春風悪戯 ~再び、会えたなら~【楽狂プロデュース】140401
2014年04月01日 STAGE+PLUS (70分+ライブ:30分)
2年前に拝見した劇団。
(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/120329-1edf.html)
週に3、4回は観劇しているのに、チラシなどで公演情報が入ってこず、前日にたまたまTwitterで知り、足を運ぶ。
前回拝見した時も、温かくていい作品を創られるなあ、役者さんの個性に味があって、じわ~っと魅力が伝わって来る感じだなあなんてことを思いましたが、今回も似た感想でしょうか。
出会いとお別れ。ありがとうとさようなら。
両方を経験することが多い、この今の春の時期にふさわしい、少し心が切なく痛いけど、温かく爽快な相反する気持ちも自然に湧きあがってくる作品でした。
春なんだなあと感じられる素敵な話でした。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで。
芝居のあと、役者さんと色々な楽器をされる音響さんも含めたライブがあります。私は観劇しかしないので、ライブは苦手ですが、さっきまで芝居をされていた方々がそのままの流れで行われますので、特に構えることなくリラックスして楽しめます。劇中の歌はもちろん、昭和生まれ、特に60~70年代生まれは心に響く歌が流れてくると思います。ちなみに開演前も、簡単なライブで歌が聞けます>
とある居酒屋。
アラフォーの気の強い女性が管理人。と言っても、オーナーの娘だから、無理やりに後を継がされたようなもので、税金などに頭を痛めているみたい。そんな文句を言っている割には、このお店を気に入っているみたいで、飲みにやって来ては、常連のちょっと癖の強い客とケンカみたいに言い合いを楽しんでいる。
店主は、少々冴えないが、人を大切にするような男気を感じさせる人。
最近、入ったばかりの愛嬌はあるけど、度胸もどっしり座っているような若いバイトの女の子に、振り回されながらも、日々、頑張っている。先日、皿洗い中にバイトの子は手首を切ってしまい、包帯を巻いて出勤中。水仕事が出来ないので、簡単な机拭きぐらいしか任せられない。だから、皿洗いは店主の仕事だ。もっとも、どう考えてももう治っている様子なのだが、店主はきつく言えないで泣き寝入り状態。
常連客は、少々、いやかなり変わった人ばかり。
毎日、明太子を店に持って来る男。物産展で仕入れた明太子を運命の出会いだとか言って、テンション上がりながら店で語る。なのに、その明太子は誰にも渡さない。
シェークスピアから寺山修司まで、ありとあらゆる劇作家の言葉を知る演劇関係の男。滑舌の悪さと、思い込みの激しさで、演劇人としては活躍出来ていない。常に、有名劇作家の言葉で喋るので面倒くさい人だ。
ネギと大根を持って、駅前で怪しげに誰かを待つ男。朴訥で不器用そうな人。くそがつくぐらいに真面目な人みたいだ。
店主をはじめ、この店の常連客は未だ忘れられない出来ないことに囚われている。
ちょうど1年前。常連客の送別会と称して、ノリでみんなで芝居をするなんて企画を立てた。
メインの女優が見つからず、演劇にはまる男が、知り合いの女優を連れて来る。
店の場所が分からないから、常連客は駅前で待ち合わせをする。互いに顔を知らないものだから、常連客の一人がネギと大根を持って待つ。あまりにも恥ずかしいので、スーツに隠していたのが災いして、結局、認識されず、その子は自力で店に行ったみたい。
芝居はまずまず成功したみたいだが、所詮、素人の出し物。セリフは覚えていないし、三文芝居だはで惨憺たる状態だったみたいだが、その子は、とっても楽しそうにしていたみたい。
打ち上げも終わり、店を片付ける時、常連客の一人が皿に残った明太子をパクリと食べたら、涙ながらに私の明太子を食べたと泣きつかれた。
そんなことがあってから、その子はバイトとして、この店で働き始める。
みんなのアイドル的な存在だったみたいだ。でも、楽しい時は長くは続かなかった。
年末の少し暖かい頃。その子は、もう二度と会うことが出来ない存在となってしまった。
それから、3ヶ月が経つ。
店主をはじめ、常連客はその子に囚われ続け、返ってくるはずもないメールを出し続けているみたいだ。
店主は、昭和の時代のボロい携帯で読まれるはずもないメールを彼女に出し続ける。
もう彼女がセリフを言うこともないし、演じることも叶わないけど、未だ、芝居を通じて彼女を想う男。
食べてくれるはずもない明太子を準備して店に通う男。
見つけてくれるはずもないネギと大根を持って、駅前で待ち続ける男。
携帯のメール着信は、みんな沖縄ソングの春。彼女が好きだった歌で、誰からとなく自然とそうなったみたいだ。
男たちは、返ってくるはずもないメールを待ち続け、その春のメロディーが流れるや否や、慌てふためいて携帯を確認し、肩を落とす日々を過ごす。
そんな、男たちを管理人の女性は、飽きれて見ながら、その優しい真摯な想いを感じ取りながらも、もうそろそろ忘れさせてあげたいと思ってもいるみたい。
新しく入ったバイトの女の子の着信も偶然なことに春。そして、どこか、そんな会えなくなった彼女の面影があるらしい。おっちょこちょいなところとか、調子に乗った酔っ払いを一括する力強さ、時折、視線をどこかに寂しげに泳がす仕草。
店主の無意識な彼女の想いが似た子を採用しているのだろうか。それとも、もしかしたら・・・
バイトの子は、いつまでも未練たらしく待ち続ける男たちに、彼女になり代わって、メールをする。
驚きと戸惑いを隠せず、喜ぶ男たち。その姿を見て、バイトの子は自分がメールしたことを明かし、想いのこもった厳しい言葉を投げ掛ける。
いつまでも、囚われていてはいけない。そんなことは望んでいない。たまに思い出してくれるだけで十分だと。
それは、まるで、あの頃に戻って、彼女が叱っているかのように。
彼女と出会ってから、ちょうど1年。お別れをして会えなくなって3ヶ月。
この子が言うとおりだろう。楽しかった思い出までが消えたわけでは無い。
もうそろそろ、私たちも歩み出そう。もう歩めなくなってしまった彼女を時折、思い出しながら。
さようならと楽しかった思い出をありがとう。男たちの胸にそんな想いが刻まれた時、彼女はそれに同じ答えを返すかのように、心だけの見えない姿でメールの中に現れる。
馬鹿なおっさん連中。
出会った人を大切にする優しい雰囲気を醸す店長、辻登志夫さん(tsujitsumaぷろでゅー~す)。
キレのある動き、大きな身振りで、飄々と舞台を駆け回る明太子の男、田中孝史さん。
暑苦しいくらいの圧迫感で醸すウザさ、舌っ足らずの可愛いい口調、切ない表情、おどけた姿と魅力たっぷりのキャラに扮する演劇の男、ことぶきつかささん。
シュールな姿を、何の疑いも無く信念を持ってしている真剣な様相に哀愁と同時に笑いを引き出されるネギと大根の男、牛丸裕司さん(劇団五期会)。
そんな馬鹿な男たちを、厳しくも温かい目で見守る管理人の女性、皷美佳さん(劇団 MAKE UP GELL)。品があるのか、ないのか、急変して男顔負けの荒々しい姿になったかと思えば、男たちを見詰める、母性豊かな優しい表情をされたりする、まさに女優といった感じでした。
みんなの想いが春のほんの少しの時、彼女をこの世に舞い戻したのか、それとも、単に似ているだけの今どきの若い子なのか、バイトの子、谷川早紀さん(MC企画付属養成所SAT)。馬鹿なおっさん連中相手に、完全に主導権をとってしまう肝っ玉の据わり方、アラフォー女性をものともせずに、裏表使って軽くいなしてしまう狡猾さ。可愛らしさを武器に、めまぐるしく変化する表情、口調を活かして、舞台の空気を作るとともに、テンポある話の展開を実現しています。そんな今どきの子の若さあふれる姿の中に、大人である居酒屋の人たちの想いを敬意を持ってくみ取り、それに真摯に向き合おうとする真面目で優しいところが浮き上がるような演じ方でした。
ちょっぴり寂しいんだけど、爽快な気持ちになれる話でした。
出会えた喜びに感謝して、そのさようならというお別れをありがとうで表現する。
別れはつらいことだから、難しいことだけど、いつも、そうあることが出来たらいいなあと思います。
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