アクアリウム【DULL-COLORED POP】140118
2014年01月18日 インディペンデントシアター2nd (120分)
東京の有名な劇団で、いい作品なので観に行った方がいいと誘われて、足を運んでみる。
ただ、記憶があいまいなのだが、過去に拝見したことがあったみたいで、その時の印象からどうも不安だった。(http://ksaisei.cocolog-nifty.com/blog/2012/03/dull-colored-po.html)
けっこう、えげつなく人の本質を突いてくるのだ。
今回の作品もそんな話に近い。
でも、普通に笑える面白いところを盛り込みながら、閉塞された世の中で、様々な環境の人たちが社会で生きていくことを考えさせられる。
興味深く、色々と考えながら観ることができた。
そして、もう外観からして強烈であったり、普通なのに絶妙な間合いで惹きつける登場人物の真摯な掛け合いに魅了される。
<以下、ネタバレにご注意ください。大阪は本日が千秋楽ですが、仙台、岡山と公演は続きます。>
シェアハウスで暮らす人たち。
オーナーである女性が借りた家で、演劇をして定職に就いていない男、DJをしながら派遣で働く男、まだ学生であるモラトリアム時代真っ盛りの若い男、病気で先が長くない女、生活保護を受けて社会に出ようとしない女が暮らす。
あと、何故だが分からないが、普通に二足歩行で喋れる完全に擬人化したわにととりがいる。
部屋には熱帯魚のいる水槽。
熱帯魚の餌やりは病気の女がいつもしているみたいだ。
若い男の提案で、今日はクリスマスパーティーをすることになっているらしい。
とりの気持ちも考えずにケンタッキーなんかを買ってきたりして、とりが落ち込むみたいなくすりと笑えるブラックジョークを織り込みながらの楽しい時間。
ただ、このシェアハウスに住んでいる人たちは、30そこそこぐらいの人が多いみたい。
要はもう大人だ。でも、先行き不透明な人ばかりで、生きづらさを抱えている雰囲気が漂う。
そのため、こんなパーティーもどこかなんぞらしく、本当に芯から楽しめているようには全く映らない。
何かあれば、たやすくこの状態は崩れる。そんな感じだ。
そして、その何かが突然、起こることになる。
世間では残忍な通り魔殺人事件が起こり、その犯行予告がネットであったらしい。
その犯人がこのシェアハウスに潜んでいるのではないかという疑いが掛けられたようだ。
パーティーの中に刑事部長とその部下が、あり得ないテンションで入り込んでくる。
部長は一昔前の刑事のようで、横暴で威圧的である。その部下はそんな部長の制御役でもあるが、計算高い頭の良さを持っているのか、波風を立てないように、でも確実に相手を追い込んでいくような事情聴取をする。
嵐のように刑事たちは自分たちの仕事をやり遂げて、シェアハウスを後にする。
もちろん、このシェアハウスにそんな残忍な犯罪を犯す者はいないと誰もが思っている。
でも、事情聴取の中で、各々の奥深いところまでの素性が明らかにされてしまった。
中には犯罪歴があったりしたものもいた。
シャアハウスの住人たちは、これが原因で均衡が崩れたかのように、これまで隠していた互いの感情をぶつけ合いだす。
そんな中、演劇をしている男が、決して犯罪は起こしていないが、人を殺したいという衝動に憑りつかれどうしようもない時があることを告白し始める。
ここの住人たちは、キレる14歳などと言われていた世代。酒鬼薔薇世代といったところだろうか。
先行きの不安なのか、生き苦しい世の中だからなのか、そんな漠然と心に潜む全てを破壊したいかのような欲望は、他の者もどこかであったことに気付き・・・
このシェアハウスにはおかしな連中が集まっている。
生活に恵まれていないようだが、それよりも生きづらそうな感じである。
至って平然と、特に問題なく普通に暮らしているようだが、何で俺だけこんな不幸せなのかとか、未来なんて絶対にいいことないなんて考えを持って、もうどうとでもなれとばかりに全てをぶち壊してしまうような衝動を抱えている匂いを漂わせる。
それを金を稼ぐことで、自分のやりたいことを何とか捨てないことで、演劇や文学のような表現で昇華することで、親に頼ることで、とにかく逃げて正面を向かないことで・・・各々の方法で何とか誤魔化すように時を過ごしているような感じがする。
ある意味では病んでいるのかもしれない。
そして、こうした環境を維持するのに、このシェアハウスはどこか世間と隔たりがあるようで、居心地がいいみたいである。
