のぞき穴、哀愁【MONO】140310
2014年03月10日 HEP HALL
テンポのいい会話のリズムにのって、時折、心に突き刺さる言葉にハッとしながら、展開する話を楽しく観劇。
何をしてんだよ、この人たちはといったバカバカしい呆れや笑いに浸っていたら、最後はいつの間にかしんみりと切ない感覚が襲ってくる。
自分が、もうそこそこの歳だというのもあるのだろうか。
そうだよなあ、のぞいているだけでは、確かに何も変わらんわなあ。でも・・・
みたいな、作品名どおり、哀愁が心に浸み込んできた。
楽しかったけど、悲しい中年の姿が浮き上がる。
いや、それでも、あれだけの人たちだ。
きっと、どこかで時には懸命に、時にはしたたかに、また子供のようなところを見せながらも頑張っているだろう。
ラストに捨てられてしまった人たちの行方はエピローグで描かれていないので、勝手にこちらで想像して、頑張れ、頑張れ、負けるな。光あるところで生きている人をのぞいて、うらやましがるな、誇りを持ってニヤリとしてやれ。
なんて、自分にも伝えたい激励を頭にしながら、帰路につく。
<以下、若干ネタバレ。既に長期間の公演をされているので、少々は問題ないだろうと判断して白字にはしていませんのでご注意ください>
舞台はある会社の天井裏。
これが配管やダクトなどがしっかり組まれた驚くほどの精巧なセットとなっている。
これが本当に凄くて、いきなり感動だ。名古屋や北九州とかは1、2公演しかなかったのに、これをちゃんと組み上げて、またすぐにバラしたのかなあ。
この劇団ぐらいの本物の作品を魅せるには、やはり舞台美術もそれ相応の本物なんだなあと感心。
ここで諜報部として、女性課長の下、3人の男が働いている。今日からは、新人も入る予定だ。
している仕事といえば、のぞき穴から社内の様子を探ること。
この会社の3代目の社長は、亡くなった時に、息子に跡をつがさず、違う男を社長に抜擢している。
息子はまだ、この会社で働いている。
猜疑心の強い粘着質な性格なのだろう。不穏な動きが無いかを監視させているというわけだ。
さらに、ついでに縁故入社させた娘の監視も仕事の一つだ。
女性課長は社長の愛人、働く3人の男はかつて解雇した者を集めている。
新人はついこないだ首になった若い男。
のぞき穴は幾つかあり、それぞれが担当してのぞき、社内の状況を社長に報告する。
中でも重要なのぞき穴は、一応、諜報部のオフィスとなっている空間にある広報部の上ののぞき穴。
この広報部では、仕事の出来ないデリカシーに欠けた男性課長の下、二人のOLが働いている。
一人は例の社長の娘である。」
そして、この部署になぜかよく出入りしている元社長の息子。誰か目当てなのだろう。
ターゲットの二人を同時にしっかり監視できる重要なのぞき穴なのだ。
諜報部の2人の男は自分の担当のぞき穴を差し置いてでも、この広報部をのぞく。
仕事熱心なわけではない。
各々、お気に入りのOL目当てで、彼女たちの日々の姿を見るだけで幸せという、アイドル感覚で見ながら妄想にふけっている。いくつになっても、人の恋心は抑えることは出来ない。
もう一人の男も、課長に恋心を抱いているらしい。社長の愛人であることを探るように、嫉妬深く執拗に時折、発言している。
そんな中、広報部の面々や元社長の息子に、この諜報部の存在がバレてしまう。もちろん、のぞき穴も。
全てが終わり。
しかし、元社長の息子は、このことを公にはしないと言う。
それは、この諜報部で働く人たちは、孤独で居場所を失った人たち。
自分自身も今、社内でそんな状態にある。
自分は社長になりたいという野心は無い。だから、自分の苦しみを理解してくれる人がいてくれるだけで嬉しいと。
そんな元社長の息子の人柄に惹かれたみんなは、この日からある策略を実行する。
偽情報を社長に流し、社内の重役陣の関係を崩壊させる。そして、元社長の息子を社長の地位に就かせる。
