錆色の瞳、黄金の海【劇団ショウダウン】140524
2014年05月24日 船場サザンシアター (90分)
また、名作が生まれてしまっている。
こんな、毎回毎回、いいもん創られても、それはそれで観るのも大変なんだけどねえと、贅沢過ぎる文句をつけたくなるくらいの作品でした。
話としては、一言で少年の成長物語でしょうか。
世界観は、これまでのアシュガルドサーガシリーズと似ており、いつものように当日チラシにはその世界をイメージできる地図のイラストが付いています。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/130518-b130.html)
舞台に浮き上がる世界と、テンション上がり、心揺れる話の展開を楽しめます。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は明日、日曜日まで。席状況は知りませんが、90分とここにしては短く、観やすいので、上記した今回と似た世界観の作品を未見の方は是非、足を運んでもらいたいです>
何十年も昔のジェミの村。
命の石の力と錬金術によって生まれたゴーレムが、一人の男によって連れて来られ、村に納品される。
ゴーレムはイハナと名付けられ、村の人たちのたった一つだけの命令に従って、その命が尽きるまで半永久的に行動する。
その願いは、いつまでも村が平和でありますように。
ゴーレムはそれから、村のためにずっと尽くし続けてきた。
山賊に村が襲われた時は、我先に逃げる警備兵に代わって、最後まで戦い抜いた。
やがて、村には平和が訪れ、ゴーレムは深い眠りにつく。
村の平和が脅かされるその時まで、眠らせてあげよう。
ゴーレムは、村を守り続けるように、その動きを止めて、村に静かに眠る。
ジェミの村に住む少年、ミルキ。優しい母親との二人暮らし。父親は物心ついた頃にはいなかった。
好奇心旺盛なミルキは、風車小屋に住むおじさんから、イハナのことを聞くのが楽しみ。
母親は、あの人は嘘をついて作り話をしていると、あんまりいい顔をしていないけど、おじさんはイハナのことは決して嘘ではないと言う。
昔、イハナが村にやってきた時の写真で、村人達の驚く姿の中に、誇らしげにたたずむゴーレムを連れ来た男となんとなく似ているのは、ゴーレムに詳しいことと関係があるのだろうか。
ある日、ミルキはイハナが眠る山で、山賊と出会う。
少々、お調子者っぽい頭と、頼りない頭をいつも制する団員の女の二人組。
昔は村を脅かす大集団の悪党だったのだろうが、今ではたった二人なので、ちょっとした友達みたいに。
その時、がけ崩れが起こり、ミルキは危険に冒される。
危機一髪のその瞬間、イハナは動き出し、ミルキを助ける。
ミルキは、ずっと話を聞いていて、愛着のあったイハナに命を助けてもらって、益々、イハナのことが好きになる。
自分を、そして村を守ってくれる英雄。嘘ではなかった。
もしかしたら、見たことのない父親を、イハナに映していたのかもしれない。
しかし、イハナはその後、山で石を集めては、川の中に入って石を置くという作業を繰り返す。
この謎の行動の意味合いが分からないので、村人達は気味悪がる。
イハナは自分を守ってくれた。
そう訴えるミルキの言葉も、どこかの村のゴーレムはかつて戦争に使われて、破壊的な行動をしたことがあると否定的に話す学校の先生や、あのゴーレムはおかしくなっていて、いつか村に災いを引き起こすと考える村長や村人たちには届かない。
いつの間にか、平和が脅かされるからゴーレムが目覚めるという図式が、ゴーレムが目覚めたから村の平和が脅かされるという逆説に村人は捉えられてしまう。
そして、村には新しいゴーレムが必要だという話になり、最新型のホムンクルスである、カウニスという人間の女性のような姿をしたゴーレムの代わりが村にやって来る。
カウニスは人の言葉を喋り、意思疎通が出来る。命令もその場に応じた指示を提案して、最適な働きが出来るようになっている。
その評判は、村人たちにはすこぶる良く、イハナへの悪意的な視線は高まる一方となってしまう。
イハナの謎の行動の意味合いを村人たちは、もう考えようともしなくなり、ただ否定的に見ている。
ミルキも、イハナのことを村人たちに分かってもらおうと、必死に考えるが、イハナが何を考えているのかは分からない。
そんな中、ミルキはある計画を思い立つ。
それは山賊にわざと村を襲わせて、イハナがそれを制すれば、村人たちはイハナのことを見直すだろうというもの。
団員はそのちょっと安易な考えに抵抗を示すが、頭は子供のようなところがあるので、ミルキとすっかり同調して、計画は実行される。
山賊が村を襲った時、イハナはその前に立ちはだかる。
ここまでは計画通りだった。
でも、頭が調子にのってしまい、すぐ逃げる予定が、少しイハナと絡んでしまう。
そして、カウニスが、その場に現れる。
村人の目はカウニスに集中する。
私に山賊を追い払えと命令をと叫ぶカウニスに、村人たちはその命令を誰からともなく言い渡す。
カウニスの山賊への攻撃は容赦なかった。
とどめの一撃を山賊に下そうとした時、イハナの手が動き、それを制する。
悪党を助けた。村人たちのイハナへの鋭い視線と、暴言が飛び交う。
混乱に乗じて、山賊はその場を逃げ出す。
違う。イハナは人を守ったんだ。そして、これは全部、僕が・・・
ミルキは、ただ泣きながら、言葉にならない声を発することしかできない。
夜遅く、村人たちは集会を開く。
もう、この村から出て行かないといけないかもしれない。
そう言う母親の顔は悲しく辛そうだったが、ミルキが正直に話したことは褒め称え、決してミルキを非難することはなかった。
ミルキは、風車小屋のおじさんの所へ向かう。
狭い村だから、今日のことは全部知っているみたいだ。
おじさんは、ゴーレムは命の石から生まれたことを教えてくれる。
その石は、神様の亡骸の左足から生まれた尊きもので、そんなゴーレムの生誕の美しい地があるのだとか。
いつの日か、共にそこを訪ねようと約束をして、家に戻る。
家では母親が部屋の奥で泣いている。
村からの追放が決まったらしい。
ミルキは何もできない。
そんな中、山賊がやって来る。
今回のことは全部お前が原因。巻き込まれた母親はたまった話じゃない。自分のやったことに責任を取れ。
口は悪いが、男として、大人の男として、今、しなくてはいけないことを諭す。
イハナに会いに行こう。
そして、どうして、そんなことをしているのか、心を通じ合わせて聞いてみよう。
途中、村長を拉致して、イハナのいる場所に。
村長の悲鳴でも届いたのか、村人たちが次々に集まる。
ミルキは、イハナに必死に語りかける。
でも、イハナは喋れないから答えられない。それでも、ミルキは語り続ける。
イハナを破壊する命令を受けたカウニスの前にミルキは立ちはだかる。
今度は自分がイハナを守るとばかりに。
その時、山から轟音が鳴り響く。
雪崩。
猛烈な勢いで流れ出す水流が村を襲う。
しかし、その瞬間、イハナの行動の理由が分かる。
村に流れ込むはずの水は、まるではじめからこんな自然災害が起こることを予知していたかのように、イハナが運んだ石で治水工事された川によって、流れを変える。
そして、イハナ自身も石の隙間に身を置いて、村の水没は免れる。
翌日、晴れ渡った空と、流れを変えて溜まった川の大量の水がまるで海かのように輝いている。
再び眠るイハナ。
もうイハナの命の石の輝きは無くなっている。
それを知って、最後に村を守ろうとしたのかもしれない。
ミルキは、再び、イハナと同じ時間を刻むために、命の石を探す旅に出て・・・
少年の成長物語。
母親からの愛情をたっぷり受けて、優しく気のいい村人たちに守られて、そして、ただ静かに村を見詰めるゴーレムの守護を感じながら、元気いっぱいに明るく日々を楽しむ。
少年は常に誰かに守られる。
でも、そんな日がいつまでも続くわけでは無い。
イハナを信じる想いを理解してくれない大人たちを、ミルキはどう感じただろうか。
味方だった人たち、自分のことをいつも分かってくれていた人たちに裏切られた、敵になってしまったみたいな感じになったのだろうか。
だからといって、村人たちがミルキを傷つけたいとなんか思っているわけがない。それは重々、承知していただろう。
だから、どうにかして村人たちにも分かってもらいたいと思った。
そんな純粋な一途な想いも、想っているだけで伝わるほど甘くは無い。
何か行動をしなくては。
それも一人では、何も出来ない。
数少ないけど、自分のことを理解してくれる人たちを選択し、共に行動してくれることを願い、頼む。
そんなことから、本当の仲間というものを知ったのではないだろうか。
計画はものの見事に失敗する。
失敗すると冷静に判断していた大人もいた。
それでも、協力してくれる人もいた。
だから、失敗したからと言って、今までみたいに泣いていれば、母親がやって来て慰めてくれて、周囲の人から許されるような甘いことにはならない。
