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2014年3月 2日 (日)

エリー【劇団ちゃうかちゃわん】140301

2014年03月01日 道頓堀 ZAZA HOUSE (95分)

厳しい現実から逃げ込んだ空想世界の中で、その葛藤に苦しむ少年。
彼が最後に信じて、自分自身の世界へと歩みを向けたのは、一人の少女のほのかな光だった。
といったような話かな。
病んだ精神世界が描かれているようでもあるが、同時に輝く楽しいファンタジーの世界が交錯しており、不思議な優しい感覚と共に、どこか不安感が煽られるしっくりこないもどかしさが残る。

貧しい生活。飢えと寒さをしのぐために必死に生きる男の子。
酒乱の父、産まなけれよかったと拒絶する母。
ゴミをあさってる姿から、灰かぶりと言われて、周囲から虐げられる日々。
誰からも呼ばれることが無いので、名前を持たない。
そんな中、エリーというちょっと生意気な優しい女の子と出会う。
彼女は、彼を虐げることなく、スウィーティーという名前で呼ぶようになり、友達となる。
冬の寒さが厳しい中、エリーからもらったマフラーで温もりを感じるように、彼のつらい日々の生活にほのかな灯りが灯る。
しかし、彼は内在する両親、周囲の人たち、世間への憎しみ、そして、自分の弱さが、いつかエリーを傷つけることを恐れ、彼女から遠ざかろうとする。

そんな彼の心配は現実となる。
エリーからもらったマフラーを父に取り上げられ、母からも触れるなと拒絶された時、彼の内在する臆病な狂気が人格を持つかのように、彼を支配し始める。
全てを消し去り、自分だけの世界を創ればいい。ネバーランドの誕生だ。
優しい両親に、アリスという友達。そして、何も知らない純粋無垢な自分の分身かのような少女を創り出し、窓とベッドと机だけの真っ白な部屋で外界とは遮断された閉じこもった生活を始める。
昼間の日が差し込む間は少女が、空想の世界で創り出した人たちと楽しい時間を過ごす。少女が眠り、部屋が闇に包まれた時、男の人格は顔を出す。少女との交流は互いに記す日記。
そんな中、エリーがこの部屋を訪ねてくる。

少女は日々、エリーと話をする中、外の世界に興味を持ち始める。
このことが、この空想世界の均衡を崩す。
彼が創り上げた人たちは、自分たちの存在が消されることを恐れ、エリーを侵害者として敵対視し始める。
狂気な人格は、エリーを傷つけようとする。
男は決意する。これまで避けてきた、何も知らない少女と対面し、この空想世界に終わりを告げることを・・・

虐待で心を閉ざした少年の心理療法みたいな、少し病んだ話のように思われるが、実際に観ていると、そのドロドロさは薄れている。
それよりも、どこかフワフワしたファンタジー色が強く、数々のキャラも、ネバーランドの妖精のように見えてくる。
気は優しくて面倒見のいい男、楽しいことが大好きで周囲をいつも明るくさせる女、暴力的で厄介者だが本当はみんなと一緒にいたいかのようなやさぐれた男。
ネバーランドという言葉は実際に劇中に出てくる。また、作・演の方の当日チラシの言葉からは、大人にならなくてはいけない時のようなコメントが記されている。
そんなことからも、この作品はモラトリアムからの脱却の決意といった感覚で読み取る方が適切なのかもしれない。
ただ、それにしては、少々、病んだ雰囲気も残されていて、焦点がぼやけるところではある。
細々としたところで、色々と分からないことがたくさんあるのだ。
部屋はどこなんだろう。監獄。病院。
狂気人格が全てを消し去ったのが、空想なのか現実なのかが分からない。
医者は外界から空想世界へと侵入する敵なのか。その世界を認める味方なのか。それとも、こんな世界に逃げ込むことを客観的に見詰める創り上げられたキャラなのか・・・

主人公であるぼくは、このネバーランドの創始者であり、かつ管理者。
そこには、わたしというぼくの分身を住まわせ、これまでのことを忘れ、不安の無い時間を過ごさせることによって、ぼく自身にも外界でのつらい日々から目を背けさせているかのようである。
そのネバーランドは、エリーという少女との出会いがきっかけで創り上げられている。エリーとの楽しい日々。エリーを失いたくはない。でも、一緒にいると傷つけてしまう。そんな相反する感情が、この空想世界へと彼を導いた。それは時計ウサギによって導かれた不思議な国のようなイメージなのだろうか。実際にネバーランドには、そんな不思議な国の住人であるアリスというキャラが存在している。
そんな時計ウサギのようなエリーは、彼が創った空想世界の中にもやって来る。でも、その住人からは歓迎されない。
そのことは、ここが不思議な国でも何でも無いことを意味する。
エリーはぼくにとっての大切な友達で、逃げ込む世界へと導いてくれるような時計ウサギでは無かった。
エリーとまた出会うためには、自分がここから抜け出さなくてはいけない。自分の安らぎのために、生み出した一緒に日々を過ごした人たちと決別し、ここのように差し込む光が全て部屋を包むような真っ白では無い世界へ。
でも、そこには、暗闇の中にもエリーのようなほのかだけど、大切で温もりのある光があることを信じて。
といったような話なのかなと、勝手に分からないところを補填して解釈しました。

ぼくにとっては、きっと負の現実と正の空想。
その間に存在する0のような存在を思わせる少女はどういう意味合いなのだろうか。
何も知らない、未来は無限の希望といったネバーランドの住人をイメージさせているのだろうか。
ぼくが逃げ込んだ先は、楽しい空想世界ではなく、何も感じることの無い空虚な世界だったように感じる。
正と出るか、負と出るか。現実を突き進もうと、空想に逃げ込もうと、ネバーランドにはずっといることが出来ない。
0のままで人は生きることは出来ないといった厳しさを感じる。

あと、どうもここだけが、ずっと観づらくて気になる。
シーン切り替え。
あれは何か意味があったのだろうか。
切り替えのたびに、はい、おしまいです、違う人に変わりますみたいな感じで、薄暗い中で、人が入れ替わったりすることが多く、興醒め。
普通に真っ暗になる時もあるから、何でなのかが分からない。
ぼくとわたしは、真っ白い部屋で、昼間の光が薄れ、暗闇がぼんやり現れ始めた頃に切り替わるみたいなので、ある意味では正しい感もあるが、連続性は観ている限りでは、完全に断ち切れている。
断片化したシーンが、そのままぼくへの盛り上がる感情移入を妨げ、言動が唐突にすら思えてしまうことが多々あったことが少々、残念な感じがする。

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コメント

劇団ちゃうかちゃわん冬季公演『エリー』にお越しくださいまして、本当にありがとうございました!
ビオラ役で出演させていただきました藤本麻瑚です。
今後とも、劇団ちゃうかちゃわんをよろしくお願い致します。また卒公、新歓公演等、お時間がありましたらぜひ足をお運びください。

投稿: | 2014年3月 2日 (日) 22時39分

>藤本麻瑚さん

コメントありがとうございます。

お久しぶりでしたね。
神戸で何回か公演されているなあとチラシをチェックした覚えはあるのですが、伺えず終いで。
メリハリの効いた魅せれる役どころでしたね。
また、ちゃうかちゃわんはじめ、どこかの公演で。

投稿: SAISEI | 2014年3月 3日 (月) 14時54分

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