箱~forget me not~【TrouBleMaker*people】140314
2014年03月14日 シアターOM (90分)
前半の個性的なキャラによるドタバタコメディーの笑い。
後半からラストに向かっての意外な話の展開による脚本の妙。
閉鎖された心が解放する中で、溢れてくる優しく温かい想いから得られる感動。
心情表現豊かな役者さんの見事な演技。
総合的にそれらがこの作品の面白味に全て繋がっており、魅力溢れる作品に仕上がっている。
良く出来た作品だなあといったのが率直な感想だろうか。
<以下、ネタバレしますので、公演終了まで白字にします。上記したように意外な展開も、この作品の魅力だと思うので、これから観られる方はご注意願います。公演は明日、土曜日まで>
もうすぐ26歳になる女性、愛美は十数年振りに学生時代に友達だった、いや、実は恋心を抱いていた女友達の部屋に居候するために、部屋の片付けをしている。
触ると汚いなんて言われて、みんなからいじめられていた頃に、そんないじめっ子も、ウジウジしていた自分も男勝りにスッキリと叱り飛ばしてくれた子が、その友達だ。
愛美はなかなか要るもの、要らないものの仕分けがはかどらない。
疲れたので、亡くなった両親の仏壇に手を合わせて挨拶をしてから、眠りにつく。
気が付くと、変な5人組が部屋にいる。全員、幽霊らしい。
優しく気が良さそうだけどストーカーをしていたらしい男、話し方や動きがちょっと人と違って変わっている女、オカルトが趣味で知識豊富な女、可愛らしさに憧れているオカマ、口が悪く男勝りなレズ。
とにかく変わった連中で、この日から愛美はこんな幽霊たちとドタバタの日々を過ごす。
そんな中、さらに5人のリーダー的な存在らしい、少々痛いアイドルの格好をした女、そのリーダーすらをも黙らせてしまう迫力あるメイドまでもが現れる。
そして、なぜか愛美にしか見えない、白い服を着た女の子。彼女は白いカメラを愛美に差し出し、大切な一枚の写真を撮れとジェスチャーで伝え続ける。
おかしな連中ではあるが、愛美にとっては楽しい時間が流れる。
70分ぐらいまでは、こんな愛美と幽霊たちのドタバタを楽しむ時間となる。かなりのドタバタコメディー風の作りになっている。
ただ、その楽しい雰囲気の中に潜む影を感じさせる。この影を愛美に受け止めさせるために幽霊たちが現れたことがほのめかされている。
影は、この段階までは、過去のいじめによる愛美の心の閉鎖。
作品名からもそこからの脱却に残りの時間が使われると思う。
楽しいコメディーから、演劇らしい心の闇の解放。
こんな自分が思ったままの展開でラストを迎えているならば、それほど面白い作品だとは思わなかっただろう。
実際は、いじめを想像させ、ミスリードを誘っている。
彼女が今の状態に至るまでに、隠してしまいたかった記憶を誤魔化して、違う記憶とすり替えてその整合性をとるために必要な設定がいじめだったみたいだ。
愛美に潜む影は、実はもっと奥深く闇に包まれているものであった。
残りの時間は、この真相を一挙に描き出し、その事実と愛美が向き合うことに費やされる。
父によるDV。
限界にまで達した愛美は、父、そして母までを記憶から消去してしまう。
これが彼女が作り出した箱の中に自分を閉じ込めた真相だ。
幽霊たちがしようとしたこと。そして彼らの正体。
自分は愛されていない、生まれてくるべきではなかった。
でも、本当にそうだったのか。
確かにひどかった父。でも、愛美はまだ父の愛を受けていた頃のことまで、一緒に記憶を消去してしまっている。幽霊たちは、そのことを思い出させて、自分が愛されるべき、想われるべき一人の大切な人間であることに気付かせたかったようだ。
それは父がくれた一冊の絵本。
色とりどりの風船を持っているフリフリのアイドル風の恰好をした女性。その色は人のたくさんの感情を抱いているらしい。
絵本の中の白い少女は、白い風船を手に取る。
自分の様々な感情が詰まった風船。大切にそんな感情と一緒に生きていく。
でも、少女は風船を手からうっかり外してしまう。高いところに引っかかってしまった風船。
その風船を取ろうとたくさんの人が集まってくる。
優しそうなお兄さん、変な話し方をする女性、ちょっと怖そうなオカルト風の女性、オカマ、気の強そうな女性。
みんなは少女のために、身を張って風船を少女の手に再び戻す。
自分は一人では無い。想ってくれる人、愛してくれる人が周囲にいた。そんな大切な想いは、愛美の頭の中にしっかり焼き付いていた。
だから、それを思い出し、過去の悲しくつらい出来事を乗り越えていくことが出来るはず。
そんなことに気付いた愛美は・・・
愛美の過去の現実、今の頭の中の世界、絵本の世界を交錯させて、心の解放へと導くまでを描いているみたいだ。
意外性のある巧妙な脚本に、うまく騙されてしまったなと面白味を感じる。
観ながらは気付かなかったのだが、今、こうして感想を書いていると、メイドが出てこない。彼女は、もしかしたら愛美の母親だろうか。部屋を散らかして口うるさい感じなんかは母親っぽいし。
父のDVから自分を守ってくれなかったことで、一緒に記憶から消したようだが、心のどこかでは常に愛美を想ってくれる母の姿を理解していたのかな。
辛く苦しい時に、それを封印してしまうことは決して悪いことでは無いとは思うが、一緒に大切な人の想いまで消えてしまうのなら、それは悲しいこと。
不条理な悲しいことを受け止め、そこにあった自分の大事な気持ちをもう一度見つめ直す。
そんなことが、愛美をもう一度、歩ませることに繋がったようだ。
悲しいことを悲しい、つらい、憎いという視点だけで捉えず、そこから光を見出して、自分の成長の糧にしているような大事な生き方を伝えているような作品に感じる。
愛美がSA-Rliさん。白い少女が西田美咲さん(劇的☆ジャンク堂)。
SA-Rliさんは初見だろうか。西田さんはこの方目当てで足を運んでいるので、よく拝見している女優さんだ。
このお二方が、絶賛レベルの素晴らしい演技だった。
SA-Rliさんは前半のコミカル調な部分では、きつ過ぎる個性的なキャラに振り回されながらも、その困惑を笑いに変えている。後半は、自分の心が開かれていく中で、もう一度思い出さないといけなくなった辛い過去の体験への不安、甦ってくる自分が受けていた温かい想いへの安堵が絶妙なバランスで感じられ、苦しみの中で前を向き始めようとする凛とした表情がとても素敵だった。
西田さんは、純粋無垢な少女の感情をコンテンポラリーダンスをされている影響もあるのか、表情や動き一つ一つで丁寧に表現される。愛美を見詰める視線が優しく、温かく、可愛らしく。愛美が失った感情全てを、ずっと自分が守り続けていたかのように、豊かな喜怒哀楽表現で魅せる。
もちろん、個性的なキャラのドタバタのコメディー部分も面白い。でも、この作品の最大の魅力は、脚本の妙とこのお二方の魅力溢れる感情豊かな演技にあるように感じる。
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