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2014年3月11日 (火)

曇りのち光【劇的☆爽怪人間】140311

2014年03月11日 道頓堀ZAZA (80分)

心を描く作品にしては、少しテンポが早いといった感じで、話の展開よりも、もう少し時間をかけて丁寧に登場人物の心情を蓄積して欲しいなといった前半。
でも、後半はいつの間にか、その心の中がしっかりと見えるような感覚になり、実は前半に感じていたことは成されていたようです。
一人の女性の真の気持ちが、周囲の人たちの心に変化を及ぼしたといったような話。想いは必ず伝わり、それは自分にも必ず返ってくるといった強い想い合いを見出せます。
作品名のとおり、曇った空に光が挿し始め、あっ、そろそろ晴れるなといった爽快な気分になれるような作品でした。

<以下、かなりネタバレしていますのでご注意願います。公演終了まで白字にします。公演は明日、水曜日まで>

新城大学出身者が働いている、とあるクリニックの心療内科。
担当するのは院長の息子。まだ実際には院長ではないが、父親から全てを任されており、実質は院長である。それなりの経験を積んでいるみたいだ。
まだ、知識先行で患者の心の奥までは入り込めていない若い新米医師とと共に日々、診療を行っている。
今日も、自分のことをどうやら火星人と思い込んでいて、地球人の程度の低さを嘆くおかしな患者がやって来ている。
それでも、いつの日か、打ち解けてくれて、心の奥底に眠る苦しみ、悩みを打ち明けてくれる。そして、そんな苦しみから少しでも解放してあげられる日が来るはず。
そう信じて、二人の医師は真摯に患者に接する。
この話は、自分たちがそんな前向きに、人を想い、人を信じ、共に人生を歩んでいこうと頑張れるようになった、ある患者との出会いが語られる。

その患者は、新城大学に通う女子大生。
初診時に書いてもらう簡単な質問に原稿用紙10枚にも及ぶ回答をしてきた子だ。
要は、ある意味、精神が病んでいるのは間違いないが、治療をして欲しいとかではなく、医者を困らせようとしに来た様子。
実際に、頭がかなりいいのに、訳あってあまり偏差値が良くない新城大学に通う彼女は、金にまかせて医者になろうとしている医学部の学生たちを目の敵にしている。
彼女の書いた内容は、これまでの自分のことが書かれていた。

彼女の父は亡くなっており、母子家庭である。
母は病院勤めをしており、母手一つで子供たちを懸命に育てているが、少々、男癖が悪い。
妹は、あまり出来が良くない。だから、国立大学にいくのは到底無理で、お金のかかる私立に行かせるしかない。
当然、裕福ではないので、成績優秀な自分は学費面で家庭を助ける必要がある。
そのため、本当は一流大学に入学できる能力がありながらも、入学金・学費が完全免除になるここ新城大学に入学している。
高校時代から、その成績優秀さは群を抜いており、インコにアインシュタインの難しい理論を教え込んだとかいうエピソードもあるくらい。もっとも、そのインコは優秀な研究者に目をつけられて、連れて行かれ、数々の研究のストレスで死んでしまったのだとか。
高校も学費免除目当てで選んでいるので、あまりいい高校ではなかったらしく、保健の先生なんかは生徒といかがわしいことをしていたり。
校長には、高校の実績になるからと金を渡されて、入学する気もない一流大学をわざと受験したり。
美貌も兼ね備えていたので、男子生徒からは頻繁に告白される。
程度の低い男は自分には合わないと、高飛車にフリ続けていたのが、女子生徒の癇に障ったらしい。けっこうないじめを受けるが、所詮、下等な奴らがすることと気にも留めなかったようだ。
そんな彼女の憩いの場所は入部していた文芸部。
一つ上の女先輩は優しく接してくれて、今でも何かあれば話し相手になってもらっている。
同期は男二人。そのうちの一人と、雨の日、傘を貸してもらうというお決まりのパターンで恋に落ちる。
積極的に映画に誘い、そこで告白。でも、彼には既に好きな人がいるとあえなく撃沈。
卒業式の日、彼女はもう一度、アタック。
部室を訪ねたら、そこには抱き合う同期の男二人。ホモであったことを告白される。
そんな高校時代だったが、つらいだけでなく、数々の楽しい思い出もたくさんあった、大切な時だったようだ。