社内情報をすべて知ることが出来る諜報部、それを巧妙に社内にそれらしく流すことが出来る広報部ならではの最高のタッグチームが形成される。
計画は順調に進む。
これまで、単にのぞくだけで、内心はこれではいけないと思っていた諜報部の面々もイキイキとしている。
広報部とも接触するようになったので、のぞいていただけのOLと今では会話も出来るようになった。
課長も社長とは別れ、元社長の息子を社長にした上で、新しい人生を歩もうと考え始める。そんなことを伝えられた男も驚きながらも嬉しそうだ。
新しく入ってきた男も、最初はどうなることやらといった状況だったが、仕事に手ごたえを感じ始める。
広報部の課長は、元社長の息子が社長になった暁には、もっと別のやりがいのある仕事が出来る部署へと異動させてもらおうと思っている。
元社長の息子は、みんなに感謝して、社長になったら、みんなにはそれ相応の立場をなんて言っている。そして、社長の娘との恋愛は水面下で順調に進行しているようだ。
そして、ついにその計画が達成される日がやって来て・・・
何かすごく盛り上がって、希望に溢れていて、自分も一緒になって嬉しくなっていたのに、ラストで我に返らされる。
調子にのってしまったのは、舞台上の登場人物だけでなく、観ている自分だったという感覚がラストの哀愁をより引き立たせている。
反省の念も入った、悔しい気持ちも混じった複雑な切ない気持ちになる。
そう、元々はのぞいていたような人たちだったのだ。
会社も解雇され、居場所を無くした人たち。
何かをやろうとしたわけではない。ただ、言われるがまま、のぞいているだけだった。
そんなことで、いいことが舞い降りるほど人生は甘くない。
一時、訪れた希望の光は見せかけに過ぎない。
二人の男はOLに当たり前のようにフラれる。そりゃあそうだ。初めからそんな付き合うとかは無理だったのだ。希望の光は消えた。
女性課長と付き合えそうな男もそのことを漠然と知っている。
彼らは分かりやすく失恋した。自分は、今は、恋愛が成就したような状態にある。でも、その光もいずれ消える。光はいつものぞき穴の、向こうから差し込む。
だから、向こうにいかない限り、自分たちには希望の光は照らされない。
盛り上がる計画。きっと成功して、光が当たるだろう人たちのことを想いながら、自分たちに涙するシーンはあまりにも切ない。
何とかしてあげてくれないかな。
こんなラストシーンのあと、エピローグみたいなものがあり、そこに期待を寄せる。
でも、甘かった。
きちんとそこでは現実が描かれていた。
思っていたよりももっと厳しい現実が。
でも、そこに、孤独や停滞する人たちの苦しみの中でも、力強く生きていく、生きていかなくてはいけない強さも感じさせられる。
だから、絶望では無く、上記した一番最初の感想のような頑張ろうよみたいな気持ちが芽生えたみたいだ。
ここがよく分からないところなのだが、この話のベースは、上記したような感じで、そこに個性的なキャラの面白さがもちろん盛り込まれているのだが、どうも、その中に女性の友情みたいなものが入り込んでいる。
OLの二人の友情。これがけっこうえぐい。途中、妙齢の女性課長も入り込み、その女の人間関係を描き出すシーンが怖いのだ。
表面的には仲良しでキャピキャピしているが、底ではさしてどうでもいいといった間柄である。実際にも、よくそんな話は聞くが、これが露骨に描かれる。
途中、そんなOLが各々を好きな男性を使った代理戦争みたいなケンカのシーンなどは、振り回される男の愚かな姿にあきれ返る。
そして、ラストに簡単に男をふり、トップが変わった後も、各々の立場をしたたかに守りながらも、生きている姿が映し出される。
どこに消えたのか分からない悲しき行く末を想像しやすい男の姿からは、あまりにも女は強いという印象が残る。
これも、また現実なのか。
そして、これまた、哀愁を感じさせられる部分でもある。
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