ジルゼの事情【OFFICE SHIKA×Cocco】140201
2014年02月01日 ABCホール (105分)
原案となるジルゼを、観た後にネットで調べてみると、登場人物や店の名前がなるほどなあと。うまく作ってあるんですね。
女性の純愛でしょうか。男を愛し、その男に裏切られ、そんな恨みや負の感情を共にする仲間と時を過ごしても、心の奥でその想いを貫く。
純粋な姿に愛おしさを感じると共に、その純粋な想いが必ずしも自身の幸せに直結しない不条理な切なさ、哀しさを思わせる話です。
原案のジルゼはネットでかじった程度ですが、この作品はそんな女性の純愛精神を1人の愛する男という観点からよりも、家族に向けた真摯な優しい想いにまで膨らませているような印象を受けます。それだけに、女性の幸せが恋愛成就だけでなく、愛する、愛される喜びを手にした時の大切な時間を取り戻すということに通じ、その実現を祈るような気持ちとなります。
喫茶マーガレット。
ベリーダンスに凝ってるみたいだが、あまりふさわしくないプロポーションにド派手に着飾った衣装でジャラジャラうるさいママさん。肝心のコーヒーのお味は泥みたいらしい。
その看板娘、優子は、そんじょそこらじゃなかなか見かけられない美貌を持つ。ただ、本人は自覚があるのかないのか、けっこう天然で、全くお高く止まったところが無い。これが逆にガードになっているのか、そんなにモテモテのいい想いはしていない様子。
店はそんな二人がしている。もちろん、二人がそんなだから、全く流行っていない。
と、そんな説明を制服を着た姿の女の子がしている。
女の子は、優子の妹。既に亡くなっているので、みんなからは見えない。
優子と妹はバレエをしていた。
優子は自分の才能に苦しんでいた。発表会の日、出演することが嫌になり、部屋に閉じこもる。
妹はそんな姉を説得をしていたため、家を出るのがギリギリになる。父のバイクの後ろに乗り、急いで会場に向かっている途中に事故にあった。
自分とは異なり、容姿も技術も優れていた姉。そんな姉のせいで、自分は恋をすることもなく、人生を終えた。そんな恨みを彼女はこの世に残しているらしい。
優子も二人が亡くなった後、全てが自分のせいだと苦しんできた。何度か自殺未遂もしたみたいだ。
母はそんな彼女の態度に自分に対する当て付けかと、彼女に縛り付けた生き方を強いるようになる。何をするにも、母の言う通り、従順に。はたから見ると親子とは思えない妙な主従関係が出来てしまっている。
そんな優子を幼き頃から気にかけていた幼馴染の男は、この喫茶店の常連。なじみ過ぎて、その男の優子への愛の想いは全く届いていない。
それに、今、優子は恋をしている。
喫茶店にやって来ては、レモンスカッシュを頼むどこまでも爽やかな男だ。役者をしているらしい。
そんな役者の男に突然プロポーズされ、優子は舞い上がる。
母親に相談するが、母は大反対。
役者などちゃらちゃらしている男はダメ。それに今、店は大変な状況にある。
そう、立ち退きを悪い連中に迫られて日々嫌がらせをされているのだ。
お父さんが大切にしていたお店を潰すわけにはいかない。この店を捨て去ることはお父さんに申し訳ないと念を押されるように母から言われる優子。
自分の立場から肯定以外の返事は出来ない。
それでも、優子の役者の男への想いはつのる一方。思い出すだけで幸せな時間を過ごせるぐらいに。
しかし、その男、実は店の立ち退きを迫る連中とグルだったらしく、優子へのプロポーズも嘘だったみたいだ。
お金持ちの婦人などもたぶらかしていたようで、恋愛にウブな優子などイチコロだったのだろう。
優子は叶わぬ想いに悲しみ、苦しみ、冷蔵庫の中に閉じこもり、窒息死してしまう。
この時点で45分ぐらい。
前半で主演が死ぬという展開に焦る。
暗転後、二幕のような形で始まる。
舞台は喫茶マーガレットのままだが、スナックWILLとなっている。
ママも優子も誰も知らないけど、マーガレットは夜はWILLとなって、オープンしているらしい。
