GOEMON SEBUN 盗りてえヤツらがやってきた【U・WA・SAの奴等produce】140621
2014年06月21日 芸術創造館 (155分)
いつもは公演時間の長さにやられてしまうのだけど、今回は全く気にならなかったなあ。
話自体がとても上手く出来ていてどうなるのかワクワクして観れたのと、好き放題に役者さん方が入れ込む小ネタがほとんどはまっていたからだろうか。
それに、大道芸まで組み込んだ踊り、殺陣のエンタメ要素も作品に違和感無く、楽しかった。
己の誇りのために戦う人の姿を、石川五右衛門ベースにその関わる周囲の人たちの姿として見せています。そして、そんな信念が、新しき世を創り上げたという史実を基に、今の社会を考えるような話にも繋がっているようでした。
時は、秀吉による天下泰平の世が築き上げられた頃。
そんな世を荒らす義賊、石川五右衛門が世間を騒がす。
今日も、そのいかした盗みっぷりを、まだ瓦版も無かった時代なのに、新聞をはじめ、Google、Twitter、Facebookまでを頭に描く先見性のある新聞屋を名乗る男が、町民たちに語っている。
自分は未来の大役者だと息巻く友人の市之介は、凄いもんだと感心するものの、今は、芝居小屋をクビになってしまったので、お天道様が高い昼間から、ツケで一杯なんて生活をしている。
そんな市之介、ふとしたことから、石川五右衛門と出会うことになる。
驚くことに、石川五右衛門は、6人組。
秀吉にお家を潰された、後に春日の局となる斉藤家の娘を筆頭に、お守り役の猛武将、情報屋の怪しげな老人、屋敷に侵入するための道具はお任せの科学者の姉と外科医の弟、屋敷図の見取り図を解析する大工から成る盗賊集団だった。
盗賊集団の目的は、ずばり秀吉を陥れ、新しい世の成立、そして、斉藤家の復興。
神出鬼没の石川五右衛門。それが災いして、最近では偽者が出回るようになった。そんな偽者は義賊とは程遠く、弱き者を殺めて金を略奪する。そのため、石川五右衛門の存在を明らかにする必要に迫られていた。
市之介は、腐っても役者。石川五右衛門を演じてみせると仲間に入ることに。
早速、次の盗みの作戦会議。
人目に付くと困るので、大工の住む長屋の一室で行われている。肝っ玉の据わった奥さんが時折うるさいと入り込んでくるが、内緒にしている。
盗みの場所はいつも老人が情報を仕入れてくる。新聞屋に自分たちの情報を流していたり、どこに送っているのか文を忍びのように、あまりなついていない反抗的な愛亀に渡したりしている怪しげな男だが、その情報の確実性は間違いがない。
次なる場所は材木問屋。金ももちろんだが、伏見城建設で秀吉からご褒美としてもらった有名なチョキ、チャッキー・・・いや、茶器も盗む。秀吉の威厳を陥れるためだ。
各々が得意分野を活かして、その役を果たすことに。
市之介にとっては初の盗み。茶器を盗んで、世間に石川五右衛門の顔を知らしめるという重大な役回り。もちろん、捕まったらダメなわけで、少々心配ではあるが、幾ら叩かれても感謝するという特殊な訓練をさせられてきたので、何とかなるだろう。
一方、秀吉は石川五右衛門に好き勝手やられているので、怒り心頭。
京都所司代だけではままならぬと重臣、三成に、三成とは不仲で有名な謹慎中の猛将、清正までを援軍として送ることに。
天下は我の者。それだけでなく、側室、茶々の生んだ実子にそれを引き継がなくてはいけない。愛する茶々の煽りや、自分への焦りが秀吉を狂わせていく。足軽時代からの秀吉を知る正室、ねねはそんな秀吉をいさめるが、なかなか男のプライドが許さないようだ。
そんなねね自身も、茶々とのプライドをかけた女の戦いを繰り広げている。
結局、盗みは見事に成功。
石川五右衛門の顔と名は世間に知らしめられる。
盗んだ茶器は、野良猫の餌入れにして、秀吉の顔を見事に潰す。
京都所司代はじめ、三成と清正は秀吉に会わす顔が無い。
