ハローグッバイ【崖淵五次元】140622
2014年06月22日 シアターカフェ Nyan (90分)
こういう芝居を観たいんだ。
役者さんの感情表現が剥き出しで真っ直ぐで、観ていてとても気持ちいい。
ご出演の6人の役者さん。本当に輝いている。素晴らしかった。
観終えて、爽快な気分。
若い人たちの様々な葛藤の中で、楽しみを見出して懸命に生きる姿。
出会いとお別れの中で、浮き上がる相手への想い。
自分が前を向いてがむしゃらに走るその横に、いつも誰かが一緒にいてくれていることを感じさせるような話でした。
6人で結成した大学の演劇サークル仲間が久しぶりに集まる。
各々、卒業後、自分たちの道を歩んでいる。
学校の教師となった作・演をしていた女性、OLとして働く者、父の会社を継いで社長として仕事に奮闘する男、演劇を続け、東京で女優を目指そうとスクールに通う女性、研究者の卵として日々を過ごす男。
そして、後一人。この女性は来ることが出来ない。彼女はもう亡くなってしまったから。
そう、あの日
公演を無事に終わらせ、彼女が卒業後、東京で女優を目指すことが決まって、打ち上げ兼激励会を開いて、盛大に飲んだ日。
彼女はこの劇団が、仲間が大好き。東京に行ってもずっと、みんな、このままでいて欲しいと、いつもの明るいテンションで語りながら、飲み明かした次の日、彼女の人生は急性アルコール中毒によって終わりを迎えた。
あれから、みんなはバラバラになって、今日に至るまで一度も会っていない。彼女の人生のレールは失われてしまったが、自分たちもレールを前へ向かって進めずにいる。
今日、集まることになったのは、作・演をしていた女性の下に一通の手紙が届いたから。その中には、彼女は殺されたという言葉が記されており、あの現場にいないと撮れない写真が同封されていた。
誰が何のために、こんなことをしたのか。
集まった5人は、あの頃を回想しながら、そして、彼女のために創ったと言ってもいいような当て書きした作品を思い起こしながら、彼女に対峙していく。
その作品は、夜行列車最終便。
ある女性が銀河鉄道の夜のごとく、終着駅まで停まらない列車に乗り込むシーンから始まる。
この女性、ある探偵の恋人。正確には元恋人だ。なぜなら、彼女はもうこの世の人ではないから。
探偵が追っていた大きな事件に巻き込まれてしまい、命を失った。
探偵は、傷心して、かつてのような熱意に溢れた日々を過ごせず、孤独にこもる。頭の中にあるのは、彼女を死に追いやった事件の黒幕への復讐だけ。
そんな中、一人の女性が事務所を訪ねてくる。この役を亡くなった女性が演じている。
ほとんど押しかけで勝手に秘書になり、探偵のプライバシーなど関係無しに好き勝手する。しかも、勝手に新人を雇ったりまで。
こちらの気持ちなど考えもせずに、毎日、底抜けに明るくつきまとってくる女性に探偵は辟易するが、やがて、彼女の行動からあることに気付く。
彼女は、亡くなった自分の恋人だ。自分にかつて共に過ごした頃のような時間を取り戻させるために現れたのか。
女性が乗った夜行列車最終便。終着駅まで停まらないが、途中下車することが出来る。その条件はただ一つ。降りた先で自分の存在を気付かれないこと。
彼女の真意が探偵に伝わった時、本当の永遠の別れが待っていた。
でも、探偵は彼女の最後の自分への想いがこもった願いを大切に受け止め、前へ進めなくなってしまっていた自分のレールを再び進み始める。
傍には、まだまだ頼りないが、これから相棒として活躍してもらわないといけない彼女の残してくれた新人がいる。
話は、集められた5人が回想する、まだ彼女が生きていた頃の劇団の姿と、上記の劇中劇を交錯させて展開する。
描かれる劇団の姿は、男女6人の若い者が集まっているだけに、恋愛や将来の夢に向かって楽しく過ごす日々。しかし、そこには嫉妬や妬みなんかも生まれてくる。
それでも、みんな、互いのことを想いあって、大切な仲間だと思っている。でも、それは、一人の女性が亡くなったことで、均衡が崩れる。
本当に自分たちは仲間だったのだろうか。互いのことを本当に大切に想っていたのだろうか。
その答えを出すことから逃げるように、彼女が亡くなってからのこの一年間、残った5人は互いを避けてきた。
今回、集まったきっかけになった手紙は、その答えを出すようにみんなに突きつけられる。
誰かが彼女を殺したのではないか。殺さなくても死へと追い込むようなことをしてしまっていたのではないか。
互いに疑い合って、自分にも問いかける。彼女や仲間を自分は傷つけるようなことを考えていたのか。そして、そんなことをする人がこの中にいたのか。
楽しかったあの頃に、じわじわと浮き上がった嫉妬や妬みが、今は思いっきり、表に出てくる。
夜通し語り合い、酒を酌み交わして、本音をぶつけ合った答えは、やはりNoだった。
自分たちは大切な仲間同士だ。演劇という楽しいことをやり続けようと出会って、これからもずっと絆を深め合っていこうとしていた人たちの集まり。確かに恋愛や将来のことへの隔たりで、仲違いしたり、恨みごとをぶつけたりした。でも、そこには、必ず相手への大切な想いがあった。
1年経ってようやく、彼女の死と直面し、自分たちの想いを確認し合った5人。
彼女の死と同時に行き先を失っていた自分たちの列車は再びレールの上を走り始める。
みんなは気付く。
この集まりは、自分たちにこのことを気付かせるためのものだった。
あの、6人で演じた最後の作品となった夜行列車最終便のように、残された者たちが、いつまでもずっとあの頃のようにみんなで楽しく生きて欲しいという彼女の願いが生み出した、大切な時間を与えられたことを。
死と対峙する。
その死という現実だけを見てしまえば、辛く悲しいこと以外に何も無いのだが、そこには、その人と出会い、お別れするまでの大切な時間が自分の中に刻み込まれていることが分かる。
もう会うことが出来ない。でも、だからこそ、その人の自分への想いを受け止めて、自分は前へと走り続けないといけない。
そして、自分もまた、その人のように、これから出会う大切な人に自分の想いを伝えていかないといけないのでしょう。
仲間への大切な想い。出会いとお別れ。彼女は、お別れの悲しみより、出会えた喜びを胸に抱いて旅立ったようです。死というお別れの悲しみが、この世に生を受け、その人と一緒の時を過ごせたという尊さに打ち勝てるようになれば、その悲しみを昇華することが出来るのかもしれません。
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