若い医師はからかっているだけだと、彼女を追い出すべきと院長に進言する。
でも、院長は、彼女の告白には幾つかの嘘があることを見抜く。そして、その中に彼女の真の悩みが隠されていると。
その日から、院長をやり込めようとする彼女と、彼女の心の病に踏み込む院長との闘いが始まる。
彼女に対して、嘘と真実を交錯させた頭の良さを指摘する院長に対して、彼女は院長を混乱させるためのごとく、チャラチャラしているけど、実は医学部の賢い大学生と付き合ってみたりするが、院長はそんな彼女の気持ちも逐一見抜く。
院長の真摯な彼女への想いは、やがて、彼女の嘘と真実の交錯から、真の気持ちを引き出していく。
母や妹への想い。本当は亡くなっていない父への想い。そして、本当は好きだった人から告白されたのに、勇気が無くて断ってしまった男への想い。
その彼女の本当の想いは、実は同じように離婚して、しばらく会えていない娘がいる院長や、母や妹にも変化を与え始め・・・

後半の彼女から真の気持ちが引き出された頃から、連鎖的にこの話にずっとかかっていた雲が消え始めるところが非常に心地いい。
一人の人間の勇気ある踏み出しが、実は誰もが抱える苦しみや悩みを吹き飛ばしていく光となっている。
まさに、作品名が上手くつけられているように感じます。
彼女の想いは、家族である母や妹を安心させるように凍りついた心を溶かして自由な心を与え、院長の抱える悩みに一つの道しるべを生み出した。その姿に一人の若い医師も自分の医師としての道を見出した。
そんな彼女の想いを引き出したのは院長。でも、きっと、あまり目立つことなく、ずっと彼女のことを優しく見守っていた女先輩。卒業後も大切な仲間という視点で彼女を見続けていた同期の男たち。最後は厳しい別れとなりますが、一時は彼女の優秀さを単に高飛車だと考えず、そんな一面を魅力として捉えた大学生も、みんなそうだったような気がします。
巡り巡って、幸せな気持ちがみんなの下へと循環したような感じでしょうか。

今は、どうなっているのでしょうか。そして、これからどうなるのでしょうか。
彼女は本当に自分がしたかった道へ進む決意をしたということを告げ、それが院長との最後のカウンセリングになっています。
自分の想いを隠すことなく、打ち解けあうことができた母、彼女、妹は、単に父親がいないつらい母子家庭ではなく、父との別れを受け止めた家族となっているような気がします。母とは男女ですから別れた事実は消えないでしょうが、子供たちの人生にはこれからはいつまでも父として協力できるようにはなっていることでしょう。
妹も姉からの呪縛が解け、今さら、あんなに賢くはなれないでしょうが、姉との比較ではなく、自分自身のために少しは勉強していることでしょう。
そして、院長の方は、もしかしたら、娘の想いが両親に通じ、今よりかはいい状況になっているように思います。
女先輩はきっといつまでも優しく彼女の大切な人であり続けるでしょうし、同期の男たちとはしがらみなく飲める関係になったでしょう。ちょっと、そのあたりは複雑な想いがあるかもしれませんが。
大学生は少々、痛い経験をしましたが、女性を知るいい経験にはなっているはずで、ナンパにさらに磨きがかかっているはず。
そして、あの重症患者は、まだまだ未熟な堅い若い医師によって救われる日が来るのでしょうか。
そんなことを考えながら、光が挿した素敵な面々の微笑ましい姿が浮かび上がります。

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