PACO ～パコと魔法の絵本～ from「ガマ王子vsザリガニ魔人」 140306

2014年03月06日　梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ　（165分　休憩15分）

昨年、関西の学生劇団でご活躍する役者さんを集めたプロデュース公演で、この作品を拝見して衝撃を受ける。（http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2013/09/mid-summer-caro.html）
涙溢れそうになって、急いで劇場を後にして、その後もしばらくは思い出すと泣けてくるから、電車の中で困ったことになったことは記憶に新しい。

2004年、2008年版のDVD、さらには映画のDVDも購入して、何度、観て、家で好きなだけ泣かせてもらったことか。
そして、タイミングよく、再々演があるという。
いつも観に行く小劇場では、ギリギリ予約、または当日券での観劇がほとんどだが、早々と予約をし、ずっと楽しみにしていた。

とそんな、テンション上がって足を運んだ公演だったが・・・
もちろん、面白くないことは無いし、感動もする。話もよく出来ているなあと改めて思ったし、出演されている役者さんの各々の魅力も味わえる。商業演劇だけあって、舞台は凝って迫力がある。
でも・・・、でもだ。
もう一度、話を確認するためになぞったような観劇になって、全くといっていいほど衝撃を受けない。
観終えて、普通にいい話でしたな、よく出来た作品でしたなと冷静に劇場を後にするだけで、何度も何度も反芻して涙するなんて状態にはならなかった。

まあ、この話は、驚くようなどんでん返しの悲しい結末が用意されており、それを知ってしまっている状態では、感動が薄れるのは仕方ないことかもしれない。
それも、昨年、初めて舞台で拝見した上に、好きなだけDVDも観てしまっているから。

ただ、ここまで衝撃を受けなかった理由を考えると、2点が挙げられる。
一つはテンポの悪さ。
話の展開のテンポが早すぎる感が残る。特にシーンの転換。
ただ話を進めるために急いでいるような感覚が強い。
だから、一つ一つのシーンが頭に焼き付かない。途切れ途切れになっている。
と、その割には過去の公演と上演時間はほとんど変わっていない。特に何かエピソードが追加されたようでは無かった。
本当に早い展開だったなら、残りの時間はどこにいったのか。
私が感覚的に早いと感じただけで、本当は話を急いでいたのは自分だったのかもしれないが。

もう一つは登場人物への焦点の当て方の弱さ。
この話は、大貫という偉そうな爺さんとパコという純粋な悲しい宿命を背負う少女の心温まる日々の中で、爺さんの凍った心が溶けていくところが見所の一つだと思う。
ただ、それだけではなく、登場人物には各々、囚われたものがあり、そのため、人生の歩みをこの病院で一休憩しているようなところがある。
特に子役時代からの脱却がうまく出来ず自殺へと逃げ込む男と、その男を言動では口悪く荒々しくも優しく見守る看護師の関係が大きい。
そんなところへのスポットライトが非常に弱く感じられる。
パコの持つ絵本を病院のみんなで演じるというバカバカしいまでのお遊戯会で、そんな子役の男の凍った心がザリガニ魔人というとんでもないキャラで昇華されるシーンは笑いと感動を生むはずなのだが、何かそこは軽くスルーされてしまっている感じだった。
と言って、爺さんとパコの話として、焦点を絞っているとも感じられず。

正直、残念だったが、演出次第で、ここまで感覚を変えることが出来る不思議な作品としての魅力があるのかもしれない。
唯一、凄いなあと感激したのは、昔、テレビドラマではよく拝見していた吉田栄作さんが、飄々とした医者役をされているのだが、その動きやセリフの言い回しがとてもよくはまっていたところ。
くどいくらいの熱のこもった演技のイメージが強いのだが、こんなあっさりした役どころで、この医者の緩急ある魅力を醸している姿は、やはり有名になる役者さんは、どこか違うんだろうなと感じる。