荒野の家【水素74%】140309
2014年03月09日 芸術創造館 (90分)
家族が崩壊していく様に心ざわつかせて、巧みな演技を魅せる役者さん方による極端に特徴化された登場人物の一挙一動を見守る。
登場人物たちは、どこか実生活とオーバーラップしているようであったり、伝えたいテーマを明確化するためにかなり歪曲した虚構の像にも感じられたり。
自分と重ねて家族というものを考えてみたり、単なる嘘の物語として悲劇的な家族の崩壊を皮肉めいた笑いを込めて楽しく観たりと、バランス感覚が絶妙で、彷徨いながらも舞台に完全に惹きつけられる作品。
10歳から引きこもりの生活を続ける兄。いつものごとく、母にコーラを買ってこいと命令。
ところが、母は兄のためだと言って、この命令を拒否する。
こんな状態は間違っている。悪いのは私。今からでもやり直そう。あなたならきっと出来るから。
今さら、そんなことを言われてもたまった話じゃない。もう、俺はダメだから。このままでいいからと言い張るが、今回は母の意志も固い。思うようにならない状況にイラ立ち、母にカッターナイフを突き付ける。
もうどうしていいのか分からないと大泣きする母。
そんな状況を一部始終見ていながらも目を背ける父。
何かを兄に言って欲しいという母の訴えも曖昧にする。
兄はカッターナイフを持っている。だから、冷静に言葉を選ばないとみたいに、要は兄を単なる狂人ぐらいにしか見れなくなっている。
ずっと、こんな感じで、働いていることを大義名分にし、家には目を背け続けてきたみたいだ。
これからどうしていけばいいのか。
父は大山登山スクールとかいう矯正施設に兄を入所させることを考えている。
子育てを間違ってしまったから。
間違って出来上がってしまったものを修繕するような感覚に見えるのが怖い。修繕されるべきは、間違いを犯したと言っている自分自身だろうに。
母は大反対である。
理由は単純で兄が可哀想だからであろう。同時に、兄とお別れすることになる自分も可哀想だからか。
兄をどうにかしないといけない。口ではそう言っているが、本当に兄が変わってしまってもきっと嫌なのだろう。自分の守備範囲内での変化でないと。
そんなことで父と母が揉めている中、嫁ぎ先から妹が戻って来る。
理由は明確にしないが、夫と何か揉めているみたい。
父はご機嫌をうかがい、さらに心の広さを見せつけるように、いつでも戻ってくればいいんだからと妹を受け入れる。
母はいい顔をしない。
今、兄のことで精一杯。兄のことを考えると夜も眠れない。父も全然、協力してくれない。
この上、妹までが私を困らせないで欲しい。
そんな言葉を投げかけてくる母に妹は激昂する。
ずっと、こういった感じで兄が兄がと言ってきて、自分に目を向けなかった母。妹から最低と言う言葉がつい出てしまう。
前半はこんな家族の姿が描かれる。
確かにこの家族は間違っている。あくまで一般論的な言い方だが。
潜む問題の大きさ。どう解決していけばいいのか。どこから手を付ければいいのか。
複雑に歪み合っている家族内の関係性に呆然となる。
もう無理だろう、この家族は。と、諦めてしまえるのは、ただ観るだけの立場だからであろう。
でも、どこか自分の家族に当てはまるようなところも感じさせられる。
自分の家族はどうやって、関係性を維持してきたのだろうか。
本当に家族として成立しているのだろうか。自分たちは間違っていないと思っているけど、実はこの家族のように、はたから見れば間違いと思われるような家族なのでは。
家族とは何なのか。
こんな議題が頭の中に突きつけられて、考えを巡らせている中、とんでもない人物が舞台に登場する。
水商売をしているらしい隣の家の奥さん。
父も母も兄弟もいなかった。
旦那が亡くなり、義父の面倒を見ている。大変だ。つらい。
だから、あなたが面倒を見てくれませんか。
そんなことを母に言ってくる。
あまりのキャラに宇宙人を見るかのような状態になるが、断る母に理由を尋ねる不可解な会話から、先ほど頭に浮かんだ家族とはという議題が大きく顔を出し始める。
家族を知らないこの奥さんは、家族じゃないから面倒はみれないという答えが通じない。
ご近所さんなんて昔はいって、子供やお年寄りの面倒をみんなでみたりしていた時代もあったのだとか。
よく考えると、これも家族の一つの形なのだろうか。血縁は無いが、血縁が家族の定義ならば、どこからどこまでが家族になるのか。
責任の所在が明確になっていない集まりは単なる集団で、家族とは言えないのか。
答えは出るものではないだろうが、提起された家族という問題に、家族というものを改めて考えさせられる。
さらに、今度は妹の旦那がやって来る。
