やっぱり娘さんを僕に下さいだろうか。未央は普通に結婚しますでいいとは言うけど、やはり緊張してしまう。
その多喜おばあちゃんから、未央と結婚するためにクリアしないといけない三つの条件を聞かされる。
まずは、未央の父の許可。これは当たり前。まだ、お会いできていないので不安一杯だが、真摯に幸せにすることを誓うつもりだ。
次に村長の許可。ずいぶんと古めかしい田舎風な考えであるが、村の人たちにとっては村全体で育ててきた娘さんを渡すのだから、その長に認めてもらうことは必要なことではあるだろう。それに、その点は、きちんと対策を考えている。今日は村長の誕生日。サプライズ企画をしてお祝いをし、ご機嫌をうかがうつもりだ。ただ、その企画をどうしたらいいのかがまだ決まっていない。日々、企画会議で培われた頭を今こそ発揮しなくてはいけない。
もう一つは、象に踏まれること。そう、象に・・・
そういう儀式があるらしい。
あ然とし、言葉も出なくなってしまった。もう笑顔も忘れてしまうくらいに。
しかも、この儀式を本日執り行うことになっている。もうすぐ、リハーザルも始まるらしい。
ショックから立ち直る間もなく、集会所に人が集まってくる。
村で前回、結婚した男。奥さんはフィリピン人らしい。奥さんは医者でもあるらしいが、どう考えても賢そうには見えない。儀式の中で、この夫婦から象牙を手渡されるのだとか。結婚する夫婦に代々受け継がれるらしい。ということは、この男は儀式を経験していることになる。いったいどんなものなのかを聞き出そうとするが、彼が手にしている自分の時の儀式の写真は象に踏まれ、体を鼻に巻きつかれ苦しそうに顔をゆがめる姿。恐怖が現実のものとなってくる。
この祭りを無形文化財にするための調査に訪れた女性。村長は、祭りの無形文化財の指定は、村の発展のために尽くした父の悲願だったらしく、松葉杖でけがをしているのに、それはもう土下座する勢いでよろしく頼んでいる。けがの原因は交通事故とか言っているが、どうも歯切れが悪い。
会社の上司。うっかり急ぎの仕事のために、この場所を教えてしまったのが災いだった。社内恋愛は禁止なので、結婚のことはまだ話していない。しかも、この上司、未央に想いをよせていたりするので、なおのこと厄介な存在。早く帰ってもらおうとしても、なかなか帰ろうとしない。幸いにも調査員の女性が、気の効く人で、結婚のことがバレないように、無形文化財指定のために新郎新婦の役を二人がすることになっているとして、事を進められるように絶妙な配慮をしてくれる。
象使いも現れる。未央と仲良しの普通の女性。明らかにド素人。しかも、嫌々やっている感が溢れている。象は賢い動物だから大丈夫なんて言っているが、信用できるものではない。
未央の父もやって来る。酔いまくった状態で。娘を嫁にやる寂しさからだと思いきや、どうも、この祭り、結婚自体にノリ気ではないようだ。
そんな不安がいっぱいの中、儀式のリハーサルが始まる。
象になりきって踊る姿はあまりにも奇妙。
象牙受け渡しの儀式では、象牙が行方不明になって大慌て。
象踏みつけでは、リハーサルは、誰かが着ぐるみを着て、多喜おばあちゃんに象になる催眠術を受けて実施される。父が酔っていたのは、どうやらこれをしたくなかったからみたい。人に踏まれても大層なことなのに、本当に象に踏まれて大丈夫なのか。
この後は、象とのバトル。頭の上のリンゴを奪い取った者が勝者だ。これは、リハーサルすると面白くないので、ぶっつけ本番。というか、リハーサルしたら、怪我して本番が出来ないからではないのか。リハーサルを終え、本番までは、みんなで食事。準備をしている間に、さらにこの村の真実を知ることになる。
村人のほとんどは、象の家とかいう宗教団体に入っていて、150万円もする象の置物を購入している。未央も当然、入信していて、夫も入るのが当然といった感覚のようだ。
この村は狂っている。
未央には宗教団体も辞めさせ、まともになってもらわないと、とてもじゃないが結婚が不安だ。
ただ、ありがたいことには、父がこの祭りに反対している。
そりゃあそうだろう。自分の時は肋骨を数本やられ、未央には内緒にしているが、母も実は象に殺されたらしいのだから。
父は、結婚を諦め、ここから逃げろと言う。
でも、結婚はどうしてもしたい。それならば、祭りを中止にするしかない。
