はなの台ふき おなかごしのリリ【コトリ会議】140531
2014年05月31日 アイホール
おなかごしのリリ(75分) はなの台ふき(85分)
両作品とも、狂った面白さのある話。
独立した作品みたいだが、両作品を観て、何となく下記のような感覚が浮き上がる。
辛い時に、死へ逃げる、自分の世界に逃げる。
こういうことをすると、どんなことになってしまうのかをシュールかつコミカルに描いている感じ。
そして、結局、向き合わなかったことは過ちであることを感じさせ、そこに自分の家族を含め周囲の人たちの想いを無視していたからなのだという反省が浮かぶようである。
死ぬな、逃げるなというメッセージ性はあまり感じられない。
でも、そうするとこんなことになるよということを飄々と当たり前のように突きつけてくる。
だったら、生きるしかない、向き合うしかない。
そんな、消去法的な感覚が、気味悪さを残すのかもしれない。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は本日、日曜日まで。2本立てなので、各1回しかありません>
・おなかごしのリリ
舞台は人の住んでいない山小屋の一室。
テーブルの椅子に座る男女6人。
三角頭巾を付けている。
前説も兼ねて、説明が入る。
集団自殺をして、死んでしまった人たち。でも、一人だけ死にそびれた人がいる。言い出すタイミングを失って、居心地悪そうに誤魔化しているみたいだが、一人だけ三角頭巾を付けていないので、みんなも分かっているけど、気を使っているみたいな状態。
微妙なバランス。気を使い、使われの人間関係。死んでも、現世のしがらみからは抜け出せないのか。
この集団自殺を企画したリーダー格の女性。何やら、言動が新興宗教の教祖的な匂いを醸す。おなかに子供がいたのだとか。
自意識が高そうな女性。死んでも順列を意識し、こうあるべきみたいな考えをしっかり持ち、流れに身を任せるのが苦手そうな感じ。
ほんわかしており、皆から愛されそうだが、気遣いに気苦労が絶えない雰囲気が漂う女性。
モテモテだったのか、女への執着が尋常ではなかったのか、男女関係では色々ともつれながらも、うまいことやっていた男。自意識の高い女性とほんわかした女性とは三角関係だったみたい。そして、上記した死にそびれた男である。女の遺書を探し、自分がどう思われていたのかを気にしていたり、一人だけ生き残ってしまって、申し訳ないと思ったのか、みんなを土にきちんと埋めたりと、人は悪くないみたいだ。
追い詰められて自殺に至ったみたいで、死んで解放された自分に安堵と希望を抱いているかのように現状に光を見出しているような男。
集団自殺の際に、一人だけ逃げようとしたことを気にしているのか、テンションがすっかり落ちている男。溺愛していたペットのカメの命が尽きたことが、自殺へと動かしたみたい。
そんな6人が、生の辛さや中途半端さを語りながら同調し合い、死んだことへの正当性を見出そうとしている。
有り余る時間を使って、6人は各々、好きなことをする。
エビの密猟をして水底に潜り、やがては地球をもすり抜け、宇宙に繰り出す。
そこで、SEXをして、宇宙人に頭に触角という改造を施される。
温泉に入り、みんなで宇宙に行って、文字通り、星になろうと談義する。
宇宙の女神が現れ、昇天に使うのか、しばき棒を残して立ち去る。
・・・
シュールというのか、何のことやら分からないが、会話から浮き上がることは、死によって失われてしまった生。
今、幸せだと感じ合う死んだ者たちに、生を捨てたことで、取り戻せなくなったことを、緩やかに厳粛に突きつけていくような感じ。
親のことや、先に死んでしまった者が残された者に抱いていた想い、これから生を与えられるはずであった者からの言葉が、生きている時は、幾つもの選択肢をもって道を決めることが出来たのに、死んだから、道は天へと向かう一本道しか無くなったようなことを思わせる。
死ぬということはそういうこと。同時に生きるということもそういうことみたいに、当たり前の感覚を得る。
要は、死という選択さえしなければ、生は失われず、何かやっていけるんじゃないのって感じ。
・はなの台ふき
ある一家の話。
母親が宇宙だとか、コスモパワーだとかにはまり、家族にジワジワと圧迫感を押し付けている。
お姉ちゃんは、心を病んで、躁鬱傾向が見られるようになっている。今は、日々、公園を掃除しながら、子供に取り憑く鬼の邪気を祓うとか訳の分からないことを言っている、単なる無職男に心頭してしまっている模様。何処かの出版社に直接電話しては、自己啓発みたいなお高い本のセットを頼んだりして、精神バランスを保っているようだ。
父親は、定年間近にも関わらず、ある日、会社からの帰り道に、電車に乗れなくなる。いわゆるパニック障害だ。普通は、会社に出勤する時になるものだが、まあ、原因がそこにあるということだ。
妹は大学に通いながら普通に生活していたのだが、ついにこんな家族に限界がきたのか、彼に連れられて心療内科に行く。詳細な病名は分からないが、まあ、鬱状態だということだ。
明らかに崩壊が始まっている家族なのだが、各々に主張があり、それが共鳴しない。
誰も、家族を壊したく無いと思っているし、辛い想いなんかさせたく無いと考えているはずなのに。
母は、事の要因が自分にあるとは思っていないのか、宇宙のパワーが足りないと嘆いているし、父は幸せだった頃の家族のアルバムを見ながら回想にふける。
姉はすっかり無職男と通販に夢中で、周りが何も見えていない。
こうなっては、唯一、まだまともな妹の心の拠り所は彼だけだが、最初はかなり気を遣って家族に接していたものの、遂に逃げ出してしまう。
そんな中、姉が母の宇宙の話を戯言だと言っていながらも、メモっていたものが出版社の目を惹き、母は一躍、有名人となり、絶大な権力を得る。
家族にはお金も入ってきて、父はもう無理して働くことは無い。
あの無職男も母のマネージャーという職を得る。
妹の彼氏も母の権力により、無理やり連れ戻され、軟禁状態で家に置かれる。赤外線センサーも付けたから、もう逃げ出すこともあるまい。もっとも、この家自体が、宇宙人の侵略から守るためなのか、巨大な壁で覆われ始めたので、どこに行くことも出来ないが。
母は、世界を駆け巡り、宇宙の素晴らしさを語っているようだ。届く手紙からは、もはや単なる宇宙を語るロボットのようになって、自由を完全に失っているようだが。
姉は躁から鬱に転じたのか、自分がした行いが、家族を不幸にしたと現状に怯えている。
家族の行方は・・・
こちらも、後半になるに従って、家族の崩壊と同じように、話が壊れていき、わけが分からなくなる。
笑っていいものなのか、精神障害からくる異常な言動や、新興宗教の非常識な説法や儀式が面白くて仕方が無い。
ただ、観劇しているだけだから、もちろん何も出来ないのだが、こうしてお気楽に笑っているだけでどんどん壊れる姿はそれだけで怖いものだ。
作品名の台ふきは、この家族がこれまで食卓での様々な出来事の中で出てきた汁を拭いたものであるようだ。初めて娘が作ったオムレツのソースやら、父の血やら・・・
いわば、この家族の匂いで、拷問に使えるくらいに臭いみたいだが、家族にとってはこれまでの長年の歴史を刻んだ尊きもの。
こんなもの、漂白剤にでも漬ければ一瞬で色も匂いも消えるのだろう。それに家族はずっと執着していた。もっと本質的で、絶対に消し去ることのできない大切なものがあっただろうに。
家族が本当に長い間積み上げてきて、刻み込んできたものは、何だったのか。
それを誰もが見出せなかった結果がこの悲劇を生んだように感じる。
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