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2014年4月 7日 (月)

椿山課長の七日間【椿project】140406

2014年04月06日 そとばこまちアトリエ Black Boxx (150分)

ひどいもんだ。冷静にいい話だよなあ、この作品なんて思って観ていたのは最初の60分ぐらいか。
後は、もう勘弁してください、声出して泣いてしまいそうですから許してくださいと言わんばかりの、どれだけ泣かせれば気が済むんだといった状態に。泣かせ地獄だ。
120分。せっかく現れた泣かせ地獄からの救世主の力もわずか数分。残りの30分は、もう誰が舞台に出てきても涙が出てくる。
誰もが、想いのこもった素敵な言葉しか言わない。誰もが、真摯に人の想いを受け止めて、優しい気持ちに溢れている。誰もが、人を想う強さを見せる姿しか見せない。人の持つ大切な優しい部分しか浮き上がってこない。
泣ける作品だったとこのブログで書いても、本当に涙を流したことはそれほど多くはない。
一度、これまで堪えていた涙がこぼれてしまってからは、暗転のたびに涙をぬぐい、鼻水を拭いて、呼吸を整えなくてはいけない。
噛み締めていた奥歯が痛い。口を半開きにして呼吸を落ち着かせていたので、息苦しい。去りゆく人たちの大切な人の想いの強さを感じて、心が苦しい。
今、伝えられる言葉を持つ、生きていることへの尊さが、喪失の中でも必死に想いを受け止め、伝えようとした人たちの姿から溢れてくるような話。

素晴らしかった。
小説で読んだことがあり、それなりに感動はしたけど、ここまでじゃなかったな。
演劇の力。今、目の前にいる人の真摯な想いを演技という表現で受け止めることが出来るからこその魅力だろうか。
観劇の醍醐味を改めて知るような作品だったかもしれない。

3年前だったか、この劇団が同作品の公演をされていたはず。
小説を読んで知っていたので、舞台でどうなるのかが興味津々だったのだが、確か仕事でどうしても観ることが出来なかった作品。この人が出る舞台は必ず観に行くという連続記録が途絶えることにもなったので、特によく覚えている。
今回も、なぜか土曜日が完全に仕事になり、危ないところだった。
でも、こうしてようやく観れて良かった。小説以上に、さらに、こんな素晴らしい作品になるんだなあ。

あらすじは、小説と変わらないと思うので省略。
亡くなった三人、主人公の椿山、ヤクザの親分、施設で育った少年は、各々、家族、子分、両親を想って生きてきた。
この最期の時、その想いに応えるように、自分も想われていたことを知る。
三人とっては、その死が残念極まりないことなのだが、その姿は、これからまだ生きることが出来る残された人に、生きる中での大切な想い合いを導いてくれているように感じる。

少年がいい子過ぎて、そして、ヤクザがいい男過ぎて、その死が泣けてくる。
各々の独白シーンは力強く、心情がたっぷりこもる。それが、この人たちの人を想う気持ちの大きさに通じている。
そんな想ってもらっていた人たちの姿も、優しく純粋で素敵だ。そして、二人の最期に、その想い以上の感謝を込めた温かい心をぶつけている。
二人は、自分たちが想った分だけ、想ってくれる人がいたことをきちんと知って、旅立つ。
ただ、二人の死は、ヤクザはこれがその人の人生と言えるにしても、少年は何とかならなかったのかと不条理な人生の残酷さも思い浮かぶ。
共に同じ大切さを知って旅立てて良かったとはいえ、切ない気持ちも駆り立てられる。
このあたりは、かたや地獄でこれまでどおりの厳しい世界で過ごすヤクザ、かたや天国でこれまで幼き体に背負っていた大きな寂しさやつらさから解放され、両親から得た大きな想いを抱いて幸せに過ごすことを想像できるようなエンドで気が楽になるように出来ているみたいだ。

いい男なのだろうが、未熟な椿山は、そんな人の想いにしっかり気付けない男だったが、この七日間で、それを知り、同時に自分が家族を想う気持ちの大きさにも気付く。
こちらは、彼を愛し続けた女性がいい女過ぎて、彼の父親がいい人過ぎるような形で描かれているみたいだ。
この人たちは、自分が想った人に、想われるという形で必ずしも応えてもらっていない。でも、二人は人を想い続ける。無償の愛か。そんな二人は、その想い続ける行動が、決して間違っていなかったことを椿山の死を通じて知ることになる。
ただ、こちらもその辺りが、切ないところではある。
父親は寿命を全うし、最後まで想い続けることが自分の誇りであったことを、多くの人から得られた感謝の気持ちで感じ取ることが出来ている。でも、女性は、まだ、想い続けたことが彼女の幸せにまでは結びついていない。
このあたりも、地獄へ行きながらも、これまでの経験を盾に、きっと己の誇り、ポリシーに従って強く生きていくであろう父親の姿を想像すると同時に、これだけいい女なのだから、きっと彼女を想う人が現れ、これからの生きていく世界を天国へと変えて幸せを掴むだろうと願いたくなる女性の姿を想像させることで、希望を感じさせているように思う。