そのために計画を立てるが、その中で、祭りに反対しているのは父だけでは無いという村の実状が浮き上がる。
よくよく考えたら、本当は今日の儀式は学校の校舎を借りて行う予定だった。窓ガラスが割られたのも反対派の仕業か。
さらには、象使いの名手だった村長の怪我。象に襲われたらしい。そんなことが出来る人は、同じ象使いしかいないのではないか。
象牙だって、そんな大事なものが簡単に無くなったりするものだろうか。夫は村の伝統だと祭りを絶対的に考えているみたいだが、フィリピン人の妻にとっては、そんなものどうでもいいとしか思っていないのが普通だろう。
悲願の祭り無形文化財指定にこだわる村長、妄執的に祭りを信じ込む多喜おばあちゃん。噛み合わなくなっていく前に村で結婚した夫婦。祭りの中止と結婚の許可の葛藤に苦しむ父。好きな人を手に入れるなら、どんなことでも受け入れるという上司。冷静に村の祭りを見詰める調査員。
和馬と未央の結婚の行方は・・・
最終的には、異なる価値観を受け入れる、そして受け入れ続けることが結婚なんだみたいな描き方になっているようでした。
う~ん、どうでしょうかねえ。
どうもしっくりきませんね。
この村の奇祭を受け入れることと、異なる価値観を受け入れることは私の中では全く同調しません。
象の踊り一つにしても、象になりきって気持ちを込めればいいんじゃないんです。きちんとした振付に従わなくてはいけない。こういう上っ面なのが、非常に不快に感じます。
心がこもっていない事象に価値を見出していること自体に違和感を覚え、その共有までとなると拒絶の感が出てきます。
と確かに思って、劇場を後にしたのですが、いざ、こうして思い出しながらブログを書いていると、価値観なんてそんなものかもしれないなとも思い始めます。
きちんとした理由があって、意味があって、そこに想いが込められているから行っていることなんてそんなにないかもしれませんね。
自分が持っている価値観だって、それはもう習慣やらジンクスなんかに近いようなもので、それに支配されているだけかもしれません。
それでも、やはりそれを拒絶はして欲しくないし、自分が好きな人、ましてや結婚して残りの時をずっと一緒に過ごす人には理解して欲しいという気持ちは当たり前かもしれません。
そう考えると、作品中の上司が最後に語る言葉が重く響きます。
未央はとても素晴らしい女性である。その彼女の素晴らしさを創り出している原点がこの祭りや宗教なのだったら、それに支えられているから彼女が彼女でいられるなら、自分はそれを全部受け止められる。そんな感じの言葉を発します。作品中では、空気は読まないし、ガツガツしているし、とにかく胡散臭い男で嫌悪感たっぷりで、喋ることなど聞く気にもなれないのですが、こんな大切な言葉を発していたようです。
相手を受け入れて、自分も受け入れてもらう。そこには想い合うことと同じものがあるのかもしれません。結婚のように、新たな絆を生み出す時には、そんな互いの受容の精神が大切なのでしょう。
ただ、どうもねえ。まだ、しっくりはきません。結婚していないからでしょうか。結婚に対して、こういう契約じみた感覚を持てず、愛だけがあってみたいな幼稚な考えを持っているからでしょうか。
象に踏まれても、好き。この作品のチラシに書かれている言葉です。
例えば、猫にひっかかれても好き、犬に噛まれても好きぐらいなら何とかなると考えてしまう人は愛が足りないのでしょうか。ライオンに噛みつかれても好き、バッファローに体当たりされても好きだったら、その愛は象よりも大きいでしょうか。
150万円の象の置物ならいいけど、1億5千万円の象の置物なら無理と言ったら、それは愛に欠けているのでしょうか。
愛の大きさが、同時に狂気に比例しているみたいで、人が人を愛することは狂うことだと言っているようにも感じます。ましてや、それで結婚するとまでいくなら、確実に狂わなくてはいけないみたいなことを感じます。
自分は今の自分のままでいて、狂いたくない。でも、誰かを愛したい。
その構図は無理だよと漠然と伝えているようなところに、作品への愛着が沸かないのかもしれません。
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