方法は間違っていたとしても、間違ったことは決してしていない。でも、それが正しいと認められない結果になれば不条理だろうが罰せられてしまう。
それが自分だけでなく、共に戦った仲間にまで及んでしまう深刻さを突きつけられる。
自分の考えが正しいから、その考えを分かってもらいたいからということだけを大義名分に、安易に戦いに挑めば、結果次第では悲劇が生まれる。思慮深さは、時に自分の想いをぶちまけることを抑えてしまうが、大人ならば、必ず何かをする時に頭に置かないといけない事なのだろう。
ミルキは、計画のことを黙っておくという選択肢も実はあったはずだ。
ただ、泣いていれば、被害者のごとくふるまえ、山賊とイハナという二つの悪を明確に生み出して、事件は終わりだ。
でも、そんなことはしなかった。
それがミルキの潜在する強さだろう。
その強さを生み出したのは、きっと母親から受けた愛情であり、村人から大切に育てられてきた時間であり、イハナを自分以上に信じ続ける風車小屋の男の真摯さであり、山賊の表面的でない心の底からミルキと心を通わせた結果だったのだと感じる。
そして、劇中、一番泣けたのが、そんなミルキの勇気を持った行動を褒めた母親の姿がとても誇らしく素敵だった。
ちなみに演じていたのが新人さんなのかな、国本未生さん。この母親と真逆の感情を抑えたカウニスも演じており、その切り替えの魅力は存分に感じる凄さであった。
いくら強さを持ったミルキでも、母親も涙が止まらないくらいの悲しみと辛さを受けた村追放の罰によって、もう戦うことはきっと出来なかっただろう。
大人ですら、諦めを抱くしか無かったのに、まだ幼き少年の心を再び奮い立たせることは厳しい。
でも、ミルキは素敵な男たちと出会った。
風車小屋の男は、ゴーレムの生誕に関する神秘的な事実を語り、ミルキの信じるゴーレムの神格化を成功している。
山賊の頭は、やったことの責任をとるという大人の責任を語り、同時に上記とは反するが、思慮深さなど捨て、自分の想いに忠実に、その溢れんばかりの心のままに動けと言う。
そして、二人とも、幼きミルキを突き放しながらも、どこかで必ず一緒にいることを匂わせて、ミルキの本当の仲間だから、一緒に戦うことを示している。
このあたりは、村のために出来ることをするといった形で村の守り神であったゴーレムと、ミルキを守るために、ミルキが自分の想いを遂げるために、自分たちが出来ることをするというミルキが出会った男たちの感覚が同調する。
最終的に、自分の想いを遂げることが出来たミルキ。
ゴーレムがこれまで、ずっと村を想い続け守ってきたという、守り抜く力の尊さは、同時に自分がこれまで育ってきた中で親や周囲の人たちから受けてきた想いに通じることを感じることが出来たのだろうか。
自分も大人になる。
そして、村を守り、親や村人たちを守る。
その強い覚悟が、これからの希望と同時に、生への感謝を感じさせるものであった。
にしても、ここの役者さんは基本的に一人芝居でも十分な魅力を醸せるぐらいに、特殊な訓練でも受けるのだろうか。
林遊眠さんの凄さはこれまで拝見した中で、否がおうにも知っており、今回もミルキをはじめ、数々の魅力を溢れさせていた。初見の上記した国本さんや、母親と今どきの娘を兼ね備えた様な知的な山賊団員や婆ちゃんの村長を演じる宮島恵美さんの魅力も相当なものである。
ナツメクニオさんが、こんなにがっつり演じているのを拝見したのは初めてじゃないだろうか。飄々としたお茶目な雰囲気は元からあるが、けっこう、というかかなり熱い。ちょっと、よう噛みはるなあとは思ったが、そんなこと関係なしに熱のある勢いで突き進まれる。どう考えても、一番、お歳は召しているはずだが、誰よりも熱き姿がとてもかっこよかった。
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コメント
SAISEIさん、今回もご来場ありがとうございましたー★
物語を凄く覚えて頂いてて、とても嬉しい&びっくりです☆☆☆
頑張って良かったですっ★
次も楽しみにしててくださいーv今回の錆色を越えられるように、頑張りますっ!
投稿: 林遊眠 | 2014年5月28日 (水) 21時51分
>林遊眠さん
コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。
今回もまたのめりこんでしまう良い出来で(゚▽゚*)
次回も楽しみです。
お体に気を付けて、益々ご活躍ください。
投稿: SAISEI | 2014年5月29日 (木) 12時42分