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2014年2月11日 (火)

現代版・卒塔婆小町【QUIET.QUIET】140211

2014年02月11日 アトリエ劇研 (70分)

三島由紀夫の近代能楽集、卒塔婆小町を現代版にアレンジした作品らしい。
とりあえず、卒塔婆小町のあらすじだけは調べていったが、そんな程度で作品の奥深さを理解するには及ばず。
ただ、難しい作品であるが、内容は非常にスムーズに入り込む。
作品の中には、たくさんの登場人物がいるが、全部、結局は小町と詩人のように思える。その二人が織りなす悲しき恋物語を見て、何を感じるかなのではないだろうか。
よくは分からないが、途中、涙が出そうになるくらいに美しいなあと感じた。
それは、人を想い、想われるという愛によって浮き上がる生きるということの絶大な力のように感じる。

96、97、98、99・・・
シケモクを数えるホームレスの醜い老婆。
そこに自分の才能に絶望した作家がボツ原稿を持って、ビール片手に酔いながら現れる。
シケモクをねだり、くだを巻く。
老婆は生死論を作家に語りながら、その原稿に目を通し始める。
さらには、いつも老婆の話を聞きにやって来る天真爛漫で、何事も全て知っているという少女が現れ、作家はその作品を少女に語り始める。

舞台の右側では、余命100日である盲目の女性がベッドに横たわる。
女性は、同じ病院で白血病のため無菌室にいる恋する男性に手紙を届けて欲しいと幼馴染の男に頼む。
その約束を守るために、毎日、病室にやって来て、カラ元気に明るく振る舞う幼馴染の男。
やがて、返事が欲しいと言い出す女性のために、男はその恋する男性になり替わり、返事を書く。
しかし、幼稚な内容に、女性にこれまでの嘘がばれてしまう。
女性の目当ての男性は、既に病院を退院して姿をくらましてしまっている。ルポライターをしているらしいが、親兄弟もいないので連絡がつかない。幼馴染の男もその行方を探したが、どこにいるのか全く分からない。生きていることは確かなので、警察も動かないみたいだ。
それでも、女性は男性への想いを捨てることは出来ない。
病室には千羽鶴が日々、たまっていく。

舞台の左側では、ルポライターがデリヘル嬢をホテルの一室に呼んでいる。
食べることも出来ないくらいに恵まれない子供たちのことを記事にして、自分を毎日食べさせているような仕事だと蔑んでいる。
仕事柄なのか、男はデリヘル嬢の写真を撮る。
100回呼んだら、結婚でもするか。
互いに過去に傷があるようで、二人の仲は徐々に親密になっていく。
しかし、デリヘル嬢が男の過去に不要に入り込み過ぎそうになった時に、その仲に亀裂が入る。
恋を成就できなかった女性は悲しみを抱いて、男の下を去る。
部屋には写真が日々、たまっていく。

舞台の真ん中では、宮仕えの美女、小町に恋焦がれる詩人。
100日間、絶飲絶食で通い続けたら、あなたのものになると言う小町。
詩人は毎日、小町の下へと通うが、やがてその力は尽きてしまう。
小町の下には、詩人が日々、持ってきた白百合の花がたまっていく。

といったように、3つの悲恋が描かれ、最後は100日の余命と言われていた女が、もうすっかり昔のことを忘れているルポライターと再会して、4つ目の新たな恋物語の始まりみたいな感じで話は締められている。
このあたりがよく分からないのだが、老婆は小町であり、100日の余命の女や、デリヘル嬢もまた小町の生まれ変わりみたいなものなのだろうか。かつて、白百合を数えることで詩人との恋の時を心に刻んだ小町は、今はシケモクを数えながら、長き時を経て、作家と出会った。同時に、100日の余命の女やデリヘル嬢は、自分の命を削る千羽鶴やルポライターとの恋を深める写真を数えながら、その二人の時を刻んだといった感じか。
シケモク、千羽鶴、写真、白百合が小町の経た時間を象徴しているように思う。

老婆は酔わないようにしている。今、生きていることを生きがいとして、自分の生を受け止めることで、自分の存在を消さないようにして、肉体は朽ちようとまだ生ある存在として居続ける。
それに対して、小町と接する男は夢幻の世界に倒錯しているような感じだ。小町に恋い焦がれた詩人も、ルポライターも、作家も。みんな、生きながらも死んでいるかのような、生と死の境界の世界を彷徨っているようで、小町のような生きるということへの絶対的な覚悟を感じない。
100日経たず結ばれなかった恋。この恋、成就するまで生き続ける。そんな情念が、小町に永遠の時を与え、100年、また100年と姿を変えた詩人と出会い、生を存続させているようである。
それは、生きるということの残酷さと同時に、自分を想う人がいる限り、その存在は消えないという愛から生まれる貪欲な生の凄みみたいなものを感じる。

最後はどうなったと解釈すればいいのだろうか。
最初は、老婆が読む、作家が語る、少女が聞くといった形で話が展開する。
これが、いつの間にか、作家が描く、老婆と少女は共に聞くみたいな形に視点が変わっているようである。
少女は何でも知っており、いわば、小町の悟りの境地の存在のようであり、老婆がいつの間にかその存在と同一化しているようなイメージで、小町はようやく長き生の呪縛から解放されたような感覚を得る。
それは、作家が手にしていたビールを最初に少し、老婆は口を付けており、初めて酔うことで男と同じ世界に入り込み、死の世界へと導かれたようである。
最終的に老婆の生まれ変わりの様な女が、女の記憶をかすかに持つ男に自分のことを語るということで、執着した愛から、繋がり続けた生がようやく、本当の生きるということへと結びついたように思う。

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コメント

ご来場ありがとうございました!
いろいろと繋げて考えて下さって嬉しいです!
答えは役者ももらっておりません。
そういった解釈もあるんだなぁと思いました。
ありがとうございましたm(__)m

投稿: 河西 | 2014年2月15日 (土) 22時23分

>河西さん

コメントありがとうございます。
お疲れ様でした。

観終えた後も楽しめる、いい作品です。
強い情念漂う悲しき恋ですが、それでも、やはり人を愛することの尊さがにじみ出ており、それが美しいと感じさせたような気がしています。

病床の女性、表情豊かでとても魅力的でした。
また、どこかの作品で(゚▽゚*)

投稿: SAISEI | 2014年2月16日 (日) 09時06分

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