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2014年5月11日 (日)

月がみていた話【ニットキャップシアター】140511

2014年05月11日 八尾プリズム小ホール (105分)

ごまのはえさん、泊篤志さん、イトウワカナさんの脚本で、6つの物語を紡ぐ公演。
月が、地球での人間の生を見詰めて描いたような話が連なり、そこには人の犯した罪のようなものが浮き上がる。
そして、最終的に月が下した人間への罰を見ているかのような、少し残酷な感覚が残る。
悔い改め、もう一度、人間の素晴らしい姿を見てもらわないといけないのではないか。
確かに人間は、醜い一面があるし、生きることに不器用だったりするし、命をおろそかにするし、戦争で命を奪い合ったりする。でも、未来に向けて、必死に生きたいと力強く願う姿も、また一つの姿であり、それは必ず、輝く地球の未来を創りだすのだと。
そんな厳粛な気持ちが心に残る作品だったように感じる。

・月と国境

休戦地帯の国境で出会う互いの国の兵士。
男兵士はもう何年もこの地で暮らす。もしかしたら、国からは忘れられているのかも。
女兵士は新任。1年の任期でこの地を去る予定。
休戦中の互いの国の兵士が、1年間、共に暮らす。
その意味は・・・

いきなりえらいブラックでびっくり。
今は休戦中だが、互いの国の上層部は戦争をしたがっており、そのきっかけを欲しがっているみたい。
共に暮らせば、何かは起こる。
実際に蛇に噛まれそうになった女兵士が焦って発砲。銃弾が不慮に男兵士に当たる。
これで、戦争開始成立。国同士はいきなりいがみ合う。
そうなれば、一緒に仲良くしていこうとしていた人同士もおかしくなる。
女兵士は、自分の任務のごとく、男兵士にとどめを刺し・・・
何ともやるせない、月も情けなくて涙するような話だ。

・先生のお葬式

父が亡くなり、娘とその夫が喪主となる。
娘はあまり実家に帰っておらず、父と会うのは久しぶり。
変な宗教に入っているのか、お渡し様とかいう神様みたいなものがやって来るまで、遺体は顔を隠され安置されるみたい。
参列者がやって来る。
みんな、父のことを先生と呼び、とてもお世話になったと言っている。
そんな話を聞いて、父の人生が浮き上がる。
電車の中で席を譲ったことで尊敬されていたり、ゲーム課金地獄に苦しむ人を助けて感謝されているようなところまでは良かったが、そのうち、店の女にかなりの額をつぎ込んでいたりしていたことが発覚。店の出資金を渡していたばかりか再婚の話まで進んでいたのだとか。
さらには、選挙違反となる軍資金をある国政に乗り出す新人議員に出資。
妻とは離婚。そのために、妻に男をあてがうようなことまでしていたらしい。
処理しきれない父の過去が明らかになったところで、お渡し様がやって来て、父の顔が・・・

最後、各々の人が父の顔を見ても分からない。人は、色々な顔で、各人と接しているのでしょうか。
だとすれば、本当の自分の顔で死ぬことも出来ないのか。
生まれてからずっと仮面を被っているなら、自分の正体はどこにあるのか。自分の顔は無く、誰かが作り出した顔で生きているのか。
思いのままの行動をしてきたかのような父でも、本当の自分としては生きられなかったのかなといった感覚が妙に寂しさを覚えます。
月も人の生き方を不思議に思っていることでしょう。

・死んでもいい

自殺をしようと集まる若者5人組。
今、流行りの練炭自殺を試みたみたいだが、失敗に終わったみたい。
みんなで生きることを語り始める。
もう一度、死へと進む気にもなれず、また今度みたいな話になるが、一人の女性だけはその場に残り、・・・

何かボーっと観ていたので、よく分かりません。
死への決断の緩さみたいな感じでしょうか。
作品名のように、死んでもいいかなぐらいの、死への境界を越えることへの抵抗の緩さが伺えます。それだけ、生が確固たるものとして受け止められていないのでしょうか。
彷徨っているような不安な空気が、悲しい気持ちになります。
長きに渡り、地球の生命の歴史を見てきた月は、そんな命を軽く考える未来ある若者の姿を見て、人類の終末を頭によぎらせるのではないでしょうか。

・最期のチキン

家の外で鳴り響く銃声、戦闘機飛行音、爆撃音。
車椅子の父。ロボットの母。
想いを寄せる人が前線に向かい悲しむ姉。いつかは戦地へと赴くことが約束されている弟。
死んだ街の人たちは、料理され食卓へと運ばれて、それをチキンと言い聞かせるようにけっこう、おいしいらしく家族は食べている。
父は、向こうがこの国の土地を侵略したので、奪い返したので戦うのが当たり前だと言っている。
姉や弟は、事実はその逆だと聞いているが、どちらが正しいのかは定かでは無い。
戦争の是非。
あなたは、家族よりも、この土地の方が大事なのですか・・・

戦争で足に障害を負ったにも関わらず、戦争を是と主張する父。それに、黙って従うロボットのような母。
おかしいと感じていても、生きるために戦争を否定できない姉弟。
いつ死ぬか分からないという発狂しそうな状況なのに、日々の時間は普通に過ぎる。
戦争が日常生活に完全に溶け込んでしまっている異常な世界が怖い。
日々の食事が最期の晩餐となり得る。
そんな世界を、生きるためという大義名分の下に許容し、惰性で過ごす人間。
月は、もう地球も人類も終わりかもしれないと判断せざるを得ないのではないか。

・ボニー&

赤子を抱えた女がひたすら走る。
迫る追っ手から逃げ、新しい生活を手に入れるため。
でも、赤子は泣き叫び、泣き止もうとしない。
口を手で抑えるが、これからの生活を二人で生きようと思っている女に、赤子の命を終わらすことは出来ない。
何も言わず、夜空に輝く満月に女は・・・

これまでの話の流れから、自ら、死へと向かっているような人間の姿が描かれていたが、ここでは生に執着する人の姿が一転して、描かれているようだ。
でも、これまでを見てきた月は、人間の本気を確かめるかのように何も手を貸さない。
自業自得なのか。
人間が、この地球で、新しい朝を迎えることはもはや許されないのか。
残酷な仕打ちに、これまでの悔いを強く感じる。

・大ジャンプ主義

月に向かっている宇宙船。
人間と共に、動物園の動物たちも乗り込んでいる。
フラミンゴ、チーター、キリン、亀。飼育員はなぜか犬である。
隕石が衝突する。人間たちは、避難船でいち早く脱出したようだ。
残された動物たち。
人間がもういないので、檻のカギを開けられるが、外に出ようとはしない。
人間の手によって、ずっと暮らしてきたので、自分の力で何かをする勇気を失ってしまっている様子。
船内の炭酸ガス濃度が隕石衝突の衝撃で上昇する。
このままでは死んでしまう。
動物たちは、かつて自分の力で生きていた頃を思い出し、各々の持つ個性的な力を振り絞って・・・

動物キャラたちがとても面白いのだが、観終えて何か不穏な感覚を得る。
結局、人間は月に見捨てられてしまったのだろうか。
はるか昔から、人間たちを含め、様々な生命体を地球に寄り添って、その姿を見ていた月。
自分本位で、自分の素性を隠して生き、命を軽んじ、戦いで命を奪い合い、それでも、未来を求めて必死に生きようとする。
そんな矛盾ある姿に、月は人間を見限ってしまったのか。
醜い人間を月は受け入れないのだろうか。
宇宙船はノアの方舟をイメージし、その到着先の月には動物しかたどり着かないようだ。
動物は、この宇宙船の中で、人の手を借りず、自分たちで生き抜く考えを身につけ、自分たちの卓越した個性的な力を合わせれば、何かの目的を達成できることを知った。
新しい未来を月で創り上げていくのは、そこから逃げた人間では無く、動物たちのようなラストに思える。
一連の話から、月は神様のメタファーのようで、三日月、新月、満月とその輝きを変えながら、様々な光で地球を照らしてきたのに、それに見向きもせずに、今いる地球の足下ばかり見るようになった人間。
人類を滅ぼし、もう一度、一から動物たちに全てを託し、新しい世界を創り上げる創世記のような話で締めているように感じ、何とも厳粛たる気持ちになる作品だった。

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