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2014年7月 4日 (金)

ディラックの花嫁【劇団ジャブジャブサーキット】140703

2014年07月03日 ウィングフィールド (105分)

前回公演の月光カノンは、どうしても日程調整できず、観に伺えなかったので、観たのは前々回公演になるのだろうか。
死ぬための友達。
この作品と非常に雰囲気が似ており、また、似た感想を抱く。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/120625-f118.html

何か推理小説を見ているような感じで、とにかく次はどうなるの、この後の展開はと、観ていて、完全にこちらが先走ってテンション上がってしまうのをよそ目に、淡々と冷静に話を進める。まあ、言えば、いじわるな作品だ。
登場人物は軽快でウィットに富んでおり、人間性も豊かなので、観ていて、くすりと笑いながら、とても楽しい。
でも、
メインテーマは科学なのだろうが、それに纏わる数々のテーマが浮き上がるような設定になっているらしく、その繋がりを組み立てていくだけで頭の中はかなりいっぱいいっぱいになっている。
そして、冒頭から隠されている謎が、じわじわと明かされていくものの、最後まではっきりとしない。さらには、謎が明かされようとすると、新しい謎がまた生み出されていくような感じで、途中から、もう、観終えても絶対、スッキリとはいかないなということが分かってくる。
最後に残るのはしっくりこない感覚と未来への漠然とした不安だろうか。
ただ、そこに、前回は友達という希望の象徴のようなものも感じられた。今回も同様で、今回は、人間が生きていく上での誇りや尊厳みたいなものかな。そんな本能的な人の大切なものを信じて、より良き世界に未来はなると思いたいみたいな。

こうして思い返すと、作品自体が今の社会の縮図のように描かれているのかなとも思う。
謎を隠す。科学だろうと、震災の汚染だろうと、大事なことは、どこかで知らない間に行われ、真実は隠されてしまっている。
少し、明らかになれば、新たな謎が出てくる。
謎が真実へのバリアみたいになっていて、本当の真実にまでたどり着けるのか。
科学はその次々に生まれる謎を打ち壊して、真実を手に入れるための手段として描かれているような感じである。
でも、そんな真実を明らかにしないと、未来は時間の経過として訪れるだけで、自分たちが歩んでたどり着くべき未来には決して向かわない。
それを警鐘するような、一つの謎の破壊により、その真実の核にまでたどり着いた残された者たちが、さらなる真実を求めて新たに旅立つといった形で話が締められていたような気がしている。

<以下、ネタバレしますが、公演が既に名古屋であり、9月には東京でもあり、公演期間が長いので、白字にはしません。大阪は日曜日まで>

人里離れた奥深い山にある施設。
ちょっとマニアックで温和そうな年配の所長と豪快で威勢のいい女性研究者によって、何やら秘密にしなくてはいけないような研究をしている様子。
施設内には、折り紙が好きな女の子、やたら理論的な綺麗な女性、家事一般を任せられている青年、熊の着ぐるみを着た力持ちの男、酒が大好きな影ある女性、どこか愛着が沸きやすくストレスに強い男。
この人たち、実は人間では無い。
色々な訳あって、ヒューマノイド、クローン、キメラ、人工知能体として開発されている。
人以上に人らしい一面も持つが、アンバランスな成長をしていて、ちょっと滑稽なところも多々あり、楽しい生活を送っているみたいだ。

施設には時折、食べ物を運んでくれる行商のような女性がいる。本当の目的は、この地の土壌汚染などを調べているのだとか。
最近は、学校生活が上手くいかず病んでしまった若い女の子を連れて、この施設でちょっと面倒を見てもらおうと思っているみたい。外部から遮断された秘密裏の組織などで本当はいけないのだが、お世話になっている人なので受け入れることにするようだ。
あとは、ホバークラフトに乗って、この奥深い山にまでやって来る通称、武器商人。何やら、怪しげな装置を売りつけに来ているらしい。
謎の女性は神出鬼没で、施設内を外部から遮断するための環境整備をしているみたい。実際は、何か他の目的があるのだろうが、何かは分からない。

