~海ゆかば~【劇団未踏座】140411
2014年04月11日 龍谷大学深草キャンパス 学友会館3階大ホール (65分)
死への慈しみ、生への尊さを分かりやすく描いた、非常にいい作品だとは思う。
この作品では戦争がテーマになっているが、それに限定しなくてもいいかもしれない。
生を失った者、失われた命への悲しみを抱える残された者に、その死によって、生の証まで全てが失われたわけではないということを伝え、死を受け止めると同時に、残った者の生を想う優しい話だ。
ただ、この分かりやすさのせいだろうか。ものすごく物足りない印象を受ける。
先がなんとなくよめる話だけが先々に進んでしまい、登場人物の心情が積み上がっていかない。だから、後半、いくら力強い演技を見ても、心に深く迫ってくるものは見出せなかった。
厳しい感想となるが、少々、まあ、正直に書けば、かなり残念だった。
この公演は新入生歓迎公演。
だから、誤解を招くことの無いように、少し記しておく。
新入生がこの記事を見るかどうかは分からないが、ネットでちょっと検索したら、たまたま見てしまったということもあろう。
上記感想はあくまで、今回の作品の話に限定されるものであり、劇団に対して思っていることとは全く異なる。
私は、年間300本ぐらいの演劇作品を観る者だが、この劇団出身、又は所属している人で魅力的な役者さんはけっこう多い。名前までは記さないが、少なくとも二人は、ご出演の公演は優先して観に伺うようにしているぐらいである。
今回の公演も、ご出演の役者さんだけに焦点を当てれば、随分と面白い方もいるし、熱演を魅せる方もいらっしゃったことは観た人ならば同意を得ると思う。
少し個性が強く、癖があるが、演じることを楽しみながら、その作品のメッセージを掘り起こそうと個々が考えて舞台に立たれている方が多い印象である。
そんな方々と共に、芝居をしようと思われた方がいらっしゃるならば、また、この劇団の公演を観に伺うのが楽しみになることは間違いない。
この作品が、新入生の方々の新たな道のきっかけになることは、作品の感想とは関係なく強く願っています。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は日曜日まで>
昭和19年。
3人の大学生が夏の南の島、マリアナ諸島を訪れる。
エメラルドグリーンの綺麗な海の景色が広がる。
歴史を学ぶ研究室にいながら、なぜか空想科学に興味を持ち、おかしな発明品ばかりを作っているお調子者の男。今回の旅でも、卒業研究のためとか言って、気候を操れるという電子レンジと布団乾燥機をくっ付けてめちゃくちゃにしたようないかがわしい機械を持ってきている。
そんな男に呆れながら、責め立てる同期の女性。男の面倒見役みたいな感じだろうか。口を開けばケンカになる二人だが、まあいいコンビといったところだろう。
そして、男の幼馴染で今年から大学に入り、男の後輩となった新入生の女の子。しっかりしているのか、まだ幼いのか、言い合う二人をいさめながらも、自由にこの旅を楽しんでいる。
これから、南の島を満喫しようとしていたところ、男の持ってきていた機械がとんでもない誤作動を起こし、三人はタイムスリップしてしまう。
3人が着いた先は、昭和19年。
当時は、第二次世界大戦の真っ只中。このマリアナ諸島では、日本軍が米軍の攻撃を抑えるべく、駐留している。
そこで3人は、2人の同い年ぐらいの海軍兵と出会う。
最初は、この時代ではあり得ない服装に、奇妙な機械や携帯電話などに怪しい目を向けられるが、3人がタイムスリップしたことを信じてくれる。
一般兵の男は、失敗ばかりで、あまり役には立っていないみたいだが、明るく元気なお調子者。おまけに空想科学にも興味があるみたいで、大学生の男とすっかり意気投合。同期の女性はお荷物が倍になったとばかりに、気苦労が増えてしまったが。
戦争さえなければ、日本を代表する科学者になっていたのかもしれない。壊れた、今やタイムマシンとなった機械の修理を一緒に行う。