ここのマスターは、オカマのような男。どうやら、優子のお父さんらしい。
そして、働くのは3人の女性。その中に優子の妹もいる。
若くして恋愛も出来ずに死んだ女性の怨念を解消するかのように、マスターはこの店にそんな子たちを雇っているみたいだ。女の子の世話ばかりしていたから、そんなオカマのような姿になったのだとか。
だいぶ酔った男が入って来る。女性がいまひとつなので、もっといい子を呼べと騒ぎ出す男にマスターはとっておきの新入りを紹介する。
冷蔵庫から出て来た女性は優子だ。
マーガレットの時のごく普通の姿とは異なり、化粧もバッチリ、しっかりドレスアップした姿になり、性格も客を蹴り飛ばすくらいにきついものになっている。
優子はCoccoさんが演じている。歌手として凄く有名な方らしいが、音楽をあまり聞かないのでほとんど知らない。チラシの写真からは、このWILLでの雰囲気のような人だと想像していたので、本当はイメージどおりだ。ただ、前半、あまりにも普通の地味な姿で、しかもちょっと可愛らしい天然っぽさを漂わせ、おどけたりもされるので、姿、演技も含め、そのナチュラルさに非常に魅了されていたので、何か残念な気になる。
でも、変わったのは姿だけで、この後も、美しいながらもキュートを嫌みなく演じるナチュラルさは続く。さらに、前半では奥に秘めていた哀しみがじわじわと湧いてきて、優子の悲しい人生、恋愛が浮き上がる。と同時に、一時得た幸せな感情を大切に祈ってあげたくなるような話の展開となる。
このWILLは明け方4:00には閉店。
この店に優子も含め、不幸な彼女たちがとどまるには、ブラッディマリーを飲まないといけないみたいだ。それも、男の生き血を使って。
そういえば、前半に男が行方不明になる店が都市伝説のように噂話されていたが、実はこここそがその店だったのだ。
そんな店に、あの男がやって来る。
かつて愛した役者の男。いや、今でも忘れることは出来ていない。
彼女は、その男を殺さないといけない。
自分がこの店にとどまるため。そして、この店を守るために。
彼女は・・・
最後は切なく、哀しく。二度目の死を迎えるような感じでしょうか。
でも、その死でようやく、自分の罪と向き合え、それによって目を背けていた家族たちを見詰め、語り合うことが出来るようになったようです。
自分の罪に縛られるように、この店に自分を閉じ込めていた優子。そんな自分の悔いを償却出来た時、店からも解放されて外の世界へと旅立つことが出来たのでしょう。
それを実現するきっかけになった、役者の男への真摯な恋愛感情。そんなまっすぐで強い気持ちを持てる彼女は、きっと家族に対しても同じように強い想いを持っていたはずです。
そんな彼女の優しさに亡くなった父や妹、残された母も気付き、恨みや気遣いのような家族にとっては不要な感情を捨て去ることが出来たみたいです。そんな不要な感情が店というしがらみのようなものとして象徴されていたのかもしれません。
単なる家族となった時、実現は出来なかったもう一つの優子の世界を映し出すような形で話は締められています。それがこの哀しき人生、少しのかけ違いで結ばれることの無かったこの家族の絆のはかなさを感じさせ、せめて違う世界では幸せな時を過ごして欲しいという願いが生み出されます。
| 固定リンク
「演劇」カテゴリの記事
- 【決定】2016年 観劇作品ベスト10 その3(2016.12.31)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その2(2016.12.30)
- 2016年度 観劇作品ベスト10 その1(2016.12.30)
- メビウス【劇団ショウダウン】161209(2016.12.09)
- イヤホンマン【ピンク地底人】161130(2016.12.01)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント