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2014年5月16日 (金)

オパンポン★ナイト vol.3 曖昧模糊【オパンポン創造社】140516

2014年05月16日 LIVE SPACE B.SQUARE (130分)

そうだった。
すっかり忘れていたが、ここは野村侑志さんのキャラのイメージが強過ぎて、荒々しく大笑い出来るような作品を想像してしまうが、実際はじっくりと人の優しさや温かさを見せながら、切なくも面白い柔らかい笑いで紡ぐような作品なのだった。
前回拝見した時もそうだったのだが、久しぶりの本公演だったので忘れていた。
http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/120519-332b.html

そして、4話の連作だが、一つに繋がる巧妙な作りになっていて、その伏線回収に驚かされる知的な作品であることも。
これは傑作中の傑作だと思う。
見事すぎて唸る。そして、笑いながら、人の前を向いて生きようとする姿に感動し、ラストに泣く。

<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。是非、観に行って欲しい珠玉の短編集。これは本当に凄いです>

・第一話 「ヤーヤーヤー」
ぼったくりバー。
幸せからはすっかり見放されたのか、不機嫌そうに悪い酔い方をして愛想無く接客する女性。
冴えない親父が結婚しようよなんて歌いながらプロポーズするが撃沈。続いて、金回りの良さそうな成り上がり風の男も軽くいなされる。
二人とも、怖い男性店員がやって来て、法外なお金を請求される。
冴えない親父はビビって金を払うが、成り上がり風の男はごねて店の外へと連れ出される。
店には女性が一人取り残される。・・・では無く、正確にはあと二人。
女性の守護霊の女と、店の地縛霊の男も。守護霊はスタンダードな幽霊姿だが、地縛霊はあそこだけを隠したほぼ全裸姿。
守護霊は女性がどんどん不幸になっていくのに耐えられず、さらには自分も成仏したいので地縛霊に守護霊を変わってくれと懇願している。
地縛霊なのでそんなわけにもいかない。それに、地縛霊はこの女性の元彼で、恨んでいるわけではなさそうだが、自分のことなど忘れていると思い込んでいるので守護をするのは複雑な気持ちだろう。
そんな霊同士の不毛な口論が続く中、外に出ていた怖い男が血相を変えて店に戻って来て、包丁を手に再び出て行く。
しばらくしてサイレン。そして、刑事もやって来て・・・
また、女性に不幸が降りかかる。
守護霊は何とか、この負の連鎖から女性を脱却させたいと力を振り絞り・・・

守護霊の力で、ほんの一時だけ、女性に守護霊の姿が見えるようになり、その結果、女性は元彼が地縛霊としてずっと傍にいたことを知ることになります。
どんどんすさんでいき、誇れるような生き方をしてこなかった女性は、そんな元彼に感謝と謝罪を述べて、もう一度人生をやり直してみようと、警察に電話をします。
どこかで歯車が狂ってしまった人生。でも、ずっと下降し続けるということは無いのでしょう。
幸せになって欲しい。そう願ってくれる人は必ずどこかにいます。生きるのにいっぱいいっぱいになってしまい、そんな人が存在することすら忘れてしまった時。そんな時に、一瞬訪れた光を彼女はこのおかしな霊たちにより見逃すことなく掴めたのでしょう。
守護霊が西川さやかさん(月曜劇団)。人の話を聞かず、マイペースでグイグイと地縛霊をやり込めていく。自由放題の姿の中で、妙に守護霊としての責任や自覚が感じられる奇妙なバランス感が面白かったです。

・第二話 「オオカミ中年」
銀行の建築現場。
すぐに人に流されてしまい、最後まで何かをやり遂げる根気に欠けた若者が新しく入ってくる。
サボることしか頭に無く、適当な嘘ばかりをついていい加減に生きる男は、そんな若者を、自分の話を唯一聞いてくれるからか気に入り、色々とつきまとってくる。
お酒に誘い、5万人も人を殺したとか、元々はマンションの最上階に住み、家族は1000人、お手伝いさんが5人いたとか支離滅裂。
ある日、金もなく高架下で二人で飲んで一晩を過ごす。
次の日の朝、ホームレスの男に銀行の図面が手に入らないかと持ち掛けられる。
その日から男は、人が変わったように真面目に働き始める。あれだけ、いい加減だったこともあり、ちょっと働くだけで、凄いと思われ、あっという間に信用されて図面を手に入れる。
そして、男のある計画が始まる。
ホームレスは銀行強盗をするために図面を手に入れようとしたみたいだが、男はちょっと考えが違った。
穴を掘り、銀行の金庫を盗み出そうというのだ。
その日から、なぜか若者も巻き込まれ、穴掘り生活が始まる。
そして、4年半経ったある日、カチンという音が・・・

4年半の間、穴掘りは楽な作業では無かった。一度、落盤事故でこれまでの作業が全部台無しになったことも。それでも、男は辞めることはなかった。そんな男と一緒に穴掘りの日々を過ごす中で若者も、あきらめない、何かをやり遂げることの大切さを感じ始める。
ただ、男は莫大なお金を手に入れることを目標にしていた。それは生き別れのたった一人の息子と会うためということもあったみたいだ。
若者は、銀行まで穴を掘り、たどり着くことを目標にするようになった。達成するということを自分が出来たということを経験するだけで、この穴掘りの時間が自分にとってかけがえのない大切な時間だと思えるようになったから。
だから、穴が銀行までたどり着いた時に、後は全て男に任せて、若者は旅に出る決意をする。
翌日、新聞には、一獲千金を掴む男の記事が載る。たどり着いた先は銀行ではなく、埋蔵金の埋まる場所だったみたいだ。
痛快なオチが心地いい。
若者は男を羨むことも無く、自分なりのゴールを見出した喜びで自信に溢れている。前へ進もうとしている男の顔だ。
終始、いい加減なのか、熱意にあふれているのか、子供のように無邪気で猛進する男を演じる浅雛拓さんの面白キャラが楽しい。

