風のピンチヒッター’14【吉本新喜劇 佐藤太一郎企画】140625
2014年06月25日 道頓堀ZAZAよしもとライブ (130分)
いやあ、凄かったですね。
吉本新喜劇という言葉だけで、関西人は、その面白さは信じて疑わないものですが、それだけでなく、こんな素敵な芝居を観ることが出来るとは。
話自体はベタくさい、ご都合主義の展開なんですが、そこに躍動感に溢れる熱さがあって、もう話に引きずり込まれてしまいました。
これが芝居なんでしょうね。
観終えて、得られる爽快感。
楽しい時間を過ごせたことに幸せいっぱいです。
<以下、あらすじを書いたのでネタバレしますが、有名作品なので検索すれば、たくさん出てくるので白字にはしていません。ご注意願います。公演は土曜日まで。チケットはほぼ完売らしいですが、キャンセルもあるでしょうから、問い合わせてみてください。とても楽しく感動する作品ですので>
話はミナミという男が、高校時代を回想する形になっている。
弱小野球部が、仲間たちと共に、奇跡を信じて疑わず、がむしゃらに戦いに挑んだ、あの暑かった夏の日。
あの頃の仲間は、各々の道を進み、まだ何らかの形で野球に関わっている。
もう会うことが出来なくなってしまった仲間もいるが、自分たちが愛した野球を通じて起こした奇跡は今でも心の中に熱く刻み込まれている。
何であんなに馬鹿で、あんなに一生懸命で、あんなに想い合って、あんなに素晴らしい思い出を得ることが出来たのだろう。
あの頃の友達は、もう作れない。
大人になったミナミは、あの頃の仲間たちに語りかけるように、自分たちの誇らしい一時を思い起こす。
高校生のミナミが、三高に転校して来た日から話は始まる。
父親が阪神の二軍選手。あまり活躍出来ず、ついに自由契約に。でも、諦めずにテストを受けて近鉄の選手になった。体も限界にきており、引退までのわずかな時をピンチランナー、風のピンチヒッターとしてチームに貢献し、自分自身も最後まで野球を楽しむつもりらしい。
今回の転校も、そんな事情だ。
ミナミは、野球の方は、あまり、と言うか全然下手くそなのだが、野球を愛する気持ちは誰にも負けない。
入れてもらえるか分からないが、野球部に入れればいいなあと思っている。
そんな、ミナミと同じ日に転校して来た、キタカゼ。
彼は一高という、文武両道の名門高校から来たようで、そこの野球部で、エースピッチャーとして活躍していたらしい。
その噂は、当然、三高の野球部にも伝わっており、何とか野球部に入ってもらおうとキャプテンは画策している。
と言うのも、三高の野球部はみんなから馬鹿にされる超弱小チームで、未だかつて勝利したことが無いどころか、点を取ったことも無い。その上、キャプテンがちょっと熱意が大き過ぎるのか、部員たちに反発を起こされ、今はキャプテンと1年生のキャプテンをキャプテンと思わないようなマイペースで調子のいい男、やたら元気がいい女子マネージャーだけが残っている状態なのだ。
もう廃部寸前の野球部なのだが、今の管理教育や勝てばいいという精神に反発し、自主性を重んじ、相手に敬意を持って、卑怯な真似はせずに戦いを楽しむという武士のような魂を持つ剣道部顧問だった女教師が監督になってくれることで、廃部を免れている。ただ、この女教師、野球は全く知らず、精神論だけで勝負している。
キタカゼには是非、入部してもらい、実力的にも甲子園を目指せるチームであることをアピールして、部員達にも戻って来てもらい、そして、これまでの汚名返上といきたいと考えている。
ところが、キャプテンがキタカゼをミナミと間違えてしまい、ややこしいことに。
ミナミをエースピッチャーだと思って入部させてしまった。
それに、キタカゼは、自分が投げたデッドボールで相手選手に目を怪我させてしまい、野球人生を奪ってしまったトラウマから、もう野球をすることが出来なくなっている。
キタカゼは、もう野球部に入ることも、野球をすることも無いと、みんなからの期待には応えられないことを告げる。
一方、お金持ちの集まることで有名な星上高校の、理事長の娘や野球部の監督は、キタカゼが三高野球部に入部することを脅威に感じており、汚い手段でそれを阻止しようとしてくる。
転校生が入部したという噂を聞きつけ、女子マネージャーを襲い、それを助けようとした三高の札付きの悪の写真を撮り、連盟に写真を提出して甲子園地区予選を出場停止にされたくなければ、転校生を退部させろと迫る。
