メルティ*メルヘン*チョコレイト【大阪大学劇団ちゃうかちゃわん】140314
2014年03月14日 大阪大学 豊中キャンパス 学生会館2F 大集会室 (105分)
五つの童話をベースに、作品名どおり、メルヘンチックな世界を創り上げる。
各役者さんの持ち味を存分に発揮した笑いありの面白さを十分過ぎるくらいに魅せながらも、ちょっと不気味な精神世界を描くようなファンタジーワールドの要素も絡める。
卒業公演なので、楽しい作品であると同時に、仲間たちと共に過ごしてきた4年間を各童話の中でたどりながら、これから飛び立つ世界で、物語を自分たちで創り上げていくといった気持ちも垣間見られる巧妙な脚本になっているようにも感じる。
この代の方々はこれまでにもけっこう拝見してきた役者さんたち。
男優さんは顔と名前もほとんど知っており、そのバカをとことんまで魅せる力はいつもながらのさすがの出来であった。
驚いたのは、失礼ながらあまり知らなかった女優さん方が、それを上回る破壊力抜群の弾けた演技で笑いを好きなだけかっさらっていかれる。
いったい、この劇団にはどれだけ面白い人たちがまだ潜んでいるのか。
キャストの数も多く、笑いに秀でた個性がぶつかり合い、ドタバタが過ぎてしまうような感覚があるのだが、その割には終始、綺麗なまとまりを見せて、話の展開を邪魔せず、各々が見せ場を楽しませている。
個々の力と全体を見通して一つの作品を創り上げる力。卒業生ともなると、これまでの数多くの経験が、こんな巧妙なバランス感覚を身に付けさせ、よく出来た面白い作品を生み出すのだろう。
<以下、ネタバレしますので公演終了まで白字にします。公演は明日、土曜日まで>
目を覚ますと、そこはいつなのか、どこなのかも分からない世界。
そんな世界に迷い込んでしまった少年と少女。互いに誰かも分からない間柄。
ピエロのメルという謎の人物が言うには、ここは童話の世界。
元の世界に戻りたい。そんな二人に、そのためには条件があるとメルは言う。
これから、この童話の世界の登場人物となる。ただ、その童話の世界には間違いがあり、二人はそれを正して、物語を完結させないといけない。
二人は元の世界に戻るために、童話の世界に入り込んで行く。
二人の入り込んだ物語は、親指姫から始まり、長靴をはいた猫、灰かぶり、人魚姫、不思議の国のアリス。
各物語のあらすじは当日チラシに簡潔にまとめられているし、ネットでいくらでも出てくると思うので省略。
まずは、親指姫では親指姫に降りかかる試練を助ける蝶々と鼠になる。親指姫が自分をモグラから助けてくれるツバメを殺してしまうという間違いを見つけ出し、メルによって巻き戻された物語をやり直し、無事にクリア。
長靴をはいた猫では、王様には姫がいるはずなのに、なぜか王子になっている。猫と王子が入れ替わっていることに気付き、何とか軌道修正に成功。ただ、話を終わらせることに夢中になり過ぎたのか、長靴と袋になった自分たちが物語に絡んでないので、やり直しをさせられる。
灰かぶりでは、少女は継母という重要なポジションだが、少年は登場したかどうか覚えが無い鳩になる。自分たちの思っていたあらすじで話が一向に進行しない。自分たちが知らなかった本当は残酷な物語の原著を知り、それに従って話を完結させる。
人魚姫では、特に間違いも無いまま、話が終わってしまう。ただ、人魚姫になった少女と王子になった少年は、物語どおりの互いに明暗の分かれた結末を迎えることになり、少女の心が揺らぎ始める。この頃から重要な役を任されるようになっており、メルから二人がこの世界の住人であることをほのめかされる。
不思議な国のアリスでは、少年はアリスとなり、時計ウサギと協力して話を進める。女王となった少女はその少年の心を自分に惹きつけるために、登場人物を処刑し始める。
そして、・・・
一話目では、互いにさほど協力し合わなくてもクリア出来そうな単純な問題解決。
二話目では、本物を見極めることを知り、その中で自分たちの存在、役割を見出す。
三話目では、既成概念から脱却して、そこに潜む真実を原点に立ち返って導き出す考えを学ぶ。
四話目では、二人の間に信頼関係、互いに必要とし合う気持ちが生まれていることに気付かされる。その中で、相手の視線がどこを向いているのかが気になり、自分と同じ方向を向いていないことに対して、心の闇が姿を現し始める。
五話目では、自分たちは、これまでに創り上げてきた世界の住人であり、どこにも戻る場所は無いことを知る。二人はこの世界で様々なキャラとなり、互いを想い合う中で新しい物語をこれからも紡いでいく。
思い返したら、ざっくりとこんな印象だろうか。
徐々に話が深まり、盛り上がっていく感覚は、同時にこの二人の成長を感じさせるものとなっている。
二人が紡いでいった物語が経験となって、二人の個々を強くしっかりした姿として映し出すようになり、さらに関係性を深めていく。
卒業公演という形を考えるならば、新入生から4回生までの刻んだ経験が1〜4話。徐々に個々の成長と絆の深まりが感じられる。さらに、一つの物語という世界で中心的な存在となってくる。
どこにも戻ることは出来ず、この世界で活躍していく意思を持った二人のこれからの社会生活が5話といった感じだろうか。
どんな役でもこなし、そこから新しい物語を創り上げる。二人は、これからもこの童話の世界で、間違いを正すだけでなく、より良き話を導き出すために活躍し続けるのだろう。
まあ、これは勝手な深読みで、実際は各童話の個性的なキャラを笑い飛ばせばいいのだろう。
親指姫:藤田紫穂さん、王子:川崎翼さん。
三男:御前麻里さん、従者:岸添瑞穂さん。
灰かぶり:藤田有紀さん、兵士:緑川岳良さん。
街娘:本川陽世さん、じいや:渡部雄二さん。
公爵夫人:御前麻里さん、芋虫:生田拓也さん。
各話で目を惹いた役者さんを記す。二回、名前が挙がっていることで分かるように冒頭の女優さんの爆発力の筆頭は御前さんかな。
そして、全話に登場する、少し引いた視点でとぼけた感じで絶妙なツッコミを入れる少年:片山知世さん、前半の可愛らしさから後半へのサイケディックな狂気を魅せる少女:木村葵さん、いつもながらのちょっとくどい感じのいやらしい悪さを醸すメル:小路秀明さん、メルヘンでありながらも少し不気味さを醸す作品自体の雰囲気を創り出す川崎悠圭さんのご活躍はもちろん目を見張るものがある。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント