喇叭道中音栗毛【楽団鹿殺し】140410
2014年04月10日 アイホール (105分)
とても、心に響く作品だった。
もちろん、楽団の生演奏という効果は大きいだろうが、それ以上に音にこもる登場人物たちの心情が伝わってくるかのようだった。
自分はどこに向かって生きているのだろうか、自由に生きるってどうしたらいいんだろうか、縛られるのは嫌だし、縛るのも嫌だけど、そんな縛り縛られが人間の想い合いなのではないだろうか。
色々な感覚が頭の中を駆け巡り、深刻に考えてしまえば、生きることのつらさや残酷さが浮かび上がるのだけど、それがすぐに温かく素敵なものでもあると変換されてしまうのは、楽しくも力強い舞台上の役者さんの魅力かな。
パンチの効いたきついキャラたちの面白さに笑いながらも、人生を考えて、そこに生きることで得られる素敵なものに出会えるような作品だろうか。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は土曜日まで。>
60歳を超えた中嶋るみ。
働きづめで、結局この歳まで独り者を貫いてしまった。
90歳になる母が風邪をこじらせて入院し、その見舞いの帰り道。
病院で、膵臓癌を患ってしまった昔の親友、春とも偶然に出会ったからだろうか。
るみは、自分のこれまでの人生を振り返る。
人生が旅だとするなら、その目的は何なのだろうか。そんなことをふと考えているうちに、足が勝手にある場所へと向かう。
喫茶マロングラッセ。
かつて、そう1970年のあの頃。
学生運動がまだ盛んで、その運動に熱を入れる者もいれば、このマロングラッセの名前のごとく甘く、自由気ままに生きる者もいた。時代は高度成長期で、好景気にみんなが沸いて、何かしら希望ある未来なんてことを普通に感じやすかった頃だろうか。
当時、ビリーと名乗るマスターの下で、ここはジャズ喫茶だった。
坊主あがりで、酒や女、挙句の果てにはシンナーにまで手を出す二人。
美大の学生。風俗で妻を働かしている上に、同級生の男とも関係を持つ、複雑な三角関係の渦中にいる三人。
そんな連中が、ここでバンドをしていた。
当時、名門のお嬢さん高校の学生だったるみは、その生活にあまり馴染めていなかった。
そんな時、タバコを斜に構えて吸い、ジャズ喫茶に学校をサボって入り浸る同級生の春に憧れていた。そして、後を付いて行っては、自分もこの喫茶で時間を潰した。それは、ダラダラしながらも、仲間と共に過ごす大切な時間だった。
そんな思い出話を、ビリーの孫である、今のマスターに語り出す。
暇な喫茶店。
マスターも祖父からしつこく聞いていたその当時の話を思い出しながら、るみの思い出話に付き合う。
そんなマロングラッセの面々に、ある日、一通の手紙が届く。
教授からの手紙。教授と言っても、本当の先生ではない。でも、いい大学を中退するだけの知識を持ち、音楽を愛し、自由に思いのまま生きる男で、みんなから愛されていた。
父親が交通事故で亡くなり、実家の蕎麦屋を弟と一緒に継ぐことになり、ここを去って行ってしまった。
手紙の内容はそのほとんどが、そんな蕎麦の作り方を記したものだったが、最後に謎めいた言葉が書かれていた。この手紙をみんなが読む頃には、私はこの世にいないかもしれないと。
蕎麦屋で何かあったのだろうか。
みんなは、いても立ってもいられず、誰からともなく、教授のところへ行こうと言い始める。
場所は伊勢神宮近くの蕎麦屋。ここ、マロングラッセは新宿。
当然、フーテン連中に金は無いので、電車などに乗って向かうことは出来ない。
バンドの楽器を担ぎ、世にも奇妙な東海道中膝栗毛ならぬ、喇叭道中音栗毛の旅が始まる。
話は、教授が弟と共に蕎麦屋を始めてからのこと、マロングラッセの面々が旅で出会う四苦八苦、その中でその面々が今に至るまでのことを各々に焦点を当てながら、シーン切り替えしながら展開していく。
弟は元々、蕎麦屋に向かず料理のセンスが無く、教授は腕はあるが何と蕎麦アレルギー。苦肉の策で、弟の嫁にエロい格好をさせて、セクシー蕎麦屋として大繁盛させる。
そのうち、教授と弟の嫁が惹かれ合うようになり、兄弟の仲がギクシャクし始める。そして、弟は嫁に対して縛り付けようとし始める。