作品中の言葉を借りれば、元々弱い生き物だから病気を持っているが、まあ普通には生きていられる熱帯魚たちが、水槽という一応、生態系としての均衡が取れた水槽の中で、腹いっぱいには決してならないものの、適度の餌を安定して得ることが出来る環境ってところだろうか。
前半の一時間ぐらいは、この水槽のようなシェアハウスを見せられる。
これは深く考えさえしなければ、非常に微笑ましく楽しい。演劇作品なので、深く考えるから、何か不穏な空気を感じるが、それでも、役者さん方の毒を含んだセリフに、巧妙な間が生み出す笑いを存分に楽しむ。
自分も熱帯魚飼育の経験があるが、落ち着いた水槽を眺めていると心穏やかに幸せな気持ちになるように、
この一時間はそんな楽しい時間だ。
そこに、上記したように波風を立てるものがやって来る。
刑事たちである。
上手いキャラ付けをしており、シェアハウスの繊細な神経質そうな人たちに対して、真逆のがさつでデリカシーの欠片も無いやかましいキャラとなっている。
このあたりは、先が見えない不安な今の世代の住人たちに、経済成長期まっただ中をひたすら駆け抜けて来た世代の考えを一石投じるかのような感覚で刑事が存在しているように映る。
均衡が取れていた水槽はこれで、おかしくなる。
酒鬼薔薇の幻影みたいなものも登場し、彼もまた、こんな安定した水槽に何かが入り込んできて、脅かされたかのような表現も見られる。
殺人衝動を告白した男は、刑事に捕まえてくれと頼みに行くが、結局は犯罪を犯していないので、シェアハウスに連れ戻される。
無気力になって、もう自分の未来を見出せなくなっていたかのような男は、食欲という形で、もう一度、欲を取り戻したかのように何かをむさぼり食う。でも、どうもそれは食べ物ではないみたいで、口に入れては吐き出している。
食欲だけが満たされ、その欲望が打ち消されれば、栄養なんか関係ないといったところだろうか。
飼い慣らされるみたいな印象を受けて、つらい気持ちになる。
あの姿に色々なものを抱えながらも、生きていく人の厳しさを感じる。生きづらさがそのまま映し出された心がざわつくシーンだった。
最後、とりはいなくなっていたなあ。きっと、わにに食べられたんだんだな。
このとりとわに。わにの歯をとりが掃除するなんてことからか、わにの歯磨きをとりが手伝いながら、いちゃつくなんて訳の分からないシーンがあります。その時に、わにはとりに噛みつき、食べたいくらいという愛情を示すのだが、結局、その欲望を全うしたのだろう。
獣はその欲望を思いのままに叶えることができる。そして、その行動は自然として悪くは捉えられない。人間とは大きな隔たりがある。人間がその多くの欲望を満たそうとすれば、大半は犯罪として、糾弾されるはめになる。
このシェアハウスの人たちはどうなるのだろうか。
水槽は平衡が崩れても、水槽自体を壊しでもしない限り、またどこかで安定化しようとする。きっと物理的な、宇宙の法則みたいなものなのかもしれない。
だから、この人たちも、ここにいればきっとまたどこかに落ち着いてしまうのかもしれない。閉鎖空間にいる限り、どこかでこじんまりと落ち着き、また外から何かやって来ることを恐れて時を過ごさないといけないように感じる。
酒鬼薔薇とかは、本当に外から水槽を脅かすものが入ってきたのかな。
何となく、この作品を観て、自らがこの落ち着いた水槽の中の止まった時間を動かすために、湧き上がる衝動みたいなものに駆られたような気がする。
それが人間は14歳という人生の時でだいたい起こり、それを自分で制御出来ない時に悲劇が起こるのではないだろうか。
こうした様々な人たちが生活を共にするシェアハウスや、世代間の隔たりの中で、互いにどう寄り添って未来に向かって生きていくのかを考えさせられるようである。
これが実現できれば、酒鬼薔薇やこのシェアハウスで起こった一時の悲劇は解消されるのではないか。
人だから、その場の欲望を本能のままに満たしていい獣じゃないから、湧き上がる欲望を解消する方法は間接的な消化しかないように思う。
どうすればいいのか難しいし、そんな欲望に自分も支配されるのではないかと不安で仕方がないけど、人はきっと、そんな想いを共有し合うことが出来るはずだ。
一見、私たちは水槽の中で魚のように飼い慣らされているかのように映るかもしれないが、その魚たち同士で想い、考え合うことで、自らで水槽の環境を創り出すことが出来る生き物なのだと思う。
適度に欲を満たされ、その中で止まっているかのような時を過ごすなんて生き方はまっぴらごめんだ。
私たちは水槽の中で、神様にでものんびりと観られて楽しんでもらうために生きているのではないんだから。
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