・第三話 「ジョウキョウ日記」
無人島にいる中年オヤジと若者。
中年オヤジは、昔、一緒に暮らしていた女性の日記を集中して読んでいる。
船を見つけるかして、とにかくここを脱出しないといけないのに、そんなことをして、あまり助かろうという意欲が無いみたいだ。
中年オヤジは友達であった大阪から東京に出てきた男を居候させていた。東京に飲み込まれないようにと、いきがるその姿が完全にブレた都会キャラの男である。
その男の後輩の女性も上京してきて、一緒に住むことになる。
楽しい共同生活。でも、女性は先輩の男が好きなので、正直なところ、中年オヤジは邪魔である。いつもくっついてきて、ちょっとうざいな。そんなことが日記には書かれており、中年オヤジはこれ以上、読み進めるとひどいことが書かれているのではないかとずっとそこで読むのを止めている。
若者は興味を持って、代わりにその先を読む。
先輩はバンドを始めるが、そんなことで食ってはいけない。先輩を支えるために、女性は水商売に手を出す。かつての純粋な姿からは想像できないような汚れた姿に。そして、先輩から捨てられる。
そんな女性をずっと見守り続けたのが中年オヤジ。店にもけっこう通った。
女性が家を出て行くことになった時に部屋に残されていたのがこの日記である。
思ったほど、ひどいことは書かれておらず、まあ一安心。
それから、先輩は不慮の事故で亡くなり、女性の店にしばらくは通い、プロポーズなんかもしたりしたが、いつの間にやらこんな無人島に流れ着いてしまった。
ただ、日記にはその続きがあった。
そこには女性から感謝の言葉、そして、それに続いて先輩からも・・・

自暴自棄になっていた中年オヤジだが、二人の感謝の言葉を見て、自分が二人と過ごしてきた時間が大切なものであったことを再認識する。
ようやく前を見ることが出来るようになった時、無人島から脱出するために動き始める。
筏は無理。となると、海底トンネルしかないだろうか。それこそ無理か。いや、それなら自分が得意だと言い出す若者。
穴を掘り進めると、水脈にぶつかる。吹き出す水柱。それを見て、上空にはヘリが飛んできて・・・
第一話、二話での登場人物の昔、それからがここで語られている。
これまでの笑いにプラスされて、その巧妙さに感動してしまう。
無事に戻ってきた後、若者は旅の成果として、今からでも何かを始められるという気持ちを得たみたい。
実は小説家になりたかった。チャレンジしてみようか。もちろん、この旅での話。題名は・・・
殿村ゆたかさん(MelonAllstars)の切ない中年オヤジの姿。哀愁漂うが、そこに潜む芯のある優しさも感じさせるところが素敵。女性は池上敦子さん。純朴な姿から、出オチレベルのおかしな姿、人生疲れたすさんだ姿とさすがの女優の七変化。

・第四話 「待ちアイ室」
血まみれの男が部屋に入って来る。扉の鍵は閉められ、出ることが出来ない。
続いて、あそこだけ隠した全裸の男。同じように部屋からは出れない。
全裸の男は、血まみれの男を知っている。地縛霊だったので、ずっと店で一緒だったから。
つまりは、ここは死んだ人たちが集まる部屋。
恐らくは、この後、閻魔様みたいなのが出てきて、お前は天国、お前は地獄みたいな感じになるのだろう。
まともな生き方をしてこなかった自分たちは地獄行きは間違いないだろう。
でも、どんな生き方をしてきたなんて、閻魔様は分からないから、まだチャンスがあるのではないかなんて、言って一抹の望みにかけようとしている。
そのうち、館内放送がかかる。名前が呼ばれ、正面玄関に行けと。天国行きのバスが用意されているらしい。
その名前の人はこの部屋にはいない。自分たちだけだ。
ということは、ここは地獄へ行く人が集まる部屋なのではないか。
そのうち、成り上がり風の男も部屋にやって来る。
幽霊姿の守護霊も。
成仏する気になったらしい。それは、あの女性が幸せになったから。
無人島帰りの中年オヤジと結婚することになったらしい。
成り上がり風の男が呼び出される。裏口へ行けと。鬼が迎えに来るらしい。
でも、男はさほど気にしていない。地獄だって楽しめるはず。まだまだ、死んでしまったって人生は捨てない。
そんな男の姿を見て、血まみれの男も、生前はひどい生き方だったが、まだこれから何かやってやろうという気になったみたいだ。ただ、自分を刺したのは、この男なのだが。
血まみれの男も呼び出される。やはり地獄だったが、堂々と部屋を出ていく。最後に、女性が幸せになったといい話も聞けたし。
そして、地縛霊も遂に呼び出される。
やはり裏口だろうか。
館内アナウンスの声は・・・

ここも、これまでの登場人物が勢揃い。
素晴らしい作りだとしか言えない、見事な構成に感動。
そして、ラストのオチで、その感動は最高峰まで達する。
地縛霊の行き先は屋上。迎えに来るのはコウノトリらしい。そして、向かう先もきっとあの二人の下なのだろう。
軽快な会話のテンポ、掛け合いで、場を盛り上げる血まみれの男、ジョニー大塚さん(賣笑ロックセカンド)。いかつさと情けなさを交錯させながら、最後に男を魅せる。

全作品で野村侑志さん。
弾けたキャラから、気弱な真面目なキャラと様々な姿で魅せる。
そして、何より、この巧みな作品群の作・演としての力。
素晴らしい公演でした。

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