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2014年3月16日 (日)

B&B【JACKPOT】140316

2014年03月16日 芸術創造館 (110分)

ハッピーエンド過ぎやしないか。
そんなくらいに、ラストはハッピーが連鎖する。
ここまで、完璧にハッピーエンドにしている作品も珍しいのではないだろうか。
だいたい、何かちょっとブラックなところも入れたくなるのが常だろうに。
そして、さすがは演劇作品らしく、メタフィクションの形でうまいなあといった作りも魅せている。
見事な作品だと思う。
幸せでおなかいっぱいだ。

テーマは引き籠りらしい。
心に抱える闇は、人それぞれあって、色々と大変だ。歩みを止めざるを得ないことだってたくさんある。
でも、本当にちょっとしたことで変わる。ちょっとしたきっかけだ。それに恵まれていないだけなのだろう。
引き籠っているだけでは、そのちょっとしたことを得ることが出来ない。
だから、少しだけでいいから、顔を出したらいいのではないだろうか。それか、入り込んでくる人を少しだけ受け入れてみたらいいのではないだろうか。
周囲の人の姿を見るだけで、きっと自分は変われるはず。
そんなことを観て思う。
当日チラシにも書かれている。
この作品も、そんな苦しむ人たちの心がやわらぐ、ちょっとしたきっかけになればいいのになあと思う。

B&B。ベッド アンド ブレックファースト。
舞台はそんな一軒家の幾つかの部屋をシェアするような形の宿泊施設。
主人の男はもうすぐ結婚をする予定らしい。と言っても、少々、気の強そうな相手の若い女の子から、無理やりその方向にもって行かされているような感じだ。恐らくは、男はもちろん真剣に女を愛してはいるが、結婚とまでなるとまだ覚悟が必要といった状態なのだろう。
若い女の子が集めてきた式場のパンフレットを捨てるといった行動をしているところからも、男の幼稚さが伺い知れる。

住人たちは、この主人と若い女の子以外に、全員で6人。夜中に物音がしたり、幽霊が出るという噂の開かずの間となっている部屋を残して満室状態だ。
職探し中の男。同じく、職探し中の女。二人は要は不倫による愛人関係だ。男は結婚をしているが、職場の後輩に手を出し、それがバレて二人は首。奥さんにもバレて男は姿をくらましているといった模様。見つかりでもしたら、修羅場になる危険な日々を過ごしている。
恋人が失踪してしまい、大阪まではるばる青森から探しに出てきた女の子。女の子も心の奥では分かっているのかもしれない。恋人はきっと女の子のことが嫌になって逃げ出したのだろう。
教師をしている女性。自分に自信が持てないみたいだ。それは、教師としても、女としても。だからだろうか、不倫をしている色気を漂わす女性と犬猿の仲である。
対人恐怖症の男。そのため、いつもキャラを作って人と接する。一応、設定は哀川翔らしい。ちなみにこのキャラは、前説の段階で3キャラから客が拍手投票で選ぶことが出来る。レパートリーがどれだけあるのかは知らないが、美輪明宏、武田鉄也は候補に挙がっていた。こんな厄介な心の病を抱えているのに、職は弁護士なのだとか。当然、仕事は出来ていない状況だ。
引きこもりの男。何でこんなことになったのかはよくは分からない。ただ、顔が恐いので、周囲からかなり偏見の目で見られることは理由の一つみたい。
あとは、隣のスーパーのオーナーの息子で、いつも明るく元気一杯の、少々、間の抜けた青年が出入りをしている。食材を特別サービスで配送しているみたいだが、主人からはお金をなかなかもらえず苦労している。それでも頻繁にやって来るのは、どうやら不倫中の女性に恋心を抱いているみたい。あと、ちょっとした理由が実はあるみたいだが。

そんなB&Bに、一人の女性が大きな荷物を抱えてやって来る。ハワイ帰りらしい。
住人たちの姿を見て、かなり動揺している。パニック状態だ。
どうやら、この女性、やって来たのではない。帰って来たのだ。自分の家に。
住人たちと女性が噛みあわない会話を繰り広げる中、この施設の主人と電話で部屋の契約をしたという脚本家の男もやって来る。
そんなはずがない。
だって、主人は数か月前に亡くなったのだ。
もう、何がどうなっているのか分からず、収拾がつかなくてごちゃごちゃの中、不法侵入して住みついていたらしき女性までもが現れ・・・

前半の30分はこんなドタバタコメディーで突き通す。
二幕のような中盤は、このごちゃごちゃな状況のからくりが解明される時間。
主人が亡くなり、1年の予定で傷心旅行ともいえるハワイに行っていた女性は、友達に家の留守番を頼んだ。
この友達が、今の偽の主人と結婚する予定の若い女の子。でも、この友達、一人が寂しくて、勝手に自分の恋人を連れ込み、しかも、その恋人を主人にして、家を宿にしてしまった。
もちろん、1年後には元通りにするつもりだったみたいだが、女性が早く帰ってきてしまったからこんなことに。

真相も明らかになったが、これからどうするんだといった状態。
みんな、いきなり出て行けと言われてもどうすることも出来ない。
それに脚本家にいたっては、ここで作品を執筆する予定だったのに、これでは部屋をあてがわれることもままならず、もうどうしようも無い状態だ。
そんな中で住人たちは、互いの気持ちをぶつけ合いながら、今の自分自身を見詰め直していく。
三幕はある事件をきっかけに、こんな見詰め直し、そしてそこから新しい道を見出す人たちの姿が描かれる。

