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2014年2月 2日 (日)

無欲荘【月面クロワッサン】140202

2014年02月02日 人間座スタジオ (60分)

月面クロワッサンのおもしろ演劇集と称しての番外公演が始まった。
この作品が第一弾となる。
2週後に横山清正さんの一人芝居、さらに二週後に男二人芝居と女三人芝居の公演へと続く。

今回は不条理劇。
無欲な人たちが織りなすシュールな会話、その話の展開を楽しむ。
不思議な世界観で、ずいぶんとあっさり淡白な印象だが、その中に詰まっているものはけっこう厳しいものであるような感覚を得る。
作・演が稲葉俊さん。
これまで拝見したイメージでは、温和でちょっとボーっとした感じの人。この作品でいえば、いかにも無欲っぽい。でも、奥深くに何か隠してそうなミステリアスな感じも同時に漂わせる。
そんな心の奥にあるギラギラしたものが、この平凡な無欲の中から浮き上がるような印象を受ける作品は、まさにこの方のイメージとよく似ているように感じる。

無欲と書かれた紙が至る所に張り巡らされた部屋。
そんな部屋の真ん中に箱が一つ。一人の男がその中から顔を出している。
姉に閉じ込められて、その姉が何処かへ行ってしまったので、もう、かれこれ5年もこうしているらしい。
と言って、監禁されているわけでもなさそうだ。
男は飯を食うこともなく、外に出たいというわけでもなく、好きなようにずっと日々を過ごしている。
男の世話をするように依頼されている居候の男。彼はひたすら飯が炊き上がるのを待ち続け、炊けた飯を喰らう。もちろん、何の仕事もせずに。
そんなわけで、男の世話は向かいに住む女がしている。世話と言っても、何か食いたがったり、したがったりするわけではないので、たまに来ては散乱する新聞を片付けたりする程度。
新聞は毎日、部屋に配達屋が入り込んできて、投げ捨てるように置いていく。
もう一人。ロフトのような狭い一角に一人の男。彼もまた長い時をこの場所で過ごしている。脚立さえあれば、降りては来れるのだが、それは一切拒否する。要は箱に入っている男と同じく、意志を持って、無欲という監禁生活に身を委ねているといったところだろう。
姉と連絡がつかずに、この部屋を訪ねて来たマネージャーも、この部屋の異常な住人に驚愕を隠せない。

姉は小説家らしい。何やら、何も食わずに5年ぐらい生きられるみたいな内容の本が売れ、ロフトの男はそれを実行しているみたいだ。
そんな姉が戻って来て、弟は箱から解放される。ロフトの男もその場から降りる日がやって来る。
居候の男はそのまま居着き、相変わらず飯を炊く。そんな傍に女もいる。向かいに住む弟の世話をしていた女。世話をする人がいなくなったので、次に世話をやける人を選んだみたいだ。
マネージャーは弟をテレビ出演させて、一儲けを企むが、弟は箱に戻りたいみたい。
ロフトの一角にはジャージ姿の女。以前、ここにいた男はその生活を本にして大売れしたらしく、その二匹目のドジョウを狙おうとわざと自分を監禁状態に置く。ただ、そんな大売れした男は入院して、亡くなったニュースが届く。当たり前だ。何も食わずに5年もいたら死ぬのは。平然とそんなことを本に書いた姉は言ってのける。
結局、このままの生活に破綻が見え始めて、部屋の住人たちの諍いが始まる。
そして、弟はまた箱の中に戻っていく・・・

無欲という言葉を履き違えた人たちをシュールかつブラックに描いたような感じだろうか。
無欲であるという欲に取り憑かれたような人たち。
無気力、将来への希望を失った状態を無欲として、それを大義名分のようにして閉じこもる男。
自分自身に明確な道筋が無いから、無償で人の世話をすることで無欲を作り出し、逃避的なやりがいみたいなものを見出す女。
働くとか努力することは欲につながるような感覚で、それを拒絶することで無欲だと思い込む男。楽してほっときゃあ炊ける米には執着しているので、無欲は言い訳の材料に過ぎない。
人が描いた道筋をたどるという結末がある程度予測できる安心の中で、そこからその人が得たレベルのものを手に入れようというあまり面白味の無い欲望に満ちた生き方ながら、それを制限された環境での暮らしと相殺して無欲にしているようなロフトの住人。
人に何かをさせる、その人の経験や能力を自らの糧にするマネージャー。この人だけ、欲の塊みたいな感覚なのだが、こんな自称、無欲という人たちが集まる部屋に入り込む、安定を崩す破壊的因子みたいな捉え方かなあ。新聞配達も、文字どおり、部屋に入り込む世間の風の象徴みたいな。
ちなみに、この二人が出入りする時、扉の風圧で無欲と書かれた紙がなびく。外部からの侵入者による揺らぐ無欲みたいな感じか。
姉は無欲なのだろうか。人が無欲であることがどういうことなのかを知りたい欲望を強く持っているような感じである。この人は、無欲よりも自由という言葉を取り違えているのではないか。責任を持たないことで手に入れた自由気ままな行動。
それは欲を持つことで、抱える責任から逃れるために無欲をクールに装っているだけのように見える。
もう一人、音を鳴らす男がいるのだが、よく分からない。音響なのだろうが、責任の無い音響みたいな感じで姉と通じるような感じかな。

結局のところ、この部屋の住人は彷徨っているような印象しか受けない。
無欲とは欲をまだ見つけられない未熟な人の姿なのか。

何でも自由に出来る。そんな己の欲をいつでも満たせられる環境に戻された弟は、また箱に戻る。でも、それで幸せそうだ。戻るべきところに戻ったという安堵の表情を浮かべる。
ロフトの男は、無理した無欲から、欲にまみれた世間に旅立ち、そこで欲を出して悲劇的な結末に至っている。
覚悟も無く、見せかけの無欲で世を渡る時に、痛い目に合うことを象徴しているかのようだ。無欲ですといった聖人君子気取りで世の中を渡れると思ったらとんでもない。世の中は欲の塊。自分の欲を明確にして、それを満たすために必死に振る舞う。それが正しい姿であると言っているかのようである。
でも、こんなぬるま湯のような部屋でゆったりしていた方がいいという考えも、決して否定は出来ない。
それくらい、人は弱いのかもしれない。

こんな部屋が無欲荘だからたくさんあるのだろうか。
登場人物に違和感を感じながらも、どこか同調したり、羨ましいと思ったりするところをみれば、自分もあんな無欲荘の一員になっているのかもしれない。それは私だけでなく、けっこうみんなそうで、あんな無欲と言っている人たちの姿は日常にありふれているのかもしれない。
問題視される今の日本人像にだって当てはまりそうだ。
それでも、そこがお気楽なら、そっちに流れてしまう。気持ちいいからね。
でも、それでこれからどうなりますかねといった皮肉めいた警鐘を促しているのか。

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