ただ、三成は何かに気づき始めている。石川五右衛門の目的は、秀吉の政権を陥れることであり、後ろに誰かの存在があることを。
そして、清正は奴らを確実に捕まえる策を練り始める。
京都所司代は、あまり能が無いみたいで、ただ怒っているだけだが。
その後、五右衛門は新聞屋の力を借りて、Facebookならぬ顔本を利用して、世間に名を広めていき、どんどん、いいねを獲得していく。アカウント名は、世の声を聞く、義賊五右衛門から、GOEMON SEBUN、五右衛門 世聞。
ただ、ちょっと調子にのって、盗み中に投稿したりするものだから炎上騒ぎが起こったりするのだが。
そんな中、あの怪しげな老人の正体がついに明らかになる。
市之介だけでなく、みんな怪しんでいたみたい。
彼は徳川家の忍びの者。秀吉の政権を陥れようとする石川五右衛門を監視し、助けるという指令を受けていたようだ。
うまくいった暁には、斉藤家のお家は再興、そして、新しい世を平定するのだとか。
全てを信じるわけにはいかないが、武家に生まれた娘として、お家の再興は悲願であり、その条件を飲んで、これまでどおり、行動を共にすることに。
いよいよ、本格的に秀吉の政権を揺るがす計画に入る。
伏見城に侵入し、関白の証である金印を略奪する。
これが成功すれば、世間は秀吉に天下を任せておいて大丈夫なのかとなり、各地の武将も動き始めるはずだ。
いつも通りの手筈で、石川五右衛門以外の者が警備を引きつけ、その間に五右衛門が物を頂戴する。
しかし、この作戦が三成に全て読まれており、さらには清正が、みんなを捕えられる大掛かりな罠を仕掛けていた。
このことに気付いてしまった五右衛門は、逃げ出そうという考えが頭をかすめるが、仲間たちへの想い、そして、自分は最後まで役を演じきるのだという役者のプライドの方が勝り、自分だけが捕まって、仲間を逃がすような行動に出る。
この行動はうまくいって、仲間たちはみんな、無事に逃げのびることが出来た。
しかし、五右衛門はひっ捕らえられ、秀吉により、釜茹でという残酷な処刑を受けることになる。
仲間のことを話せば助けてやるという言葉に一切、耳を傾けず、処刑を受ける覚悟をする市之介。
このまま見捨てていいのか、そんな誰かを犠牲にして得た新しい世を本当に誇りに思えるのか。仲間たちは、苦悩の中、全てを失う覚悟で市之介の下に向かう決意をする。
盗賊集団と秀吉軍の最後の戦い。
五右衛門、市之介の運命は。そして、盗賊集団は自分たちの大義を手にすることが出来るのか・・
超大作で、はしょりまくっているのですが、こんな感じになりました。
己の大義、誇り、信念・・・のため。そこにある仲間への想いや、夫婦愛。
大義を果たすことへの男と女の考えの相違。ジェンダー。
情報社会がもたらす世相の誘導。
切り捨てにより生まれる格差社会の是非。
・・・
話の中に様々なテーマが盛り込まれているようです。
五右衛門をベースに、誇りを持った生き方の魅力を描きながら、豊臣から徳川への天下泰平の流れの史実も盛り込み、さらには今に通じる良き社会の在り方にまで言及する見事な作品だと思います。
それで、何と言っても単純に面白くて楽しい。
女に惑わされ右往左往する一方、天下に対して異常なまでの執着を見せる男の不可思議さを醸す秀吉、井上キホーさん(劇団暇だけどステキ)。ラストの権力に取り憑かれた狂気的な表情が印象に残る。
ゾクっとする女の冷たい戦いを見せながら、男への支え方に対する相違を感じさせるねね、若木志帆さんに茶々、前田夏季さん(劇団吹田市民劇場おむすび座)。二人の妖艶な踊りの対決はなかなかの見物です。
巧妙な知的さがありながら、不器用な人との接し方が災いなのか、人を従える力に欠けているようなイメージの三成、ピエ~ル松本さん。
槍回しが惚れ惚れ。かっこいい女の姿で猛将、清正を演じる宇都宮優さん。持っている力を発揮することに悩むジェンダー要素を組み込んでいるようです。
