同情セックス、強く押すのをやめて下さい【月面クロワッサン】140302
2014年03月02日 人間座スタジオ (120分)
二本とも傑作。
京都は遠いけど、こんな作品が観れるなら幾らでも足を運ぼうといった気になる。
男だけ二人芝居と女だけ三人芝居、陽と陰、正と負といった真逆に位置するような二つの作品ですが、共通テーマは生きる力といったところでしょうか。
男二人芝居では思いのままに馬鹿馬鹿しく、女三人芝居では心の奥深くの闇部分まで暴露しながら、それを浮き上がらせているように感じます。
いいもん観ました。
「同情セックス」
病院の待合室で、吸ったこともないのにショートホープみたいなきつめのタバコに火をつけて、むせるどこらか、えずいている男。
隣の男に気を使われるが、構わないでくれの一本槍。
無茶をしたいのだとか。それでも、しつこくかまってくる隣の男に対して、男はついに口を開く。
膵臓を癌でやられ、余命はあと少し。
親の期待に応えようと必死に勉強して、海外にも留学して頑張ったのに、この有様。今となっては、発音がやたらいい会話も悲しく映る。すぐ死ぬのに頑張ってきたのかと思うと情けないとしか思えない。
鬱積した怒りが爆発。
そして、最も口惜しいことを述べ始める。セックスをしたかった。
こんな男の言葉に、隣の男は優しくうなづく。気持ちはよく分かる。だって、俺も同じだから。
その日から、二人の男は、最初で最期のセックスを達成するために・・・・
この後は、風俗になびきそうになりながらも、もうすぐ死ぬということを利用して、看護婦をナンパ。同情を引いてセックスに、持ち込むという必死な男たちの姿が描かれます。
どちらも女性とのお付き合いの経験が無く、どうやって戦略を立てればいいのか分からない中で、意外に思い切りのいい男と、臆病でどこか卑屈な隣の男の考えはたびたび対立し、目くそ鼻くそを笑うといったケンカが繰り広げられます。
最後は、思わぬ結果に。セックスに成功した男と、それを掴めなかった隣の男。
そして、その結末は、途中から生きるという欲望より、セックスするという性欲が大きく超えたような二人にとって、セックスが生に繋がったような形をほのめかしています。
セックスへの欲望がいったん手を離れかけていた自分の生を引き寄せ、実際のセックスにより生を取り戻したといった感じです。セックスは何よりも強し。特に男の場合はといったところでしょうか。
お二人の掛け合いは、表情変化、セリフの面白さ、間合い、緩急の付け方と、どれをとっても絶品で、会場内は哀れだけど、決して否定できない自分たちのセックスへの姿を映し出した舞台上の二人への大きな笑いで包まれていました。
傑作です。お二人が本当にいい味を出されている。
「強く押すのをやめて下さい」
法事を済ませて帰宅する長女と次女。
部屋には三女がうずくまるようにオドオドと座り込んでいる。奥の方では祖父が寝ている。
次女は三女に険しい目を向けながら、イライラをぶつけようとしている。そんな姿を我関せずといった感じで無視しながら、晩御飯の鍋の準備を淡々とする長女。
両親は自分たちを残して自殺した。祖父は寝たきりで介護が必要。生活保護は申請するものの、断られ続けている。
長女は介護職を長時間、安い給料でしながら、祖父の介護を含め、家の面倒は全てこなしている。一応、家族の生活費を工面しているのも彼女だ。
疲れ切っている。絶望すらしている感じだ。昔からだったみたいだが、たびたび自殺未遂を起こしている様子。唯一のストレス発散源なのかパチンコ依存症でもある。
こんな状況で彼氏などが出来るわけがない。次女からはいい歳をして処女であることを馬鹿にされてヒステリックになったりしている。
次女は大学生。
もちろん、貧乏生活なので、奨学金とバイトで学費はまかなっている。
