絢爛とか爛漫とか【Contondo】140503
2014年05月03日 阿倍野長屋 (130分)
文士を目指す4人の女性の嫉妬や葛藤を描きながら、深く結ばれた友情の中で互いに成長していくような姿を魅せる話。
昭和初期という、女性が活躍するにはまだ苦難が多かったであろう時代。
そんな時代においても、苦悩や挫折を繰り返しながら、明るくエネルギッシュに、時には女性らしいあざとさも見せながら、未来へ向かって進んでいく女性の力強くも美しい姿が映し出されている。
とても、鮮やかで凛とした心情表現が生み出す、独特の空気感が心地よい。
四季のエピソードで話は紡がれているが、舞台セット変わらずとも、外の空気を変える。
2時間で四季を本当に体感したかのような臨場感が得られる。
こだわりの舞台か。音なども非常に大切にしている感じ。
姦しい女性たちの会話からは、何かをしようという心に溢れていて、力強さを感じさせながらも、それでも人間の弱いところも見せ。
懸命に生きて、新しい時代を創り上げようとする女性たちの姿から、その時代のエネルギーが感じられるような心に響く作品だった。
<以下、少々あやふやですが、あらすじを書いているのでネタバレにご注意ください。既成脚本でネットで調べればある程度出てくるので白字にはしていません。公演は月曜日まで>
舞台は、昭和初期を生きる文香という女性文士の部屋。
母屋があって、文香はこの離れを与えられ、仕事部屋としている。
使用人の男もいるみたいで、けっこう裕福な家の出なのだろう。いかにも昭和の乙女といった雰囲気は、新しい時代に微妙に抵抗する伝統や儀礼を重んじる堅苦しさを感じさせると同時に、色々な人に見守られている甘さもうかがえる。
昨年、ある雑誌に作品が掲載され、小説家デビューを果たすが、次作がなかなか出来ない状態にあるらしい。
季節は春。少なくとも夏には次作をまた雑誌に載せないとかっこがつかない。と、昨年の冬には春には・・・みたいに言っていたみたいだが。
どうも、書きたいことを書こうと思っても、どう批評されるとか、他の人とどう比較されるかなんてことが気になってしまって、筆が進まないみたい。
そんな部屋に、文士を志す仲間が集まって、何やらジャズダンスの練習をしている。文香も嫌々ながら、付き合わされている様子。
ダンス指導をしているのは、この昭和初期にはいかした格好でまさにモダンガールといったまや子という女性。いいところのお嬢様みたいで、男爵の血筋の男と付き合っているのだとか。まあ、実際は男の方は浮気性みたいで、こちらも自由気ままに色々な男と遊んでいる。でも、しっかり貞操は守っているみたいだが。見た目ほど軽くなく、評論家を目指しているだけに、なかなか鋭い言葉を投げかける。
まあまあ、乗り気で楽しんでいるのは、すえと薫。
すえは綺麗で美しい母とあまりうまくいかなかったらしい。でも、父はそんな母を愛し、本当は娘である自分も美しさを備えて欲しいと思っていると思い込んでいるみたい。コンプレックスだろうか。美しいという点では少し離れているものの、どこか掴みどころが無い天然の純粋さに、何か狂気的な異質感を感じさせる魅力的な子なのだが、自分ではそれに気付かないものなのだろう。今は、家を出て、一人で頑張っている。そんな父への想いが作品に込められているのか、耽美文学というジャンルで名を馳せる文士として活躍している。
薫は自由気ままに、何でも受け入れてしまうような奔放さを持つ。まだまだ、女性とは受け身で男の前には出ないものなんて時代だっただろうから、ずいぶんと今風の感覚で行動しているみたい。いわゆる才能に恵まれた天才肌みたいで、気楽になかなかの作品をすぐに創り上げてしまう。この子もいいところの家出身で、働く必要も無いのに、なぜか八百屋できつい仕事をしながらの執筆活動をしている。
これから、ダンスホールに繰り出すことになっている。