そんな施設に、記憶を無くした二人の女性が連続して運び込まれてくる。
彼女たちは、この施設の本部とも言えるようなところである研究所にいる所長の恩師からの手紙を手にしている。
内容は特にとりとめも無いことが書かれているが、研究所の研究員で、ここを紹介したといったことみたいだ。ただ、ここに二人が来た理由は定かでは無い。
綿密なチエックをしたところ、確かに彼女たちは研究所の研究員であり、危険人物ではなさそうだが、どうも何かあるようで疑わしい。
ただ、一人の女性に関しては、所長は何かを知っているらしい。

そんな中、本部の研究所で爆発事故が起こる。
施設をよく思わない連中の陰謀だろうか。
訪れた二人の女性との関係は。
次に狙われるのは間違いなくこの施設。
場所も定かでないこの秘密施設だが、ここを守るために所長たちは動き出す。
その中で、明らかになっていく謎・・・

上記したように、複雑に色々なことが絡んでいます。
所長と訪れた女性の関係は、かつて女性の父と所長は同僚で、事故による父の死への復讐心を女性は持っています。ただ、それは所長を亡き目に合わしたいとかではなく、事故の真実を聞き出して、自分の中の復讐心にけじめをつけたいといったようなことでした。
父が亡くなったという事実だけを見て、そこにあった所長と父の関係などには目を向けず、ただただ、その亡くなった事実に対しての解決として同様の死を所長に与える。
そんな考えを最初は女性も持っていたみたいですが、研究所で働く中で、その真実を知り、考えが変わっていったようです。
驚くべきことは、実はこの女性もヒューマノイドらしく、もはや科学の域を超えて、ここまで人の想いを知る存在になっているようです。
施設が狙われたことも、どうもこの女性のあまりにも人間らしいヒューマノイドの存在に畏怖を感じた国家なのかもしれません。
原因に対する解決だけに執着するのではなく、多視点で物事を捉えることの重要性を描く一つの事例かなと思います。
作品中にロボトミー手術なんて言葉が出てきます。
決して否定されるべきことでは無いとは思いますが、精神疾患で暴力的になった人の行動を抑えるという一視点で行われており、また、その時の社会情勢を盾に科学に踊らされた一例なのかと感じます。

熊の着ぐるみを着るキメラの男は、自分に眠る熊の野生の本能が今の自分の真実だと思ったのか、山に帰ることになります。
科学技術により、人として生まれ変わらせた。でも、その結果は、科学が想定する範疇を越えており、命を扱う科学のあり方への警鐘でしょうか。

山奥のこの施設も攻撃対象になりますが、容易には攻撃出来ないといったところがあるようです。
施設の近くに汚染物質の廃棄場所らしきところを見つけているから。
それでも、ミサイルで攻撃されたら、汚染は拡がり、人に害を与えることでしょう。
本当のこのことが抑止力になるのかは分かりません。
科学はいつも人に害をあたえるものであってはいけない。
人工知能体である一人の女性は、その強い意志を胸に、汚染廃棄物を中和するために廃棄場所に向かいます。
ツールとして開発した人工知能体であったが、失いたくない気持ちが所長には芽生えているようで、葛藤に苦しみますが、そのことを了承します。
科学が生み出すものは、単なる物体では無く、人が創り出した人と共に過ごすものたちなのだというような感じでしょうか。

ラスト、この施設も爆撃されたようです。
施設内では、所長と同僚の亡くなった父を持つシェルターにいた女性だけが生き残ります。
廃棄場所では、中和に成功したのか、初めから無かったのか、汚染の状況は軽い。
その真実は、その場にいたヒューマノイドにしか分からないでしょう。
女性は、施設内のアンドロイドやクローンの亡骸を手に、山を下ります。
生き残ったヒューマノイドやまた、人間性を取り戻したのか熊のキメラも、その女性を追って、山を下りていきます。
この国の本当の真実に潜り込み、隠された謎を世に伝えるのでしょう。
それは人間が出来なかったが、人の想いをこめられた科学技術の成果である彼女たちだから出来ることなのかもしれません。

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