家のことは長女にまかせっきり。したたかな一面があるのか、自虐的になっているのか、現状を馬鹿馬鹿しいぐらいな感じで見詰めている様子。いいことが全く無いことへのイライラを、疲れている長女や引きこもる三女にぶつけている。
三女はいじめが原因で不登校になる。心機一転と思っていた高校でもやはりいじめられ、完全にひきこもるように。その中で、祖父からは性的な虐待まで受けていたらしい。次女は、そんなことまで、もう呆れかえるように面白がって笑い飛ばす。そして、ウジウジする三女を殴り飛ばす。
みんな、もういっぱいいっぱい。どこかで逆転の人生が始まらないかと心の中で諦めながらも祈る。
そんな中、長女が祖父が死んでいることに気付き・・・
誰かが殺したのではないかという、疑心暗鬼な会話が繰り広げられる中、上記した彼女たちの不幸を浮き上がらせている。
これからどうするのか。
現実的で巧妙な考えを持つ次女は、冷静に祖父の死を分析する。
これで年金が入ってこなくなる。長女の給料は大したことない。おまけにパチンコで大半は消費される。次女のバイト代もしれたもの。三女は働くことも出来ない。祖父の介護費用を差っ引いても、大幅な赤字。最低レベルで生活しているので、もはやこれは生活が破綻することを意味する。
祖父を山に埋め、年金を不正受給し続ける。
そうすれば、少しだけだが、生活費が増える。
三女はそれならば、もう一度高校に通いたいと言い出す。
やり直し。願っていた逆転の人生の始まりの時が巡って来た。
しかし、そんなかすかな希望は長女の一言で一瞬で崩れる。
祖父が死んでいるのは嘘。いっぱいいっぱいになって、全てを自分に押し付ける姉妹たちを騙していたようだ。
一度、高まったやり直しの気持ちを引っ込めることはもう出来ない。
三女は祖父の首を絞め、次女は足を抑えて、姉の嘘を現実にする。
ここまでするかとばかりに、弱者に潜む闇を描く。
人の脆さ、弱さが、妬み、憎しみ、怒りを生み出す。
それは、何も特別な人間が起こすことでは無い。描かれていたのは等身大の人間像、追い込まれた普通の三姉妹。
追い込まれた姉妹が求めていたのは、別に裕福で贅沢な暮らしでは無い。それを頑張れば実現できる再起のスタートに立つこと。そこに至るまでの手を差し伸べることすら社会も周囲もしなかったのだろうという事実も恐ろしい。
絶望の淵まで追い込まれた長女は、同じ苦しみを抱える姉妹に対して、自分がこれまで味わった業を染みつかせようととんでもない行動にまで至っている。
これまでだって祖父を見捨ててしまうことは可能だっただろう。次女は独立して姉妹を見捨てることだって出来そうだ。みんな離れ離れになって再起を計ることだって。
でも、何によって繋がっていたのか、姉妹は共に生きてきた。
その繋がりにすら限界がきていることを長女は感じ取ったのだろうか。
共に逃げることが出来ないという業を背負うことで、全員が生き延びる道を見出そうとしたように思える。
強烈な作品で、では鬱々と観て心苦しい状態だったのかというと、実はそうではない。
不謹慎ながら笑えるのだ。笑っていいのかなと少し気後れするくらいになる。
追い詰められた弱者が支離滅裂な発言をし、それが、瞬間笑える。でも、そこまでなのかという恐れや不安な感覚もすぐに襲ってくる。
セリフ一つ一つにその意味合い、込められた想いが非常に丁寧に盛り込まれているのだろう。脚本の妙である。そして、演じる役者さん方の大きな魅力が醸されているように思う。
この劇団の女優さんは、基本的に外観やその演技からクールビューティーといった印象が強いのだが、こういった笑いというコミカルな面においてもクールさがしっかり出ているように感じる。
これまた傑作。
私は素人なので、いい加減ことしか言えないが、これは何とか戯曲賞とかが狙えるような作品なのではないのだろうか。
闇の心情をここまできちんと丁寧に描き出す作品とはなかなか出会ったことが無い。
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