金髪でくせ毛、チャラチャラしている雰囲気を好きなだけ醸す人。実際は、少々ズレているが、ずいぶんと実直な人みたいだ。少なくとも妹を愛するということに関しては。
もちろん、妹を連れ戻しに来た。向うの実家では、ひっぱたいてでも、連れ戻せと言われているらしい。
でも、そんなことが出来るわけが無い。だって、旦那と言っても、実際は犬と呼ばれ、妹に服従する関係なのだ。
この家族の問題である引きこもりの兄。
初めは学校に行かないといった小さなものだったのかもしれない。
でも、その核はどんどんと大きくなる。
それを引き起こしたのが、父の家への無関心、母の子供への溺愛・依存だったみたいだ。
その一番の犠牲になっているのが妹のような感じだ。
父が無関心なので、母の負担が大きく、それを減らしてあげたいと、何でも自分でやるいい子であり続けることを余儀無くされる。
母もそれに甘えてしまったのだろうか。目は全て、兄の方を向いてしまっている。そのことが母からの愛情を受けていないという焦りのような感覚を妹に植え付けているみたい。
愛されたい娘と潜在的に娘を拒絶する母。
逆転するかのように、娘は夫の愛情を受けいれられない。妹は子供が欲しくないと言っており、それは旦那ではなく自分の問題と考えている。
もしかしたら、子供にまでこんな負の連鎖が繋がるのを恐れているのだろうか。
妹は、そんなことが兄への拒絶にも繋がっているようだ。
父は、はなから、こんな状態の兄を否定する。
母はみんなから否定されてしまっている兄を自分だけでも愛さないといけないとばかりに、さらに過剰な甘えた愛情を兄に降り注ぐ。
言葉で簡単に説明できるものではないが、こんな悪循環が繰り返される中で、もはや軌道修正する余地すらない厳しい状況にまで至った様子。
父と妹は、母と兄を切り離すために、母を騙して外出させて、その間に大山登山スクールに入所させる計画を実行する。
やってきたのは大山と、その施設で矯正されて今は大山登山スクールの教員となっている男。
兄を部屋から連れ出し、強制的に連れて行こうとしているところに、母が戻って来る。
ここからが、崩壊の一途をたどる修羅場となる。
大山は自然という不条理に人に襲い掛かる強大な存在に自分がなり、子供たちの前に立ちはだかる。それは父の役割であるといったようなことを述べながら、父の虚栄心を煽る。
一生懸命働いて家族のことを想ってきたのに、自分のことを認めない家族に対して不満を持つ父は、家族の絶対的な長に祭り上げられたかのように、横暴に権威をふりかざす。
もちろん、そんなことは家族の誰もが認めていない空虚なものだが。
教員の男は、昔、この家族の兄と同じような状況だったらしい。そして、この施設で矯正された。
その姿は、自分を甘やかした母を憎み、家族を守ろうとしなかった力無き父への失望を訴える男に変えられている。
そのため、母や妹の考えは必ず間違っているとばかりの対応で、一切の口出しをさせない。そして、父に強くあってくれとかつての自分の父に伝えたかった言葉を振り絞るように言う。それが、また父を煽ることになる。
結局、暴力に訴えてでも、兄を施設に渡そうとする父、それを身をもってかばおうとする母の姿を見て、兄は覚悟を決める。
父に殺す、そしてこの家を燃やすという言葉を残して。
兄は、母がこれまでに蓄積し続ける父への不満を抑える唯一の存在であったのだろうか。
その存在が消えた今、何も我慢することは無いと、父との別れを切り出す。
そこにまた、妹への視線は無い。
母を騙して、兄を奪うという形になってしまった妹にも、母への弁解の言葉は見つからない。
こうして、この家族は崩壊する。
みんな去っていき、一人取り残された妹の下に、母に相談したいことがあると隣の奥さんがやって来る。
母はもういない。
母は今、部屋にいるけど、それはもう母では無くなってしまった。
その感覚も家族を知らない奥さんには理解できないものなのだろう。
家族って何なんですかという問いに、妹はそんなことはこっちが聞きたいと・・・
荒野の家。
社会から孤立して、寂しくたたずむ。その中は見えないが、家族が細々と暮らしている。
何となくそんなイメージを持つ。
この家族は、本当は間違っていなかったのだろうか。
どう考えても、間違った家族ではあるが、悲しいことだけど、この家族はあれで均衡が取れていたような気がする。
脆かったのだろう。ちょっと突いただけで、自分たちの手で、自らの家族を崩壊させてしまった。
でも、なぜか、この家族に社会通念みたいなものを押し付け、崩壊への道へと歩ませてしまったような、何か申し訳ないことをしたような感覚が残る。
醜く不気味だけど、家族への哀愁のような切なさが残る。
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