すえがそこの日本人なのにジョニーと名乗る男に恋をしたので、その応援のためにみんなで一役買おうということみたい。
幸い、そのジョニー、文香の作品のファンらしく、引き寄せるには都合がいい。文香と会えば、どこか芋臭い彼女より、すえを気に入ってめでたしめでたしという、文香にとっては噛ませ犬のようなひどい話だが、そんな計画になっているらしい。
納得いかず、色々と言い合いになるが、4人の乙女たちはダンスホールへと出かける。
季節は夏を迎える。
伊豆の避暑地でテニスにゴルフとバカンスをなんて、文香の部屋にいつものとおり、3人が誘いに来るが、文香はそれどころでない。
何でも、アイス、ラムネ、氷・・・とバカ食いしたらしく、当然のごとく、おなかがえらいことになっている。
不浄に何度も立つ姿は、乙女としてはあまりの失態だ。
そんなイライラの中で、薫の新作が雑誌に載ることを知る。それも結末が無いという前代未聞の作品。
しかも、まや子まで、小説をちょっと書いてみているのだとか。
生みの苦しみに季節を越えてまで悩まされる文香にとっては、激しい嫉妬と卑屈な気持ちが浮かび上がる。
春のダンスホールでは、ジョニーは何と文香をお気に入りになった。でも、そのことは何にも小説を書くのに力と出来なかった。フラれた形になったすえは、その経験を活かして、また自分の怪奇小説にその想いを込めて、いい作品を創っているというのに。
結局、自分は文士には向いていない。みんなのようには出来ない。
もう文士を目指すのを辞めると暴れ出す。手が付けれず、みんなは放って、伊豆へと旅立つ。
秋。
部屋ではパーティーの準備が始まっている。
まや子はシャンパンなんてシャレたものを。酒好きな薫のためにも一升瓶。
すえは何やらおしゃれなお菓子を持ってきている。
文香がようやく脱稿したらしい。
今日はそのお祝いだ。 安心したのか、さすがに今日の文香はご機嫌がいい様子。
ところが、薫が衝撃の発言をする。結婚して、ブラジルに移住して、コーヒー園で働くというのだ。
もちろん、文士への道は辞めることになる。
自分より才能がある、苦労なくいい作品を創り出す薫。どうして、そんなに簡単に夢を捨てられるのか。
脱稿した作品だって、本当は自分が書きたいものではない。どこかの作家のアイディアをベースに、焦って創ったもの。
薫に憧れ、嫉妬して、焦らされ、創った作品。
自分の想いなど何もこもっていない、意味のないもの。
薫というかなうこともないライバルがいることで、才能の無い自分を奮い立たせるように必死にやってきたのに、そんな簡単にとぶつけようの怒りをぶちまける。
そんな中、電報が届く。
すえの父親危篤の知らせ。
夜行列車に乗せるために、まや子と薫はすえを駅まで送る。
残された文香は、机から薬瓶を取りだし、それを飲む。ベロナールという睡眠薬。
それを見た使用人に辞めた方がいいと言われるが、もう依存症になってしまっているみたいだ。
そして、寂しさからか、使用人に離れに一緒にいてくれと言い出すが、使用人は逃げ出してしまう。
冬。
薫は無事にブラジルへと旅立った。
すえは、父を亡くし、残された母と話を色々としたみたいだ。
不仲だった母だが、自分の文士活動を応援して、父に色々と口添えをしてくれていたらしい。母のショックは大きく、しばらくは一緒にいてあげることにしたみたいだ。
部屋には残された二人。
文香はベロナール中毒から立ち直り、今は健康的な生活を送っている様子。
そして、ついに自分でも納得する新作が完成した。4人で過ごしたこの1年のことを思いながら創ったらしい。 かんざし職人と花魁の話。
自分の才能に絶望して身投げをしようとしていたら、何やら不思議な道具を手に入れた職人。その道具で作ったかんざしは多くの女性から人気が出る。