この施設の住人たちはみんな、様々な形で引き籠っている。というか、逃げている。
留守を頼まれた友達は寂しさから逃れるために、安易な行動をして、こんなことを引き起こしてしまった。
偽の主人は、そんな女の子の気持ちを知りながらも、この期限の決まった施設で暮らしながら、時間を費やし、二人での結婚生活から逃げている。
不倫中の男は、奥さんと別れて後輩の女性と真剣に付き合うことを曖昧にし続ける。女もそれを知りながらも、その男に執着する。
青森から来た子は、かつての恋人から嫌われた事実に目を背け、自分の欠点を改めて、よりいい女になろうとしない。
教師は、ずっと自分に自信を持てず、ネガティブなことばかり考える。
弁護士は、いつまでも本当の自分を押し殺し、偽りの自分で人と接し続ける。
引き籠りの男は文字どおり、部屋に引き籠って、何かをしようとしない。
ハワイ帰りの本当の家主は、亡くなった主人の影をいまだ追い求める。
脚本家は、風水だの何だのと言って、書けない自分を誤魔化し続ける。

自ら一歩踏み出せば、何かが変わる。そんな人たちばかりだ。そのきっかけが掴めないのか、勇気が沸かないのか。
でも、一人だけ、本当に逃げざるを得ない時間を過ごしてきた人がいた。
それは不法侵入をしてまでも、勝手に家に住みついていた女性。
この女性は、夫を殺した疑いをかけられて、夫の家族からも犯人扱いされ、指名手配される中で逃げている。
住人たちは、そんな女性の冤罪を晴らすために、脚本家の指揮の下、その時の状況を再現してみる。
その結果、やはり女性は犯人ではないはずだと確信する。夫の家族も現場状況から、憶測で犯人に仕立て上げてしまっただけであろうと考えられる。
これまでずっと逃げてきた女性。今さら、出頭しても、自分のまずい立場が容易に変わるとは思えない。でも、勇気を振り絞り、自分の名誉のために彼女は警察に赴く決意をする。
その姿に、住人たちは・・・

といった感じで、ここからは、停滞していた自分が、新しい人生を歩むきっかけを得て、勇気を出してみようとした住人たちのハッピーエンドの連鎖が連なります。
弁護士はその女性の弁護をやり遂げる決心をする。そして、さらには実は心を寄せていた女教師に告白をする。
女教師は自分自身をポジティブに捉えるために、まずは自立した生活をするべく、この施設を出て、学校近くに住んで仕事も私生活も充実させるべく頑張る決心をする。
偽の主人は、今の生活を見詰め直し、女の子との付き合いを真剣に考え始める。
女の子は、自分本位に男を愛するのではなく、男と向き合いながら、二人の愛を深めていこうとする。
不倫中の女は、曖昧な態度の男から脱却し、自分の道を進もうと職探しを本気で始める。
男は逃げ出した奥さんの下へと戻ることにする。
引き籠りの男は、こちらも恋心を抱いていた青森から来た子に告白。
青森から来た子は、かつての彼氏の呪縛から解放される。

そして、エピローグ。
あの日から数ヶ月。
各々の道を歩み出したみんなが、またこの施設に集まる。
脚本家が、今回の一連を題材に創り上げた作品の公演を観に行くために。
ただ、脚本家は出来に不安があるらしく、何やら落ち着かない様子であるが。
各々の恋愛も順調そうだ。
引き籠りの男は青森であの子とよろしくやっているみたいだし、弁護士と教師もそれなりに。弁護していた女性の警察による再捜査も決まったらしく、これからは、少しは忙しさが緩和され、二人で過ごせる時間も出来るだろう。
不倫の男は、きっと、肩身が狭いだろうが奥さんとまた過ごしているはず。
いつの間にやら、たくさんのカップルが成立した。

でも、まだ独り者の人もいる。
不倫していた女は、職は決まったが、男とは別れてしまったので今はフリーだ。彼女にはいい人がきちんと現れる。職が決まったお祝いに正装で花束を抱えてやって来るような純粋な男。隣のスーパーの息子。
そして、ハワイ帰りの家主。
まだまだ、亡くなった主人への想いを断ち切るのは難しいだろう。でも、そんな凍った心を溶かしてくれるような真摯な愛を彼女に与えてくれる人がいる。
それは、これからみんなで観に行く作品を観たら、家主にも分かるだろう。
その作品のラストは、最後に恥ずかしいくらいに、脚本家がある人に愛を語るシーンで締められるらしいので・・・

恥ずかしいくらいに幸せいっぱいの素敵な作品でした。

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コメント

この度はご来場ありがとうございました。
楽しんでもらえて良かったです。
ちなみに、他の候補のモノマネもちゃんと舞台上でやりましたよw

併せて、過去に自劇団のレビュー書いていただいているのも再読しました。
また、カン劇cockpitでも何かしら心に刺さる物語をお届けできたらと思います。

投稿: 松本大志郎(カン劇cockpit) | 2014年3月19日 (水) 02時59分

>松本大志郎さん

コメントありがとうございます。

久しぶりに舞台で拝見したような気がします。
けっこう芸達者なんですね。
あんな役どころをさせられているとは(゚▽゚*)
楽しませていただきました。
三輪さんは見たかったなあ。

また、自劇団の公演にも伺いたいと思います。
益々、ご活躍ください。

投稿: SAISEI | 2014年3月19日 (水) 16時35分

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