とんだ誤解で退部の危機に追い込まれてしまったミナミは、せっかく入部できたのにと途方に暮れる。大好きな野球をしたい。でも、自分が退部すれば、とりあえずは野球部の危機は免れる。一人が犠牲になり、みんなを助ける。でも、そんな汚いことは、許されない。
これは誤解なので、キタカゼは理事長の娘に直談判し、野球部に入ることは絶対無いことを約束し、退部を撤回してもらうことで一段落つく。
この事件の張本人である札付きの悪は、みんなから恐れられているが、実は意味も無く暴力をふるったことは一度も無い。誰かを助けるため、卑怯な奴を倒すため。それ以外で、手を上げることは絶対にしない。今回も、マネージャーを助けるためだから、手を上げただけ。
それは亡き父のことが影響している。彼の父も野球選手で、けっこうな活躍をしている有名選手だったが、覚えのない八百長疑惑が持ち上がり、教会やマスコミに追い込まれて自殺してしまったようだ。
女監督は、彼に父の意志を継いで野球をしようと誘いかける。ケンカの時に彼が投げるナイフのスピード、コントロールから、ピッチャーとしての素質を見抜いたらしい。
冗談じゃないと断るが、卑怯なことはしないという武士魂が二人の心を通わせたのか、監督の剣と彼のナイフを交えた戦いで、互いに認め合い、ついには入部を決める。
色々な噂を聞きつけ、部員たちが戻ってくる。どうにか9人ギリギリ揃いそうだ。
でも、問題がまだ2つほど残っている。
一つは、キャプテンと部員たちの確執。部員たちが突きつけた条件は、キャプテン交代。
反意を示すキャプテンだが、野球部は辞める気は無いという条件と引き換えにキャプテンの座を降りることに。
新キャプテンは色々と揉めたが、誰にとっても当たり障りのない唯一の1年生が選ばれる。
腐ってしまう元キャプテン。そんな元キャプテンをキタカゼは、ある試合に誘う。
それはミナミの父親の引退試合。
9回裏、試合が終わる直前に代走として出場したミナミの父。彼の走る姿は、誰よりも野球を愛し続けたことが分かる輝くものだった。
キタカゼは、昔、いじめられていた頃に、ミナミの父の走る姿から勇気をもらったらしい。
今、最後の走りを見せるミナミの父から、元キャプテンも自分が何で野球をしているのかという答えと大きな勇気をもらったみたいだ。
そして、後一つ。
医師やら東大卒やらを輩出している名門家出身の部員。
当然、普通はエリートの揃う一高に入学する。でも、残念ながら、ここ三高にしかいけなかったらしい。
そのことをずっと母親から責め続けられている。とても怖い人なのだ。
せめて、ここではトップだったらいいのだが、野球が大好きなので、そちらにのめりこんで、学業はちょっとおろそかに。だから、野球部に入ることなど許されるわけがない。
これまでは、ガリ勉で有名な女の子が、彼に心を寄せているらしく、彼女の計算高い計らいで野球部の練習を続けられていたのだが、ついに母親にそれがバレてしまった。
彼は、連れ戻そうとする母親に初めて反抗する。
勉強もする。必ずトップになる。だから、好きな野球も続ける。
自分の本当の気持ちに真摯な彼の態度には、あの恐ろしい母親ですら引き下がるしかなかった。
そして、期末テストで彼は本当にトップの成績をおさめる。
まあ、いつも一番のガリ勉の女の子が、わざとその一位の座を譲ったという話もあるのだが。
色々とあったが、ついに地区予選を迎える。
ところが、新キャプテンのくじ運の悪さで、初戦が何とあの名門、星上高校。
甲子園へなんて盛り上がっていたのが、一瞬で冷めてしまう。
やる気を無くす部員たちに、元キャプテンが、懸命に訴えかける。
悔しくないのか。負けることなんて分かっている。でも、一点だけでも取ってやろう。馬鹿にされてきた自分たち。見返してやろう。
そのあまりにも大き過ぎる熱意で、一度は彼の下を去り、戻って来ても彼を否定してきた部員たちだったが、最後はその熱意に心を動かされる。
やってやろう。そして、キャプテンはやっぱりお前しかいないんだと。
試合に向けて練習に取り組むみんな。ミナミも頑張りはするものの、全然、上手くならない。
部員たちはキタカゼに直訴する。
野球部に入ってくれ。そして、みんなのコーチになってくれ。
投げることが出来ないならそれでいい。でも、ずっと自分たちの練習を影でずっと見続けている、野球を愛するお前は野球部にいないといけない。