役者さんは、どの方も素晴らしい演じ方で、よくまあ、これだけ力ある人を集めたものだ。
主人公である椿山課長は、頓名隆太さんと、この世に舞い戻ってきて女性となってしまった姿として、羽島冴さん(ユニットエストロゲン)が演じる。
自分の想いにも、自分が想われることにも鈍感な、不器用で実直な姿を見せる頓名さん。どちらかと言えば、生真面目で面白味が無く、粛々と生きる姿を見せて、その誠意を人に感じさせているようである。そこに、少し余裕が生まれ、本来は彼が持っていたのであろうユニークな一面、熱き心をほのめかすような形で女性となった椿山像を羽島さんが描いている。仕事ではきちんとした成果を着々とあげる立派な椿山であるが、人間関係を創り出すという点では決して器用で無く、ましてや異性との恋愛ともなると未熟な男が、徐々に成長していく姿を女性像として見せて、最後の椿山の男としての最高の姿に結びつけている。
椿山の奥さんは、椿山の売り場の部下である男とずっと不倫をしていて、子供まで実はその人の子であるという、話だけを聞けばかなり狡猾な人である。山崎友梨さん(劇団レトルト内閣)が演じる。その中でも、ずっと家族として椿山と共に暮らしていたのは、部下は男として愛していたが、椿山のことは人として愛していたからのような気がする。結局は椿山の優しさ、もしかしたら臆病なところに甘えていたのかもしれないが、それは女性は、女であり、人であり、母であるといった多様な面を持つことに繋がっているようなことを感じさせる切り分けた心情表現が見られた。部下は松本芙部記さん(劇団万絵巻)。この人も、椿山を人として愛し、その奥さんを女として愛する。椿山への深い敬意を見せていることを考えれば、あまりにも相反する行動であるが、現実にだってありそうな話である。愛は理屈じゃ語れないのだろう。ただ、子供を預けても、これまでも普通にやってこれていたのは、この人もまた椿山に甘えていたのだろう。どこかしっかりしない椿山ではあるが、彼の人への想いの真摯さが強く感じられる。
そんな彼の強さを一番、感じられるのは、息子の伊藤晴香さん(右脳爆発)の姿かもしれない。幼き少年の純粋で脆い不安定さを醸しながら、父譲りの真摯に人を想える芯を持つ抱きしめたくなるような、頑張りを終始、感じさせている。
やくざの子分、井塚かるろさん。彼がいかに椿山を慕い、仁義の世界でその想いに忠実であったかがよく描かれている。椿山のことを語る時のまっすぐな視線、凛とした表情が印象的である。
亡くなったやくざに世話になっていた仲間の夫婦、ゴミさんとキム・チゲ子さん。恩を仇で返すような形になってしまい、その悔いの念がそのまま、彼への深い感謝に繋がっているような姿を見せる。そして、最後には、感謝をずっとし続けていた二人の下に、自分たちも誰かに感謝をずっとされていたことを知る。それも、かつて捨ててしまうということで、どんなこと以上に悔いの念しか残っていなかった自分たちの子供から、それを知る。悔いるということは、それだけその人のことを想っていた証拠。起こした行動が許されることは無いにしても、その想いだけは本物であり、人はそこからまた前へ向かって何かを始めることが出来ることを思わせる。
あの世の管理人みたいな、ふろむさん(劇団万絵巻)。役所仕事であり、この一連の事件が、自分にとってどう響くのかの方を重要視している。これが、関わる人たちが、どうかいい方向へ進んではくれまいかという言動がじわじわと始まるようになる。これが、この作品に込められたメッセージの一つではないのだろうか。想い合っている人たちを見て、傍観していたのが、その人のために何かをしたくなる。そこから、また新しい人への想いが生まれる。人は自然とそうなってしまう素敵なものなのだという感覚を得る。

まあ、何と言っても、目を惹かれたのは上記したいい人たち4人かなあ。
いい子過ぎる、希帆さん(劇団万絵巻)。いい男過ぎる、久保健さん。いい女過ぎる、土江優里さん。いい人過ぎる、水屑優さん。
個々の役としてのキャラをしっかり出し、かつご自分方の個性的な魅力を発揮した、あの力強く、心のこもった演技ね。
流した涙の量を計って、ベスト1を決めたいぐらいの心震わせる素晴らしい姿でした。

いい作品を観れました。
チラシにはfinal stageと書かれているけど、これで最後なのだろうか。
それなら、この作品のラストの言葉そのものを、私もこの劇団の方々に伝えたいと思う・・・

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コメント

初めまして。椿プロジェクト主宰・演出のnoriと申します。
ご来場いただき、また感動していただき、本当にありがとうございました。

私どものお伝えしたかったメッセージをお届けできたなら、本当に幸いでございます。

ありがとうございました。

投稿: nori | 2014年4月 7日 (月) 12時43分

>noriさん

コメントありがとうございます。

小説で読んで気に入っていた作品が、こんな素晴らしい舞台作品になっていて、本当に嬉しかったです。
心情込めた皆さんの力強い演技にもう涙が・・・
大変でしたよ(^-^;

今後もいい作品を創って、益々ご活躍ください。

投稿: SAISEI | 2014年4月 9日 (水) 14時31分

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