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2014年4月26日 (土)

狐の声が聞こえてから【プロトテアトル】140426

2014年04月26日 ウィングフィールド (70分)

ふ~む、これなら、ここはこれからも観たくなるなあ。
いや、前回の作品があまりにも、難解で、ここは優先して観劇に伺うにはちょっと厳しいかと思っていたのだが。
今回は、実にやましい理由なのだが、たまたま、違う公演でなかなかのセクシーなお姿を魅せてくれた女優さんがご出演されるという理由だけで足を運んだ。
色々と観て、観劇も繋げてみるものである。
思わぬ、お気に入りの魅力的な作品に出会える。
家族をベースに描きながら、今の安泰した生活と対峙して、未来を見詰める様な生き方を問うような話かな。
これでいいのかなあといった漠然とした不安が蓄積していることを知りながら、流れに身を任せてしまう時間の中で、その流れから勇気を出して、違う流れに飛び込んでみる。
そんなことを優しくも厳しい描き方で伝えているような作品。
覚悟をすることの厳しさを、未来への希望や自分に向けられた周囲の人の優しい想いを絡めて描かれているところが、とても魅力的でした。

<以下、ネタバレするので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>

狐が普通の日常生活にひょこひょこと顔を覗かせるような北の田舎町。
そこにある雪の家という孤児院。
還暦を迎える女性が一人でずっと園長として親のいない子供を引き取って育てている。
今は4人の子供たちが生活をしている。
子供たちといっても、次女以外はみんな成人を迎えているいい大人だ。
次男、三男、長女、次女。長男はいない。里親が見つかって、幼き頃にここから出ていったのか、詳しくは描かれていない。
どうにせよ、ここには残った者たちが集う。もちろん、里親がなかなか見つからず残らざるを得なかったこともあるが、どちらかというと残っている感が強い。
それだけ、優しい園長の下、血のつながりこそないものの、家族のような温もりの中で居心地のいい生活をしている模様。

次男は、かなりの人見知りでやや引きこもりの状態になって外には出ていないみたい。
三男は少々、ぶっきらぼうなところがあるが、恐らくは雪国での生活に必要な雪かきなど力仕事は全て担当しているのだろう。
長女ははっきりとした性格で、年老いた園長に代わって、みんなの母親のような存在みたい。
次女は少しほわ~っとした、まだ幼さが残る感じ。
ここ3日ぐらい、みんなの表情は暗い。

園長先生が行方不明になっているのだ。それにその日から、大雪が続いており、安否が気遣われる状態でちょっとしたパニック状態なのだ。

町から刑事がやって来て、捜索にあたっているが、手がかりもなく、雪のためなかなか進まない状況。
先輩である女性刑事は、たとえ話と絵が異常なほど下手で、言動がたまに人に誤解を受けやすいところがあるが、冷静にみんなを気遣いながら、安心させようと懸命にふるまう。
後輩は、いきなり大遅刻をしてきたりと、少々、間が抜けており、空気を読めないところがある頼りなさが残るが、彼は彼なりに、園長を見つけて、みんなを元の生活に戻そうとまっすぐな気持ちでふるまう。
みんなもそんな刑事たちを信頼して、不安な気持ちを抑えながら、もどかしい日々を過ごす。
そんな中、園長の姪を名乗る女性が現れる。

姪は保育士をしているみたいだが、単に子供をかわいがるのではなく、子供の将来を見据えた教育をしなくてはいけないと思っているみたいだ。
それ自体は決して間違っているとは思えず、心底、本当に子供のことを思った上での考えなんだろうが、少し現実的な考えが強すぎる傾向と、冷淡な雰囲気があり、それがみんなの不安な心を刺激したのだろうか。
どうも、みんなは、孤児で、まともな教育を受けてもいないという自分たちを見下しているような感覚を得たみたいで、敵対心を露わにしていく。
さらに、ここに来たのは、この家を相続して、取り壊すので、新しい生活を各々が考えるべきというようなことを言い出す。
すぐに出ていけ、家をお金にするなんていう冷徹な考えがあるわけでは決してないみたいだ。
ただ、現実に還暦の叔母が3日も行方不明。冷静に考えれば、最悪の事態は考えざるを得ない。そして、みんなはもう十分すぎる大人だ。これからのことを考えれば、ここを卒業して、新しい生活を始めるいいきっかけになるという真意がある。
でも、このパニック状態で、そんな考えをみんなは受け止めることは出来ない。
家族のことだからという言葉を多用して、姪をはじめ、刑事たちまで外部の人間を拒絶し始めようとする。
そんな中、雪国ならではの悲しい事故が起こり・・・

最後は、ちょっとぼかされて、はっきりとは分からない。
三男が落雪事故にあったのか、園長が雪の中から見つかったのか。
私は、ラストシーンに三男が出てこないので、前者だと思ったのだが。
どうにせよ、最後は、この家を出て、新しい生活へと進もうとするみんなの姿で話は締められる。

園長先生は本当に優しい人だったのだろう。
舞台は、かなり綿密に出来上がったキッチンなのだが、その真中にある4つの机がそれぞれの体に高さを合わせて作られており、ガタガタになっている。元々は学習机だったらしいというエピソードで、その理由が分かる。
一人一人を本当の子供のように、しっかりと個々を見つめていたのだろう。
そして、そこにある、いつも座っていたロッキングチェアが、もちろん一度も登場しない園長の面影を残している。
4つの器や、幼き頃からずっとここで生活していた名残を見せる本やぬいぐるみなどの物品も、この家の歴史を感じさせ、とても味わい深いセットが組まれている。

次男はこの家の中で閉じこもった生活をしている。何やらずっと天井を見つめていたらしい。恐らくはその天井の上に積もる雪。いつかは、この生活が崩壊することを一番意識していたのかもしれない。それを、ずっとその場しのぎの雪かきで除去しては、また積もり、きしむ天井の音に不安を抱えていたような感じだろうか。作品のラストは、その崩壊が描かれる。
三男は、次男が引きこもり状態なので、この家族の中では男手一つ。恐らくはいなかったら、雪国のここでの家族の生活は成り立たなかったはずだ。そこに居場所を感じ、安心を得ていたのだろうか。それが、逆に外へ出る考えを抑え込んでしまい、居場所のある居心地のいい生活から脱却できなかったのかもしれない。姪への嫌悪の表情は印象的で、閉鎖空間の中に閉じこもっていたのは、本当は次男以上だったように思える。
長女は、明日があるといったような言葉を多用する。外の社会でも、もちろん、この言葉は使う。でも、どうも安定したこの生活に浸っているような感覚を得る。ぬるま湯に浸かったような状態だろうか。何かあっても、明日にはどうにかなる、誰かが何とかする。一番しっかりしていて、主体性を持って行動する印象が強いのだが、実はそんな依存体質に染まってしまったようである。姪に家の取り壊しを告げられることは、この家での明日が存在しないことであり、ヒステリックに自分を乱す姿を見せている。
次女は、日々、裏の物置を掃除する担当みたい。狐が荒らすから。でも、決して狐をどうにかしようとはしていない。するのは、荒らされた物置を掃除をするだけ。狐の絵を描くようなシーンがあるのだが、その絵は誰が見ても狐である模範的なもの。機械的で優等生であることで、日々、安泰に過ごせるという意識を植え付けられてしまっている感じ。

自分たちは家族だから。
だから、この家でずっと過ごせる。
そんな家族という言葉を大義名分にし、かつ、いつの間にか、自分たちを縛りつけてしまったようである。
本当に家族としてみんなで想い合ってこれまで過ごしてきたことは間違いないのだろう。
でも、どこかで、このままではいけないということもあったみたいだ。
それは、自立しなくてはいけないということもあるだろうし、悲しいことに、やはり血は繋がっていないという辛い現実も浮き上がるところが重く苦しい気持ちが残る。

刑事。
この二人は、みんなに外の社会を見せたような感じだろうか。
二人とも性格は異なるが、人のことを想ういい人たち。
そんな人たちが存在することをみんなに思わせたのも、自立する決断のきっかけになったのか。
そして、後輩刑事は狐を事故で轢き殺してしまったみたいだ。
みんなにとって、狐は日常に常に姿を見せるもの。でも、決して可愛いだけの存在では無かったように感じる。どちらかというと、物置を荒らしたり、天井に潜んだりと悪さをする奴ら。
みんなはそんな狐を無視するように過ごしてきている。
ここでは、それでも生活することが出来たのだろう。
でも、現実はそんな狐を犠牲にしてしまい、大きな悔いと反省の中で、前へ進まないといけないこともある。
人間が生きるという残酷な一面を感じさせているようなエピソードなのかなと感じる。
作品名はよくは分からないが、そんな逃げてきた狐と向き合って、その声を聞くようになったみんなの成長した姿を表しているように感じる。

この雪の家は、取り壊した後、保育園になるみたいだ。
自分たちがここまで成長してきたこの家。
ここから、旅立ち、外の世界で過ごす時の方がずっと長い。
本当はここは人生のスタート地点のようなものだ。
そこで、また各々が、自分たちの道を進むのだろうし、もしかしたら、本当の家族を得ていくのかもしれない。
これからの子供たちにそんな場を渡した孤児たち。
血の繋がりを一旦絶たれたみんなだが、そんなこれからの繋がりを生み出す出発点を創り上げたのはみんなであり、その誇らしいこれまでの時間を大切にして、これからの時間を過ごして欲しいと願うような気持ちになる。

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