熱海殺人事件【演劇ユニット進船組&演劇空間 無限軌道 合同企画】140601
2014年06月01日 船場サザンシアター (120分)
あれっ、私の知っている熱海殺人事件じゃない。
始まって、数十分は記憶に残っていないのかなあとか、色々と考えて、おっかなびっくりの観劇。
私のこれまでに観たのはこんな熱海殺人事件。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/the-edge120122-.html)
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/the-edge120526-.html)
調べたら、たくさんのバージョンがあるんですねえ。
どうやら、今回、拝見したのは本当の初演みたいで、原点を観ることが出来たみたいです。
これから、また違うバージョンを観る機会もあるでしょうから、いい経験になりました。
そして、この初演バージョン。
男女の情念や人生の悲哀が浮き上がる、これまでのバージョンとは異なり、とても楽しい。
もちろん、同様の感情を抱かせるシーンがあり、役者さんの迫真の演技に感動もするのですが、それはどうも劇中劇スタイルで、虚構であることを明確に意識させているので、面白かったといった方が余韻として残ります。
これまで拝見した作品と同じように、偉そうで不器用な部長刑事、田舎から赴任してきた熱い新人刑事、部長刑事といい仲である婦人警官、恋人殺しの犯人が登場します。
これまでは、各々に隠された苦悩を持つ背景があり、それが徐々に明らかになりながら、殺意を明確にしていくような感じでした。
そこに、上記したどうしようもない情念や悲哀が感じられて、グッときます。
こちらは、犯人を、犯人自らも含め、みんなで立派な犯人にしていこう、事件を立派な殺人事件にしていこうとする姿が延々と描かれます。
その中で、各々の気持ちを暴露し合い、犯人が立派な犯人となり、事件が殺人事件となった時に、みんながこれからに向けて一歩、成長していたような話だったように思います。
好きなように捉えていいのなら、演劇作品など創る場に立ち会ったことなど全くありませんが、そんな感覚を得ました。
部長刑事は、これまで幾つもの作品を手掛け、経験も実績も豊富な演出家。でも、言っていることが、観念的でよく分からないことも多い。
婦人警官は、その演出家をずっと支えてきた知的な演出補佐。演出家の言葉を、時には厳しく、時には易しく噛み砕いて、きつかったり、優しかったりと飴と鞭を使い分けながら、伝えていく。
この二人は夫婦みたいな感じで、互いに冷静に言葉を分かち合うことが出来る。
新人刑事は、田舎では実績をあげている熱き役者さん。
犯人は脚本家。自らの経験を踏まえて、その想いを脚本にしたためた。でも、その脚本は、まだ事件とは言えないもので、これをみんなで殺人事件という立派な作品にまで仕上げていこうとしている感じです。
だから、新人刑事や犯人は、部長刑事や婦人警官からダメ出しを喰らい、時には反発したり、時にはいじけてしまったりします。
そして、犯人の想いが分からないので、どう演じたらいいのかと新人刑事は犯人とケンカをしたり。
要は、人を殺した犯人と、その殺意を明確にする刑事たちがいて初めて殺人事件が生まれるように、脚本を書く人と、その中に潜む想いを理解して伝える形にする人がいて初めて演劇作品が生まれるといったことが同調したような感じでしょうか。
人を殺しただけでは事件にはならないみたいな言葉が、そんな感覚を物語っているように思います。
途中、犯人はどのように犯行に至ったかのか分らなくなって自暴自棄になり、部長刑事もお手上げと呆れ、新人刑事ももうやってられないと怒り出し、婦人警官もみんな勝手だみたいに泣きわめいて、みんなに亀裂が走ります。
もう、殺された恋人の近くに死体でも転がしておいて、三角関係のモツレみたいな定番でいいのではないかみたいなことになります。
作品中の言葉を借りれば、三流の犯人像、どこにでもあるしょうもない殺人事件です。
これでは、報道されても、不謹慎ながら、見る者は心を動かされないでしょう。
ここから、犯人はもう一度、犯人や事件に対して向き合い、そこに自分の想いを込めようととし始めます。
そんな姿に部長刑事、婦人警官、新人刑事は心を動かされ、もう一度、この事件に向き合って最高の事件に仕立て上げようとするのです。
そして、出来上がった犯人、事件が、ちょうど、これまで拝見してきたバージョンの心震わせられる熱海殺人事件だったように感じます。
犯人は本物の犯人になって、この取調室から、検察庁へと向かいます。稽古場から、事件の真相を楽しみにする人たちが待つ劇場へ向うような感じでしょうか。
部長刑事は一人の犯人を育て上げ、一つまた大きな経験と実績を得ます。
婦人警官は、これまでのバージョン同じく、結婚を控えているのか、この事件を最後にこの警察の世界から身を引きます。
新人刑事は、今回の経験を踏まえ、もう一度、田舎で自分の力を発揮しようと歩み始めたようです。
と、こんな感じで、勝手に置き換えて観てみました。
まあ、どんな観方でも出来そうな作品ですが、膨大なセリフの掛け合いがテンポ良く進み、休む間なく突き進む展開に魅了されながら、面白おかしく楽しめました。
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コメント
演劇ユニット進船組
杜山ヨシノリです
昨年のD3プロデユース公演に続きご来場ありがとうございます
流石の観察力ですね
僕自身
熱海殺人事件自体をほとんど知らなかったので
自分のイメージだけで作ってしまいましたが
こういう見方も出来るし
こういう風に見えたら面白いよねと言っていた事が
伝わったのは嬉しい限りです
後は他の部分も
もっと伝えられたら良かったのですが
己の実力不足です
己の未熟さを痛感した作品でもありましたが
今後も精進していきたいと思います
ご来場ありがとうございました
今後もご都合があえば
ヨロシクお願いいたします
投稿: 杜山ヨシノリ | 2014年6月10日 (火) 22時14分
>杜山ヨシノリさん
コメントありがとうございます。
この初演バージョンはいくらでも膨らますことが出来そうで、面白い作品ですねえ。
いい経験になりました。
また、どこか違う劇団が公演される時も観て、色々と比較してみたいなあと思っています。
また、どこかの劇場で。
ご活躍を楽しみにしております。
投稿: SAISEI | 2014年6月12日 (木) 12時56分