上官の男は、自分を律する軍人らしき軍人。でも、厳しさの中に優しさあり。だからこそ、こんな、あまり役に立たない部下を守るように一緒に戦い、3人の言うことも信じてくれたのだろう。
そして、この上官は新入生の女の子の兄に似ているらしい。数年前に海洋事故で行方不明になり、恐らくは亡くなってしまったのであろう兄。お兄ちゃんっ子だった彼女は、上官に親しみを感じ、楽しい時を過ごす。
機械も何とか直り、3人は元の世界に戻ることが出来るようになった。
そんな中、海軍兵の2人が、この後、サイパンに向かうことを知る。
マリアナ、グアム、サイパンと言えば、今ではリゾートの最たる地で、特になんということはない話である。それどころか、羨ましいぐらいかもしれない。
でも、歴史を勉強している大学生の男はこれから起こるある事実を知っていた。
米軍の攻撃は猛烈になり、このマリアナをはじめ、サイパンは大きな攻撃にさらされる。そして、駐留していた日本軍はほぼ壊滅状態になることを。
それを知り、新入生の女の子は、2人も自分たちの時代に連れて行くと言い出す。せっかく出会えた兄の面影を残す上官と、また死という形でお別れしなくてはいけないことはどうしても納得出来なかったみたいだ。
上官は、自分たちがこれからどうなるかを理解しており、死を覚悟している。だから、部下だけは、3人と一緒に未来へ連れて行って欲しいと思っている。
一般兵の男も、自分たちがこれから死へ向かうことをおぼろげながら把握している。でも、国を守るという自分の役目、そして敬愛する上官と共に最期の時を過ごすという覚悟をしている。
大学生の男と同期の女性は、意気投合した一般兵を死なしたくはない。もちろん、自分たちを信じてくれて、優しく接してくれた上官も。そして、新入生の女の子の抱く気持ちも重々理解している。でも、歴史を変えてしまうことは出来ないと葛藤する。
各々の気持ちが交錯する中で、機械が再び作動し始める・・・
結局、3人は元の時代に戻り、2人はそのまま、この地、この時代に残る。
それも、一般兵の仕組んだ機械のからくりで、もう2度とここに戻って来れないように片道通行の状態にして。
上官は、3人との別れの際に、一通の手紙を新入生の女の子宛に渡します。
そこには、あの時代も、今も変わらず美しい、この海のように、自分の生きた証は決して消えることは無いようなことが記されています。
兄を失った悲しみを抱える女の子に、兄になり変わったように、伝えた言葉でしょうか。
死を覚悟していた上官が、自分のことを想ってくれる女の子と過ごした一時に、自分にもいるであろう、自分の死の悲しみを抱えることになる大切な人に残そうとした言葉だったのでしょうか。
死を持ってまで、何かを守るという強い覚悟をする昔の戦争時代の人たちの気持ちは、私には正直、なかなか理解できないところがあります。
でも、その死が、残された者に悲しみを背負わせることは、いつの時代でも変わらないことでしょう。
戦争だけでなく、今だって、不条理に突然、大切な人と死という形でお別れをしなくてはいけないことはたくさんありますから。
こんな時、残された者はどうやって、自分の生を全うしていけばいいのでしょうか。
悲しみやつらさをずっと背負い込んで、悔いの中で時を過ごさなくてはいけないのでしょうか。
ここに、この作品の中の変わらず残り続ける生きた者の想いがあるように思います。
生を失った者は、その死によって、生きていた証まで無くなるわけでは決してありません。その証は、未来永劫、ずっと残り続けるのでしょう。
私たちは、そんな死を慈しみと共に尊び、そして、自分たちが今、生の中にいることを大切にしなくてはいけないのかもしれません。
悲しみを抱える人に、ほんの少しでも、その死を受け止めて、また歩み出す時が訪れることを厳粛に祈るような話でした。
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