元々、嫁が教授に惹かれたのは、甘えてばかりの弟に対し、母のように接し続けてきており、このままでいいのかと心が揺らいだみたいだ。それでも、本当に嫁が愛していたのは弟だった。だから、嫁は弟に別れるとかまをかけて、弟の真意を確かめようとする。教授はそんな相談を嫁から受ける。でも、高まる弟の嫁への恋心は抑えることが出来なかった。別れると嫁から言われたと悩む弟が教授に相談を持ちかけた時、本当ならば、それは嫁の真意では無いから謝って仲直りしろと言うべきところを、別れるべきだと言ってしまう。
そして、本当に弟は嫁と決別する。別れの酒を三人で飲み、その夜、弟は飲酒事故で帰らぬ人となる。
教授は、自分は何にも縛られず、何かを手に入れるという欲も無く、ただギターを弾いて自由に暮らすスナフキンのような生き方を信念としていたのに、弟の嫁を手に入れたいという欲を持つ自分に葛藤し始める。
一時は、弟の死への償いなのか、弟の嫁と結婚をする覚悟をするが、結局は、自分の生き方を守るために、弟の嫁にこの家から出て行ってもらうことにする。
それでも、弟に嘘をついて取り返しのつかないことをしてしまったことだけは、頭から消えない。
マロングラッセの面々の旅には、様々な苦難が降りかかる。
幽霊のいる宿屋に連れ込まれ、死の世界へと導かれたり、食べると嘘をついてしまう変なキノコを食べてえらい目にあったり、鉄砲水で流されて死にそうになったり、河童に命を狙われそうになったり・・・
そんな突拍子も無い出来事に交えながら、面々の今に至るまでの過去が描かれる。
坊主あがりの二人は、かつて修行をしていた寺の和尚からとかげのしっぽ切りのような裏切りを受けて、こんなフーテン生活をするようになった。
美大生は、元々、絵のモデルだった女性に一目惚れ。過去に男にひどい裏切りを受けて別れることになったことから、男に不信を抱く女性に対し、ドラマ顔負けの猛アタックに、赤面レベルの告白で結婚にまで至ったこと、いじめを受ける同級生をかばうという優しさから、いつの間にか愛にまで発展してしまった経緯。
生きる目的が見い出せず、生に魅力を持てず、死を恐れることが無かった春は、教授の生き方や、生きることの信念に人として、男としても惹かれていったこと。
そんな各々の姿が映し出される。
やがて、マロングラッセの面々は、この小さな旅の目的であった伊勢神宮近くの蕎麦屋にたどり着く。
そこには・・・
樹齢何千年の杉がそびえる伊勢神宮。
それに比べて、わずか数十年の人生である人間。
その中の、たった数日間のちょっとした旅。
生きる目的なんて言ったって、こんなちょっとした旅一つにしても、目的なんてあやふやになってしまう。
数十年の人生の旅でたどり着く目的を意識して生きることなんてきっと無理なんだろう。
何千年もそびえる杉は、そんなこと考えることも無く、途方もない時を毎日、毎日過ごしてきたのだろうから。
裏切られたことを悲しみ、大切な人との出会いに心をときめかせ、色々なことに縛られてしまう人間。時には自由なんてことにまで、縛られてしまうみたいだ。
でも、そんな縛り縛られ合いが、いくら時が経っても消えない想い合いに繋がっているのではないだろうか。
るみをはじめ、マロングラッセの人たちはフーテンのように目的の無い旅をする。でも、こんな素晴らしき出会いを得た大切なジャズ喫茶が一つの旅のスタートであり、そこにまた戻ってくる日が一つのゴールにもなっているように感じる。
人生の旅は、どこかへ向かうのが目的なのではなく、大事な場所に戻って来て、また新たに旅立つことの繰り返しから成り立っているような感覚かなあ。結局、そんなに動いていないような気がする。何千年を生きる樹木みたいに。スナフキンもムーミン谷にいつも戻って来るしねえ。
そんな素敵な時間や場所、人と出会うことが大切なことのように思う
この道中での旅のゴールは、蕎麦屋ではなく、また戻るマロングラッセだったと思うし、そこから、またみんな各々の旅に出たみたいだ。るみは一足先にまた戻って来た。そして、また旅立つ。
マロングラッセが無くなっても、そこにいた人がこの世からいなくなっても、その証や想いは消えない。
何度でも出会い、また新しい旅が始まる。
縛られるとか縛っているとかに囚われることなく、気楽に自由きままに。
そんなちょっとした安堵の気持ちを得たような作品だった。
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