京都所司代、佐竹仁さん(お笑いサタケ道場)。役人らしく、無難に、成績を稼ぐといった汚い印象を植え付ける。成果を上げることよりも、失敗を責められないようにするといった感覚が、失礼ながら役人考えで嫌悪を抱く。もちろん、役としてで、実際はお茶目な一面を見せて、少々、場を凍らす笑いを振りまく。
新聞屋、小出太一さん。中世的なキャラにしているのだろうか。キレるというか、どこか女形のような動きで魅せる。テンポのいい喋りは心地いい。
市之介、朴友鳩さん。男を魅せるかっこいい姿。自分の信念を曲げられない男のわがままのようなポリシーを感じさせながら、男の馬鹿だなあといったところと、素敵だよなあといったところを同居させる。
怪しげな老人、多田志典さん。遊びたい放題。公演時間が長い中の20分ぐらいは、多分、この方のせいだろう。ただ、面白いから文句も言えない。一挙一動にサービス精神を込めた芸達者。
斉藤家の娘、山本誠子さん(お笑いサタケ道場)。凛とした女の強さを感じさせる。自らの力の無さを知りながらも、まっすぐ真摯に想いを遂げようと振舞う。その姿に周囲がおのずと動こうとするのかもしれない。
猛武将、稲森誠さん(シアターOM)。貫禄を活かした、忠義を尽くす戦国武将か。誰かの想いを叶えることが、自分の想いといった、人を信じる力強さと同時にそんな自分を信じて揺らがない強さがある。
科学者、たもつさん(「うしとら」プロジェクト2014)。外科医、上垣強さん(RandomEncount)。科学か化学か。ここにも、自分の信じる道への考えの相違がある。姉弟であっても、なかなかその考えは融合出来ない。思想の違いは、同じ目標を目指して、その視線が一致した時に初めて互いに認め合えるのかもしれない。漫才コンビのような掛け合いで笑いを取っている。
大工、堀真也さん(劇団暇だけどステキ)。やさおとこで、あまり前に出れない男。出ても、すぐに威嚇されたりするから。でも、自分が出来ることに誇りを持ち、守るべきものが何かを知っている強い男。そんな素敵さを滲ませていました。
その妻、宮本円さん(フラワー劇場)。肝っ玉母さんですね。何でも受け入れてしまうような懐の大きさ。庶民にとっては一番愛着の沸くキャラです。秀吉の正室、側室、女武将、武家の娘、夢を持つ科学者と色々な女性が出てきますが、各々の立場で輝いた姿を見せています。
個性的な役者さん方の魅力を感じながら、起承転結が明確な分かりやすくて惹かれるストーリーを、数々のエンタメで存分に楽しめる素晴らしい作品でした。
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コメント
ご来場頂きありがとうございました‼︎フラワー劇場宮本です(^^)
ほんと細かく観て頂いて嬉しい限りです!
久美的に懐の深さ広さが出ていたのなら良かったなと思いました。確かに色んな女性が出てくるので、台本的にも被ってはいませんが、より明確なキャラ作りは気にしていたので…と言いながら私の場合はまんまな部分が多かったんですが(笑)
いや、有難いです、ほんと(^^)
ありがとうございました‼︎*\(^o^)/*
P.S.多田さんのとこの、遊びたい放題。のコメントは、ぷっと吹いてしまいました(笑)
投稿: 宮本円 | 2014年6月29日 (日) 17時47分
>宮本円さん
コメントありがとうございます。
確かに地もあんな感じなのかなという雰囲気が(^-^;
あんまり甲斐性があるとは思えない旦那を否定せず、優しいといういいところだけを見つめてくれる久美さんがいるから、旦那はあんなに思い切ったことが出来たのかもしれません。
とても楽しく、いいお話でした。
また、どこかの舞台で拝見できることを楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2014年6月30日 (月) 11時11分