やがて、想いを寄せる花魁に一緒になりたいと言われ、そのかんざしをプレゼントしようとするが、花魁には別にいいところの旦那が付いていることを知る。
騙されたと思い、もうかんざしを作るのを辞めようと、不思議な道具を全部捨ててしまう。そして、最後に昔、出来が悪く絶望していた頃の道具でかんざしを作る。当然のようにその出来はひどいものだった。そのかんざしを別れの印に花魁に渡し、職人は隠遁生活を送る。
ある日、水揚げが叶い、自由の身になったその花魁が職人の下を訪ねてくる。その頭にはあのかんざしが付けられており、一緒になって下さいと・・・
技術や才能ではない。自分の想いを込めて、真摯に向き合って出来たかんざし。多くの人に認められなくても、それに心響かせる人がいる。
自分のやりたいことを見詰め、それに対して真摯に向き合って創り上げた作品。それはかんざしと同じように、人の心を響かせる作品になったみたいだ。
まや子は結婚するらしい。数々の男とお付き合いをしていたみたいだが、結局は男爵の血筋を引く男と。
でも、その男爵、浮気性がたたって、家を絶縁されたらしい。
今は無一文の宿無し男だ。
そんな男と結婚する。
男は、そんな状態になって、まや子にふさわしい男でなくなったことをひどく悔いたらしい。
その姿に、男がまや子に寄せる真の想いを見出したのだろう。
文香にもちょっといい人が。
ベロナール中毒の時は手厚く看病をしてくれて、いつも見守ってくれた使用人の男。
文香も彼が自分に少し気があることには気付いている。
告白してみようかしら。
薫はブラジルで新しい人生を。すえは長年の母とのしがらみが解消され、これから家族との新しい人生が。まや子は苦労しそうだが、本当に想ってくれる人と一緒になる。
みんなの幸せな姿に、何かテンション上がったのか、そんなことを言い出し、実行するのだが・・・
何でもかんでもうまくはいかない。軽くふられる。使用人には、もう1年も前に見合いをして、田舎で一緒に暮らすことになっているいい女性がいるのだとか。
いい作品が出来上がった。そして、これからも自分の想いを託したいい作品を創れるようになった。女性文士としては、それ以上望んではいけない。一人で強く、自分の想う女性文士を目指して、どこか切ないところがあるが、覚悟を決める凛とした文香の姿が映し出される。
ちょっと毒があるラストだが、人生そんなものだよなっていう、これまでの紆余曲折した姿を思い浮かべながら、苦笑いの中にも温かみを感じるような終わり方だろうか。
言い合いをしたり、励まし合ったりと本気でぶつかり合う四季の出来事。タイプは全く違うが、みんなエネルギーに溢れている楽しくも温かい乙女の姿を見てきているので、冬の二人だけのシーンはちょっぴり寂しくなる。
また、4人で集まれればいいな。
そんなことを思ってしまうような感覚を得る。
実際は、演劇作品らしく、冬は途中から、すえも薫も部屋に登場する。もちろん、見えなき姿としてだが。
離れていても、気持ちはそこに残る。
文香とまや子の会話を、すえと薫は聞きながら、二人を見詰めている。
本当の心を通じ合わせた4人の姿が映し出される。
時代背景を考えれば、恐らくはもう4人で集まることはきっと無いのだと思う。でも、この部屋で文香によって生み出される作品には、ずっと4人の想いが思い起こさせられるような気がする。
4人の女優さん方のたたずまいがとても魅力的。
と言っても、ある意味、4人の女子トークみたいなものだから、そんなしっとりお上品とかじゃなくて、どちらかといえばお下品でワイワイやかましく、我の強さが垣間見られるきつさがあるのだが、不思議と優しいとか温かいという言葉で皆さんを表したくなる。
長屋という場所の影響もあるだろうが、ノスタルジックで温かい空気は、役者さん方のそんな雰囲気も大きいだろう。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント