« 大田王2014ジゴワット ~Back to 2015【ABCホールプロデュース】140718 | トップページ | 夜、ナク、鳥【くじら企画】140719 »

2014年7月19日 (土)

パレード【劇団ずぼら】140719

2014年07月19日 大阪大学豊中キャンパス学生会館2階大集会室 (105分)

難しい作品でした。
淡々と進行していたのに、ラストで急に恐ろしい話になってしまいます。
互いに不干渉であること、本当の自分で接し合わないこと。本当に想い合わずに、表面だけの付き合いで創り上げられた世界に魅惑された人たちが、破滅する姿と、どこにもたどり着かず、永遠に彷徨い続けるという絶望的な姿が描かれているようです。

共同生活をする男女4人。
普通のサラリーマンらしい直樹という男がこの部屋の主。かつては彼女と二人で過ごしていたが、別れてから、一人きりになり、友達、その友達といった感じで今のようになったらしい。と言っても、誰がその友達で、友達の友達なのかは、今となっては分からなくなったのか、思い出そうとしないのか、はっきりしない。それに、直樹がなぜ彼女と別れて、こんな共同生活をするようになったのかとか、そんなことは誰も問い正そうともしない。
不可侵条約。これが、この共同生活の最大かつ絶対的なルール。会話するにしても、それは馴れ合いのもので、質問するにしても相手に対しては事実を問うことに限定する。なぜ、どうしてなどを聞いて、相手の内面深くまで入り込むことはご法度である。

直樹はとても生真面目そうな男。会社でもそのまじめな態度からか、信頼半分、押し付け半分みたいな感じで後輩から仕事の相談を受ける。自律の精神が強いみたいで、そんな後輩の相談は考えが甘いと思ってしまうのか、つい厳しい口調になって声を荒げてしまう。鬱積する感情を、部屋の同居人に愚痴ることもなく、そんなどうしようもなくなった時はひたすら走るということで解消しているみたい。ただ、その鬱積した感情は、彼の裏の顔として恐ろしい姿を浮き上がらせているみたいだ。
同居人には、良介というバイトをしながらお気楽に暮らす若い男。職場の先輩の彼女に恋をしており、その葛藤に苦しむ。明るく、お調子者風を装っているので、そんな恋話も冗談まがいに聞こえるが、内々では真剣に悩んでいるみたいだ。田舎の友人が事故で亡くなり、昔の仲間と集まるために帰省を促されることになるが、金銭的な問題と、この部屋から少しの期間でも出ることが恐いのか、結局は帰省せずにこの部屋でグダグダしている。そんな時に先輩の彼女から電話がかかってきてデートに誘われ一線を越えてしまう。自分の希望は叶ったが、どうして帰省しなかったのかと、大きく変化した自分により苦しむようになる。
琴美。働きもせずに、男から電話がかかってくるのをひたすら待つ。その男は、かつての同級生で、今は芸能人として活躍している。電話がかかってきても、忙しい男のスケジュールが空いた1時間程度でホテルでセックスするだけという間柄。妊娠が発覚するが、他人事のようにあっけらかんとした姿を見せ、現実から目を背ける。何かが進展するということに恐れを抱いているみたい。
未来。雑貨屋の店長をしながら、イラストレーターを目指している。新宿の夜の街で、ニューハーフたちと夜通し飲んで、記憶を失って帰宅することなどしょっちゅうの荒れた生活。過去の家庭環境の影響なのか、セックスという点で男に対して嫌悪感があるみたい。レイプシーンを繋ぎ合わせたビデオを見て、心の安堵を覚えるようなところは、どんなに嫌であろうと過去の自分にしがみついた方が安心といったような感覚か。外の世界は、彼女にとって戦いの場のようで、荒れた女性をずっと演じているようだ。互いに干渉さえしなければ平穏に過ごせるこの部屋は、彼女にとっては天国ともいえる場所となっている。

そんな4人の共同生活の場に、たまたま未来と夜通し飲んで付いてきたサトルという、夜の仕事で生計を立てる男が入り込む。
彼は、この不可侵条約を無視した行動をとり、自分自身のことも普通にさらけ出す。
上記した4人の抱える悩みは、そんなサトルが入り込んだ生活の中で、露出してきたことである。
この部屋で、誰も本当の自分をさらけ出してはいない。ここでの世界にふさわしい姿となって、見せかけだろうと何だろうと、あるバランスで自分たちが過ごしやすい環境を作り上げている。
そのことを分かってはいるが、分からない振りをしているかのような4人にそのことを突きつける。
別に仕事で負の感情がたまって裏の顔があったり、先輩の彼女を略奪した罪悪感に悩まされていたり、不完全な愛から宿った子供をどうするのかに悩んだり、過去のトラウマがあったりする中で、今の生活を守るために、互いに演じた自分で接し合ってコミュニティーを作ることはおかしなことのようには思えない。
今の都会や、ネット社会なんかを想像すれば、みんな、そんな中で生きているのではないか。

そんなことを考えて観ていたが、ラストにある限界を超えてしまった恐ろしい姿が描き出される。
ちまたを騒がしていた通り魔殺人事件。
その犯人が直樹であった。目撃したサトルに、驚く直樹であったが、サトルは、みんな知っているからと言う。
直樹が部屋に戻ったら、みんなで旅行にでも行こうという話で盛り上がっている。
殺人事件のことを言及するが、みんな、それを無視。干渉することで、この生活が崩れるから。
直樹は、そこまでして守らなくてはいけないこの世界、その住人であるみんなに絶望して、部屋から飛び降りる。
ラストは、またいつもどおりの日常に戻った4人の姿で締められる。ただ、そこに直樹は当然いない。彼の代わりにサトルがそこにいる。

こうなってしまうのかと、驚愕でしたね。
それまで、フィクションだから、大袈裟ではあるが、病んだこの社会で、その程度の悩みはみんな抱えていて、その中で自分たちの世界を創り出すことは、ある意味、人の強さであり、どんな社会にだって負けないという人が持てる希望だからといったぐらいの感覚で観ていましたから。
ここまでになると、恐ろしいとか狂っているという結論に至るしかなくなり、一瞬で絶望となってしまいました。

直樹は、後輩にいつまでその場にいるんだみたいなことを言っていたりして、それは自分にも向けた言葉だったのでしょうか。今から、思うと、その言葉は、彼がこの部屋の外にいる人に発したヘルプの信号だったようにも思います。
恐らくは、別れた彼女との生活の場であったこの部屋にしがみついた自分を脱却させたいと、この部屋を出ようとしたのでしょうが、それがいつの間にか許されないようになり、彼は、自らが部屋を破壊することで、もしくはサトルのような外界からの使者により、部屋を破壊してもらうことで脱出を実現しようと願っていたように
感じます。
その両方の考えが否定された時、部屋から出る手段は、文字通り、部屋から飛び立つという形で自分を破滅させるということしかなかったのかもしれません。

冒頭のみんなの日常の姿を描くシーンは、季節が変わった中盤と、直樹がいなくなったラストで同一の形で描かれていたように思います。
時を経ても、また人が変わっても、その姿は変わらない。
人間関係の不干渉をベースに創り上げられた世界は、確かに平穏であるが、永遠に壊れることのない、無変化状態で続いていく不毛の世界のようです。そこには、その世界を生きる住人には、永遠に安泰を与えるけど、夢や希望など、変化に打ち勝つことで得られる大切なものは一切与えないという暗闇の世界が浮かび上がります。
少しゾッとするのは、サトルがその世界の住人に安易になってしまった姿。そんなに作り笑顔で、微妙な均衡を保ちながら、時を過ごすことは楽なことなのでしょうか。そこから、はみ出て、自分の本当の言葉や心情を外に発信することは難しいのでしょうか。
そんな感覚は、周囲からとは隔てられた空間を、ほどよい距離感を持って、楽しそうに進む人たちという、作品名のパレードを思い起こさせられます。ただ、そのパレードの楽しい時間は決められたスタートとゴールの間だけの話で、人生においては、結局、どこにも進めていないことになるような気がします。

5人の役者さんが、かなりしっかりしたキャラ作りとそのキャラに合った心情表現をされていたのではないでしょうか。
直樹、石垣光昴さん。真面目なだけに、襲ってくる不満や不安を消化しきれず、蓄積してしまい、それを狂気へと変えてしまった。この部屋の住人ではなく、創始者であるという責任が彼を部屋から出て行くことを許さなかったのか。遊びの部分が少ない、いい加減さに乏しいという悪いことではないはずですが、こういった世界ではその性格が悲劇を生んでしまったようです。
良介、川原啓太さん。直樹と対照的な性格のように映りますが、それは彼がこの世界で生きるために演じた姿だったようです。本当は、直樹と同じように蓄積していく負の感情もあったのでしょうが、彼には単なる住人であり、他の人に合わせるという逃げ道があったことが救われたように思います。絶望する直樹の姿を見て、いたたまれない表情で悲しみを浮かばせるラストの姿が印象的でした。
琴美、酒井菜摘さん。実際に芸能人とどういう付き合いをしていたのか、はたまた付き合いが事実だったのか定かではありませんが、自己陶酔して、自分だけの世界で想像を繰り広げるといった現実逃避の典型的な姿が感じられます。よくある二次元の恋に心酔して、それが現実化することは望まない。自分だけの世界に浸りたいけど、孤独であることには不安で、ネットなどで形だけの繋がりに救いを求めるといった今の社会が生み出した問題の象徴のように映ります。
未来、竹内雪乃さん。トラウマが影響しているのか、本当の人の姿は醜く、みんなそれを隠して、本当の自分をさらけ出さないように演じながら生きている。演じるのは疲れるから、こんな干渉されない世界で少しでも安堵の時を過ごしたい。そんな感覚を持った女性のようです。人は本当の姿では触れ合えないといった考えに執着しているようで、とても悲しい姿です。サトルによって、レイプシーンのを繋ぎ合わせたビデオを消されてしまっても、これまでどおり、いやむしろ少し輝いた生き方が出来そうになった時に気付けなかったのかな。彼女が言う本当の姿は、自分が思っているだけの本当の姿であり、そんなものが本当にどういったものなのかは誰も分からないことを。ある人には、彼女が醜いと思っている本当の姿は美しく感じるものかもしれないのに。そんなことを全て否定して、やはりこの安泰の部屋に戻ろうとする、それが当たり前だと変化のチャンスをバッサリ切ってしまった冷たい視線が悲しく映ります。
サトル、森村一毅さん。含みを持たせた姿や、淡々と部屋の住人を追い込んでいく姿は、色々な形でミスリーディングさせられるところがありますが、結局はこの部屋の住人へと取り込まれてしまいました。もしかしたら、初めからそれを狙っていたのでしょうか。新たに部屋の住人の仲間入りをした人ではなく、その誰かと入れ替わってしまうような形で、この世界に住むことを。住む家も無く、出会った男に体を売って生計を立てるなど、不安定な生活をしていた彼にとっては、この緩やかな部屋は魅力的だったのかもしれません。確実な地位をこの部屋で得ることで、完璧な住人になることを願っていたようにも感じます。部屋を出ることには、各人、相当な苦労をして、結局、誰も実現できなかったのに、こうして、外から部屋に入るのは比較的容易。出れなくなっても入りたい。そんな魔の魅力がこの部屋、人に干渉しないということにあるという怖ろしさが残ります。

|

« 大田王2014ジゴワット ~Back to 2015【ABCホールプロデュース】140718 | トップページ | 夜、ナク、鳥【くじら企画】140719 »

演劇」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: パレード【劇団ずぼら】140719:

« 大田王2014ジゴワット ~Back to 2015【ABCホールプロデュース】140718 | トップページ | 夜、ナク、鳥【くじら企画】140719 »