Beautiful Runner【ツラヌキ怪賊団】140129
2014年01月29日 銀座みゆき館劇場 (130分)
知り合いの観劇仲間からずっとお薦めされていた劇団。
運のいいことに、ちょうど東京出張と時間が合った。
ちなみに、その人と劇場でお会いしました。平日にも関わらず、追いたくなる劇団なんですね。
観終えて、その気持ちも何か分かる気がします。
不思議な感覚。商業演劇にご出演されていてもおかしくなさそうな方々が揃いながらも、すごく小劇場のテイストが漂う。妙に客との距離が近いような印象を受ける。
話もそうでしたが、人間味に溢れる魅力が感じられる劇団のように思います。
作品は、ちょっと独特の雰囲気がありますね。
飽きさせない。隙間を持たさない。独特のシーン転換がスピード感を持たせる。
テンポがいいという言葉ではなく、目まぐるしく展開する駆け抜けるスピードに少し茫然となった感じで観ていました。慣れが必要かな。
世の中、捨てたんもんじゃないみたいな感じで終わる最後が非常に良かったなあ。
境遇が対照的な二人のマラソンランナーが、己の誇りとプライドを胸に走る姿を描いたような話。
河川敷で暮らす悪ガキ、猿渡。悪い仲間と畑の作物を盗んでは食べたりと近所でも有名な不良少年。
そんな猿渡にもやしっ子と言われていじめられる小湊。おぼっちゃまで、体も弱く、いつも泣いている。
そんな小湊を優しくかばい、猿渡に真っ向から注意をする玲子。この子も父親が政治家であるお嬢様だ。どうも、猿渡が気に入っているらしく、アタックしたりするが、身分が違うと思っているのか、猿渡は相手にしない。
そんな青春時代を過ごした三人も今や立派な大人に。
小湊は財力を最大に活かし、完璧なマラソンチームによりトレーニングを行う。あの泣き虫だった男が今や、日本のマラソンの期待の星となっている。
新東京マラソン。
小湊は当然、優勝間違いなしと言われていたが、ある男に日本新記録という形で優勝をさらわれる。
猿渡だ。
亡くなったろくでもない父が残した借金を返済するために、賞金目当てで出場したらしい。毎日、土方で鍛え、現場までも走って通っていたためか、あっさりと優勝してしまう。
猿渡の優勝は多くの人を元気づける。
猿渡の面倒をずっと見続けてきた威勢のいいおばちゃんの主催で河川敷で祝勝会。
昔の仲間も集まってくるが、どこの誰かも分からない連中も紛れ込んでいる。まあ、無礼講でいいってところか。
玲子も突然の知らせにびっくり。
久しぶりに会いに行き、昔、告白してふられたなあなんて思い出話に花を咲かせる。
玲子の弟は足の複雑骨折で入院中。手術が痛いから嫌だと言っていたが、猿渡の勇姿を見て自分もあんな風にマラソンを走りたいと手術を受ける決心をする。
猿渡の昔からの仲間である後輩。事故で麻痺が残る女性の面倒を見ながら、その猿渡の活躍にやっぱり先輩はかっこいいと心を躍らせる。
猿渡はこれでようやく父の残した借金が返せる。
頑丈な体を残してくれた以外には、本当にろくでもないことばかりしてきた父だった。これで、重荷だったものから解放され、新たに人生を出発できる。
でも、猿渡の身には、様々なことが降りかかり始める。
小湊と玲子の政略結婚発表。
会見中、ぶっきらぼうな小湊。玲子は本当に幸せになるのだろうか。でも、今さらどうしようもない。元々、身分が違うのだ。小湊とだったら、お似合いだ。
さらには、祝勝会で知り合った何やらソーラーシステムで大当たりを狙う男が賞金を全部持って姿をくらましたり、売れない田舎モデルの売名行為のゴシップに利用されたり、大切な守らないといけない人が出来た後輩に裏切られたりと・・・
かつての日本新記録を打ち立てたマラソンランナーの面影は完全に無くなり、あらゆる人から相手にされなくなってしまう。
猿渡に非は一切ない。だから、言い訳は幾らでも出来る。でも、みんな各々が背負うものを持ち、その中で必死に生きようとしている。自分がそうだから、そんな自分を裏切ったり、陥れようとした人たちを責めることが出来ない。
全てを失った猿渡。いや、元々、失うべきものなど無かった。
やって来た新東京マラソンの日。
当然、出場資格など手に入れることは出来なかったが、猿渡は強硬に出場を決行する。
小湊との一騎打ち。
小湊に優勝をさせたい陰謀を持つ連中の邪魔だてが入る。
でも、猿渡の誇りをかけた走りに、かつての仲間たちの心は動かされる。
最後まで二人を戦わせたい。
その気持ちは、これまで、玲子のことも、マラソンのことも、色々なこと全てにおいて、ずっと猿渡の後を追い続けてきた小湊自身が一番強い。
二人は、己のプライドを賭けて、本当に掴むべきものを目指してゴールへ向かって走る。
恵まれた男の求めるもの、何も持たない男が求めるもの。
のしあがるため、守るために、手を離さないといけないものや、掴まないといけないものが交錯する。
何としてでも生きる覚悟と同時に持ち続けたい己の誇り。
そんなバランスが崩れそうになった人たちが、一人の男のまっすぐな行動に心を動かされていったような感じだろうか。
最後まで猿渡を走らせたいと全てを投げ打つかのような行動を起こした後輩、売名行為に関して全て自ら暴露したモデル、そして本当は賞金を持ち逃げなどしていなかった怪しげな男。
結局、猿渡の周囲の人たちは、彼が貫いた生きる誇りに感化されるかのように、自分の大切なプライドを守ることが出来たようなラストになっています。
そして、そのことが結局はみんな各々の本当の幸せへと通じるようです。
こんなラストがとても優しく感じられ、人が生きる中で持ち続けたいもの、手離してはいけないものの存在を強く思わせます。
走るという熱い姿で、分かりやすくメッセージを単刀直入に伝えてくるような話。
男くさい暑苦しくなりがちな話を、女優さんの美しいダンスや、全部で200近い面白キャラでうまく調整しているバランスの絶妙さもなかなかな魅力だと思います。
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