キタカゼはみんなの想いを受け止め、野球部に入部する。
これで10人。1人補欠だ。必然的にミナミになってしまいそう。
でも、ミナミは笑っている。大好きな野球を、大好きな仲間たちと一緒にみんなで出来るのだから。
試合が始まる。
札付きの悪の能力はやはり凄かった。
5回までを無安打。ただ、三高の方も。
ところが、急にピッチングが崩れる。右腕の負傷。
実は前日、星上高校から、また汚い仕打ちを受けていたのだ。
夜、居残り練習をしていた時、襲撃されたらしい。その場にいたミナミは、そのことを口止めされていたようだ。
あっという間に10失点。
次の回で1点取らないとコールドだ。
奇跡が起こる。これまでヒットすら打ったことのない選手が、まぐれ当たりのホームラン。
コールドを免れた次の回。
もう札付きの悪は投げることが出来ない。となると、投げることが出来るのはキタカゼだけ。
無理だと拒絶するキタカゼの目に、自分が怪我をさせてしまった選手の姿が映り込む。応援に駆け付けてくれていたのだ。
自分は投げていいのだろうか。いや、投げたい。野球を楽しみたい。
マウンドに上がったキタカゼの球は、かつてと劣ることないもので、次々に三振を奪う。
今度は攻撃だ。
星上高校の監督。勝てばいいという考えで厳しい人。しかめっ面をしているが、サインを出すときにそのまま口が動く。
それを読み取り、連続ヒット。まあ、少々汚いのだが、向こうはもっとひどいことをしてきたのだから、これぐらいは。
あっという間に逆転。
9回表。ここを守れば勝利だったのに、緊張でエラー頻発。逆に1点の逆転を許す。
9回裏、ここでかっこよくホームランでもといったところだが、そう甘くは無い。
あっという間に二死。最後のバッターはキタカゼ。
ところが、約束を破った戒めなのか、デッドボールを喰らう。
乱闘騒ぎになりそうになるが、キタカゼがそれを制する。そんなことどうでもいい。逆転のランナーが出た。
でも、自分は走れない。
ピンチランナー、ミナミ。
彼は走る。カッコ悪く、鈍足な足で。次のバッターが札付きの悪だったので、俺が打ってやるからじっとしてろと言っているのに。
そして、気付けばホームベースに彼の手はタッチしている。
同点で迎えた延長戦。もはや、戦う力は残っていない。星上高校にボコボコにやられて、ゲームセット。
でも、必死に戦った。大好きな野球を、みんなと一緒に、思う存分楽しんだ。
彼らの顔は誇りと自信に満ち溢れていた・・・
何かめちゃくちゃ長くなってしまった。
筋が明快なんでしょうね。だから覚えているままに書いたらこんなことに。
さすがは吉本新喜劇だけあって、さむ~いネタも含めて、あらゆることを笑いに変えながら、テンポよく話を展開させます。
観終えた後の達成感。
ただ、観ていただけなんですが、自分も一つの戦いをきちんと見届けたという心地いい気持ちが残ります。
それだけ、話に惹き込まれていたのでしょう。
楽しかった。そして、感動しました。
普段、お見かけすることの多い関西小演劇界の役者さんが大活躍で嬉しいですね。
キャプテンの森崎正弘さんなんて、自劇団では、自由なお二人を抑える感じのイメージですが、ここでは解放されたかのように熱さ剥き出しの姿。かっこいいなあと。
キタカぜ、田渕法明さんのクールな雰囲気をしっかり押さえつつ、心にともる炎を感じさせる素晴らしい演技。行澤孝さんと片岡百萬両さんは、息の合った掛け合いで自然な楽しい空気を創り上げる。
怖いお母さんの山本香織さんは、貫録の雰囲気で舞台の空気を一変。
ガリ勉女の四方香菜さんは、可愛らしをアピールした上に、あだ名のしたたかさんにふさわしく、飄々とした騙しを魅せる。
マネージャー、塩尻彩香さんは、いつからこんな弾けキャラがはまるようになったのか、引いてしまうぐらいの笑いを醸す。
女監督、春野恵子さんは、とぼけていても、凛とした迫力で心に迫ってくる。
・・・
他の方も全力投球で、ほとばしる汗が輝き、その目の輝きが美しかったですけどね。
そして、佐藤太一郎さんとレイチェルさんでしょうか。やっぱり、プロは凄いよなあと。面白いだけでなく、その演技も力を感じますからねえ。
いい作品を観れました。
楽しい。
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